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列 (数学)

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数学において(れつ、: sequence)とは、大雑把に言えば、対象あるいは事象からなる集まりを「順序だてて並べる」ことである。もう少し正確を期すならば、ここでいう「並べる」とは、どの要素もそれが「何番目」にあるかという序列が矛盾無く有効に定められていること(自然数による線型順序な添字付け)を言う。

たとえば、文字からなる列 (C,Y,R) は(列としては順序が重要だから)(Y,C,R) とは別の列であると見なされる。列の構成要素は、列の要素あるいは(こう、term)と呼ばれ、項の個数をその列の項数あるいは長さ (length, size) という。列は大別して、この例のように項数が有限である有限列(ゆうげんれつ、finite sequence)と、正の偶数全体の成す列 (2, 4, 6, ...) のように項数が無限大(可算無限)である無限列(むげんれつ、infinite sequence)とがある。

列という概念自体にとっては、その項が「何らかの関係を持つ」とか「何らかの同様な性質をもつ」といったようなことは必須ではないが、しかし実用上はやはり、各項が「特定の性質」を持つ列というものを考えることが多い。そしてたとえば、列の各項が同種の「何か」であるような列は、それが「何の」列であるかを示すために、しばしば明示的な形容を伴う。よく用いられるもので言えば、列の各項がである列を数列、ある空間の「点」の列を言うのであれば点列といった具合である。また、適当な「文字」集合から作った列である文字列 (sequence of letters, string) がしばしば (word)とも呼ばれるように、接尾辞として「列」を使わない特別な呼称を与えることもある。

定義

項が集合 S に値を持つ有限列とは、適当な自然数 n についての {1, 2, ..., n} から S への写像

のことである。このとき、i ∈ {1, 2, ..., n} に対して、i の写像 a による像 a(i) は添字記法にしたがって ai などと記されるのが通例である。同様に、S における無限列とは、自然数全体のなす集合 N = {1, 2, ...} から S への写像

である。

列のひとつの記法としては (a1, a2, ...) のように項を列挙する方法がある。また簡単に (an) と記す方法もしばしば用いられる。動く添字や添字集合を明示するために (an)n や (ai)i=1,2,...,n, (an)nN, (an | nN) などのように記すこともある。

慣習的に {an} と書くことも多いが、列の項からなる集合 {x | ∃n(x = an)} = {an | nN}を表す意図で同じ記号がしばしば用いられるため注意を要する。これらはいくつかの意味で相違があり、たとえば列の異なる項が同じ値をとるとき、それらはそのような集合の元としてはまったく同じものを指すのであって、区別は失われる。
完全列のようなものは、項の並びのほかに項と項の間の関係性に意味があるため、ここでの記法とは異なり、項をノードとする直線状の有向グラフ(図式)を用いて記される。このようなものは(さ、chain)や系列(けいれつ、series)などとも呼ばれる。

有限列 (x1, x2, ..., xn) のことをその項数 n に対して n- (tuple) と呼ぶことがある。有限列のなかには、何の項も含まない空の列 (null or empty sequence) ( ) も含める。また、整数全体のなす集合からある集合への写像を

(..., a−2, a−1, a0, a1, a2, ...)

のように書いて、両側無限列あるいは双方向無限列 (doubly or bi-infinite sequence) と呼ぶ。 これは、負の整数添字付けられた列を正の整数で添字付けられた列に接いだものと考えることができることによる名称である。

ある与えられた列 (an)n部分列(ぶぶんれつ、subsequence)(aik)k とは、残った要素がもとの数列における相対的な序列を保つ i.e.

ようにして、与えられた列からいくつかの要素を取り去ることによって得られる列

のことである。

列の性質

列の性質は、その列の項が属する集合がどのような構造を持っているかということに大きく依存している。たとえば解析学では、数列をベクトルとみなして演算を与えたり、実数や複素数のなす集合の位相を用いて抽象的あるいは具体的な位相空間の点に関する点列として調べたりすることができる。

代数構造と数列空間

代数的な構造である演算を持つ最も基本的な列の種類は数列、つまり実数複素数などからなる列である。数列に対しては、その項がもつ演算をうまく利用して、数列同士の間の「和」や、数列を「定数倍」することなどを考えることができるため、この種の列はあるベクトル空間の元として扱うこともできる。

さらに適当な R に値を持つ無限列は、適当な意味で積を定義することによって、自然数全体の成す集合 NR-係数半群環 RN、両側無限列は Z 上の群環 RZ とかんがえられる。このような空間はしばしば函数空間とみなされる。

また、一つの数列が与えられたとき、項同士の間に演算が定義できるから、その数列から部分和をつくることによって、新たに別の数列を作り出すこともできる。

順序構造と単調性

列の項全体が、ある順序集合の部分集合を成すとき、単調列の概念を考えることができる。列 (an) が(広義の)単調増加列または単調増大列 (monotonically increasing sequence) であるとは、

を満たすことをいう(今の場合これは「どの項も直前の項以上となっていること」といっても同じである)。また、

つまり、どの項も直前の項より真に大きいときには、その列は真の(あるいは狭義の増大列 (strictly monotonically increasing) という。同様にして

となる単調減少列 (monotonically decreasing sequence) も定義される。このような単調性をもつ列は、総じて単調であるまたは単調列(たんちょうれつ、monotone sequence)と呼ばれる。これはより一般な単調写像の概念における特別の場合になっている。

また、混乱を避けるため、真に増大・真に減少というのに対して、広義の単調増加および単調減少の代わりに、それぞれ非減少 (non-decreasing) および非増加 (non-increasing) という用語をもちいて区別することがある。

位相構造と極限

解析学において列を語るとき、普通は(自然数全体で添字付けられた)無限列

のことを指していると理解する。項が値をとる集合 S に適当な位相が定められているなら、位相空間 S における無限列の極限収斂について言及することができる。列のそういった概念を扱うとき、それらは無限列のなかでも十分大きな(つまり与えられたある N より大きなところの)番号に対する項の挙動を捉えるものであるので、最初の有限個の項については例外として扱ったり、都合によっては取り除いて(つまり、列が 0 や 1 以外からはじまったりして)も、多くの問題について影響を及ぼさない。

例えば n ≥ 2 に対してのみ定義される列 xn = 1/log(n) も、n ≥ 1 に対して定義される列 yn = 1/log(n + 1) も n → ∞ なるときその極限はともに 0 であって、その意味では差異を生まない。

一般化

整列集合である自然数全体やその切片を順序数と考えるならば、通常の列は有限順序数 n または最小の超限順序数 ω で添字付けられていると考えることができる。このことから一般に、ある集合 X の元の集まりで、整列集合あるいは順序数によって添字付けられるものを広い意味で X の元の列と呼ぶことがある。特に極限数 α をとれば、α によって添字付けられる列を考えることができる。この語法では通常の(無限)列は ω で添字付けられた列ということになる。

列の概念は、添字集合となる整列集合を有向集合に取り替えて有向点族(あるいはネット)、一般の集合にとりかえて元の族の概念に一般化される。

関連項目

外部リンク