アンプ (楽器用)

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ギター用アンプ Roland JC-120

アンプは、もっぱら電気楽器電子楽器と組み合わせて演奏することを目的として設計、製造された音響機器である。発音機構を持たない電子楽器類の発音を担う。

アンプとはいうものの、家庭でのオーディオ再生用のアンプや計測用のアンプと異なり、ほとんどがスピーカを持つこと、あえて平坦な周波数特性や低い歪率を狙わない場合が多いこと、各種エフェクタを内蔵する場合があることなど、楽器の一部としての性格を有している。これらの特徴は楽器とアンプの組み合わせ選択(やその変更)を音作りの一環として用いるエレクトリックギター用アンプに著しく、楽器本体である程度音が完成されているキーボード類では比較的フラットで低歪率のものが用いられる。

用途別分類

楽器用アンプとして概ね以下の分類が可能である。

エレクトリックギター用

一般的にアンプ部分とスピーカー部分が一体化されたタイプ(コンボアンプ)と、アンプ部分とスピーカー部分でそれぞれ独立したキャビネット(ボックス)に分離されたタイプ(スタックアンプ)に大別できる。

コンボアンプの多くは、キャビネットは後面開放型である。このためにサイズから求められる一定の波長以下はキャビネットの前後で打ち消しあい、低域の周波数特性は減衰する。

スタックアンプの場合は大音量で鳴らすと「箱鳴り」という、キャビネット自体が共鳴して音を出す現象が生じる。あまり目立った箱鳴りは敬遠されることもあるが、アンプ自体の音のキャラクタの一要素にもなるため、アンプシミュレータでは、箱鳴りを再現する機能が付いていることが多い。

アンプ部分

アンプ部分は音量、音質をコントロールするプリアンプ部とリバーブトレモロなどのエフェクター部、スピーカーを駆動するパワーアンプ部からなる。

初期のギターアンプはボリューム+簡易なトーンコントロールという組み合わせだったが、奏法の変化により、アンプの音量を上げない状態でも歪んだ音を出したいという要求が高まり、プリ部とパワー部で独立した2ボリューム構成とすることで、プリ部のボリュームを上げてパワー部を絞れば、プリ部で発生した歪みをパワー部で任意の音量にでき、また、パワー部のボリュームを上げた状態でプリ部のボリュームでコントロールすればクリーンなトーンが得られるようになった。後にはメサブギーに見られるように、さらにオーバードライブ段を追加して3ボリュームとしたモデルも出現した。

トーンコントロールの設計はオーディオ用とは全く異なり、Hi-Treble(高音域)、Mid.(中音域)、Low-Bass(低音域)の3バンドを中立位置にしてもフラットな周波数特性にはならない。中立位置においては一般に中音域を減衰させ、高音域、低音域を強調するカーブが用いられる。

スピーカー部分

アンプ裏から見た写真。スピーカーユニット(セレッション製)と真空管などが見える。

スピーカーはもっぱらフルレンジタイプが用いられるため、周波数特性的には一般的なオーディオスピーカーユニットに比べ高音域が少ないのが特徴となる。スピーカーのサイズは8〜15インチが一般的だが、通常コンボアンプでは10インチ〜12インチのものを1基~2基、またスタック・タイプの場合2基もしくは4基をひとつのキャビネットに搭載する。スタックの場合はキャビネットを複数台積み重ねたり並べたりして使うこともあり、大規模なコンサートでは、壁のように横一面に並べて設置することもある。

日本の住宅事情では一般に大音量を出せないため、小型アンプでも大型アンプを大音量で出力した際の音の響きを再現できる(モデリング機能)タイプもニーズが高い。

エレクトリックベース用

基本的にギターアンプと構成が近いが、アンプ自体で歪ませる用途はさほど考慮していない。

トーンコントロールはギター用に近いカーブのものからオーディオ用に近い中間値でフラットになるものまで各種あり、トーンコントロールに加えて数バンドのグラフィックイコライザーを搭載した機種もある。バンド形式の場合エレクトリックギターに歪みを任せイコライザーのみの調節で別につなげるエフェクターは使わない場合が多い。

奏法の変化に伴い、特にチョッパー奏法が一般化して以降は高域の再生のためにアンプ、スピーカーともワイドレンジ化が進んだ。

スピーカーはフルレンジ〜マルチウェイまでバリエーションに富んでいる。

スピーカーキャビネットはギター用で一般的な後面開放型は用いられず、密閉型バスレフ型、各種ホーン型などが用いられる。これは低域を十分な音圧で再生するためである。

アコースティックギター用

もっぱらアコースティックギターに内蔵されたピックアップの出力を受け、演奏するために用いられる。

エレクトリックギター用に比べて歪ませて使う用途が想定されにくい事からアンプ、スピーカーとも低歪みに設計されている物が多い。

キーボード用

電子ピアノ、シンセサイザーなど音域の広い楽器を再生するために、楽器用アンプの中ではもっとも広帯域、低歪率が要求される。

キーボード専用アンプとして設計された物を用いる場合と、小型のPAシステムを流用する場合がある。

ロータリースピーカー

その他専用

オンド・マルトノなど楽器の一部として特殊な構造のスピーカーをセットで用いている。

構成別分類

  • アンプスピーカー一体型
  • コンポーネント型-アンプ・スピーカ別体型、さらにはプリアンプ・メインアンプ別体型など。
  • アンプシミュレーター

能動素子

こんにちの一般の電子機器と同様、トランジスタなどの半導体が一般に使われているが、楽器用アンプでは一種のエフェクタとしての機能も兼ねて、真空管が現在でも、他の機器と比べ多用されている(ギター・アンプ用真空管も参照)。なお、真空管を使っていても歪みを実現する回路はソリッドステートのものもある。

スピーカー

ユニット

オーディオ用と異なり、常時大音量で使用されることから耐入力および耐久性が重要なスペックとなる。

必ずしもフラットな特性は必要とされず、ギター用の場合は数kHz付近にピークを持つ特性の物が要求される場合がある。

複数本搭載される場合は、デザイン上、前面ネットを通して本数を表せるようにセンターキャップは銀色などに彩色される場合がある。

キャビネット

持ち運びを前提として設計されているので、外装にはコーナープロテクター、キャスター、ハンドル(持ち手)など様々な工夫がなされている。

ギターアンプの場合、傾斜して設置できるようなスタンドが装備されている場合がある。

一般にスピーカーユニット保護のためのサランネットが必ず装備されており、アンプによってはより強固な金属製ネットが用いられている。これらのネットは通常取り外しができず、ユニットの交換はキャビネット後面より行う。フェンダー・アンプの場合、サランネットは面ファスナーで貼り付けてあるだけであり、簡単に取り外しできるようになっている。

付加機能

エフェクター
ギター用としてはスプリングリバーブやトレモロ等が一般的であったが、ローランド社のJC-120で装備されたコーラスアンサンブルは大ヒット商品となった。

昨今はDSPなどのデジタル信号処理を用いたエフェクターが小型かつ廉価になったため、搭載している機種が見られるようになった。特に小型の練習用アンプでは、Line6のSpiderシリーズなどに見られるような“著名なアンプの音色をデジタル処理で再現するモデリング機能”を備えたアンプが増えている。これらの機能においてしばしば他社の製品を模倣することもあり、商標などの関係から模倣対象の具体的な製品名を伏せ、それらの俗称などを用い婉曲的に表されることが多い。

アクセサリー

アッテネーター
スピーカー出力を減衰させてラインレベルとし、録音用に用いる。
電源極性反転スイッチ
入力インピーダンスが高いためハムノイズを拾いやすく、電源プラグをコンセントに挿しこむ向きを変えると低減する場合がある。これをプラグの差し替えではなく操作パネルで行うためのスイッチ。ON(ノーマル) - OFF - ON(リバース)の3点トグルスイッチを用いて電源スイッチと兼用したものも多い。

スピーカーとアンプの違い

アンプとスピーカーは、一体型の機器も多いため、しばしば混同されることがある。アンプは電気信号を増幅する装置であり、スピーカーは電気信号を音に変換する装置である。楽器用アンプでは、ギターアンプは普通スピーカーと一体(スピーカー内蔵)である。逆にPC周辺機器としての製品では同じ構成の一体型の機器でも(アンプ内蔵、を略して)スピーカーとされることも多い。

主なメーカー

日本では、Tokaiやグレコ、ヤマハ、グヤトーンが著名である。

参考文献

  • デイヴ・ハンター『真空管ギター・アンプ実用バイブル ベスト・サウンドを手に入れるために 歴史と仕組み、選び方と作り方』(DU BOOKS、2014年)ISBN 978-4-925064-73-6

関連項目