不確かさ

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不確かさ(ふたしかさ、: Uncertainty)とは、計測値の ばらつき の程度を数値で定量的に表した尺度である。不確かさの値の表記は、通常は、0以上の非負の有効数字で表現され、不確かさの絶対値が大きいほど、測定結果として予想されるばらつきの程度も大きい。


これまで、計測の信頼性の表現として「精度 (accuracy)」や「誤差 (error)」などという言葉が、「真値」の概念を前提として用いられてきた。しかし、絶対的な真値は実験的には不可知であり、必ず測定値には誤差が伴う。したがって実験的には測定できない真値という概念を前提とした誤差解析による表現を、信頼性の表現として使ってしまっているという欠陥が付きまとっていた。なので、実験的に確認できる量のみを用いて、ばらつきの概念を再定義する必要性が提起されていった。実験的に確認できない「真値」という概念を前提とした「誤差」よりも、実験的に確認できる「不確かさ」の概念および用語が測定分野で用いられるようになった。

そして「真値」や「誤差」の概念を用いた「誤差解析」よりも、「真値」の概念を用いない「不確かさ解析」(Uncertainty analysis)が測定分野で好まれるようになった。「不確かさ解析」では「ばらつき」こそが定義の根幹であるとした。なお、従来の誤差解析では「ばらつき」の定義は、例えば、真値からの測定値の標準偏差である、などというように定義されていた。

不確かさ解析の独立性[編集]

不確かさ解析の理論は従来の誤差解析の理論に依存させてはならず、そのため不確かさ解析の理論を誤差解析の理論から独立させる必要性が生じた。なので、不確かさ解析での「不確かさ (uncertainty)」の定義では、いっさい「真値」および「誤差」の概念を前提としていない。 不確かさ解析の理論を誤差解析から独立させるためには、用語の独立性だけでなく、不確かさ解析の計算方法も誤差解析から完全に独立させる必要があった。そのため「不確かさ解析」では「不確かさ」の計算方法そのものが新たに定義され、誤差解析では証明可能な定理として用いられていた基本的な計算公式のいくつかは、不確かさ解析では証明の前提であり証明不可能な公理として公式が採用されて計算方法が再定義された。実質的には、利用者は従来の誤差解析による計算方法と同様の計算手法が不確かさ解析でも利用できるが、ともかく不確かさ解析では「真値」と「誤差」を引用しない方法で「不確かさ解析」の計算方法が定義された。

このような自己完結的な再定義による理論構築の経緯のため、不確かさ解析の理論は、まるで工業規格のような性質があり、数学理論というよりも規格に近い。統計数学の理論というよりも、むしろ工業測定の評価手段として統計数学の知見を使用した工業規格とでも言うような性質が、不確かさ解析には、ある。

不確かさの表記は通常は、誤差の数値表記と同様の表記であり、つまり不確かさの数値表記には測定値の標準偏差が単位(cm、kgなどの物理/化学の単位のこと)付きで用いられるか、または、単位を無次元化するために測定値の標準偏差を測定値で割った値が「相対不確かさ」(そうたい ふたしかさ)が用いられる。相対不確かさは場合によっては百分率(パーセント%)が表記に用いられる場合もある。

したがって一般に、不確かさでも、ある測定の不確かさの大きさがゼロに近くなるほど、同じ測定器および同じ測定手法で今後に予想される測定値でも、同様にばらつきの程度も小さいだろう、と測定器などの利用者が予想に用いることができる。測定器などの利用者は、従来の「精度」や「誤差」のような量を予想するための指標として、不確かさの概念を用いることができる。ただし、不確かさによる測定の予想は、そもそも利用者の「予想」に過ぎず、今後の測定値の程度については「不確かさ」は保証はしていない。(べつに「予想に過ぎない」ということは不確かさに限って新規に生じた問題ではなく、従来の誤差概念のころから生じていた問題である。)今後の測定のばらつきについては、測定器などの利用者が自己の責任で判断することであり、「不確かさ」の数値が保証できるのは、その不確かさの値を確定するために直前に行われた測定実験での測定値のばらつきの程度だけである。


また、測定用語において「不確かさ」概念が導入された背景として、国家標準器などの計量標準の各国の相互承認や、測定手法の国際共通化および国際規格化といった背景事情があるので、そのため「不確かさ」の意味には、このような測定分野の国際規格化に準拠した方法で測定を行ったという意味が持たれることもあり、国際標準的な手法で測定値のばらつきの評価をしたという意味や、あるいは国際標準的な手法で測定器の性能を評価したという意味が、「不確かさ」という用語の意味として持たれる場合もある。


なお、物理学の量子力学の不確定性原理などで言う不確定性(ふかくていせい、英:Uncertainty)とは、「不確かさ」(Uncertainty)と英訳が同じだが、不確かさの意味の由来は、量子力学とは、ほぼ無関係である。英語の Uncertainty は分野によって様々な和訳があり、分野によって「不確実性」や「不確定性」などの訳語もあり分野ごとに独自の意味を持つが、不確かさ解析においては他分野でのUncertaintyの意味との誤解を避けるなどの理由で「不確かさ」という訳語を用いることが一般である。したがって「不確かさ」と表記した場合は、工業などでの測定実験での測定値に関して用いられる事が多い。また、測定できない出来事については「不確かさ」の表記を用いないのが工業分野では一般である。

種類[編集]

不確かさには、以下のようなものがある。

標準不確かさ (ひょうじゅん ふたしかさ、standard uncertainty)
不確かさを標準偏差σ(シグマ)の幅として表したもの。表記は小文字の u を用いて表す習慣になっている。多くの場合、
u=σ
である。


合成標準不確かさ (ごうせい ひょうじゅん ふたしかさ、combined standard uncertainty)
複数の不確かさの成分がある場合、これら(標準不確かさ)を二乗和として合算したものを平方根にて平均したもの。
合成標準不確かさの表記を uc として、各々の標準不確かさの表記を u(x1)、 u(x2)、・・・、u(xN)として、各々の標準不確かさに相関がなく独立しているとすると、次のような式で表される。
u_c{}^2(y) = c_1^2u^2(x_1) + \cdots + c_N^2u^2(x_N)  ,(2乗和平均)
u2(x)とは、u(x)の2乗のことであり、{u(x)}2のことである。
c12u2(x1)とは、 c1・u(x1) の2乗のことである。c1やc2などは換算のための係数で、たとえば単位の異なる量どうしの不確かさを合成するときなどに用いる係数であり、c1やc2などを 感度係数(かんど けいすう、英:sensitivity coefficient)という。
合成標準不確かさの表記は uc のように、標準不確かさとの混同を防ぐため、combineの略として頭文字cが添字としてuにつけられて表す習慣になっている。


拡張不確かさ (かくちょう ふたしかさ、expanded uncertainty)
ある測定器について、今後に行うだろう測定での、測定値 Y のばらつきについて、ばらつきの大きさが、ほとんど、 y ー U < Y < y+U の範囲に収まるだろうと期待できるとき、この U を拡張不確かさ(かくちょう ふたしかさ)と言う。拡張不確かさUは、非負とする。
「ほとんど」とは、具体的には95%の確率であることが多い。
この拡張不確かさは、合成標準不確かさucを、非負の数(たとえば2や3など)で係数倍して求める。なぜ、係数倍する必要があるかというと、統計数学の理論が由来になっており、標準偏差σ(シグマ)の1倍による±σの範囲
y ー σ < Y < y + σ 
では、確率68.3%でしか測定結果は区間内に含まれないということが知られているからである。
しかし、標準偏差σの2倍による±2σの範囲
y ー 2・σ < Y < y + 2・σ 
では、確率95%で測定結果が区間内に含まれるということが知られており、かなりの確率で含まれるので実用的である。この「確率95%で測定結果が区間内に含まれるということ」ことを「95%の信頼区間(しんらい くかん)である。」などと言う、あるいは「95%の信頼水準(しんらい すいじゅん)」などと言う。「95%の信頼区間」とはどういう意味かというと、もしも同じ測定を20回(100-95=5、100÷5=20)行うと、そのうちの19回は、この区間を外れないだろうと期待される区間のことである。
±3σの範囲では、さらに99%の確率の信頼区間になる。なので、統計数学の検定の理論では、昔から±2σや±3σの範囲が、統計学の検定でよく用いられてきた。
不確かさ解析では、標準偏差σに対応する量が標準不確かさや合成標準不確かさであり、検定のための2σや3σに対応する量が拡張不確かさである。つまり、式で書くと、拡張不確かさUは、係数kをともなって
U=k×uc
である。合成標準不確かさは、小文字のucで表記した。
拡張不確かさは大文字 U で表す習慣になっている。
このU=k×ucでの定数 k を 包含係数(ほうがん けいすう、coverage factor) と言い、不確かさ解析では、よく k = 2 が包含係数として用いられる。
読者に説明が分かりやすいように「真値」という用語を用いて、誤差解析的に説明すると、真値をYとすると区間 y- k・uc < Y < y+k・uc の間に真値が含まれるだろうと期待できる区間(「信頼区間」または「信頼水準」と言う。)を計算するために、包含係数kや拡張不確かさUが用いられる。不確かさ解析では、統計数学の検定の理論を流用しているので、包含係数をk=2とした場合は、統計数学の理論と同じく約95%の確率で真値が含まれるだろうという95%信頼区間になる。k=3では、信頼区間は99%である。不確かさ解析での拡張不確かさの表記は、ほとんどの場合はk=2の95%信頼区間であるが、場合によっては代わりにk=3が用いられる場合もある。
VIM3 用語2.35では、拡張不確かさとは「合成測定標準不確かさと1 より大きい係数との積。」と定義している。
拡張不確かさを求める計算の順序は、一般に、まず標準不確かさから合成標準不確かさを求めたあとに、最後に、合成不確かさから拡張不確かさを求める計算を行う。理由は、包含係数kの値の決定は、利用者の用途ごとにkの値がk=2やk=3に変わるので、そのような利用者の用途に依存する計算を他の計算と分離させるため、最後にまとめて計算するのである。


相対不確かさ(そうたい ふたしかさ、relative uncertainty)
標準不確かさなどを、その物理量の測定値で割った数値。つまりある物理量の測定値を x としたとして、その物理量xの不確かさをu(x)とすると、
\frac{u(x)}{x}
が、相対不確かさである。100分率のパーセント表示で表される場合もある。
パーセント表示の場合は、
\frac{u(x)}{x}\times100  (%)
である。
相対不確かさに換算すると、単位(cmとかkgとかのこと)が無次元化されるので、異なる物理量どうしの不確かさの大きさを比較するときなどに相対不確かさが用いられることがある。


Aタイプ評価とBタイプ評価[編集]

不確かさの評価方法には、2通りある。 1つは様々な不確かさの成分を、観測値の統計解析つまり標準偏差による評価計算であるAタイプ評価がある。

2つ目の評価方法は、測定実験データ以外の様々な情報による、標準偏差に相当する大きさの推定であるBタイプ評価がある。Aタイプ評価かBタイプ評価のどちらかで計算し、それらを合成することで不確かさを求めるとしている。「様々な不確かさの成分」には、計測者が知り得る限りのあらゆる成分を入れる必要がある。不確かさの質は、計測者の計測対象に関する知識や、計測に対する誠実さに左右されることになる。

なぜ具体的に「観測値による評価」とか「非観測データによる評価」みたいに命名していないのかというと、理由は計算方法そのものを不確かさ解析では定義の根幹に置こうとする意図によるものである。


不確かさ概念の導入の経緯[編集]

1995年に世界貿易機関(WTO)によるウルグアイ・ラウンドにおける協議で、WTO加盟各国の独自の工業規格などが貿易上の障壁となりうることが議論され、いわゆる非関税障壁を排除するため、各国の規格や適合性評価の手続きなどを共通化し共通規格を作ろうとする国際標準化が進められることとなった。そして、技術上の非関税障壁を排除するための協定が結ばれることとなり、「貿易の技術的障害に関する協定」(TBT協定)が結ばれた。

このような国際的な流れの中で、日本では日本工業規格JISなどが外国から非関税障壁だろうと見なされ、JIS規格を国際規格(ISOなど)に適合させていく必要が生じた。このため、関連する法律も国際規格などに対応したものに変更する必要が生じた。計量に関する国内法である計量法の内容も、ISO規格などの国際規格に適合化させていくととなった。このような流れで、各国で測定用語も国際化の必要が生じ、また国際時に測定用語の再検討も進んでいった。そして行政においても、計量行政を国際共通化していく必要性が生じた。

いっぽう、外交とは別に、科学の分野でも用語や計量標準などの国際共通化が進んでおり、それら科学の国際共通化と、工業規格や貿易手続きの国際共通化などが相互に連携しあうようになった。

科学における測定の国際共通化[編集]

科学において用語の再定義が行われた背景としては、分野や国によって、測定用語の意味するところや用いられ方が異なっていたため、国際度量衡委員会 (CIPM) の主導で計測値の信頼性の表現法や算出法の統一が行われることとなった。その結果、1993年国際標準化機構 (ISO) など7つの国際機関の共著による「計測における不確かさの表現ガイド」 (Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement, 略称: GUM) が刊行され、この中で「不確かさ (uncertainty)」という言葉が用いられた。

GUMによる定義では、「不確かさ」を「測定の結果に附随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」と定義している。すなわち、「誤差」が「真の値」からの測定値ずれを示すものであるのに対し、「真値の標準偏差」は、測定値からどの程度のばらつきの範囲内に「真の値」があるかを示すものである。不確かさ解析での「不確かさ」の計算は、誤差解析でのこの「真値の標準偏差」に相当する。そもそも「誤差」を定量的に表現するのは不可能であるので(「真の値」を測定しようとすれば必ず誤差が生じるため)、確率的に表現することで定量化しようとしたのが「不確かさ」である。

計量行政のトレーサビリティ制度における「不確かさ」[編集]

計量行政では、測定値の「不確かさ」を測定値から算出することで、その測定に、信頼性が持たれる。そして、不確かさの計算に必要な数値の算出方法の履歴を保証することが、計量行政でのトレーサビリティ制度の根幹である。(そもそも英語の「トレーサビリティ」(traceability)とは「追跡(trace)の可能性」という意味である。)

不確かさの算出には、必ず履歴の保証された数値が必要になる。履歴の保証されていない測定器には、そもそも不確かさの値が付かない。ある測定器(仮にAとする)に不確かさを付けるには、計量行政から信頼性の保証された保証書付きの上位の測定器(仮にBとする)を用いて、測定器Aと測定器Bとで同じ物理量を測定するなどの相互比較の測定などで測定器Aを校正することで、はじめて下位の測定器Aに不確かさが付く。

このため算出方法には、算出方法の履歴が必要である。また、校正には校正方法の履歴が必要である。企業の工場などにおける測定値の「不確かさ」の測定では、企業秘密などのため非公開の部分もあるだろうが、計量行政の当局が全く算出方法を確認できない場合には履歴を追跡できないため、行政当局が履歴を確認できない量を不確かさの算出には用いてはいけない。そもそもISO国際規格そのものが、品質管理の要求の一環として書類の保存を求めており、その書類保存の品質管理要求は測定データの書類にも適用される。

また、外部非公開の測定値なども、履歴の追跡可能性(トレーサビリティ)を確保するために、測定データの保存が必要である。

ある測定器に不確かさを付けるには、上位の測定器が必要であり、また、その上位の測定器に不確かさを付けるには、さらに上位の測定器が必要である。最終的には、最も上位の測定器として、国家標準器に、たどり着くことになる。 最終的にたどり着く先の標準器は、必ずしも日本の国家標準器でなくとも、アメリカやドイツやフランスやイギリスなどの日本と相互承認のある外国の国家標準器でも良い。 もし、この日本との相互承認のある外国の国家標準器にたどり着く測定器について、トレーサビリティを計量行政が認めないとしたら、それはウルグアイラウンドから続く一連の貿易協定などの条約に違反していることになる。1999年には、各国の計量標準について、同等性を相互承認する相互承認協定(Mutual Recognition Arrangement 、略称:MRA)が締結されている。

計量トレーサビリティ制度での「不確かさ」の値の決定方法は、計量行政に依存しており、純粋に数学的な統計量である誤差とは意味合いが少し異なる。また、測定分野における各物理量の国家標準器の機械的な性能にも「不確かさ」は依存しており、「不確かさ」は純粋に数学的な量とは異なる。たとえば、同じ測定器を用いて同じ現象を測定していても、測定器のトレーサビリティが異なると、その測定器の不確かさの大きさが変わるのである。

だから、トレーサビリティ制度で言う「不確かさ」は、それが測定されていることに意義を持つのである。ある測定器の「不確かさ」を測定できるということは、その測定器の校正はトレーサビリティが保証されているということである。

しかし、不確かさは、その一方で、測定値の分散や標準偏差が大きい現象を測定するときには、つまり再現性が乏しくバラつきの大きい現象を測定するときには、つまり文字通り「不確か」な現象を測定する場合には、不確かさの値も大きくなる。このような性質があるので、「不確かさ」と呼ばれることは合理的である。このため、不確かさは誤差と似たような性質も部分的には持っている。

したがって、一般の利用者は、「不確かさ」の意味を「誤差」に近い意味と解釈しても、特に問題は無い。

また、計量行政ではトレーサビリティ制度の普及という実用的な理由からも、利用者が仮に「不確かさ」を「誤差」と解釈しても、あまり不整合が出ないように行政が対応している。だが、それらは「不確かさ」本来の意味ではなく、あくまで行政上での工夫である。一般の利用者には、そこまでの区別が必要ではないが、高い水準の測定を行いたい場合、あるいは国家標準器にトレーサビリティ制度上で近い測定器を利用する場合には、「不確かさ」と「誤差」との意味の区別が必要である。

不確かさの値は、実験によって決定されるか、あるいは、あらかじめ測定された実験値のみを用いた計算によって決定されなければならない。また、不確かさの値の決定は、測定実験の結果から手続き的に行えるし、そのように各国のトレーサビリティ制度が設計されている。どちらにせよ、不確かさの計算の根拠になる数値には、全て実験的な裏付けが必要である。「不確かさ」のトレーサビリティ制度の信頼性の根幹は、測定実験の信頼性に基づくのであり、したがって測定者の信頼性および測定器の信頼性に基づくことになる。だが、その不確かさの値の大小そのものには、測定器の優劣の意味は無く、測定者の優劣の意味も無い。そもそも「不確かさ」は「誤差」では無いので、したがって不確かさが小さいからと言って、精度が高くはならない。

「不確かさ」のトレーサビリティ制度の信頼性の根源は、突きつめればトレーサビリティ上の全ての労働者の信頼性に基くのである。具体的に言うと、まずは各測定者の信頼性や測定器の製造者の信頼性、関係する事務員が不正なく仕事を行っているだろうという信頼性から計量行政に携わる官吏の制度設計の信頼性まで、全ての労働者が信頼性の根幹である。

誤解しないように言うが、「不確かさ」の大きさ自体は労働者の人間性には一切、依存しないし、依存してはならない。「不確かさ」の値の決定方法は、客観的になされなる必要があり、手続的な方法および事務的な決定方法で「不確かさ」の値は決定されなければならない。しかし、その「不確かさ」の意義の信頼性が人間性に基くのである。不確かさは純粋に数学的な量では無く、また不確かさ自体を検証する上位の量(言うならば、「不確かさ」そのものの不確かさ)が存在しないため、このように不確かさの信頼性が労働者の信頼性に最終的には依存するという性質がある。


直接的に測定するのが困難な物理量の測定をする際に、他の物理量から間接的に理論式や実験式を用いて算出することはトレーサビリティ制度でも可能だが、このように理論式や実験式を用いる場合は必ず、あらかじめ式そのものを実験によって校正しておく必要がある、キャリブレーションしておかなければならない。理論式や実験式の校正を行うために、より信頼性の高い測定器などで同じ物理量を測定する比較測定の方法などで、式と測定値とのズレを実験的に測定する必要がある。つまり、たとえ実験式を用いる場合でも、実験式の信頼性すらも実験的に更に測定し校正しなければならない。

式の校正には、簡便な方法として比例係数を補正のための補正係数として用いて、その補正係数を実験値によって決定する方法が、よく式の校正に用いられる。(良い式および良い測定器を用いているなら、比例係数の大きさは1の前後の値になる。)

なお、実験により不確かさの値を決定したり、実験に基づき式の補正係数や補正量などを決定することを、「値付け」(あたいづけ、英語:determine)と言う。

ある国で、各物理量の国家標準器よりも小さな不確かさを持つ測定器は、原理上、存在しない。つまり各物理量の国家標準器が最も小さな不確かさの値を持つことになる。国家標準器の測定値の不確かさこそが、計量トレーサビリティ制度での不確かさ計算の出発点になる。どんなに高性能な測定器が新規に開発されても、その新測定器が国家標準器で無ければ、新測定器の測定値の不確かさの値は、必ず国家標準器よりも不確かさの値が大きくなる。このように不確かさの値は計量行政に依存している。このため、トレーサビリティ制度の運用に不合理が起きないように、国家標準器には各国の測定技術の最高性能が求められる。

このように測定値の不確かさは、関連する制度として計量トレーサビリティ制度などの計量行政や、国家標準器の維持管理を伴っており、相互に意味付けをしている。


国家標準器の測定値の不確かさの値は、国ごとで異なるのが一般である。たとえば、ある物理量の国家標準器の測定値の不確かさが、日本とアメリカとフランスとドイツとで、異なっている場合もありうる。もし、このように国ごとで国家標準器の不確かさの大きさが異なっていても、それは各国の国家標準器の性能の優劣を意味しない。ある国の国家標準器の不確かさの値が他国よりも小さいからと言って(たとえばアメリカの国家標準器が日本よりも不確かさが小さかったとしよう。)、けっして、その国の国家標準器の性能が他国よりも高いことにはならない。(例の場合では、仮にアメリカの標準器の不確かさが日本よりも小さくても、国家標準器の性能の優劣とは無関係である。)

JCSS校正との関係[編集]

測定器に計量行政および国際規格で正当と認めらる不確かさを付けるには、少なくともISO国際規格の ISO 17025 に準拠した方法で、国家標準器とのトレーサビリティのある測定器で校正をしなければならない。 日本では、この ISO 17025に準拠した国家標準器とのトレーサビリティのある校正を行うための制度として JCSS (Japan Calibration Service System の略)という計量行政の制度があり、経済産業省および同省の独立行政法人 製品評価技術基盤機構NITE(ナイト)がJCSSを所管している。計量行政にISO国際規格に準拠した不確かさを認めてもらうには、JCSS校正の認定を受けた企業(JCSSの「認定事業者」という。)などに測定器の校正を依頼し、JCSS専用の校正証明書を発行してもらい、JCSS校正証明書を入手しなければならない。


標準不確かさの表記[編集]

例えば、アボガドロ定数の2010CODATA推奨値は、

NA = 6.022 141 29 × 1023 mol−1

であり、その標準不確かさは、

0.000 000 27 × 1023 mol−1 である[1]

これを、

6.022 141 29 ± 0.000 000 27× 1023 mol−1

又は

6.022 141 29(27) × 1023 mol−1

と簡略化して表記する(Concise form)。括弧内の2桁の数値が標準不確かさを示す。

歴史的背景[編集]

間接的な歴史的背景[編集]

ウルグアイラウンドなどの貿易協定で、科学後術や工業技術上の非関税障壁の撤廃が目指されたが、では国ごとに測定用語の意味が異なるままでは、どのように不都合だったのか?
国ごとに測定値の信頼性が異なるままでは、なぜ不都合だったのか?

諸説あるが、よくある説を紹介する。

まず、国ごとに測定用語の意味や、測定の信頼性が異なると、貿易上で不都合という理由がある。例えば国同士が石油や天然ガスの取引をする場合でも、あるいは食料品や鉱物資源の取引をする場合でも、取引物の重さや体積を測定する方法や評価方法は、各国で共通化する必要がある。だから自由貿易協定などの国際条約による貿易の自由化のためには、前提として、計量行政の国際共通化が必要になった。

また、科学研究などでも、国際的な共同研究をする場合には、各国が計量行政を共通化する必要がある。

また、工業規格の国際共通化としてISO規格があるが、その国際規格を運用する上でも、計量行政の国際共通化が必要である。

このような、いくつかの理由から、計量行政の国際共通化が必要になり、その上で、測定用語の意味の見直しも行われた。この際に、前の説で上述したように「誤差」の意味の再検討も行われ、代わりに、より実証的な概念を目指し「不確かさ」という用語がつくられ、上述のように定義されたのであった。


では、計量行政の運用上に、なぜトレーサビリティ制度が関わってくるのかというと、これは品質保証分野でのトレーサビリティの考え方の起源に関わってくる。こんにちの品質保証分野でのトレーサビリティの起源には諸説あるが、有力な説ではアメリカ合衆国でのアポロ宇宙計画がトレーサビリティの概念の普及に大きな影響を与えたという説が、よく知られている。 アポロ宇宙計画は、アメリカの国家事業であるし、宇宙空間という苛酷な条件下で、打ち上げなどに莫大な予算を使うことからことから、部品や機器の信頼性を保証するための何らかの仕組みが必要であった。また部品や機器の信頼性を保証する仕組みが業界ごとに異なっていると不都合であった。宇宙計画には膨大な業界が開発に関わるので、業界ごとに信頼性保証の仕組みが異なっていては不都合なのである。

このため、業界が異なっていても信頼性の評価方法を共通化する仕組みが必要であり、そのためには評価方法の共通化が必要であった。また、部品には工程に多くの企業が関わっているので、どの部品にどの企業がどの順序で関わったのかという履歴を追うための仕組みが必要であり、これがトレーサビリティ制度のきっかけになった。

このトレーサビリティの仕組みを開発する際、測定器なども宇宙開発に必要な部品に含まれるので、どの業界でも、たとえば機械業界や化学業界など、たとえ業界が異なっていても、共通して測定値の信頼性を評価できる仕組みが必要であった。そのため、特定の業界には依存しない形で、測定の用語や精度保証の仕組みを再設計する必要があった。

誤解ないように言うが、アポロ計画以前に、異なる業界どうしで技術や評価方法を共通化する仕組みが無かった訳ではなく、工業規格などの形式で、そのような共通化の仕組みがあった。また、測定値の信頼性を評価する仕組みもあった。そもそも工業規格とは、そのように技術や評価方法を共通化することで工業を発展させるものである。また、測定は工業規格でも基礎的な分野である。だが、アポロ計画の始めごろの規格や運用では、業界ごとの共通化が不十分であり、更なる改善が必要になったということである。

脚注[編集]

  1. ^ [1] アボガドロ定数の2010年CODATA推奨値

参考文献[編集]

  • 今井秀孝、『計測の信頼性評価』、日本規格協会、2006年7刷。ISBN 4-542-30133-8
  • 『産総研dex』、独立行政法人産業技術総合研究所 広報部、2009年 発行。(非売品)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 不確かさWeb - NMIJ 、独立行政法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 応用統計研究室 
http://www.nmij.jp/~mprop-stats/stats-partcl/uncertainty/uncertainty.php