グランドツアー

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パンテオン

グランドツアーGrand Tour)とは、17-18世紀のイギリスの裕福な貴族の子弟が、その学業の終了時に行った大規模な国外旅行である。

概要

Letters from several parts of Europe and the East, 1763
18世紀の行程例

17世紀になりそれまで続いたヨーロッパの戦乱が落ち着きを見せ、宿や駅馬車、交通網など旅行に必要な環境が整ってきた。それ以前の旅行は商用など実用的な目的があるものがほとんどだったが、グランドツアーの流行は私的な旅行が始まった時期と重なっている[1]。 当時文化的な先進国であったフランスイタリアが主な目的地で、一種の修学旅行ともいえる。旅行というのが、おおよそ数か月から8年というのがヨーロッパの人たちにとって普通だった時代のものである。

家庭教師が同行を務めるのが一般的で、トマス・ホッブズアダム・スミスも同行した事がある。旅行の間、若者は近隣の諸国の政治文化芸術、そして考古学などを同行の家庭教師から学んだ。彼らは見物したり、勉強したり、買い物に精を出したりする。中には女性についての修行に励むものもあった[1]。グランドツアーは、若いイギリスの青年たちにとっては、様々な実情や状況に合った生きた知識を手に入れるための実用的な好機でもあったのである。

家庭教師の監視のもと、あるいはお付きの者の世話を受けながら、若者たちは旅行に出かけた。旅行の最初のスタートは英仏海峡を渡ることで、カレーを経てフランスに入る。多くの若者にとっては、度重なる両国間の激動の時代以来、これ自体がすでにひとつの試練でもあった。

フランスは、その礼儀作法や社交生活の洗練さによって、イギリスの貴族階級の高貴さとはまた違った上品なマナーを身につけ、態度振る舞いに磨きをかけるということから人気があった。

パリでは、彼らはフランス風の衣服を身にまとい、イギリスらしい田舎じみた痕跡を抹消しようとした。フランス人のような服装に変えても彼らはまだまだフランスの社会に入ったことにはならない。フランスに入って後、ディジョンリヨン、そしてマルセイユなどにも足を運んだ。

イタリアは、古代ローマルネサンスの遺産が多く、最も人気のある場所のひとつであった(同時に、芸術を志す若者が、ヨーロッパ各国から古代の彫刻などを学ぶために集まった)。ルネサンスに影響を受けた若者によって、やがてイギリスにも新古典主義の建物が多く造られるようになった。

グランドツアーの黄金期はフランス革命の開始とナポレオンの登場による大陸の混乱とともに一旦の終焉を迎えるが、19世紀に入ってからも、最良の教育を受けた若者たちは、グランドツアーに出かけるのが常であった。その後、これは若い女性たちにとっても一種のファッションになっていった。パトロンとなってくれるオールドミスとイタリア旅行をするというのは、上流階級の淑女にとって教育のひとつとなったのである。 トーマス・コーヤットの本『Coryat's Crudities』は大ヒットとなり、グランドツアーに出かける若者たちにマニュアルが求められていたことの証である。

19世紀、アルプス山脈にはグランドツアーの伝統によってイギリス人の若者が多く訪れた。アルプス山脈の主峰39座のうち、31座の「初登」はイギリス人によることになった。この頃になると、イギリス人だけでなくヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国の若者にもグランドツアーは広まり、蒸気船蒸気機関車の登場により行先はより拡大され、世界一周へとつながっていった[2]。それは従来のグランドツアーの終焉で、トーマス・クックによる団体旅行の始まりであった。

脚注

  1. ^ a b 海野 2009, pp. 67–68.
  2. ^ 『グローブトロッター』中野明、朝日新聞出版、2013、p8

参考文献

  • 本城靖久 『グランド・ツアー 英国貴族の放蕩修学旅行』 中央公論社中公文庫〉、1994年、ISBN 412-2021804。旧版は中公新書(1983年)
  • 石ノ森章太郎 『グランドツアー 英国式大修学旅行』 原作:本城晴久、脚本:仲倉重郎、中央公論社〈中公コミック・スーリ・スペシャル〉、1997年、ISBN 412-4104677
  • 海野弘『酒場の文化史』講談社学術文庫、2009年。ISBN 9784062919524 
  • 中野明 『グローブトロッター 世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』 朝日新聞出版、2013年、ISBN 402-331210X
    • 改訂版 『世界漫遊家(グローブトロッター)が歩いた明治ニッポン』 ちくま文庫、2016年、ISBN 448-0433996

関連文献

関連項目

外部リンク