流血鬼

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漫画:流血鬼
作者 藤子不二雄
藤子・F・不二雄
出版社 小学館
その他の出版社
中央公論社
掲載誌 週刊少年サンデー』1978年52号
レーベル てんとう虫コミックス
#書誌情報を参照
テンプレート - ノート

流血鬼」(りゅうけつき)は、藤子・F・不二雄(発表時は藤子不二雄名義)の漫画短編。リチャード・マシスンの『アイ・アム・レジェンド[注 1]を元ネタとし、同作の自分以外のほとんどの人間が吸血鬼になってしまった逆転世界を使いながら、全く異なる展開と結末を描いている[1]

1978年(昭和53年)『週刊少年サンデー』52号初出。1984年(昭和59年)の『藤子不二雄少年SF短編集』〈てんとう虫コミックス〉第2巻に初収録。以降2010年現在までに7つの短編集に収録されている(#書誌情報を参照)。2001年(平成13年)には『週刊ストーリーランド』内の一編としてアニメ化されている(#アニメを参照)。また1989年劇団21世紀FOXで上演された北村想作の芝居『SUKOSHI FUSHIGI もの語り(複数の藤子短編を原作とするオムニバス作品)』の中で舞台化され、山口勝平などが出演した(#舞台版を参照)[2]

概要

この物語では、ルーマニアから広まった謎の奇病によって、主人公たち以外の人物が吸血鬼になってしまう。主人公たちは木の杭で吸血鬼たちを殺害、抵抗を始める。だが、実は吸血鬼たちは新たな環境に適応した新人類といえる存在であり、自分たちの仲間を増やす以外に他意は無く、主人公たちに危害を加えようとしているわけではなかった。旧人類である主人公たちは彼ら新人類を自身らに害をなす怪物とみなし、吸血鬼狩りは正義に基づく行為であると信じて疑わない。一方で吸血鬼側は、主人公たちが行う吸血鬼狩りを侵略行為と非難し、残虐な殺戮者として「流血鬼」と呼ぶのだった。

作中のウィルスの名称で明示されているように、これはリチャード・マシスンの小説『吸血鬼 (地球最後の男)』の翻案であり、それに影響された藤子・F・不二雄の価値観の逆転の発想が伺える。最後の人類として残された主人公たちは吸血鬼たちを危険な異分子として認識し、それらの死をもって排除することも厭わない「正義の闘争」を決行する。しかし、奇病に感染したことによって吸血鬼となった新人類たちの立場から見た場合、それは少数だけが残った旧人類による単なる殺戮行為にすぎない。この二元的観点から見た善悪の境界、入り混じる価値観のギャップが本作品の特徴かつ見所といえる。

あらすじ

主人公の住む日本では、こんな噂が広まっていた。「ルーマニアから発生した奇病が世界中に広まり、日本にも広まっている」と。この奇病の原因は「マチスン・ウィルス」である事が分かり、その話題は雑誌やテレビなどのメディアを通じて大々的に報じられる。しかし、医学会では全面的に否定されてしまっている。やがて、「マチスン・ウィルス」は日本にも広まり、ある夜、吸血鬼たちが「マチスン・ウィルス」をガス状にして散布した。遂に吸血鬼たちのクーデターが始まったのだ、たまたま親友と釣りに出かけていた主人公は、親友と共に小さい頃に遊んだ秘密の洞穴に逃げ込んだ。そして、彼らは木の杭と十字架で吸血鬼たちに対抗するのだが…。

登場人物

主人公
名前は不明。親友と共に洞穴に逃げ込み、吸血鬼(新人類)に抵抗する。吸血鬼に強い敵対心を持ち、寝込みを襲撃したりしているが、吸血鬼になったガールフレンドの説得によって彼らが人間(旧人)を襲う理由を知る。
親友
主人公の友人。名前は不明。主人公と共に吸血鬼に抵抗する。流行当初は吸血鬼の存在を否定していた。冷静に吸血鬼について分析したり、一人で倉庫から食料を奪って来るなど肝の据わった性格である。中盤に、吸血鬼の警官に足を撃たれ捕まってしまう。
親友の兄
上記の二人と共に車で釣りに行っていた。吸血鬼に首筋を噛まれたため、発病する前に二人と別れる。
ガールフレンド
主人公のガールフレンド。名前は不明。吸血鬼になることに恐怖を抱いていたが、吸血鬼になると、主人公の元を訪れて吸血鬼になるよう説得し始める。吸血鬼になっても主人公を愛しており、手作りの弁当を持参していた。
医者
吸血鬼。名前は不明。序盤で主人公に殺害されるが吸血鬼の特性によって復活する。主人公がまだ人間だったため、その事を気にしておらず、終盤で主人公を治療している。

マチスンウィルス

本作に登場する架空のウィルス。ルーマニアから世界中へ流行していった。感染すると基礎代謝が極端に下がり、一時的に仮死状態になる。その後は回復し、肌は青白く、目は赤く変化する。それ以外の外見は変わらないが、驚異的な体力と生命力を持つようになり、夜が明るく見えてくる。弱点は十字架で、見ると不快な心理的反応を起こす。他にも日光に当たることや心臓へ杭を打ち込まれることが弱点だったが、どちらも適応によって克服している。

人間以外にも感染して同様に変化させるため、作中では“吸血犬”が登場している。

アニメ

2001年8月16日日本テレビ系列の「週刊ストーリーランド」の枠内で放送。

キャスト

スタッフ

舞台版

1989年に劇団21世紀FOXによってオムニバス劇『SUKOSHI FUSHIGI もの語り』(『新宿SPACE107』と『新宿シアターサンモール』で上演)の一部として舞台化された。脚本は北村想(同年には『藤子・F・不二雄のSukoshi Fushigiものがたり―少年SF短編集・異色短編集より』として戯曲本が発売されている)。 ストーリーの大筋は原作と変わらないが、各所に細かなギャグが挟まれている等いくつかの相違点がある。

  • 主人公に「ユメタ」(山口勝平と他劇団員のダブルキャストで演じられた)、ガールフレンドに「サユリ」と名前が付けられている。
  • 親友とその兄、医師や主人公の両親の登場シーンが削られ、その代わりに「青年」(原作での親友に近い立ち位置)が登場している。
  • ウィルス感染者の外見変化が「顔が真っ青に染まる」ものになり、「ウィルス感染者は不死に近い」という情報が中盤で説明されている。
  • ウィルスの感染拡大についての明確な理由が語られていない。そのため“吸血犬”の登場後に「犬に噛みついた吸血鬼がいるのか」という会話シーンが挟まれた。

書誌情報

以下の短編集に収録されている。特記のない限り藤子・F・不二雄名義、小学館刊。

脚注

注釈

  1. ^ この他の邦題として『吸血鬼』『地球最後の男』がある。

出典

  1. ^ 大森望「〝すこし・ふしぎ〟を濃縮パックしたSFの玉手箱」『少年SF短編1』小学館〈藤子・F・不二雄大全集〉352頁
  2. ^ 『藤子・F・不二雄のSukoshi Fushigiものがたり―少年SF短編集・異色短編集より』1989年 北村想 小学館(現在は絶版)
  3. ^ 『少年SF短編集 2』” (n.d.). 2010年8月22日閲覧。
  4. ^ 『藤子・F・不二雄SF短編集〈PERFECT版〉5 メフィスト惨歌』” (n.d.). 2010年8月22日閲覧。
  5. ^ 『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編1』” (n.d.). 2010年9月24日閲覧。

関連項目