ispace

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株式会社ispace
ispace, inc.
種類 株式会社
市場情報 非上場
本社所在地 日本の旗 日本
105-0014
東京都港区2-7-17
住友芝公園ビル10F
設立 2010年9月10日
業種 輸送用機器
法人番号 3030003001527
事業内容 航空宇宙産業
代表者 代表取締役 袴田武史
資本金 1000万円
純利益 ▲16億1466万4000円(2020年03月31日時点)[1]
総資産 70億6487万8000円(2020年03月31日時点)[1]
関係する人物 吉田和哉
外部リンク 公式ウェブサイト
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ispace(アイスペース)は、日本航空宇宙企業(宇宙ベンチャー企業)である。

概要

民間による月面探査を目指し、2010年9月にispaceの前身となる組織である合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパン(2013年5月にispaceとして会社化)が設立された[2][3]2013年1月30日、活動拠点をオランダから日本に移転。この変更にはSteve Allenから日本で運営を主導していた袴田武史に主導権が移る事も含まれた[4][5]。同年7月15日、月面探査チームの公式名をHAKUTO(ハクト)に変更した[6]

月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」にHAKUTOで挑戦し、XPRIZEの終了後には昆虫型ロボットによる地球近傍天体での資源探査も目指している[7]

歴史

ホワイトレーベルスペース・ジャパン

ispaceの前身、ホワイトレーベルスペース・ジャパンの誕生に至った契機として、2007年にピーター・ディアマンディスが月面での賞金レースGoogle Lunar X Prize (GLXP) を発表したことが挙げられる(なお同様の経緯で企業化したものには他に米国のAstrobotic社がある。)。2010年12月31日にGLXPの参加登録が締め切られた時点ではレースに日本を拠点とするチームは参加していなかったものの、東北大学教授の吉田和哉の宇宙ロボット研究室がオランダを拠点とするチーム「ホワイトレーベルスペース」に加わっていた。メディア業界で活動していたスティーブ・アレンが代表を務めるこのチームは[8]、開発拠点が欧州と日本に分かれており、欧州側が月着陸機、日本側が月面車 (ローバー) の開発を行うこととなっていた。後にispaceの代表取締役となる袴田武史は、2010年1月にホワイトレーベルスペースが日本で開催したイベントの運営に携わり、その際吉田和哉と出会った[9]。袴田は日本側での月面車の開発資金調達や広報活動を行うため、2010年に合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンを創設し、吉田和哉はCTOに就任した。日本ではホワイトレーベルスペース・ジャパンが資金の確保を目指していた一方、欧州では2012年ごろには資金不足により開発が行き詰まりつつあった。そしていよいよレースから撤退することを決め、2013年1月30日にチームの拠点は欧州から日本へ移すことが発表された。代表はスティーブ・アレンから袴田に交代したが、この段階ではまだチーム名はホワイトレーベルスペースのままだった[10]

ispace創立とHAKUTO

2013年5月、ホワイトレーベルスペース・ジャパンは組織変更を行い、株式会社ispaceが創立された。同年7月16日、ispaceが運営するGLXPのチーム名が白兎にちなむ「HAKUTO」に変更された。2015年1月26日、HAKUTOはGLXPの中間賞を受賞し、賞金50万ドルを取得した[9]。HAKUTOは月面車の開発に特化し、月面への到達に必要な着陸機は自前では開発せず、GLXPに参加する他のチームの着陸機に有償で乗せてもらうという作戦を取った。レース終盤にはインドのチームインダスの着陸機に相乗りすることになったものの、2018年1月、チームインダスは資金不足により地球からの打ち上げに使うロケットの調達を断念した。GLXPは2018年3月に終了し、HAKUTOは同月31日、挑戦を終了することを発表した。

月面輸送事業と国際化

2017年12月13日、ispaceは独自に月着陸機「シリーズ1」を開発することを発表。2019年末頃のミッション1でまず月周回を行い、2020年末頃にミッション2で月着陸と月面車による月探査を行うとしていた。同時にispaceは当時国内のスタートアップ企業では最高額となる101.5億円のシリーズA資金調達を実施。またこの時同社のムーンバレー構想が公表された。これに先立つ2017年3月2日、ispaceはルクセンブルク政府との間で月の資源開発に関する覚書を締結し、同年には初の海外拠点となるispace Europe SAがルクセンブルクに設立された[11]。一方国内では2018年9月26日にispaceは最初の月探査プログラムを「HAKUTO-R」と命名することを発表。同時に米国のスペースX社と2回分の打ち上げ契約を締結したことも明らかになった。

2018年10月9日、ispaceは米国のチャールズ・スターク・ドレイパー研究所と共同でNASAへ商業月面輸送サービス (CLPS) の公募へ月着陸機「アルテミス7」の提案を行った[12]。アルテミス7はHAKUTO-Rで使われる月着陸機を米国で組み立てたものである[注 1]。ispaceとドレイパー研究所は2026年までの中長期のパートナー契約を結んでいる。11月29日、NASAはCLPSへ参加する資格を有する企業9社のうち一つとしてドレイパー研究所を選定した。

2019年8月22日、ispaceはHAKUTO-Rのミッション内容の変更を発表した。月着陸は前倒しで2021年にミッション1で実施、ミッション2は2023年に着陸と月面車による月探査を実施することとした。2020年12月4日、NASAは月面で資源を採取し、それをNASAへ譲渡 (販売) する資格を有する企業としてispaceとispace Europeを含む4社を選定した[13]。計画ではまずispaceがミッション1の着陸機で月のレゴリスを採取し、続いてミッション2でispace Europeが月面車でレゴリスの採取を行う[14][15][16]。また2021年5月27日にはカナダ宇宙庁 (CSA) から開発資金を得たカナダの企業3社[17]がそれぞれ月への輸送・データ供与をispaceに委託した[18]

2020年11月9日、米国コロラド州デンバーにカイル・アシエルノCEO率いるispace technologies, U.S. , inc.の拠点が設立された[19]。2021年8月24日、ispaceは従来よりも大型の月着陸機「シリーズ2」を発表。シリーズ2の設計・製造は米国国内で行われる[20]

2022年7月25日、NASAはCLPS初の月の裏側への貨物輸送ミッションをドレイパー研究所に発注した[21]。このミッションにはシリーズ2月着陸機が使用される。

HAKUTO-Rプログラム

ispaceの最初の2回の月探査ミッションはHAKUTO-Rというプログラムを構成している。HAKUTO-Rでは地球から月面への輸送技術の実証などが行われる。なお「R」にはReboot (再起動) の意味が込められているという[22]。最初に行われるHAKUTO-R ミッション1 (M1) は2022年11月に打ち上がる予定で、打ち上げから約5ヶ月後の月面着陸を目指している。M1はアラブ首長国連邦の月面車などを運ぶ。

2022年現在、ミッション2の打ち上げは2024年に予定されている。このミッションではispace Europeが開発した月面車による月探査が行われる。また月の縦穴の探査も検討されている[22]

月の裏側への着陸

ispaceの三番目のミッションは月の裏側へ着陸を行う。このミッションはドレイパー研究所が主導しており[21]、ispaceは月着陸機の設計を行う。月の裏側では地球と直接通信することができないため、着陸機と一緒に2機の通信衛星が打ち上げられ、これらは月周回軌道へ投入される[23]

脚注

出展

  1. ^ a b 株式会社ispace 第10期決算公告
  2. ^ WLS Japanese Office Open for Business, 9 September 2010
  3. ^ Googleの民間月面探査プロジェクトに日本企業で唯一挑戦ミッション達成の先に見据えた“民間宇宙開発の産業化”(Start Biz Japan:株式会社ispace 2014年1月28日)
  4. ^ White Label Space Moves Full Operations to Japan team White Label Space
  5. ^ チーム体制変更のお知らせ team Hakuto, 2013.1.30
  6. ^ Announcement: New Team Name is "HAKUTO" Google Lunar X PRIZE, July 15, 2013
  7. ^ 「スター・ウォーズ」の世界を目指す宇宙ベンチャーがJAXAプロ参画(ニュースイッチ 2016年3月5日)
  8. ^ Steve Allen” (英語). White Label Space (2009年7月14日). 2022年11月29日閲覧。
  9. ^ a b 宇宙起業家の星(2)民間月探査、地上の難路 ispace、事業化目指し8年”. 日本経済新聞 (2018年9月27日). 2022年11月29日閲覧。
  10. ^ 大塚実 (2013年5月31日). “民間月面開発への一番乗りを目指せ! Google Lunar X PRIZEへの挑戦”. 東京エレクトロン TELESCOPE Magazine. 2022年11月29日閲覧。
  11. ^ ispace、ルクセンブルク政府と月の資源開発で連携 宇宙資源開発分野で外国政府と連携する日本初の事例”. ispace (2017年3月2日). 2022年11月29日閲覧。
  12. ^ 大塚実 (2018年12月6日). “ispaceのチームがNASA CLPSプログラムに採択、民間月面探査が本格化へ”. マイナビニュース. 2022年11月29日閲覧。
  13. ^ NASA Selects Companies to Collect Lunar Resources for Artemis Demonstrations” (英語). NASA (2020年12月4日). 2022年11月29日閲覧。
  14. ^ ispace、月面で採取するレゴリスをNASAに販売 世界初の月資源の商取引プログラムに採択”. ispace (2020年12月4日). 2022年11月29日閲覧。
  15. ^ NASAが月試料収集プロジェクトに日本のiSpaceなど4社を選抜、宇宙鉱業のパイオニア育成を目指す”. TechCrunch Japan (2020年12月4日). 2020年12月5日閲覧。
  16. ^ 月着陸船と月面車を開発、民間プログラム『HAKUTO-R』の進捗は順調(レスポンス 2022年1月26日)
  17. ^ Contributions awarded under LEAP” (英語). カナダ政府. 2022年11月29日閲覧。
  18. ^ ispace、カナダ宇宙庁月面探査加速プログラム選定企業のサービスプロバイダーに選定”. ispace (2017年5月27日). 2022年11月29日閲覧。
  19. ^ ispace、米国・デンバーに新オフィスを開設 現地でランダー(月着陸船)開発の責任者を採用”. ispace (2020年11月9日). 2022年11月29日閲覧。
  20. ^ ispace、ミッション3のランダーデザインを発表、2024年に打ち上げ予定”. ispace (2021年8月24日). 2022年11月29日閲覧。
  21. ^ a b NASA Selects Draper to Fly Research to Far Side of Moon”. NASA (2022年7月22日). 2022年11月29日閲覧。
  22. ^ a b 「HAKUTO」再び、ispaceが“史上初”の民間月面探査プログラムとして再起動”. ITmedia (2018年9月27日). 2022年11月29日閲覧。
  23. ^ Draper wins NASA contract for farside lunar lander mission” (英語). SpaceNews (2022年7月21日). 2022-22-29閲覧。

注釈

  1. ^ NASAのアルテミス計画の名称はこれより後の2019年5月14日に発表されており、同じ名前なのは偶然である。

関連項目

外部リンク