バックアップ

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バックアップ(backup)とは、支援や予備のことであり、データシステムのバックアップとは、複製(コピー)をあらかじめ作成し、たとえ問題が起きてもデータを復旧できるように備えておくこと。

本項目では、データやシステムの複製技術とその目的について解説する。

バックアップの必要性

データはさまざまな要因で失われる。要因として、以下の物がある。

失う要因としてもっとも大きなものは、ユーザ自身が誤って消したり、間違った情報を書き込んでしまうことである。それを完全に防止することは不可能であり、その対策としては失われては困るデータを失う前に通常とは別の場所にコピーしておくことしかない。そのような行為をバックアップをとると言う。

OSの入った、普段使用しているストレージに複製するのもバックアップではあるが、コンピュータのストレージは、形あるものでありいつか壊れるものである。同じストレージにバックアップを取った場合、そのストレージが丸ごと破損するともはや復旧のしようがない。したがって、別のストレージへバックアップを取らなければデータを失うリスクを抑えることは難しい。

ストレージから失われたデータを復元するデータ復旧サービス(サルベージサービス)があるが、失われたデータを作り直すための費用と大差がない場合も多く、また作り直すことができないデータは二度と復活できない。いかに高額なデータ復旧サービスを利用しても、損傷の進んだストレージからは必要なデータを救済できないこともある。バックアップを取らずに何らかの問題が発生しデータを失い自力での復元が困難である場合、データ復旧には膨大なコストがかかるうえに確実にデータを復元できる保障もない。

バックアップは、データを失った場合いかに簡単、迅速に復旧することが肝心で、危惧される要因ごとに対策をとる必要がある。そのため通常は、普段使用しているデータのストレージとは別のストレージに、定期的にバックアップを取ることが強く推奨される。

データ保全・システム保全

バックアップはデータ保全のためには必要不可欠な行為であり、コンピュータで扱うデータが貴重なものであるほど、万が一のデータやシステムの紛失に十分な対策を取る必要が発生する。

リスクの分類と対処法

データ紛失のリスクとしては大きく分けると以下のものがある。

  • データの論理的な破壊 - ユーザのミスや、ソフトウェアのバグ、ウイルス感染やクラッキングなどの第三者による意図的な改ざんなど
  • 媒体の物理的破壊や紛失など - ハードウェアの故障(停電を含む)や、自然災害(火災、落雷、地震など)、さらには犯罪(盗難、テロなど)その他によるもの

これらのリスク分析をし、それぞれの要因に対して必要かつ十分なデータ保全対策を取る事が重要である。

  • 論理的な破壊に対しては、バックアップを数世代分に渡り取得し、時間的に遡ることが出来るようにする対策が必要。可能な限り意図的な改ざんに耐え、破壊される直前に戻れることが望ましい。データの重要度や更新頻度にあわせてバックアップを取得する期間を決定することが必要になる。
  • 物理的な破壊に対しては、別の場所に保存したり、別のメディアに保存したりする対策が必要。バックアップ先が同じ理由で使えなくなることを避けるには、可能な限り離れた場所、可能な限り別のしくみのメディアを使うことが望ましい。

一般的にバックアップには論理的にも物理的にも保護を望める方法を使うが、方法によっては「論理的破壊」または「物理的破壊」の一方のみに対しての対策にしかならない方法もあり、それ単体だけでは充分な対策にはならない。例をあげると以下のようなものがある。

  • 同一ドライブ内にバックアップする。操作ミスなどの論理的な破壊に対しての対処としてのみ有効、操作ミスは最大の障害理由なのでとても有用だが、そのドライブが壊れてしまった場合にはまったくの無力である
  • 別のストレージに即座に反映する。物理的な破壊に対しては最良の手段、停止できないサービスを提供する場合は必須だが、操作ミスなども即座に反映してしまう。RAIDなどのミラーリングサービスがこれに該当する。

以上のような方法は、特定の目的の場合選択されるが、他の方法も組み合わせて使う必要があるといえる。

一般的な対策の例としてはコストに応じ、以下のものがある。

  • リムーバブルメディアにバックアップを取り、別の場所に保管することにより、場所的なリスク(自然災害や犯罪など)や、オンラインにあるリスク(データの論理的な破壊など)を軽減する。
  • 多重バックアップ。重要度とコストに応じて、2重・3重に多重バックアップ(バックアップのバックアップ)を取る。例として、1次バックアップにはハードディスクドライブなどの高速なメディアを使い、2次バックアップにはDVD磁気テープなどの比較低速・小容量のメディアを使う。
  • ネットワークを通して、オンラインストレージデータセンターなどにバックアップを取る(もしくは、データセンター自体を通常使用のストレージとし、またそこから他にバックアップを取る)

RAIDハードディスクドライブの耐障害性を向上させるだけの手段であって、RAIDだけでは完全ではなく、バックアップも同様に重要である。(RAIDはバックアップの代替にならず、バックアップもRAIDの代替にはならない)

バックアップは通常、バックアップした時点において最新なだけのデータしか復旧できないため、定期的にバックアップを取る必要がある。

バックアップ対象

バックアップする対象は、ファイルやフォルダ単位の場合と、ディスクやパーティション単位のイメージバックアップの場合がある。それぞれの特徴は

ファイルバックアップ

以下の要因で、次に述べるイメージバックアップに比して「バックアップは速いがリカバリ(復旧)は遅い」という傾向がある。

ファイルシステムを経由してバックアップを行う。すなわちバックアップ対象はファイルやフォルダである。
ファイルシステムが持つタイムスタンプを利用できるため、増分バックアップや差分バックアップを実現しやすい。
復旧作業にあたっては復元先にファイルシステムが構築(ないしは先に復旧)されている必要があるため、復旧完了までに手順を要することが多い。
イメージバックアップ

以下の要因で、先に述べたファイルバックアップに比して「バックアップは遅いがリカバリ(復旧)は速い」という傾向がある。

ハードディスクパーティションを(ファイルシステムを用いずに)記録データそのままをバックアップする。一般にnullデータを読み飛ばすことは出来ず、全域全量をバックアップする。
過去のバックアップデータ全量が比較対象となるため、増分バックアップや差分バックアップを実現しにくい(或いは処理時間(すなわちバックアップ所要時間)を要する)。
復旧時にはパーティション全体をリストアするので、ファイルバックアップと比較して復旧作業に手順が掛からない。

定期的にバックアップする方法の他に、デフォルトの設定を保存しておく方法もある。

バックアップの種類

バックアップには大まかに、以下の3種類に区分できる。

フルバックアップ
必要なデータ全てを一度にまとめて一括に複製
差分バックアップ
前回のフルバックアップ時からの変更/追加されたデータのみを複製
増分バックアップ
前回のフルバックアップ時からの変更/追加されたデータのみを複製
ただし次回増分バックアップを行う際は直前の増分バックアップの変更/追加分だけが複製される

さらに、データベースなどではトランザクションファイルを利用したトランザクションバックアップがある。

この他、必要データに対し内容に変化(更新・追加・削除・消去)が生じる都度、補助記憶装置の内容に対しても自動的に同じ動作を完全にとらせる(逐次、リアルタイムに内容の同期をとらせることで、フルバックアップと同じ成果を持たせられる)ミラーリングという技法もある。復旧を必要とした時点で、既に全ての必要データが保管されている状態なので、すぐに復旧作業に入れる(物理的事故の場合。データ内容自体の不備が原因である論理的事故の場合、ミラーリング先の内容も同じ問題を抱えているので、この場合は当てはまらない)ばかりでなく、普段のバックアップ作業・動作時間を事実上必要としない点が、フルバックアップに比べ優れている。ただしミラーリングは最大の障害要因である操作ミスやウィルスやクラックなどによる論理的な破壊からデータを守ることはできない。

別の基準から区分すると、各個人または組織のデータを複製するデータバックアップと、データをシステムを復旧させるためのイメージバックアップとがある。

これらのうち最初の3種類の特徴を以下に挙げる。

フルバックアップの特徴

  • 毎回すべてのデータを複製しなければならないためバックアップに時間がかかる
  • 複製したすべてのデータが一ケ所にまとまっているので、復旧時にデータを探し回る必要がない。
  • バックアップ先に充分な空きがないと行えない。


差分バックアップの特徴

差分バックアップのイメージ
  • 一回はフルバックアップを行っておかないと差分が取れない
  • 変更/追加された分をすべて複製するだけなのでバックアップにかかる時間は短い
  • ツールを使わない場合は自分で変更/追加したデータを把握しなければならない
  • 復旧は、差分バックアップしたデータと、差分バックアップに存在しないデータをフルバックアップ時のものから取り出すことで行う


増分バックアップの特徴

増分バックアップのイメージ
  • 一回はフルバックアップを行っておかないと増分が取れない
  • 変更/追加されたデータだけ複製するだけなのでバックアップにかかる時間は極めて短い
  • ツールを使わない場合は自分で変更/追加したデータを把握しなければならない
  • 復旧は、各回のバックアップをすべて探し出さなければ古いデータを使わざるを得なくなってしまう
  • 一度フルバックアップを行っておけば、以降は前回のバックアップから変更/追加したデータだけを複製しておけば良いため、小さなデータならちょっとした場所に保存できる
  • フルジャーナル・ファイルシステムとの併用で差分バックアップのメリットでフルバックアップイメージを取得できるバックアップ方式も存在する。(例 ネットアップ社のスナップショット技術)

バックアップの運用

一般的に、システムの規模や用途により、適切な範囲と頻度でバックアップの運用がなされる。どの範囲のデータをどのくらいの頻度でバックアップし、どのくらいの時間破棄しないで保存しておくかといこうとを、システムやデータの重要度、運用や維持のコスト、その他の要因から総合的に判断してバックアップの計画が立てられ、運用される。この計画には、バックアップの種類(フル・バックアップ、差分/増分バックアップなど)も含まれる。また、バックアップの範囲や種類によっては、システムを停止しなければならないこともあり、そのような事情も計画に含まれる。

範囲

どのデータをバックアップするかということ。たとえば、データベースのデータをバックアップするとか、各ユーザのホーム・ディレクトリをバックアップするとかということ。

頻度

日次(毎日決まった時間帯)でバックアップを行うか、週次(毎週決まった日)で行うか、月次(毎月決まった日)あるいは年次(毎年決まった日)で行うかということ。

保存期間

バックアップをどのくらいの期間破棄しないで保存しておくかということ。データの種類によっては、法律により保存しておかなければならない、最低の期間が定められていることもある。

保管場所

バックアップを記録したメディアが簡単に紛失するようでは意味がないばかりでなく、紛失したメディアに保存された情報が外部に漏洩したり悪用されたりする危険がある。このため、バックアップが記録されたメディアは、所定の場所に保管し管理することが通常である。保管場所には、データが重要であるほど、施錠や認証など一定のセキュリティが施され、バックアップ・メディアを取り扱うことができる人物を限定するなどの対策が重要になる。バックアップ・メディアの保管用の部屋を用意したり、地理的に離れた別の建物に保管したり、信頼できる外部の業者に保管を委託するなど、バックアップの重要性やコストにより適切な保管場所を用意することが重要である。これらの措置は、バックアップの運用だけでなく、セキュリティの方針にも関係する。

バックアップメディアの種類

  • フロッピーディスク - 容量:約1MB
    かつては主に使われていた記録メディアだが、今となっては非常に小容量であるうえ、読み込みの速度が遅いため、細々としたファイル単位でのバックアップ程度にしか使われない。磁気や埃、汚れに弱い。
  • 大容量磁気ディスク - 容量:約100MB〜数GB
    100MB以上の容量を持つ大容量リムーバブルメディアZipJazなどがこれにあたる。書き込み速度では光ディスクより圧倒的に速いため、米国では一時期かなり普及したが、現在では容量や経済性で優れる光ディスクに取って代わられている。フロッピーディスクと同様に磁気や埃、汚れに弱い。
  • 磁気テープ - 容量:約数十GB〜数TB
    大規模なサーバや汎用機で伝統的に使用されているメディア。ストリーマとも言い、大規模なものではテープメディアを自動交換する装置(オートローダ)もある。ランダムアクセスができないため、細かいデータのバックアップには向かないが、容量が大きいのでシステム全体のバックアップに向く。ただし、テンション調整(たるみ除去)、帯磁、消磁など、メンテナンスが面倒。また、容量に対して安価であるが、記録装置の方は非常に高価であるため個人向けとは言いがたい。ただし、フロッピーディスクが標準化される以前は、データをデータ音に変調してデータレコーダ(もしくはテープレコーダー)を用いてオーディオ用カセットテープに保存する手段が個人向けとして使われていた。
  • 光ディスク - 容量:約600MB〜20GB
    現在よく使われているのはCD規格やDVD規格、BD規格による記録メディア、あるいはこれと互換性を有する規格によるメディアである。記録用メディアにはライトワンス(一度だけ書き込み可能、消去不可)とリライタブル(書き換え可能)の2種類があり、状況によって使い分ける。光ディスクの種類によっては熱や湿気、紫外線に弱い場合がある。業務用には自動クリーニング機能を搭載したメンテナンスフリーな装置もある。
  • フラッシュメモリ - 容量:約数十MB〜数GB
    小型で持ち運びに便利。現在USB接続タイプが主流。近年はFlash SSDも普及しつつあるが、その性質上長期のバックアップ用に使用されることはほとんどない。
  • 光磁気ディスク(MO) - 容量:約100MB〜数GB
    日本では一時期普及していた記録メディア。現在は光ディスク、フラッシュメモリーにほとんど取って代わられているが、それらよりもはるかに優れる信頼性・長期保管性から現在でも使用されることがある。
  • ハードディスクドライブ - 容量:約数十GB〜2TB以上
    大容量で高速にバックアップが取れるが、磁気や衝撃に弱い。厳密には記録メディア(媒体)ではなく、メディアと一体化した記録ユニット(装置)である。それゆえにメディアそのものの損傷による物理的なデータの損失だけではなく機械部分の故障により結果としてデータを損失する可能性もあり、ハードウェア障害に弱い記録媒体と言える。またハードディスクの性質上その修理には高度な設備と技術、多大なコストが必要となる。

関連項目