カナール・アンシェネ

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カナール・アンシェネ

カナール・アンシェネLe Canard enchaîné)は、フランスで週刊で発行される新聞である[1]風刺の色合いが非常に強いことで知られる。

概要

1915年に創刊。44万6000部の発行部数を誇り、フランス最古の新聞の1つでもある。調査に基づく報道と、フランス政府内部、フランス政治界、フランス経済界からのリークが売りである。また、たくさんのジョークユーモア漫画なども評判をよんでいる。このように、ユーモアの色合いが濃いが、もっとも重要な位置を占める新聞である。

名前は、ジョルジュ・クレマンソーの推薦である「L'homme libre(自由な人)」という新聞が、政府の検閲によって強制的に廃刊にさせられ、「L'homme enchaîné(鎖につながれた人)」という名前で復活したことによる。「Le Canard enchaîné」は、フランス語で「鎖につながれたカモ」という意味であるが、「Canard」はフランス語のスラングで「新聞」という意味も持つ。第一次世界大戦中は、兵士たちによって発行された塹壕新聞でもあった。

構成

この新聞は、原則8ページで構成されている。1,2,3,4ページと8ページは、主にニュースと社説である。5,6,7ページは、社会問題(環境問題など)、背景、一般的なユーモアや風刺、漫画「カビュの肉」と、文学・演劇・映画などの批評が掲載されている。

略歴

1915年に、Maurice Maréchalと、妻のJeanne Maréchalによって創刊された。この新聞は発行を続けるにつれて人気を博し、1940年に、フランスがナチス・ドイツに占領された期間の一時休刊まで、世論に影響を与え続けた。フランス解放後は発行を再開し、1960年代には、現在の8ページの書式に増やされた。

特徴

発刊初期に貢献した人物は、共産党社会党のメンバーであったが、1920年代にこれらとの協力関係は解消された。政治的に左派の傾向があるが、現在の新聞社のオーナーは、いかなる政治・経済のグループとの結びつきはない。また、いかなる提携からも強く独立を守っていることで、犯罪の告発といった記事や、偏りのない政党批判を展開している。

注目すべきは、フランスの政治と財界のスキャンダルに焦点を当てている点である。かつて他の主要な新聞は、政治汚職やスキャンダルを追及することに乗り気ではなかった(現在では、それらの新聞も積極的である)。しかし、本紙はその空白を埋めるかのごとく、これらの追及を進んで行った。

しかしながら、最近は改善したとはいえ、国際報道についてはムラがあるともいわれる。これらの情報源は、フランス政府や他のメディアによる報告であることも多い。

有名な記事としては、インチキのインタビュー、一週間をまとめた「Prises de Bec(くちばしの補足)」や、有名な文章の切り抜き(とはいうものの、出版物での誤植・言葉のおかしな誤用など)、悪名高く謎めいた「Sur l'Album de la Comtesse(伯爵夫人のアルバム)」などがある。

基本的に広告は掲載されていない。

影響力の大きい内容

本紙は密告者による情報を含んだ、政治家の「消息筋」や公的行政機関のリークなどを記事にする。フランスにおける政治背景の情報が充実しており、これらの暴露記事によって、内閣の大臣が辞任に追い込まれることもたびたびある。

また、記事の中には、明らかに、非常に高い地位の者が情報源である内容も見られる。シャルル・ド・ゴールはよく標的にされ、本紙が刷り上がる毎週水曜日に「あの忌々しい鳥は何と言っている?(que dit le volatile?)」と述べたとされる。大統領首相といった国のトップたる政治家が、他の政治家について語ったオフレコが、一字一句記載されることが多い。

また記事には、風刺漫画やジョークも含まれており、事実に基づきながらも、おどけた調子で書かれたコラムもある。ほかにも、国民に影響する話題(雇用者や安全問題に関する企業のスキャンダル、司法の失策、公的機関やサービスの悪態など)もリポートしている。

批判と抗議

本紙の特徴である風刺に対しては、批判と抗議も存在する。

2013年に本紙が、数日前に決定した2020年の東京五輪福島第一原子力発電所事故をからめ、脚や腕が3本ある力士の横で「すばらしい![2]フクシマのおかげで相撲が五輪に採用されました」とレポートする人物の風刺漫画を掲載したことに対し、官房長官菅義偉は遺憾の意を述べ、大使館を通じて抗議する意向を示した[3]。編集長のルイマリ・オロは抗議に対し、「自分たちではなく東京電力に怒りを向けるべきであり、謝罪するつもりはない」と発言した[4]

ただし、翻訳家の野田謙介によれば、この漫画は力士の横にいるNelson Monfort[5]をモデルにした人物を笑いものにすることで、原発事故が起きておきながらオリンピックの開催に浮かれている人々を風刺しているという。抗議などの事態に発展したのは、容姿と発言の出だしが英語(Marvellous)であることから、本来の読者(フランス人)には風刺の対象(Nelson Monfort)が分かるが、日本では知られていない人物のため、理解できる力士のみがクローズアップされたためであるという。また野田はこの作品は風刺としては表現が安易であり、本紙も「あまり真面目な新聞ではない」と評している[6]

この風刺画を発表したカビュは後にシャルリー・エブドに所属していたが、2015年に発生したシャルリー・エブド襲撃事件に巻き込まれ死亡している。

脚注

  1. ^ フランスの週刊紙カナール・アンシェネが…”. 西日本新聞 (2013年9月14日). 2013年9月21日閲覧。
  2. ^ フランス語ではなく英語で「Marvellous!」と書かれている
  3. ^ 「不適切だ」菅長官、汚染水風刺画掲載の仏週刊紙抗議へ 「被災者傷つけ謝った印象与える」 - MSN産経ニュース
  4. ^ 汚染水風刺画の仏紙「謝罪しない」 日本大使館は抗議 - MSN産経ニュース
  5. ^ フランス人のスポーツ・ジャーナリスト。アメリカ英語を頻繁に使うことで知られる。
  6. ^ 河北新報 2013年10月3日 16版 21ページ 「五輪風刺「毒」際立つ」 野田謙介

外部リンク