クロユリ

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クロユリ
エゾクロユリ(大雪山黒岳・2001年7月撮影)
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: ユリ目 Liliales
: ユリ科Liliaceae
: バイモ属 Fritillaria
: クロユリ F. camschatcensis
学名
Fritillaria camschatcensis (L.) Ker-Gawl.
和名
クロユリ
英名
Chocolate Lily

クロユリ(黒百合、学名: Fritillaria camtschatcensis)はユリ科バイモ属高山植物。別称はエゾクロユリ(蝦夷黒百合)。

特徴[編集]

多年草。地下にある鱗茎は多数の鱗片からなる。は直立して高さ10-50cmになり、3-5輪生するが数段にわたってつく。葉は長さ3-10cmになる披針形から長楕円状披針形で、質は厚く表面はつやがあり、基部に葉柄はない[1][2]

花期は6-8月。は鐘状で、茎先に1-数個を斜め下向きにつける。花被片は6個で、長さ25-30mmの楕円形で、暗紫褐色または黒紫色になり、網目模様があり、内面の基部に腺体がある。雄蕊は6個あり、花被片の半分の長さ。花柱は基部から3裂する。花には悪臭があり、英語では「skunk lily(スカンクユリ)」「dirty diaper(汚いオムツ)」「outhouse lily(外便所ユリ)」などの別名がある[1][2]

北海道以北の低地に分布する染色体数が3倍体3n=36で、草丈が高く50cmになり、花が3-7個つくのものをエゾクロユリ(基本変種)と、日本の本州、北海道の高山に分布する染色体数が2倍体2n=24で、草丈が10-20cmのものをミヤマクロユリ(変種)と分類する場合がある[1][3]

分布と生育環境[編集]

日本の北海道、千島列島ロシア連邦サハリン州米国に分布。高山帯の草地に生える。

本州では、東北地方の月山飯豊山。 中部地方の白山で、室堂周辺などに大量に群生しているのが見られる。石川県の「郷土の花」である[4](「県花」ではない[5]。)。

下位分類[編集]

  • ミヤマクロユリ(深山黒百合、学名: Fritillaria camtschatcensis (L.) Ker Gawl. var. keisukei Makino )- 本州中部地方以北、北海道に分布し、高山帯から亜高山帯に生育する。
  • キバナクロユリ(黄花黒百合、学名: Fritillaria camtschatcensis (L.) Ker Gawl. f. flavescens (Makino) T.Shimizu )- 花が黄色いものが区別される場合がある

利用[編集]

アイヌ料理では鱗茎と混ぜて炊いたり、茹でてからを付けたりして食される。樺太では乾燥させて保存し冬季の料理に用いられた。その調理方法は、まずチエトイ(cietoy 珪藻土)を溶かした水で乾燥させた鱗茎を煮て、深い鉢に移して油を入れ、すり鉢でよく潰す。そして前述のチエトイの水を少し入れ、コケモモの実を入れてから静かにかき混ぜるというものである。

この鱗茎を北海道アイヌ語でアンㇻコㇿ(anrakor)またはハンㇻコㇿ(hanrakor)といい、樺太アイヌ語ではハㇵ(hax)と呼ぶ。また花や葉は染料として用いられた[6]

文化[編集]

花言葉は「恋」「呪い」。武将の佐々成政シェイクスピアの『オセロ』に似た、側室の早百合姫の「黒百合伝説」が富山にあり、明治になり金沢出身の作家泉鏡花が『黒百合』という小説を書いている。

川端康成は小説『山の音』の「春の鐘」の章の中で、黒百合の匂いを「いやな女の、生臭い匂いだな」と表現している[7]

画像[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 『日本の野生植物 草本I単子葉類』p.38
  2. ^ a b 『新牧野日本植物圖鑑』p.862
  3. ^ 『日本の高山植物』p.567
  4. ^ 白山のクロユリ”. 石川県. 2011年7月20日閲覧。
  5. ^ 2008年6月4日の北國新聞
  6. ^ 知里真志保『分類アイヌ語辞典』
  7. ^ 川端康成『山の音』(新潮文庫、1957年4月。改版2010年4月)p.220

参考文献[編集]

  • 白簱史朗『増補新版 カラー高山植物』山と溪谷社、1996年9月、170-171頁。ISBN 4808305739 
  • 豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月、567頁。ISBN 4-635-09019-1 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎他編『日本の野生植物 草本I単子葉類』、1982年、平凡社
  • 牧野富太郎原著、大橋広好邑田仁岩槻邦男編『新牧野日本植物圖鑑』、2008年、北隆館
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)

関連項目[編集]