主体思想

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主体思想
各種表記
ハングル 주체사상
漢字 主體思想
発音 チュチェササン
日本語読み: しゅたいしそう
ローマ字:
英語表記:
Juche-sasang
Juche idea
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主体思想塔

主体思想(しゅたいしそう)/チュチェ思想(チュチェしそう)とは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)及び朝鮮労働党の公式政治思想である。現在は、政治思想ではなく宗教思想に分類する場合もあり、事実上の北朝鮮の国教だという見方もある。

概説

北朝鮮当局は、金日成が創始し金正日が発展・体系化したものとしている。初期は北朝鮮を翻弄する国際情勢や周辺大国の影響に苦しんでいた金日成が反ソ連の立場を打ち出すために北朝鮮の自立性と主体性を主張して「ウリ式社会主義」(「我々式/我らの社会主義」の意)を唱えたことから始まっている。その後、中ソ対立が北朝鮮の独自路線を決定づけ、独自の公式イデオロギー整備へとすすませた。以降も、北朝鮮および金日成政権を取り巻く情勢と政策課題を反映して公式イデオロギーに関する新たな解釈が次々と公式プロパガンダ上で登場した。公式イデオロギーに対する解釈は時期によって変化している。1967年唯一思想体系が採択され指導思想として「金日成主義」を打ち出そうとしたが、これもほどなくして「チュチェ思想」に一元化された。

このような紆余曲折を経ながら「主体(チュチェ)」の語は独自の概念規定を与えられるに至った。しかし、その規定さえ頻繁に変化しており、どのようにも解釈可能なマジックワードとしての様相を見せてから長い時間が経っている。

チュチェ思想の解釈権は朝鮮労働党が一元的に握っている。チュチェ思想の哲学的修辞法や論理構成は金日成の側近・ゴーストライターだった黄長燁によって整備されたものと言われている。黄長燁の手によって、1990年にはマルクス・レーニン主義を基礎にしながらもすでにそれを超克しており、局面ごとには立場を異にすると宣言した。

思想論

以下が主体思想の内容である。

自分の運命の主人は自分自身であり、自分の運命を開拓する力も自分自身にある。故に、革命と建設の主人公は人民大衆であり、革命と建設を促進する力も人民大衆の側にある。

哲学的原理

  1. 根本原理:人間は世界と自分の運命の主人であり、それらを開拓する力も人間が持っている。
  2. 人間の本質的特性:人間とは自主性、創造性、意識性を持った社会的存在である。
  3. 社会的運動の固有な合法則性:人間の自主性、創造性、意識性が高まり、それらが社会に影響する割合が高まる方向に発展する。

革命的首領観

従って、革命と建設の主人公である人民大衆は必ず首領の指導を受けなければならない。首領は頭であり、党は胴体であり、人民大衆は手足と同じである。胴体と手足は頭が考えたとおりに動かねばならない。頭がないと生命は失われる。よって、首領の権威は絶対的であり、全ての人民大衆は無条件に従わねばならない。

ここで謳われた指導者原理だけは、主体思想の解釈がどのように変遷を遂げても、変化していない。

社会政治的生命体論

肉体的な生命は生みの親が与えるが、政治的な生命は首領が与えるもので、首領は生命の恩人であり父と同じだ。従って、父の間違いで家が傾いたと言って、父を代えることができないように、首領を代えることはできないのである。全人民は、団結して無条件に忠誠を捧げなければならない。

また「父の間違いで家が傾いたと言って、父を代えることができないように、首領を代えることはできないのである」とあるように民主主義と離れた思想であるように見える。にもかかわらず、それは、人民大衆の絶対的な自由・自主を実現しようという思想である実態を隠すためであると言える[1]

宗教としての「主体」

2007年5月8日にデイリーNKが報じたところによると、アメリカ宗教情報統計サイト『アドヘレンツ・ドットコム』[2]は、主体思想を「宗教」に規定し、その追従者は1900万人(当時の数値。現在は2300万人に修正)を数え、信者数世界第10位の宗教であるとの報告を発表した。[3]

宗教とされた理由

アドヘレンツ・ドットコムは、「主体」を宗教と規定した主な理由は次のようなものであると述べている。[4]

  • 主体思想は、北朝鮮が他の宗教を排斥しているという観点から、単一の政府主導の思想である。
  • 主体思想は、社会文化的に明らかに一つの宗教である。
  • ユダヤ教徒やジャイナ教教徒よりも、主体の信徒数は多い。
  • 多くの追従者を保ち、追従者の生活に影響を与えており、他の宗教システムとも差を見せる。

また、アドヘレンツ・ドットコムの発表より早い2001年に、内藤陽介は、著書『北朝鮮事典』の主体思想の項目において、「金日成の死後、金正日が主体思想を宗教思想へとつくりかえた。存在論に言及しているという点で、現在の主体思想は宗教思想としての要件を満たしている」という趣旨の内容を述べている。


参考文献

  • 『哲学への主体的アプローチ』(韓東成、2007年、白峰社)
  • 『社会主義への主体的アプローチ』(韓東成、2006年、白峰社)
  • 『二十一世紀と金正日書記』(李珍珪、1995年、朝鮮青年社)
  • 『金正日主義入門』(尾上健一、1995年、白峰社)
  • 『金正日伝(第一巻)』(朝鮮・金正日伝編纂委員会、2004年、白峰社、ISBN 4434041657
  • 『金正日略伝』(在日本朝鮮人総聯合会中央常任委員会、1995年、雄山閣出版、ISBN 4639012764
  • 『金正日への宣戦布告』(黄長燁、文春文庫)
  • 『北朝鮮事典』(内藤陽介、2001年、竹内書店新社)

脚注

  1. ^ http://www.pkucn.com/viewthread.php?tid=256319&page=1#pid1218720339
  2. ^ http://www.adherents.com/Na/Na_390.html#2147
  3. ^ http://www.asyura2.com/07/bd48/msg/744.html
  4. ^ http://www.asyura2.com/07/bd48/msg/744.html

関連項目

外部リンク

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