プラトンの問題

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プラトンの問題(プラトンのもんだい、Plato's problem)とは、生成文法を提唱する言語学者ノーム・チョムスキーがその著書『Knowledge of Language』[1]や『Language and Problems of Knowledge』[2][3]の中で述べた「人間は経験できることが非常に限られているのに、なぜ経験したこと以上のことを知ることができるのだろうか」との疑問をいう。

人間は生まれてからわずかな期間で母語をほぼ完全に獲得するようになるが、その間に受ける環境的・言語的刺激は限られたものである。これを「刺激の貧困」という。この刺激の貧困という制約があるにもかかわらず、創造的で豊かな内容を持つ言語知識を獲得できるのはなぜかという問いに答えることが言語研究の最大の課題であるとされる。

この考えに対して、認知言語学の側からは以下のような反論がある。第一に、養育者から得られる情報を不当に狭義の言語情報に限定しすぎており、ジェスチャーや表情など、具体的な場面から得られる非言語的情報は言われるほど貧困ではない。第二に、この問題は行動主義に基づく学習メカニズムを前提としており、ニューラルネットワークのモデルをもつ脳科学に基づいた学習モデルでは問題とならない。

名はプラトンが「想起説」で同様の疑問を扱ったことにちなむ。

脚注

  1. ^ Chomsky, Noam (1986). Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use. New York: Praeger. ISBN 0275917614 
  2. ^ Chomsky, Noam (1987). Language and Problems of Knowledge: The Managua Lectures. Cambridge: MIT Press. ISBN 0262530708 
  3. ^ ノーム・チョムスキー (1989). 『言語と知識 - マナグア講義録(言語学編)』. 田窪行則郡司隆男訳. 産業図書. ISBN 4782800517 

参考文献

  • 原口庄輔・中村捷編『チョムスキー理論辞典』研究社出版、1992年
  • 山梨正明「言語科学の身体論的転回: 認知言語学のパラダイム」『ことばの認知科学事典』辻幸夫編、大修館書店、2001年