与圧

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与圧に関する警告
日本航空エアバスA300-600R

与圧(よあつ)とは、圧力を与えること。とくに、乗り物の内部を一定の気圧に保つことを指すことが多い。

高高度を飛行する航空機や、宇宙空間にある宇宙船宇宙ステーションのように、機体外の大気が希薄あるいはゼロの空間では、機内の酸素分圧を人間が生存できるレベルに保つ必要がある。このために、酸素マスクを用いるか、室内全体を加圧するかのいずれかの手段が多く採用されている[1]。後者が与圧と呼ばれる。

航空機

ジェット旅客機での与圧区画の例(B-787)
赤色部分が与圧区画である。一般的に、客室や操縦室に加えてその床下の貨物室まで与圧されているが、前脚や主脚の格納室 (gear well) や中央翼部分は与圧されていない。また、胴体内を通る燃料配管の周囲も万が一の漏洩時には与圧部内に滞留せず速やかに機外へ排出されるよう外部に開放されている。

ほとんどのジェット旅客機や多くの輸送機、一部のターボプロップ旅客機やビジネスジェットなどの機内は与圧されているか、必要に応じて与圧する機能を備えており、高度1万mの機内でも0.8気圧程度に保たれる[2]

このような機体では、一般的に搭載されている空調装置などからなる「与圧・空調系統」(または空気調和系統)によって与圧が調整され維持される。 与圧・空調系統は、ジェットエンジン圧縮機の途中から抽出した空気[3]、あるいはエンジン補機としての空気圧縮機からの圧縮空気が用いられ、エア・コンディショナーによって還流されている機内の空気[4]と混合され、温度や湿度が調整されて機内に導入される。機外から取り入れる空気量を増やすことで与圧部を加圧し、胴体下面に備わるアウトフロー・バルブから空気を排出することによって減圧される。与圧部を適切な加圧状態に保つのは、空気調和系統によって行われる[5]。アウトフローバルブの故障などに備えて「リリーフバルブ」や「セーフティーバルブ」と呼ばれる安全弁が備わっており、機内の圧力が過剰になると機外へ空気を逃がすようになっている。

1万メートルの高空を飛行している場合でも、与圧部の中は少なくとも2,400m(航空会社や機種によっては1,500mほどになる)の高度に相当する0.8気圧弱ほどに保たれる。このように与圧部の気圧をそれに相当する高度で現したものが「機内高度」と呼ばれており、一般に機内高度は空気調和系統によって自動的に制御されているが、常時全く同じ気圧に保つことはできず、降下時などに気圧の変化が生じると、目の奥や耳に痛みを伴ったりすることもある。

上空では機内と機外との間に圧力差(差圧)があり、胴体の構造材には膨らむ方向に応力がかかっている。この応力をできるだけ軽量の構造材で封じ込めるために、与圧機能を備えた航空機の胴体断面は可能な限り真円形に近い形状になっている。与圧された航空機が高空を飛行中は、胴体など与圧部分がある程度脹らむため、可能な限り全方向に均等に膨張することでストレスによる構造材への負担を偏在させない方が良いが、客室の床など安易に伸縮できない部分があるため、そのような膨張部と固定部との接合部は構造材の強度が高められているのが一般的である。また、地上では圧力差はゼロになり、差圧によって生じる応力もなくなる。定期運航する旅客機などでは、この繰り返される応力による金属疲労が問題となることがある。ジェット旅客機として世界で初めて定期運航を開始したBOACDH106 コメットは、四角形だった客室窓の角に、応力集中によって生じたき裂(亀裂)が広がったことが原因で空中分解する事故を連続して起こした。その後、航空機の客室窓や各ドアの角には丸みが付けられ、応力の集中を緩和するようになっている。胴体構造は内側が正圧であることを前提に作られており、低高度飛行時などで何らかの異常により内側が負圧になると強度維持に支障が出る危険性が生じる。近代的な電子制御された機体では、内外圧力差が逆転しないように常に自動監視されており、空気調和系統の機械的な動作不良のような異常事態でも適切に必要な対応が行えるようになっている。

大型のジェット旅客機では、与圧部は操縦室や客室、貨物室などに限定されており、すべての翼はもちろん、着陸脚の格納室など多くの部分が非与圧部になっている。一般的には、前部ではレドームと前脚格納室が非与圧であり、中央部では中央翼と主脚格納室が[6][7][8]、後部では尾部のテールコーン全体が非与圧になっている。これらの非与圧部と、客席などの与圧部とを隔てる壁には圧力に耐えるだけの強度が求められ、この内の大きな壁は圧力隔壁といった名前で呼ばれる[9][10]

第二次世界大戦当時の日本軍では、搭乗員用の酸素マスクを与圧面と呼称していた[要出典]

宇宙機

国際宇宙ステーション (ISS) は、地上と同じ1気圧に与圧されている。ISSへの補給物資の運搬を担う宇宙ステーション補給機 (HTV) は、貨物区画の内の補給キャリア与圧部では、やはり1気圧に与圧されており、残る補給キャリア非与圧部は、与圧されていないため宇宙に上がると真空になる[11]

鉄道車両

チベット青蔵鉄道は、最高地点の標高が5,000 mを越える大気の希薄な地域を通っているため、与圧設備を持った車両が用いられており、客室には酸素供給設備も備わっている[要出典]

脚注

  1. ^ 戦闘機などの軍用機では与圧されていない機体が多い。
  2. ^ 長距離を飛行する航空機の多くが高空を飛行するのは、高度の上昇に応じて空気密度が低下し、空気による抵抗が減るために比較的少ない燃料消費で高速飛行が可能になるためである。
  3. ^ ジェットエンジンの圧縮段の途中から抽出した空気を「抽気」(ちゅうき)や「ブリードエア」と呼ぶ。
  4. ^ 機内の空気は概ね循環している。左右壁面の床の隙間から回収された空気は、床下のエアダクトを通り、たいていは機体中央部にある空気調和系統の中の空気清浄フィルターによってダストなどが除かれ、抽気、または電動コンプレッサーによって加圧された外部の新鮮な空気と混合され、必要ならばヒーターで加熱されることで、温度や湿度が調整される。この新たな空気は天井上のエアダクトを通り、客室や操縦室などに供給される。床下から回収された古い空気の一部が、ダクトを経由して、たいていは胴体前部と後部の2箇所の機体下面に設けられたアウトフロー・バルブから機外へ排出される。
  5. ^ 湿度は比較的低く設定されているため、乗客は比較的早期に水分が失われる。喉の渇きを癒す目的以外に、エコノミークラス症候群を避けるためにも、適量の飲料水を飲むことが奨励される。
  6. ^ 主脚格納室は非与圧であり、高空を飛行すると機外と同等の温度と気圧に曝される。これを知らずに無銭旅行を企て脚格納室に忍び込むことで命に関わる事件が幾度か起きた。
  7. ^ 外国人遺体:成田着デルタ機の主脚格納部に 密航目的か - 毎日jp(毎日新聞) - buzzur(2012年3月22日閲覧)
  8. ^ 嫌な乗客、最終回 - 斜陽(2012年3月22日閲覧)
  9. ^ 中村寛治著、『ジェット旅客機の秘密』、ソフトバンククリエイティブ、2010年1月19日発行、ISBN 9784797352573
  10. ^ 高木雄一・小塚龍馬・松島丈弘・谷村康行著、『航空工学の本』、日刊工業新聞社、2010年3月25日初版1刷発行、ISBN 9784526064234
  11. ^ 国際宇宙ステーションの運用に欠かせないHTV - 宇宙航空研究開発機構 JAXA (2011年9月10日閲覧)

関連項目