カンアオイ属

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カンアオイ属
カンアオイ(千葉県・青葉の森公園)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ウマノスズクサ目 Aristolochiales
: ウマノスズクサ科 Aristolochiaceae
: カンアオイ属 Asarum
学名
Asarum L.[1]
シノニム

Asiasarum F.Maekawa
Heterotropa Morr. et Dence

和名
カンアオイ属
英名
Wild ginger

カンアオイ属(かんあおいぞく、寒葵属、学名Asarum:wild ginger)とは、ウマノスズクサ目ウマノスズクサ科に属するである。研究者によっては5つの属に細分化されることもあり、その場合はAsarumにはフタバアオイ属という和名が与えられ、カンアオイ属はHeterotropaとされる(#分類を参照)。「寒葵」は、に似ており、冬季でも枯れない常緑多年草であることからと名づけられたが、一部の種は冬に落葉する。

特徴

形態

非常に背の低い多年草。は地表、あるいは浅く地中を横に這うが、伸びは非常に遅い。まれに匍匐枝を出す種もある。は太くて真っ直ぐなものを少数もつ。

は各茎に数枚だけつける。長い葉柄を持ち、葉はハート型か三角に近い形で、基部の両側は耳状に突出する。常緑性の種では葉は革質で厚く、多くは表面に雲状の白っぽい斑紋がでる。

は冬季に咲き、短い柄の先に一つずつ付き、地表か、やや土に埋もれて表面だけを地表に出す。花弁のように見えるが実は萼片(萼)であり、放射相称で、3枚の萼片が合着し、筒状やつぼ状、釣り鐘状などの形の萼筒を形成し、先端は三裂の萼裂片となる。またまれに花弁をつけるが、退化しておりごく小さい。雄蕊は3本または6本。

生息環境

主に山地等の林床部に生育する。日陰で、肥沃のよい排水性のある土壌を好む。

生態

耐寒性が強い。成長が遅いため生息範囲が広がりにくく、地方によってさまざまな種に分かれている(種分化)。前川文夫は生息範囲の移動速度を「1万年で1km」と見積もっている。ただし、種子アリ類によって運ばれることもあり、この説には異論がある。

ギフチョウ食草でもある。

花粉媒介

カンアオイの花

カンアオイ属の萼片)は、いくつかの奇妙な特徴を持つ。地表すれすれで、大抵は葉の陰に、外からは見えないように花をつける。また、ほとんどの種の花期が冬季である。花の構造も、若干の差はあるが、壺状の花の奥に雄蘂雌蘂がまとまっている。そのため、花粉媒介に一般的な訪花動物の誘引やなどの機械的な作用(風媒花)を用いているとは考えにくい。

カンアオイ属の花粉媒介に関する説の一つに、花粉媒介者カタツムリナメクジであるとの説があり、カタツムリ媒という用語も存在する。カンアオイについてはその他に、ワラジムシヤスデが媒介しているとの説もあり、確定していないのが現状である。一部の種については、キノコバエが花粉媒介を行うことが報告されている。

分布と分類

カンアオイ属は東アジアで非常によく種分化がおこっており、約80種が確認されている[2]。また、アメリカヨーロッパにごく少数の種が分布している[2]。日本では50種が確認されている[3]

花の構造などにより、カンアオイ属Asarumをフタバアオイ属Asarum、ウスバサイシン属Asiasarum、カンアオイ属HeterotropaHexastylisGeotaeniumの5属に細分化する説もあるが[2][4]、最新の系統分類学的研究から、Asarum属にまとめることが多い[2][3]環境省では、2000年版のレッドデータブックAsiasarumHeterotropaとされている種のほとんどが、2007年版のレッドリストではAsarumに変更されている。

Asarum属(カンアオイ属)にまとめる場合、日本に分布するAsiasarum及びHeterotropaの単位に分類されている[3]。Sugawara(2006)によるカンアオイ属の種内分類は下記の通りである。なお、()内は日本産の確認されている種数である。

  • genus Asarum カンアオイ属(50種)
    • subgenus Asarum フタバアオイ亜属(2種)
      • section Asarum フタバアオイ節(2種)
    • subgenus Heterotropa カンアオイ亜属(48種)
      • section Asiasarum ウスバサイシン節(2種)
      • section Heterotropa カンアオイ節(46種)

日本に分布する種

フタバアオイの花

日本に分布する種のリストを下記に記す[3][5]

section Asarum フタバアオイ節(2種)
section Asiasarum ウスバサイシン節(2種3変種)
  • Asarum sieboldii ウスバサイシン(薄葉細辛、シノニム:Asiasarum sieboldii) - 日本中華人民共和国朝鮮に分布し、日本では北海道、本州、九州北部に極めて局地的に分布している多年草は地をはしり、丸く先がとがっている柄の長い葉を二枚出す。3〜6月に暗い赤紫色で6本の花柱の外側に12本の雄しべを持つ花を咲かせる。和名の「サイシン」の由来は根を乾燥したものを漢方薬で細辛(細くて辛い根の意)いうことから。
    • var. dimidiatum クロフネサイシン(黒船細辛、シノニム:Asarum dimidiatumAsiasarum dimidiatum) - 本州、四国、九州中部に分布する多年草。ウスバサイシンによく似ているが、花が咲いている3月から5月になると花柱が3本、おしべが6本とウスバサイシンの半分であることが観察できるので良く分かる。
  • Asarum heterotropoides オクエゾサイシン(奥蝦夷細辛、シノニム:Asiasarum heterotropoidesAsarum sieboldii subsp. heterotropoides) - 樺太、北海道、本州北部、南千島に局地的に生息する多年草。山中の林の薄暗く湿った場所に生え、5月〜6月にウスバサイシンと同じく暗い赤紫色の丸い花を根元に咲かせる。ウスバサイシンに似ているが、こちらは葉の先が丸くなっている。
section Heterotropa カンアオイ節(46種58変種)

日本国外に分布する種

日本国以外に分布する主な種を記す。

  • Asarum arifolium
  • Asarum canadense - Canada wild ginger
  • Asarum caudatum - British Columbia wild ginger
  • Asarum europaeum - European Wild Ginger
  • Asarum hartwegii
  • Asarum hongkongense
  • Asarum lemmonii
  • Asarum marmoratum
  • Asarum maximum
  • Asarum naniflorum
  • Asarum splendens - Chinese Wild Ginger
  • Asarum taitonense

利用

江戸時代から栽培されている。特に、通常は葉柄から葉の裏が紫になるが、その部分が緑色で濃い色がのらないものを選び、品種名をつけたものは「細辛」として古典園芸植物と認められる[要出典]。また、野生種も山野草として栽培の対象となる。特に各地の種を集めるマニアがおり、その為に分布域の狭い種には絶滅危惧に追い込まれたものがある。

脚注

  1. ^ Asarum L.” (英語). ITIS. 2012年5月18日閲覧。
  2. ^ a b c d 菅原敬 「ウマノスズクサ科」『朝日百科 植物の世界9 種子植物 双子葉類9 単子葉類1』岩槻邦男ら監修、朝日新聞社、1997年、38頁。
  3. ^ a b c d Sugawara, Takashi. (2006) "Asarum", Flora of Japan Vollume IIa, K. Iwatsuki et.al. (ed.), KODANSHA, 2006, pp.368-387.
  4. ^ 佐竹義輔・籾山泰一 「ウマノスズクサ科」 『日本の野生植物 草本 II 離弁花類』 佐竹義輔ら編集、平凡社、1982、102-109頁、ISBN 4-582-53502-X
  5. ^ 別名、シノニムについては、BG Plants YList植物名検索も利用している。

参考文献

  • Murata, Jin. (2006) "Aristolochiaceae", Flora of Japan Vollume IIa, K. Iwatsuki et.al. (ed.), KODANSHA, 2006, pp.366-387.
  • 佐竹義輔・籾山泰一 「ウマノスズクサ科」 『日本の野生植物 草本 II 離弁花類』 佐竹義輔ら編集、平凡社、1982、102-109頁、ISBN 4-582-53502-X
  • 菅原敬 「ウマノスズクサ科」『朝日百科 植物の世界9 種子植物 双子葉類9 単子葉類1』岩槻邦男ら監修、朝日新聞社、1997年、34-47頁。
  • Sugawara, Takashi. (2006) "Asarum", Flora of Japan Vollume IIa, K. Iwatsuki et.al. (ed.), KODANSHA, 2006, pp.368-387.

関連項目

外部リンク

  • カンアオイのこと - 四季のうつろい・小さな庭より。カンアオイ属の詳細な解説が紹介されている。