中華民国台湾
中華民国台湾(ちゅうかみんこくたいわん、拼音: )は、2019年に中華民国総統の蔡英文が提唱した、台湾と中華民国のアイデンティティを一体として扱う概念である。台湾は中華民国であり、中華民国は台湾であり、ひいては「中華民国は主権を有する独立国家」と「台湾は主権を有する独立国家」は互換性があり、国内や外交の場で発行される公式の談話や公報、文書などで使用することができる[1]。
出どころおよびその応用
「中華民国台湾」の起源を蔡英文ではなく、1950年に当時の蔣介石総統に求めた学者もいる。蔣介石の原案のいくつかを研究した作家で政治経済評論家の王浩によれば、「蒋介石は、台湾に設立した新国家の目的は、1949年末に消滅した中華民国を復活させることだと考えていた。『中華民国』の目的は、中国共産党政権から法統、国連での代表権、そして台湾統治の正当性を奪うことであった。その後、『中華民国台湾』の正常化は、憲法の国民投票や住民の革命ではなく、『古い瓶に新しい酒を入れる』(あるいは『総会で取締役を再選する』)という平和的な進化を遂げていった。台湾が中華民国を『逆さ合併』した1950年3月以降、『中華民国台湾』は事実上独立した主権国家となったが、意外にも存続しており、中華人民共和国の一部になったことはない」[2]。
民主進歩党の蔡英文が2016年に中華民国総統に就任した後、2019年の中華民国国慶日の演説で「中華民国台湾」という言葉を正式に提唱し、国家のアイデンティティは中華民国と台湾という異なる陣営に分けられるべきではなく、一致団結されるべきだと主張した[3][4]。
蔡英文の選挙事務所のスポークスマンである林静儀は、ドイチェ・ヴェレとのインタビューの中で、「統一を唱えることは反逆罪に当たる可能性がある」と述べ、2020年初頭の第15大中華民国総統選挙を機に辞任した。 蔡英文は自身のフェイスブックで、「民主主義のメカニズムを通じて、台湾の人々は国家のアイデンティティについて最大公約数の共通認識を得ることができる」と述べている。蔡英文は「中華民国台湾」が人民の総意であると考えている[5]。
蔡英文は、2020年の選挙後に英国放送協会とのインタビューで、台湾の独立宣言について聞かれた。蔡英文は「私たちはすでに独立した国であり、自分たちのことを中華民国台湾と呼んでいます」 (英語: Well, the idea is that we don't have a need to declare ourselves an independent state. We are an independent country already and we call ourselves the Republic of China (Taiwan).)と述べた。2020年4月1日、蔡英文は「中華民国台湾」が台湾人の最大の共通認識であることを改めて強調した[6]。
2020年に就任した蔡英文総統は就任演説の中で、「同胞の皆さん、この70年間、中華民国台湾は、挑戦に次ぐ挑戦に直面して、ますます強靭で団結力のある国になりました」と述べた。ここで述べられている70年とは、作家の汪浩と同じように1950年から2020年までのことであって、蒋介石が台湾をもって中華民国を「逆さ合併」したのと同じ年の1950年以降、中華民国というカラを借りながらもその中身は台湾という、中華人民共和国とは全く関係のない新国家「中華民国台湾」が設立された[7]。
蔡英文は2019年の中華民国国慶日の演説で、「中華民国台湾」という6文字はどの政党の独占物でもなく、台湾共識を実現するためのものであると述べた。「我々はこの道をともに歩んできたのであり、どの政党に属していようと、この地に住む人間である限り、お互いに分断することはできない。中華民国は誰の専売特許でもなく、台湾も誰の専売特許でもない。『中華民国台湾』の6文字は絶対に青くないし、緑にもならない。これは、社会全体の最大の共通認識である」[8][9]。
中華民国外交部は、中華人民共和国外交部長の王毅に対して、2021年3月9日に中華民国外交部の報道官欧江安が次のように述べている。「台湾は中華人民共和国の一部であったことはなく、『中華民国台湾』は主権国家である」[10]。
中華民国外交部は、2021年3月18日から19日に行われた米中高官会談について、「中国の高官は、会談中または会談後に、台湾の主権があたかも中国に属するとでも言うかのような誤解を招く歪んだ発言をしているが、これらの発言は事実ではないばかりか、台湾人民の意志にも反するものである」と述べた。外交部は、「中華民国台湾は主権を有する独立した民主国家であり、主権は2,350万人の台湾人民に帰属し、台湾人民だけが台湾の将来を決定する権利を有している。中華人民共和国が台湾を統治したことは一度もなく、台湾は国際社会の中で単独で存在している。これが中台両岸の事実であり、現状であると考える。中国政府がいくら台湾に関する主張を歪めても、この事実は変わらない。台湾人民は、主権と民主主義を守る決意を一層強め、民主的価値を共有する国々と協力して、インド太平洋地域の平和、安定、繁栄を維持、促進してゆく」と強調した[11]。
2021年10月10日、蔡英文は中華民国第110回国慶日の演説で、自由と民主の憲法体制を常に堅持すること、中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しないこと、主権を堅持し侵犯と併呑を容認しないこと、中華民国台湾の前途を堅持すること、全台湾人民の意思には必ず従わなければならないことなど、4つの主張を表明した。この4つの主張は、台湾人民にとっての最低基準である。
英文名称
中華民国総統府と英国放送協会の両方によると、中華民国台湾の英文名称は“Republic of China (Taiwan)”である。“Republic of China”は“Taiwan”としても知られており、後者は通常、前者の略語である。例えば、アメリカの正式名称は“United States of America”であり、略語は“USA”で、“United States of America (USA)”と書くことができる。“Republic of China (ROC)”もまた同様である[12]。
陳水扁が中華民国総統を務めていた時期は、“Republic of China (Taiwan)”は「中華民国(台湾)」の訳語であったが、「中華民国台湾」とは意味合いが異なる[要説明]。
世論調査
政治的スペクトル | 賛成 | 反対 | 不明 |
---|---|---|---|
民主進歩党 | 90.2 | 3.2 | 6.6 |
中国国民党 | 23.4 | 60.4 | 16.3 |
台湾民衆党 | 55.3 | 36.8 | 7.9 |
時代力量 | 80.6 | 13.8 | 5.5 |
泛緑連盟 | 82.2 | 5.5 | 12.3 |
泛藍連盟 | 32.5 | 40.9 | 26.6 |
中立 | 50.0 | 8.4 | 41.6 |
出典:両岸政策協会[13]
中国大陸からの観点
中国共産党の公式メディアである「人民日報」の海外版は、中華民国台湾という言葉は台湾独立のための「新しい冠」であり、この言葉の導入は民主進歩党の台湾独立の手段に他ならないと考えている[14]。
脚注・出典
- ^ 柳金財 (2020年3月23日). “從「中華民國到台灣」、「中華民國在台灣」,到融為一體的「中華民國台灣」”. The News Lens 關鍵評論
- ^ 汪浩 (2020年8月3日). “汪浩專文:改變台灣命運的那一天”. 風傳媒
- ^ 黃欣柏、楊淳卉、陳昀 (2019年10月11日). “蔡英文國慶致詞:中華民國台灣不分藍綠”. 自由時報. オリジナルの2019年10月11日時点におけるアーカイブ。 2020年1月5日閲覧。
- ^ 周佑政 (2019年10月11日). “細數70年種種挑戰 蔡英文:中華民國不是誰的專利”. 聯合報. オリジナルの2019年10月10日時点におけるアーカイブ。 2020年1月5日閲覧。
- ^ 曾薏蘋 (2020年1月4日). “主張統一是叛國? 蔡英文說話了:中華民國台灣是最大公約數”. 中國時報. オリジナルの2020年1月4日時点におけるアーカイブ。 2020年1月5日閲覧。
- ^ 回應蘇貞昌批陳玉珍 蔡英文:「中華民國台灣」是最大共識 アーカイブ 2020年4月4日 - ウェイバックマシン.自由時報.
- ^ 呂晏慈 (2020年5月20日). “【520就職】蔡英文演說提「中華民國台灣70年」”. 蘋果日報
- ^ “蔡英文國慶演說”. 2021年4月9日閲覧。
- ^ “「堅韌之國 前進世界」 總統發表國慶演說” (中国語). www.president.gov.tw. 2021年10月4日閲覧。
- ^ 美國之音 (2021年3月9日). “台灣回應王毅講話 堅稱中華民國台灣是主權國家”. AOV美國之音
- ^ “中華民國是一個主權獨立的民主國家,只有台灣人民有權決定台灣的未來 第033號新聞稿” (2021年3月21日). 2021年4月9日閲覧。
- ^ 何萬順 (2020年8月25日). “「中華民國台灣」的共同品牌”. 獨立評論壇@天下
- ^ 簡翊展 (2019年10月22日). “54%民眾認同中華民國台灣 韓民調微升蔡英文不能輕敵”. 芋生活
- ^ 人民日报海外版:“中华民国台湾”是台独的“新冠” アーカイブ 2020年3月28日 - ウェイバックマシン .rfi. 2020-03-27