急性膵炎
急性膵炎 | |
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膵臓 | |
概要 | |
診療科 | 消化器学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | K85 |
ICD-9-CM | 577.0 |
DiseasesDB | 9539 |
MedlinePlus | 000287 |
eMedicine | med/1720 radio/521 |
急性膵炎(きゅうせいすいえん)とは、膵臓に急性に炎症が生じた膵炎のこと。
成因
成人の急性膵炎の原因としてはアルコールと胆石症が2大成因とされている。この二つが急性膵炎全体で占める割合は国や地域によって大きく異なる。胆石症の場合は胆嚢摘出術、アルコール性の場合は禁酒によって再発のリスクが減少する。その他は、特発性、ERCP後、高TG血症、膵胆管合流異常症等が上げられる。また、HIV感染者では抗ウイルス薬による薬剤性のものが報告されている。小児の場合は流行性耳下腺炎、マイコプラズマといった感染症、抗がん剤であるL-アスパラギナーゼや抗てんかん薬のバルプロ酸、膠原病などの全身疾患、交通事故、虐待などの外傷・遺伝性膵炎の報告もある。その他、上皮小体機能亢進症、膵胆道系腫瘍によるものもある。
症状
以下の症状を認める
- 上腹部(特に心窩部)の激痛
- 麻痺性イレウス
- 悪心・嘔吐
- 背部痛
- 発熱
- カレン徴候(Cullen徴候)
- 膵液によって組織が自己融解を起こし、血性滲出液が臍周囲の皮下組織に沈着して暗赤色に染まる
- グレイ・ターナー徴候(Grey-Turner徴候)
- 膵液によって組織が自己融解を起こし、血性滲出液が左側腹部の周囲が暗赤色に染まる
検査
血液検査
血液検査としては以下が認められる。
画像検査
膵臓の腫大の評価と胆石等の要因精査のために造影CT検査・超音波検査等が行われる。
- 膵腫大像・周囲組織脂肪織高値像・液体貯留像・腹水貯留像
- 膵壊死像・融解像(Echoで低輝度 造影CT検査で造影不良像)
- 麻痺性イレウス像(colon cut off sign sentinel loop sign)
評価
診断
厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班2008年によると急性膵炎は以下の手順で診断される
上記3項目中2項目以上満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。但し、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。急性膵炎と診断した場合は重症度に関係なく、入院治療を行う。重症度によって治療を行う医療機関が異なるため搬送が必要となる場合がある。
重症度
重症度評価には主に以下のものがある。日本では特定疾患である「重症急性膵炎」への適応判断のために厚生労働省作成の重症度判定基準が一般的に用いられる。発症より48時間以内で評価を行うこととされる。
Ransonスコア>3、またはAPACHEⅡスコア>8で重症と判定することが多い。厚生労働省急性膵炎重症度判定基準(2008)では9つの予後因子からなる判定基準および造影CTによるgradeで重症度判定を行う。9つの予後因子に関しては診療所等でも評価可能であり搬送基準として用いられている。予後因子が3点以上または造影CTgrade2以上を重症と判定する。重症度判定は48時間以内は繰り返し再評価を行う。予後因子3点以上になった場合は集中治療がかのうな施設に搬送する。「重症急性膵炎」と診断される場合、ショック・DIC・多臓器不全を呈し、致死率が極めて高くなり、予後も不良である。
治療
基本的に以下の治療を行っていく。重症急性膵炎の場合は集中治療管理が必要となってくる。
- 絶食・大量輸液投与・安静
絶食・絶対安静とし、循環血漿量の維持のため輸液投与を行っていく。通常成人では1日1500~2000mlの水分が必要となるが急性膵炎ではその2~4倍量の輸液が必要となる。重症例だけではなく軽症例も十分な細胞外補充液を用いて初期輸液を行うべきとされている。
- 蛋白分解酵素阻害薬の投与
メシル酸ガベキセート(FOY®)・ウリナスタチン(ミラクリッド®)・メシル酸ナファモスタット(フサン®)の投与を行う。重症急性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬の大量持続点滴静注は死亡率や合併症発生率を低下させる可能性がある。重症ではウリナスタチンにメシル酸ガベキセートまたはメシル酸ナファモスタットを追加することもある。軽症例ではもちいるとしたらどれか1剤である。
一般名 | 商品名 | 軽症 | 重症 |
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メシル酸ガベキセート | FOY®、レミナロン® | 20mg/day | 120~240mg/day |
メシル酸ナファモスタット | フサン®、ナモスタット® | 200~600mg/day | 1200~2000mg/day |
ウリナスタチン | ミラクリッド® | 5~15万U/day | 10~30万U/day |
- 抗菌薬の投与
広域スペクトラムの抗菌薬投与を行っていく。軽症例では胆管炎の合併がなければ予防的抗菌薬投与は不要であるが重症例では予防的に投与する。イミペネムやメロペネムといったカルバペネム系がよく用いられる。必要に応じて静注ではなく、動注を行うこともある。
- 持続的血液透析ろ過療法(CHDF)
急性膵炎により惹起された炎症性物質(サイトカイン)が、全身の炎症を起こし、多臓器不全の原因になるため、血液透析により炎症性物質を除去することで、急性膵炎の重症化を防ぐ。
- 鎮痛薬
鎮痛薬としては抗コリン剤や鎮痛剤を投与(モルヒネはオッディ括約筋の緊張を高めるため禁忌とされている)。ブプレノルフィンやペンタジンが好まれる。かつてはμ作用であるオッディ括約筋の収縮が指摘されてきたが、弱オピオイドの使用による病態の悪化は認められず、オッディ括約筋弛緩のための硫酸アトロピンの使用は必要ないとされている。
胆石が原因の場合の膵炎に胆石除去を目的として行われる。ただしERCP施行そのものでも膵炎の悪化を助長するため慎重に判断される。
合併症
予後を左右する合併症としては以下がある。
- 仮性膵嚢胞
- 感染が併発し膿瘍化すると敗血症になる場合も多くドレナージ治療が必要となってくる。
- 壊死部感染
- 膵臓が壊死が生じ感染すると敗血症になる場合も多く、壊死組織摘出術が必要となる。
- 内分泌機能低下
- 膵臓が壊死が生じることで、膵臓の内分泌機能を失い糖尿病等を生じてくる。
予後
軽症~中等症の場合、致死率は数%であるが、重症急性膵炎の場合の致死率は30%以上と報告されている。急性膵炎は3~15%の頻度で慢性膵炎に移行する。
動物における急性膵炎
中~高年齢の犬において発生が多い。症状は激しい嘔吐、腹痛。
参考文献
- 急性膵炎診療ガイドライン2010 ISBN 9784307202688