枕木

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レールを枕木が支える

枕木(まくらぎ)とは、鉄道線路軌道)の構成要素。

通常の線路においてはレールを二本平行に敷設し、その下に枕木を敷いてレールを支える。枕木の間にはバラスト軌道の場合石を敷き詰め、保線要員はこの石をついてつまり具合を調整する。

近年の枕木は木製でないものが増えてきているため、実情にあわせて表記も「枕木」から「まくらぎ」「マクラギ」に置き換えられてきている。

枕木の役目・原理

  • レールの間隔を一定に保つ
  • レールを枕木が支え、枕木をバラスト(砕石や砂利)が支える
  • 列車の重量を効率よく分散させバラストに伝え、レールが地面にめり込むのを防ぐ
  • 左右のレールを絶縁する
  • クッション
  • 水平
  • カーブ
  • レールのつなぎ目と隙間

材質

木材

木製の枕木

枕木の名称の通り、かつては木が使われていた。日本ではクリヒノキヒバなどの耐久性のあるものや、ブナが多く使われた。この他にも堅い広葉樹であるニレナラも使われたという[1]。使用樹種についての割合は耐久性のある樹種が約20%、ブナが約35%であった。1960年代、枕木の損傷は腐朽に起因するものが40 - 60%、レールの食い込みや犬釘の保持力の減退などの機械的要因が20 - 35%程度であったという[1]

腐朽対策として、クレオソート油による防腐処理が開発された。この処理については日本工業規格 (JIS) で規定されている。耐久性の低い樹種では山や製材工場でのざらしにしておくと枕木として使用される前に大きく劣化してしまう。このために国鉄では耐久性の低い6樹種(ブナ、シデ類、トチノキカンバ類、ハンノキミズキ)については伐採直後の丸太の状態、もしくは製材工場で加工後すぐに防腐処理を行うように求めたという[1]

防腐処理の行われた枕木は無処理のものに比べて、耐久性が飛躍的に上昇する。以下に「新版 林業百科事典 (1993)」記載の数値を記す。ただし、使用場所、列車の量などの使用条件によって多少前後する。

  • 無処理
    • クリ : 7 - 9年
    • ヒノキ : 9 - 12年
    • ヒバ : 9 - 10年
    • イタジイ : 6 - 7年
    • ブナ : 2 - 3年
    • マツ : 3 - 5年
  • 防腐処理済み
    • マツ : 11 - 12年
    • ブナ : 14 - 25年
    • ニレ : 13 - 19年
    • ヤチダモ : 10 - 12年

日本農林規格 (JAS) では枕木をその使用場所によって(普通の直線・曲線用)、(橋梁用)、分岐分岐器用)の3種類に定義している。このうち、国鉄における「並」の枕木は1950年代に900万本、1965年には550万本(材積33万m3)も使われていたという[1]

木製の枕木は、寿命が短い、狂いが生じやすい[要出典]などの欠点があった。近年はコンクリートやFFU(ガラス長繊維強化プラスチック発泡体)を使用した枕木が増えてきていて、寿命が長い、狂いが生じにくいなどの利点がある。木製に比べると建設費が高いが、寿命が長いため長い目でみるとコストは安くなる[要出典]

コンクリート

コンクリートまくらぎで主流のものはPCまくらぎ。PCはプレストレスト・コンクリートの略。プレストレストコンクリートにはその製作方法により、プレテンション方式とポストテンション方式がある。芯にピアノ線や鋼棒が入っており、曲げに対する抵抗力が高い。寿命は50年程度で木製に比べると狂いも生じにくい。ただし数百キロの重量があるため施工が非常に難しく、無道床橋梁(道床砂利を有しない橋梁)には使用できない。また長尺のものを必要とする分岐器付近にも適さないが、実用化されていないわけではない。

ガラス繊維

重さの問題を改善したものが「合成まくらぎ」。これは材質にFFU(ガラス長繊維強化プラスチック発泡体)を使用している。FFUは硬質ウレタン樹脂をガラス長繊維で強化したもの。重さは木製まくらぎと同程度で施工しやすい。耐久性はPCまくらぎと同等。

フローティングラダー軌道

また、枕木をレールに対して平行に敷設した「ラダー枕木」も普及しつつある。これはPC製の縦梁と軌間を保つための継材を組み合わせてはしご(英語でLadder)状にし、レールは縦梁に沿って敷設したもの。これを利用した軌道を「ラダー軌道」(en:Ladder track) という。

金属

このほか耐久性やリサイクルの容易さから鉄製の枕木の使用も試みられてきた[要出典]が、価格が高いこと、重量面から施工性の悪いことなどから普及には至らなかった。しかし、21世紀に入ってからはJR貨物[2]や一部の製鉄所でなどで採用されている。H型スチール鋼を枕木に用いた分岐器もある。また大井川鐵道井川線アプトいちしろ - 長島ダムに採用されたアプト式区間では、急勾配による道床のずれを抑制する為に、ホッチキスの針の様に道床に挿す形状になっている鉄製枕木を採用している。

敷設方法

変わった枕木の配置

一般にはレールに対して垂直になるように配置するが、中には斜めにずらしたものも見られる。

保線

砂利の調整(人力/専用車)
安全管理が重要:列車の通過しない時間帯や夜間に作業

再利用

木製の枕木が一般的に利用されていた当時(1980年代頃迄)は、廃枕木が1本500 - 1000円ぐらいで販売されていた。現在では、バラスト軌道においては、PCまくらぎや合成枕木など、木製ではないまくらぎを用いる道床へと切り替わる傾向にあり、また、そもそも枕木を用いないスラブ軌道を採用する区間が増えるなどしたため、国内での廃枕木の発生は少なくなっている。ホームセンターや園芸資材店からガーデニング材料として販売されているが、海外からの輸入品であることが多い(2002年には、ホームセンターで売られていたマレーシア産の枕木からサソリが出てきた事件があった[3])。花壇の縁取りなどに用いられることも多いほか、一部では鉄道駅の敷地を囲うフェンスとして再利用されている。

脚注

  1. ^ a b c d 日本林業技術者協会 (編). 1993. 新版 林業百科事典. 丸善. 東京.
  2. ^ 環境・社会報告書2007(JR貨物) (PDF) (13・21ページ)
  3. ^ 常陽新聞 (2002年5月16日). “常陽新聞ニュース2002年5月16日”. ガーデニング用枕木からサソリ. 2008年10月29日閲覧。

関連項目

外部リンク