軍事心理学

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軍事心理学(ぐんじしんりがく、:Military psychology)とは軍事に関連する心理学的な問題を研究する応用心理学の一部門である。国防心理学、戦場心理学とも記述される。

概要[編集]

軍事心理学は心理学的な軍事問題を研究する応用心理学であり、軍事要員としての適性や軍事行動に伴う様々な心理学的な課題について研究が行われる。具体的には将兵の選抜と配置、軍事教練の過程や効果、偽装の過程や効果、戦闘ストレスなどの精神衛生、士気や統率といった集団行動、人間工学の兵器設計への応用、軍隊生活などが研究の対象となる。また、戦争において兵士らが「敵」などを殺傷する際に生じると思われる加害によるトラウマに関する研究も行われている。

歴史[編集]

欧米[編集]

心理学を軍事に応用するようになったのはロシアが最初であった。1904年に勃発した日露戦争においてロシア軍では心理学者や精神科医が従軍して治療活動を行った。さらに1915年頃から砲弾の衝撃で精神的外傷を負った兵士が大量に出てきたために連合軍では心理学的な研究・対応の必要性を認めるようになる。[1]

1917年に米軍が大戦に第一次世界大戦に参戦した時には米国の心理学会は兵士の選抜や医療手法を検討中であった。1917年に米国は国立学術研究会議の心理学部に13の委員会が設置され、徴募兵の知能検査や軍事教練についての研究が本格的に開始した。陸軍アルファ試験・ベータ試験はこの過程で開発されたものであり、175万人もの兵士に対して行われ、統計学の手法も取り入れて個人差測定の可能性を生み出し、以後の知能検査の手法にも参考にされた。

第一次世界大戦後にはドイツ国防軍が1926年に将兵に対して適性検査が行われ、1933年には軍内に正式な軍事心理学の研究機関が設立した。また第二次世界大戦において米国は国立学術研究会議に非常時心理学委員会を設置し、軍事心理学の見地からの指導が行われた。また科学研究開発局による契約研究が開始され、航空適性、夜間作戦、人間工学、態度動機づけの心理学研究が実施された。

第二次世界大戦後にも限定戦争ゲリラ戦、テロリズムなどの新しい軍事問題の出現によって心理学もそれらに対応した研究が行われている。その手法は統計学医学生物学社会学が取り入れられている。[2]また、冷戦崩壊後の国際社会において、イスラム過激派国際テロリストによる卑劣で残虐なテロ行為が、米国やイスラエルなどで多発しているため、イスラエルや米国などにおいては、イスラム教やイスラム教徒というだけで恐怖や嫌悪という情動が発生するイスラモフォビアが発生している。

日本[編集]

日本では1918年に日本海軍が実験心理学応用調査会を設置したことに軍事心理学の研究は始まる。また帝国大学においても航空研究所心理学部が軍事心理学の研究に取り組んだ。1930年には内山雄二郎が『戦場心理学』を著し、さらに小保内虎夫他が1941年に『国防心理学』を著している。海軍技術研究所、海軍航空技術廠陸軍航空技術研究所、陸軍教育総監部で心理学者の協力の下で航空適性検査、酸素欠乏、加速度影響、落下傘部隊の落下時の心理、射撃照準、偽装などが研究される。また、 陸軍付属の国府台病院(現、国立国際医療研究センター)などの精神病院も設立された。戦後には自衛隊の人事、教育、医学の方面で研究が行われている。[3]


脚注[編集]

  1. ^ クリス・マクナブ、小路浩史訳『SAS知的戦闘マニュアル』(原書房、2002年)13項
  2. ^ 下中邦彦編『新版 心理学事典』(平凡社、1983年)
  3. ^ 下中邦彦編『新版 心理学事典』(平凡社、1983年)

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Bray, C. W. 1948. Psychology and military proficiency. Princeton, NJ: Princeton Univ. Press.
  • Clonin, C. 2003. Military Psychology: An introduction. Pearson Custom.
  • Driskell, J. E., and B. Olmstead. 1989. Psychology and the military: Research applications and trends. American Psychologist 44:43-54.
  • Gal, R., and D. Mangelsdorff, eds. 1991. Handbook of military psychology. Sussex, UK: Wiley.
  • Grossman, D., and Christensen, L. W. 2008. On combat: The psychology and physiology of deadly conflict in war and in peace. 3rd ed. Warrior Science Publications.
    • グロスマン、クリステンセン著、安原和見訳『「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム』二見書房、2008年
  • Naitoh, P., C. E. Englund, and D. H. Ryman. 1987. Sustained operations: Research results. San Diego, Calif: Naval Health Research Center.
  • Stouffer, S. A. et al. 1949. The American soldier: Combat and its aftermath. Princeton, NJ: Princeton Univ. Press.
  • Vaitkus, M., and J. Griffith. 1990. An evaluation of unit replacement on unit cohesion and individual morale in the U.S. Army all-volunteer force. Military Psychology 2:221-39.
  • Weiner, E. L., and D. C. Nagel, eds. 1988. Human factors in aviation. San Diego, Calif: Academic Press.
  • Zillmer, E. A. 2006. Military Psychology: Clinical And Operational Applications. Guilford.