驚異の定理

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驚異の定理から得られる帰結として、平面上に地球の正確な歪みの無い地図を描くことはできない。ここに示したメルカトル図法では、角度は保たれる(等角写像)が面積は保たれない。

微分幾何学におけるガウスの驚異の定理(きょういのていり、ラテン語: Theorema Egregium)とは、カール・フリードリヒ・ガウスにより証明された曲面曲率に関する定理である。

概要[編集]

本定理によると、曲面のガウス曲率Gaussian curvature)は曲面上で測定される角度や距離などの量のみで表すことができ、曲面の周囲の3次元ユークリッド空間への「埋め込み」(Embedding)に関するいかなる情報も必要としない。即ち、ガウス曲率は曲面の内在的不変量である。

ガウスはこの定理の内容を次のように述べている:

…このようにして、前項で述べた公式から驚くべき定理が導かれる。曲面を他のいかなる曲面に展開しても、各点における曲率は不変のままその値を保つのである。

現代数学の用語を用いて表すと、本定理は以下の様に述べることが出来る:

曲面のガウス曲率は、局所等長写像に関して不変である。

この定理が「驚異」的である理由は、後述するようにガウス曲率の定義は空間内における曲面の外在的な情報(接平面に直交する平面など)を使用しているにも関わらず、最終的にはガウス曲率は空間内への埋め込みに関する外在的な情報を必要とせず、内在的な量のみで求められることである。曲面の「曲がり具合」を表すガウス曲率が曲面の内在量であるという事実は、空間の「曲がり具合」を考察するのに「外の世界」の情報が必要でない可能性を示唆し、後のリーマン幾何学、そしてリーマン幾何学を数学的基礎として構築された一般相対性理論へ繋がることとなる。

証明には、ガウス曲率の定義とリーマン曲率テンソルに関するガウス方程式(Gauss equations)を用いる。

定式化[編集]

3次元ユークリッド空間に滑らかに埋め込まれた曲面 f : U → R3, U ⊂ R2 を考える。

曲面が z = f (x,y) によって与えられたとする。

曲面上のある1点における全ての単位接ベクトルを考え、その法曲率(その点における接平面に垂直な平面と曲面との交わりにより生成される曲線の曲率)の最大値、最小値をそれぞれ k1k2とし、これを主曲率Principal curvature)という。

これは、曲面が原点( 0, 0, 0 )で平面 z = 0 と接していると仮定し、適当に曲面を z 軸に関して回転させることにより xy の係数を 0 にすると、

f(x, y) = \frac{1}{2} k_1 x^2 + \frac{1}{2} k_2 y^2 + ...

上式のように fテイラー展開した時に現れる係数 k1k2が原点における主曲率となる。

すると、ガウス曲率は主曲率の積:

K = k_1\cdot k_2.

として定義される。

ここで第一基本形式First fundamental form

 I = E \, du^2 + 2F \, du \, dv + G \, dv^2. \,

および第二基本形式Second fundamental form

 II = L \, du^2 + 2M \, du \, dv + N \, dv^2. \,

を用いると、その行列式によってガウス曲率は次のように表される。


K = \frac{\det II}{\det I} = \frac{LN-M^2}{EG-F^2}.


曲面の第一基本形式はその曲面の伸び縮み具合、即ち内在的性質(計量に関する性質)を表すものであり、第二基本形式は凸凹の具合などの曲面の空間への入り方(埋め込み方)、即ち外在的性質を表すものである。この式には第二基本形式 II が含まれているが、「驚異の定理」の主張するところは、これが第一基本形式 Iのみで表すことが出来るというものである。

Brioschiの公式Brioschi Formula)によると、


 K =\frac{\det \begin{vmatrix} -\frac{1}{2}E_{vv} + F_{uv} - \frac{1}{2}G_{uu} & \frac{1}{2}E_u & F_u-\frac{1}{2}E_v\\F_v-\frac{1}{2}G_u & E & F\\\frac{1}{2}G_v & F & G \end{vmatrix}- \det \begin{vmatrix} 0 & \frac{1}{2}E_v & \frac{1}{2}G_u\\\frac{1}{2}E_v & E & F\\\frac{1}{2}G_u & F & G \end{vmatrix}}{(EG-F^2)^2}


となり、確かに第一基本量 E, F, G とその微分だけでガウス曲率が求まることが分かる。

初歩的な応用例[編集]

ヘリコイド(螺旋面)からカテノイド(懸垂面)に変形するアニメーション

半径 Rのガウス曲率は 1/R2であり、一方平面のガウス曲率は 0 である。したがって「驚異の定理」から、平面と球面は局所等長的ではないため、例えば1枚の紙を折り曲げて皺を作ること無く球体にすることは出来ない、または逆に球面を距離を歪ませること無く平面に展開することは出来ないことが分かる。この事実は地図学にとって重要である。地球の正確な地図を平面に作成することは、例え一部の地域だけであろうと不可能ということが示唆されるからである。したがって、いかなる地図投影法も必然的に、ある程度の距離の歪みを生じることになる。[1]

また、カテノイド(catenoid、懸垂面)とヘリコイド(helicoid、螺旋面)は全く見た目の異る曲面であるが、この2つの曲面は局所等長的であるので、一方の曲面を伸展させずに連続的に折り曲げていくだけでもう一方に変形させることが出来る。この変形(局所等長写像)において、2つの曲面の対応する2点のガウス曲率は不変である。ここで局所等長写像とは大まかに言えば、曲面に皺を作ったり裂いたりすること無く単に曲げたり捻ったりすることで、即ち余分な張力圧力せん断力を加えない変形である。この変形の過程をパラメーター表示すると、

x(u,v) = \cos \theta \,\sinh v \,\sin u + \sin \theta \,\cosh v \,\cos u
y(u,v) = -\cos \theta \,\sinh v \,\cos u + \sin \theta \,\cosh v \,\sin u
z(u,v) = u \cos \theta + v \sin \theta \,
(u,v) \in (-\pi, \pi] \times (-\infty, \infty),  -\pi < \theta \le \pi

\theta = \pi は右巻きのヘリコイドに、\theta = \pm \pi / 2 はカテノイドに、\theta = 0 は左巻きのヘリコイドにそれぞれ対応している。

脚注[編集]

  1. ^ ガウスが曲面の研究を行った主な動機の一つも測地学的な応用であった。

参考文献[編集]

  • Carl Friedrich Gauss (Author), Adam Hiltebeitel (Translator), James Morehead (Translator), General Investigations Of Curved Surfaces Unabridged (Paperback), Wexford College Press, 2007, ISBN 978-1-929148-77-6.
  • Carl Friedrich Gauss (Author), Peter Pesic (Editor), General Investigations of Curved Surfaces (Paperback), Dover Publications, 2005, ISBN 978-0-486-44645-5.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]