天
天(てん)は、東洋思想の世界観が生み出した概念である。古くから身近に存在しながら知り得ない宇宙を含めた世界の構造を仮想する場合に用いられている。この為、時代を経て伝来した西洋思想・宗教の概念を表すためにも利用されている。
概要
天という言葉には非常に多くの意味が付加されている。
狭義には、単純に空、空の上の天上を指す。「天」という漢字は、人の姿を現す「大」の上に、「一」を置いて空の方向を示した、六書の指事で意味を示している。この意味における天は陽気の象徴であり、陰気の象徴である「地」と対義語になる。時に、「壌」と対義語にする場合もある。
空は広く広がっていることから、この世界全て、あるいは世界を統べる法則そのものであったり、あるいは自然、気象の比喩に使われたりと様々である。また、天は蓋(ふた)のように世界を覆っているとする天蓋説や、卵殻形の天が地球(卵黄に相当)を囲んでいるとする渾天(こんてん)説がある。中国の思想では人間には全て天から一生をかけて行うべき命令(天命)が与えられており、それを実行しようとする物には天から助けを受け、天命に逆らう者は必ず滅ぶと考えられている。天は人間全ての動きを見ており、悪を行うものには天罰を善を行うものには天恵を与える。その時の朝廷が悪政を行えば天はこれを自然災害の形を取って知らせ、逆にこの世に聖天子(理想の政治を行う皇帝)が現れる前兆として、天は珍しい動物(麒麟など)を遣わしたり、珍しい出来事を起こして知らせると考えられていた。
特に皇帝、王朝の交代には盛んに使われる。ある王朝を倒そうとする者は「(今まで前王朝に与えられていた)天の命が革(あらた)まって我々に新しい天命が授けられた。」と言う考え方をする。つまり革命である。
方位としての天
- 多くの宗教において、古くから天は神の住む所とされて来た。
- 吉い出来事があった様相を、「天に昇る気分」に例える。
- 死生観では、幸福を受ける場としての死後を表す。例:「天国」
- 北がしばしば前を指すのに対して、天は上を指す。例:「天地無用」(上下を覆すな)
- 天にも上位下位があり、宗教、文化で異なるが概ね永遠不滅な最上位を極楽浄土、極楽天国と称し、万物を創造した唯一神であり、すべての霊の根源である親神の住まう天界。仏教では涅槃ともいう。神仏となった霊が輪廻に戻ることがないところ。転じて下位にある天は、俗にいう天国の意味で、限られた時間を徳の高い霊が留まる楽園を指していう。前者は天理に基づいた別格の極楽神国であり、後者は、あくまでも輪廻転生の間にある上層に位置するところ。一時的に安住できる天国は、いまだ苦しみが繰り返す世界であり、上位の天には苦しみも期限もない別次元の理想世界とされる。この上位の天に帰る聖なる大道を天道といい、古えの帝王、聖人が求めて得た唯一の道として多くの経にその真理が残されている。
時間としての天
天と関連の深い太陽との結び付きにより、派生義として時間をも指すようになった。
- 天に太陽が昇っている間、すなわち昼間を指す。「白天」と同じ。
- 現代中国語では、太陽が昇って沈み、再び昇るまでの間、すなわち「日」(24時間)を指すことも多い。
- さらには、数ヶ月間に及ぶ時期を指す場合もある。例:「春天」。
信仰対象としての天
- 神の住む所とされて来た天は、それ自体が神を意味する派生義も生まれている。