大典顕常

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大典顕常
1719年 - 1801年
『近世名家肖像』より
尊称 大典禅師
生地 近江国
宗派 臨済宗相国寺派
寺院 黄檗山萬福寺相国寺南禅寺
独峰慈秀
著作 『昨非集』
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大典顕常筆

大典顕常(だいてん けんじょう、享保4年(1719年) - 享和元年2月8日1801年3月22日))は江戸時代中期の禅僧漢詩人である。近江国の生まれで相国寺に住し、日本初の茶経への注釈書である茶経詳説を相国寺のもとで著す。

大典と売茶翁(高遊外)との交遊は有名。宝暦13年(1763年)に刊行された売茶翁の詩偈集である売茶翁偈語(ばいさおうげご)の巻頭に『売茶翁伝』を著している。また伊藤若冲の支援者としても知られる。書で漢詩をよくし京都禅林中最高の詩僧と称され生涯に70冊以上の書を著した。禅の高僧でもあり相国寺第113世となっている。

顯常はである。大典は大典禅師と呼ばれる。宗派内は梅荘と号し、世間面では蕉中と号した。その他に近江出身であることから淡海、居処の名に因んで小雲棲、北禅書院、ほかに、東湖山人、不生主人、太真などの時代風情に富んだ号の書も残っている。竺常(じくじょう)と名乗るがこれは「釈(顕)常」のことであり、諱が二つあるわけではない。俗姓は今堀、幼名 大次郎。

略歴

近江国神崎郡伊庭郷(現 滋賀県東近江市)の儒医 今堀東安の子として生まれたとされるが、権大納言園基勝(その もとかつ)の私生児でその後里子に出されたとの説が有力である。

8歳のとき父と上京し、はじめ黄檗山華蔵院に入ったが臨済宗に転じて11歳で相国寺慈雲庵にて得度する。独峰慈秀の下での修行に勤しみながらも、20代後半まで宇野明霞大潮元皓儒学の一派である古文辞学を学んでいる。儒学の師 明霞が歿した3年後に、大典は師の遺稿を編集して『明霞先生遺稿集』として刊行しているが、師の信任が篤かったことが窺える。明霞門の盟友に片山北海がいるが、彼の主催する混沌詩社にも参加して詩文を磨いている。

32歳で住持になるが師独峰が示寂すると病気を理由に致仕を願い出て許される。公務に縛られることなく、すべてを捨てて、漢詩、書に身を投じて過ごしたいという文人的境地に達し、編書のみを社会的な接点にして、決断をもって道にした。このときのことを壮年、後の書にした気迫から落胆も窺われる。

43歳のとき代表作『昨非集』を刊行した後、旺盛に詩作と著述に励んだ。

多くの文人墨客と積極的に交わり、特に六如慈周とは終生の親交をもった。中国において貴重な経典が失われる事件があったとき、大典は慈周とともにこの寄贈を果たしたというエピソードがある。 ほかにも異才の画家 伊藤若冲に支援を続け、相国寺の襖絵などを画かせている。また売茶翁の高貴な風情に即した煎茶道を遵守しこれを広めた。さらに木村蒹葭堂と協力して国の『煎茶訣』を刊行し日本に紹介している。売茶翁の生涯を綴った唯一の伝記「売茶翁伝」(『売茶翁偈語』の巻頭)を著し後世に伝えた。そのほかにも池大雅の詩文の師であり、菅茶山高芙蓉葛子琴篠崎三島らとの交流が伝えられている。

53歳になり帰山すると相国寺住持に推され、続いて京都五山碩学朝鮮修文職を任じられる。62歳のとき、対馬以酊庵に住持として2年間赴任する。帰山後は南禅寺住持になり、幕府の辞令を受け拝礼のため江戸へ下る(1785年)。楽翁に優遇され、再度江戸に招かれている。このころに朝鮮通信使に関する国書の起草に関与しているが、以降朝鮮外交に関して幕府顧問となって活躍した。

天明の大火1788年)で相国寺も全焼し貴重な典籍の再収集や再建に尽力している。

享和元年(1801年)歿。享年83。

古文辞派の詩風ではあったが、和歌の教養も深くその要素を漢詩に取り込もうと試みている。仏教的な枠に囚われることなく自由で大胆な作風である。多くの詩集を刊行し、現在でもそれを読み解く感じ方は深い。風紀な観点のものはお軸の画題などに残り、煎茶道の精神の根源となっている対客言志に尽きる。

詩集

  • 『昨非集』2巻2冊 (1761年)
  • 『小雲棲稿』12巻6冊(1775)
  • 『北禅文草』4巻2冊(1792)
  • 『北禅詩草』6巻2冊(1792)
  • 『北禅遺草』8巻4冊(1807)
  • 『大典禅師陀』1冊(1806)
  • 『小雲棲詠物詩』2巻2冊(1787)
  • 『萍遇録』2冊(1764)
  • 『小雲楼論語鈔説』
  • 『小雲楼詩書鈔説』
大典書状 木村蒹葭堂宛 7月25日付

関連項目