LRV (ヴィシナル)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
LRV
片運転台車両(ベルギー沿岸軌道
1986年撮影)
基本情報
運用者 ヴィシナル英語版
 ↓
ドゥ・レインオランダ語版ワロン地域交通公社オランダ語版ワロン語版
製造所 BN英語版、ACEC(電機機器)
製造年 1980年 - 1984年
製造数 55両(両運転台車両)
50両(片運転台車両)
(事故廃車による補充分を除く)
投入先 ベルギー沿岸軌道(片運転台)、シャルルロワ・プレメトロオランダ語版(両運転台)
主要諸元
編成 2車体・3車体連接車(片運転台、両運転台)
軸配置 B′+2′+B′
B′+2′+2′+B′
軌間 1,000 mm
電気方式 直流600 V
架空電車線方式
最高速度 片運転台 75 km/h
両運転台 65 km/h
車両定員 片運転台 147人(着席59人)
両運転台 142人(着席44人)
(乗客密度4人/m2時)
車両重量 片運転台 46.9 t
両運転台 48.5 t
全長 22,800 mm
車体長 21,700 mm
全幅 2,500 mm
車体高 3,260 mm
床面高さ 860 mm
固定軸距 1,800 mm
台車中心間距離 6,750 mm
出力 456 kW
備考 主要数値は特筆がない限り2車体連接車の諸元に基づく[1][2][3][4][5][6][7][8]
テンプレートを表示

この項目では、かつてベルギーに存在した国営の公共交通事業者であったヴィシナル英語版が1980年代に導入した連接式電車について記す。旧型電車の置き換え用として当時残存していた路線に導入され、2020年現在も同社の路線を継承した各事業者が所有する[1][2][3][4][5]

概要[編集]

ベルギーには1991年まで、国内の地域輸送を担う公共交通事業者のヴィシナル英語版が存在しており、最盛期にはベルギー全体に4,500 km以上という網の目のような巨大鉄道網を築き上げていた。だが、第二次世界大戦後はモータリーゼーションの進展によって路線網は路線バスへ置き換えられ続け、1978年首都ブリュッセル近郊の路線が廃止されて以降、残存するのはシャルルロワ地域(シャルルロワ市電オランダ語版)と北海沿いを走るベルギー沿岸軌道のみとなった[9][6]

これらの路線では、1950年代以降導入されたS形電車オランダ語版を始めとした車両が使用され、一部は近代化工事も行われたが、老朽化が進行していた事もあり、ヴィシナルは今後も存続する事となっていた2路線へ向けて新型車両を導入する事を決定し、1980年に同国の鉄道車両メーカーであるBN英語版(現:ボンバルディア)へ向けて発注が行われた。そして同年以降製造が行われたのが、「LRV」とも呼ばれる連接式電車である[1][6][10][11]

導入先の線形条件に合わせて片運転台、両運転台の2つの仕様が開発され、前者は定員数が多い一方で乗降扉は車体右側のみに設置されている他、車内の座席配置も異なる。電気機器はベルギーの電機メーカーであったACEC英語版(現:アルストム)が製造を手掛け、前後車体に設置された動力台車には主電動機が1基づつ配置されている[1][12]

運用・改造[編集]

1980年に片運転台(6000)と両運転台(6100)双方の試作車が製造され、試運転を経てまず両運転台車両の量産が行われ、シャルルロワ地域に導入された。一方、片運転台車両については当初の3車体連接車から2車体連接車への変更などの見直しが行われた後、1982年以降ベルギー沿岸軌道へ量産車が導入された。その後の動向は以下の通りである[3][4][6][13]

ベルギー沿岸軌道[編集]

ベルギー沿岸軌道
2016年撮影)

概要[編集]

終端にループ線が存在するベルギー沿岸軌道には片運転台車両の量産車が1982年から1983年にかけて49両(6001 - 6049)導入され、先に製造された試作車の6000と共に旧型電車を置き換えた[12][13]

同路線の運営権が1991年にドゥ・レインへ移管された後、1993年から1996年にかけ16両に対して中央部が低床構造となっている中間車体を新造・増結する工事が実施された。それ以降も32両[注釈 1]が高床式の2車体連接車のまま残存していたが、BSI式連結器が突き出る前面構造について安全性の問題が指摘され連結運転が中止された事、2000年からドゥ・レインが運営する路線網で65歳以上の高齢者が無料で利用可能となり利用客が急増した事などの理由から、これらの車両についても2002年から2003年に同様の改造が行われた。ただし先に改造された車両と比べて中間車体の車体長が僅かに異なっており、車内の座席配置や着席定員も増加している。また、これと同時に全車とも運転台への冷房装置の搭載も行われており、それに合わせて運転台側の前面デザインが変更されている[3][4][14]

それ以降、長年に渡り両車共にベルギー沿岸軌道の主力車両として使用されていたが、製造から35年以上が経過し老朽化が進んでいた事や更なる利用客の増加、延伸への対応などから2020年以降同路線にはスペインCAFが製造する超低床電車ウルボス(Urbos)の導入が始まっており、2020年代までに大半の車両が置き換えられる事になっている[15][16]

3車体連接式の部分超低床電車へ改造後の主要諸元は以下の通り。この表では1993年から1996年に改造された16両を「1次更新車」、2002年から2003年以降改造された32両を「2次更新車」と記す[2][3][4]

車種 両数 車両番号 全長 床上高さ
(低床部分)
重量 着席定員 立席定員
1次更新車 16両 6023 - 6028
6040 - 6049
30,000mm 300mm 48t 73人 196人
2次更新車 32両 6000 - 6022
6030 - 6039
31,200mm 480mm 49t 83人

ギャラリー[編集]

シャルルロワ・プレメトロ[編集]

シャルルロワ・プレメトロ
2017年撮影)

シャルルロワ市内に残存していた路面電車網には、試作車を含めた両運転台車が55両(6100 - 6154)導入されたが、当時のシャルルロワでは路面電車網の路線バスへの置き換えが進み車両数が過剰であった事からヴィシナル時代に営業運転に使用されていたのは29両に過ぎず、半数近くの車両は部品を外され屋外に留置されていた[注釈 2]。その後、1991年に運営権がワロン地域交通公社オランダ語版ワロン語版に移管されて以降はプレメトロ網の延伸によりこれらの留置車両の復旧作業が進められた。また、ヴィシナル時代の車両番号は6100番台であったが、ワロン地域交通公社への移管後は塗装変更に合わせて7400番台に改められた[1][12][5][17][6][13][18]

2020年現在もシャルルロワ・プレメトロ唯一の営業用車両として51両が在籍しており[注釈 3]2017年以降は45両に対してアルストムによる延命を兼ねた近代化工事が進められている。ただしベルギー沿岸軌道と異なり、車体形状の変更や中間車体の増結などの大幅な改造は行われていない[12][5][17][18]

その他[編集]

シャルルロワ向けの両運転台車として製造された6102については、製造直後の1981年に6103と衝突事故を起こした事で同車の再利用可能な車体や機器を用いた改造が行われた他、試作車(6000)から中間車体が転用され、3車体連接式に改められた。その後はシャルルロワ・プレメトロではなくベルギー沿岸軌道へ導入されたうえ、営業運転には短期間しか使用されなかったものの、2020年現在も同路線の事業用車両として在籍する。なお、廃車された6103については1984年に再度同一番号の車両が製造されている[12][13][19]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 1両についてはヴィシナル時代に事故で廃車となり、ドゥ・レインへ継承されなかった。
  2. ^ 1989年にはこれらの留置車両を海外へ譲渡することも検討されたが、実現することなく終わった。
  3. ^ ただし営業運転に使用されているのは47両で、2020年現在も4両が車庫に留置されたままとなっている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e Societe Nationale des Chemins de fer Vicinaux. Ses Autobus, Ses Tramways. https://www.trams-trolleybus.be/Misc/Graphique.pdf 2020年10月18日閲覧。 
  2. ^ a b c Technische datei”. De Lijn. 2020年10月18日閲覧。
  3. ^ a b c d e Transportation Research Board (1995年). Report 2: Applicability of Low-Floor Light Rail Vehicles in North America (PDF) (Report). Transit Cooperative Research Program (英語). Washington, D.C.: NATIONAL ACADEMY PRESS. p. 83. 2020年10月18日閲覧
  4. ^ a b c d e Harry Hondius (2002-5/6). “Rozwój tramwajów i kolejek miejskich (1)”. TTS Technika Transportu Szynowego (Instytut Naukowo-Wydawniczy „SPATIUM” sp. z o.o): 45-46. http://yadda.icm.edu.pl/yadda/element/bwmeta1.element.baztech-article-BGPK-0379-2649/c/Hondius.pdf 2020年10月18日閲覧。. 
  5. ^ a b c d TEC; Alstom (2018年9月25日). DOSSIER DE PRESSE RENOVATION DES TRAMWAYS DU TEC CHARLEROI (PDF) (Report) (フランス語). 2020年10月18日閲覧
  6. ^ a b c d e Frits van der Gragt, Olivier Geerinck & Marcel Albrecht 2008, p. 44.
  7. ^ Neil Pulling 2017, pp. 184.
  8. ^ 建設産業情報(基礎情報)”. 国土交通省. 2020年10月18日閲覧。
  9. ^ Eric Keutgens et al. 2010, pp. 3–12.
  10. ^ Frits van der Gragt, Olivier Geerinck & Marcel Albrecht 2008, p. 43.
  11. ^ INTRODUCTION À BOMBARDIER TRANSPORT”. Bomardier (2013年10月29日). 2020年10月18日閲覧。
  12. ^ a b c d e Les motrices BN”. -e-commun-charleroi.be. 2020年10月18日閲覧。
  13. ^ a b c d Frits van der Gragt, Olivier Geerinck & Marcel Albrecht 2008, p. 68.
  14. ^ Eric Keutgens et al. 2010, pp. 25.
  15. ^ De Lijn mag door met megaorder trams”. OV-Magazine (2017年7月17日). 2020年10月18日閲覧。
  16. ^ CAF Urbos tram arrives in Oostende”. Metro report International (2020年7月30日). 2020年10月18日閲覧。
  17. ^ a b Roster Charleroi, BN-ACEC”. Urban Electric Transit. 2020年10月18日閲覧。
  18. ^ a b Neil Pulling 2017, pp. 185.
  19. ^ Mobiliteits Efgoed Tram en Autobus (2018年12月8日). META - COLLECTIEPLAN TRAM 2019 – 2024 (PDF) (Report). 2020年10月18日閲覧

参考資料[編集]

外部リンク[編集]