二正面作戦

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二正面作戦(にしょうめんさくせん、: two-front war)とは、離れた二つの場所にある戦線で、二つの異なった敵と戦っている状態。あるいはそういう状態に陥ることを指す。

なお、敵が3つでそれぞれと同時に戦っている状況や、そういう状況に陥ることは「三正面作戦」という。

概要

複数の地理的に離れた戦線で戦うということは、戦力が分散してしまうことを意味する。クラウゼヴィッツなどの戦争論でも、兵学でも、古代以来の中国の兵法でも、『敵を撃破するうえで重要なことは、自軍の力を一点に集中させること』とされているので、「二正面作戦」というのはまさにそれの逆の状態に陥っていることを意味し、一般に非常に悪い状況に陥っていることを意味する。

たとえば、分かりやすい例として自軍が2つの戦線に均等に兵力を投入すると、それぞれの戦線では自軍は「わずか半分の兵力で戦う」という状況に陥る。個々の戦線において、自軍が兵力の小さい軍隊になったことと同じことであり、自軍が苦戦したり敵に撃破されてしまう可能性が増す。よって古代から現代にいたるまで一貫して、「二正面作戦は避けねばならない」とされている。 もう少し理解が進むように数値を使って説明すると、たとえば仮に自軍の兵力を100とし、敵国Aの兵力が80、敵国Bの兵力が70だと仮定すると、たとえば敵国Aだけを相手にして戦えば、兵力比「100対80」でたいていの場合勝利できるのだが、二正面作戦に陥ってしまって自軍の兵力を二分割すると、戦線Aでは戦力比「50対80」で負ける確率が高く、戦線Bでも「50対70」で負ける確率が高く、両方で負けてしまう可能性が高い。このように本当は自国のほうが軍事力が大きくても、「二正面作戦」に陥ると、自国より弱小な国々に惨敗してしまう可能性が高くなるのである。

過去にこういう状態に陥った例としては、次のものが挙げられる。

ナポレオン戦争のフランスの場合

近代ドイツの場合

中央ヨーロッパに位置するドイツは戦争状態になった場合、西にある大国フランスと東にあるロシア・ソ連に対して戦争状態になる可能性が非常に高い。そのためさまざまな外交努力がなされてきた。第一次世界大戦以前にはオットー・フォン・ビスマルクによるフランスの孤立化を探る外交があり、第二次世界大戦前ではソビエト連邦の西欧諸国への外交上の疑心暗鬼から独ソ不可侵条約の締結などがあげられる。

近代日本の場合

アメリカ海軍の二正面


二正面作戦を避けるためにとられる方策、せめぎあい

実際問題として、ある国家が複数の国家と対立していることは多いのだが、二正面作戦を避けるためにたとえば次のような姑息な方策がとられる。

たとえばある強国Xが、ある敵国Aと戦う予定の場合、二正面作戦に陥らないように先手をうって、別の敵国Bとは外交的手法を使い、たとえばあらかじめ和平条約(や不可侵条約)などの類を交わしておく(条約の名目は何でもいい。条約は結局あとから破るつもりで交わす)。そしてしばしばとられる方法は、まず敵国Aを破って支配しておいて、戦後しばらく期間をおいて、その間に自軍のダメージを回復したり、失われた兵士を補充しておいて、十分に兵力が回復したころに、(「和平条約があるから大丈夫」などと油断している敵国Bの裏をかいて)おもむろに条約を一方的に破って敵国Bに対して戦争をしかける、という方策である。つまり同時に二つの敵国と戦うと二正面作戦に陥ってしまうので、外交的手法を駆使して時期をずらして、「一対一」の戦争を2回、別々に行うという方法である。

逆に、相対的に弱い国のAやBがしばしばとる方策についても解説しておく。A国やB国のほうは、過去の歴史に学び、侵略で国土を広げてきた強国というのはX国のようなズルい手を平然と使い弱い国を次々と「各個撃破」の手法で侵略してゆくものなのだ、と知っておく必要がある。そして(上の例だと)強国Xに対抗するための方策を平時からとっておく必要がある。しばしばとられる方法は、弱い国々は集団安全保障体制を築いておいて、「もしも強国Xが侵略をしたら、集団で反撃するぞ」とあらかじめはっきりと宣言しておくことである(「もしお前が侵略したら、我々は必ず集団で反撃するぞ。そうするとお前のほうは二正面作戦、三正面作戦(あるいはそれ以上)に陥り、たとえお前が強国だとしても、お前は負けるぞ」と脅して、侵略を思いとどまらせるのである。)。つまり集団安全保障という方法がとても効果的な理由、それが世界で用いられるようになった理由は、相手がたとえ強国でも「二正面作戦」や「三正面作戦」に陥らせてやれば、十分に対抗できる、しばしば強国を破ることができる、という事実があるからであり、それを強国(の最高権力者や軍幹部)の側もよく知っているからなのである。

関連項目