万有引力定数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。MerlIwBot (会話 | 投稿記録) による 2012年5月25日 (金) 15:48個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (ロボットによる 追加: hi:गुरुत्वाकर्षक स्थिरांक)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

万有引力定数

万有引力の法則における万有引力定数 G
記号 G
6.673 84(80)×10−11 m3s-2kg-1
定義 重力相互作用の大きさを決定する定数
テンプレートを表示

万有引力定数(ばんゆういんりょくていすう)は物理定数のひとつで、重力定数(じゅうりょくていすう)とも呼ばれる。アイザック・ニュートン万有引力の法則において重力相互作用の大きさを決定する定数として導入された。 式中では G と表される。

ニュートンの万有引力理論では、重力は物体と物体の間に直接働く遠隔相互作用として記述される。その大きさ は各物体の質量と物体間の距離として、

となる。

ニュートンの重力理論を修正・拡張したアルベルト・アインシュタイン一般相対性理論でも、G が登場する。一般相対性理論では、まず物体が時空を曲げ、その曲がりにより物体の運動が影響を受けるという段階を踏む。万有引力定数は最初の段階で物体が時空を曲げる度合いに関与する。

定数の値

万有引力定数のCODATA(2010年)推奨値は以下の値である[1]

ただし、カッコ内の数値は表された最後の桁を単位とした数値の不確かさ標準偏差)を表す。 上記の定数は1 kgの質量の2つの物体が1 m離れた時の引力を単位 N (ニュートン) で表した値と等しく非常に小さい値である。たとえばそれぞれが質量1000 kgの物体が1 m離れて引き合う力は約 6.7 × 10−5 Nであり、大体地球上の6.8 mgの質量の物体に働く重力に等しい。

測定の歴史・精度

万有引力定数を定めるには、互いに質量のわかっているものの間に働く万有引力を精密に測定せねばならない。万有引力定数はキャヴェンディッシュによる1798年の鉛球実験 (キャヴェンディッシュの実験) に基づいて初めて計測された。これは針金で吊るした棒の両端に二つの鉛球をつけ、固定した別の鉛球との間に働く力を計測するものであった。キャヴェンディッシュの実験はもともと地球の密度を求めるためのものとして考案されたもので、万有引力定数が求められたことによって、既知の重力加速度と地球の半径から地球の質量そして密度がはじめて求められた。この実験で求められた万有引力定数は 6.74 × 10−11 m3s−2kg−1 であり、現在知られている上記の値と比較しても相当に高精度なものであった。

万有引力はこのように非常に弱い力であるとともに、周囲の物質による影響が除去しにくいために測定が非常に難しい。上に示したCODATA 2010の値も、約 1 万分の 1 程度の誤差が見積もられている。このような測定精度の低さのためCODATA推奨値も時代と共に以下のように変遷し[2]、基礎物理定数としては変化が著しい。

G = 6.6720(41) × 10-11 m3s-2kg-1 (CODATA1973)[3]
G = 6.67259(85) × 10-11 m3s-2kg-1 (CODATA1986)
G = 6.673(10) × 10-11 m3s-2kg-1 (CODATA1998)
G = 6.6742(10) × 10-11 m3s-2kg-1 (CODATA2002)
G = 6.67428(67) × 10-11 m3s-2kg-1 (CODATA2006)
G = 6.67384(80) × 10-11 m3s-2kg-1 (CODATA2010)[1]

また国際測地学協会では1999年に万有引力定数は G = 6.67259(30) × 10-11 m3s-2kg-1 を用いることを定めている[4]NASAでもこの値を採用している[5]

2007年には原子干渉計を用いた測定による万有引力定数として、G = 6.693(21) × 10-11 m3s-2kg-1 という値がサイエンスに報告された[6]

万有引力定数の精度が4桁程度しかないことは、連星パルサーの質量の測定精度などにも影響する。また、ミリメートル以下の範囲でニュートンの万有引力が精度良く確かめられていないことから、小さなスケールでは重力理論の変更を考慮する余地が残されていて、近年、小さなスケールで余剰次元を持つ5次元膜宇宙モデル(ブレーンワールドモデル)が盛んに研究されている。

万有引力定数と質量の積

万有引力定数の測定精度が低いのに対し、G太陽質量 M を乗じた日心重力定数や、地球質量 M を乗じた地心重力定数は精度よく計測されている。 これらの値は各々、

である[7]

従って、地球質量の精度は万有引力定数の測定精度に依存し、CODATA 2006による地球質量は M = 5.9722(6) ×1024 kg と計算され[7]、国際測地学協会の協定値では M = 5.9737(3) ×1024 kg と計算される。NASAでは M = 5.9736 ×1024 kg としている[8]

一般相対性理論とアインシュタインの重力定数

アルベルト・アインシュタイン一般相対性理論においては、重力場を記述するアインシュタイン方程式の中に万有引力定数 が現れる。アインシュタイン方程式は、

と表される。は時空の曲率を表すアインシュタイン・テンソル、右辺のは物質分布を示すエネルギー・運動量テンソル円周率光速である。 右辺の定数をまとめて として、これをアインシュタインの重力定数と呼ぶ人もいる。

出典

  1. ^ Newtonian constant of gravitation”. CODATA Internationally recommended values of the Fundamental Physical Constants. Physics Laboratory, NIST. 2011年6月16日閲覧。
  2. ^ Older values of the constants”. CODATA Internationally recommended values of the Fundamental Physical Constants. Physics Laboratory, NIST. 2010年5月20日閲覧。
  3. ^ E.R.Cohen, B.N.Taylor, J.Phys.Chem.Ref.Data, 2,663(1973).
  4. ^ 東京天文台編纂 『理科年表2009』 丸善
  5. ^ Astrodynamic Constants”. NASA. 2010年5月20日閲覧。
  6. ^ J. B. Fixler; G. T. Foster; J. M. McGuirk; M. A. Kasevich (2007-01-05), “Atom Interferometer Measurement of the Newtonian Constant of Gravity”, Science 315 (5808): 74–77, doi:10.1126/science.1135459, http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/315/5808/74 
  7. ^ a b 2011 Selected Astronomical Constants”. Astronomical Almanac Online. Naval Meteorology and Oceanography Command, U.S. Navy. 2010年5月16日閲覧。 ただし値は時刻系の違いに依存し、示された値は太陽系座標時 (TCB) を用いて表されたものである。
  8. ^ Dr. David R. Williams. “Earth Fact Sheet” (英語). NASA. 2010年5月20日閲覧。

関連項目