対称行列

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対称行列(たいしょうぎょうれつ、: symmetric matrix)とは、正方行列 A のうち、その転置行列 ATA 自身と一致するものを言う( を満たす)。

たとえば下記の例は対称行列である。

定義

n 次正方行列 A = (aij)1≤i,j≤n対称あるいは転置対称であるとは

が成り立つことである。

性質

  • 実対称行列の固有値は全て実数である。
  • 正値[1]実対称行列(対応する二次形式が正定値)の固有値は全て正の実数である。
  • 同じ型の対称行列の和、スカラー倍はまた対称行列である。したがって、同じ型の対称行列の全体は加群(ベクトル空間)をなす。n 次の対称行列のなす加群を Sym(n)、あるいは係数環が R であればそれを明示して、Sym(n; R), Symn(R) などとあらわす。
  • 実対称行列はある直交行列により対角化可能である。
  • n 次の実対称行列 An 次元ユークリッド空間 Rn の標準内積(ユークリッド内積) (·, ·) に関して (x, Ay) = (Ax, y) (for all x, yRn) が成り立つ。すなわち、実対称行列はユークリッド内積に関して自己共役な作用素である。

二次形式

n 個の変数 x1, x2, ..., xn に関する二次形式(斉二次の多項式)は、対称行列 A により

のかたちで表すことができる。これを A に対応する二次形式といい、A をこの二次形式の係数行列とよぶ。また、この二次形式をジーゲルの記号 (Siegel's symbol) を使って A[x] と表す。

実対称行列 A に対応する二次形式の符号 (p, q)を A符号(signature)または符号数という。A階数r のとき p + q = r である。符号 (p, q)は A によって一意的に決まるという事実をシルベスターの慣性法則 という。

正値対称行列

Rn の任意のベクトル xに対し A[x] ≥ 0 であるとき A非負値(または半正値)であるといい A ≥ 0 で表す。任意のベクトル xに対し A[x] ≤ 0 であるとき A非正値(または半負値)であるといい A ≤ 0 で表す。 A[x] = 0 となるのは x = 0 のときに限るとき、A (および対応する二次形式)は非退化であるという。 半正値かつ非退化な A正値(または正定値)であるといい A > 0 で表す。半負値かつ非退化な A負値(あるいは負定値)であるといい A < 0 で表す。A[x] が x の値によって正にも負にもなるとき A不定値であるという。

これらの性質は A の符号 (p, q) により

  • Aが非負値 q = 0
  • Aが正値 p = n, q = 0
  • Aが負値 p = 0, q = n
  • Aが不定値 p > 0, q > 0

とも表せる。

正値対称行列の例

  • 統計・確率における分散共分散行列は正値対称行列である。
  • 任意の正則行列 A に対し、AT A は正値対称行列である。

半正値対称行列の例

  • 任意の正方行列 A に対し、AT A は半正値対称行列である。
  • グラフ理論におけるグラフのラプラス行列(グラフのラプラシアン)(Laplacian matrix) は半正値対称行列行列である。

関連する概念

  • ヘッセ行列は対称行列であり、その正定値性・負定値性は多変数関数の極小値・極大値と関連している。
  • 二次曲線二次曲面は係数に対応する対称行列の符号によって分類される。

その他の例

  • グラフ理論におけるグラフの隣接行列は対称行列である。

脚注

  1. ^ positive definite の訳語として「正定値」もしくは「正値」がある。

参考文献

関連項目

外部リンク