苣木鉱

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苣木鉱
分類 硫化鉱物
シュツルンツ分類 2.BB.15
Dana Classification 2.7.2.2
化学式 Cu(Fe,Ni)8S8
結晶系 正方晶系
対称 H-M記号: 4/m 2/m 2/m
空間群 :P42/mnm
単位格子 a = 10.566Å
c = 9.749Å
V = 1088.38Å3
Z = 4
モル質量 772.05g/mol
晶癖 粒状・半自形
へき開 なし
断口 貝殻状
モース硬度 2 - 3
光沢 金属光沢
赤味を帯びた黄色
透明度 不透明
比重 4.71g/cm3
密度 4.50g/cm3
不純物 Co
文献 [1][2][3][4]
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
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苣木鉱 (すがきこう・Sugakiite)とは、硫化鉱物の1つ。結晶系正方晶系化学組成は Cu(Fe,Ni)8S8 [1][2][3][4]

成分・種類[編集]

苣木鉱は、ニッケルを含む硫黄の化合物である。金属元素と硫黄の比率は9:8であり、その組成はペントランド鉱 (Pentlandite・Fe4.5Ni4.5S8[4]) と良く似ており、ペントランド鉱グループに属すると考えられる。しかしペントランド鉱が等軸晶系なのに対し、苣木鉱は正方晶系と結晶系が異なる。また、苣木鉱は成分として銅を含むのが前提としてある[1][2][3][4]

北海道様似町幌満橄欖岩産の苣木鉱[3]
元素 割合(重量%)
43.27
ニッケル 16.10
6.99
コバルト 0.17
硫黄 33.04

産出地[編集]

苣木鉱は、原産地である北海道様似町にある幌満橄欖岩と、ロシアタイミル自治管区の Talnakh Cu-Ni Deposit でのみ発見されている[1]。苣木鉱は似た鉱物である様似鉱と共に長らく原産地が唯一の産出地であったが、苣木鉱のみ2012年に他の産地が発見された[1][5][6]

性質・特徴[編集]

苣木鉱はペントランド鉱トロイリ鉱 (Troilite)、ヒーズルウッド鉱 (Heazlewoodite) 、斑銅鉱 (Bornite) 、タルナック鉱 (Talnakhite)、自然銅 (Copper) と共に産出する。また、苣木鉱と成分が似る鉱物として、幌満鉱 (Horomanite・(Fe,Ni,Co,Cu)9S8) と様似鉱 (Samaniite・Cu2(Fe,Ni)7S8) がある[4]。前記した硫化鉱物の中に混ざっていることもあれば、苣木鉱・幌満鉱・様似鉱の3種の混合状態のものが単独の粒で存在する場合もあり、苣木鉱のみで単独で存在する場合もある[7]

苣木鉱やそれを含む硫化鉱物の粒は、橄欖岩中の橄欖石や輝石の隙間を満たす状態で産する[7]。そのため苣木鉱は粒状から時として劈開のない半自形結晶で産するが[2]、最大でも0.1mmと極端に小さく[3]、大抵は顕微鏡スケールの話であり、肉眼では見えない[7]

幌満橄欖岩のペントランド鉱グループの鉱物の結晶学的データの比較[4]
苣木鉱 幌満鉱 様似鉱 ペントランド鉱
結晶系 正方晶系 正方晶系 正方晶系 等軸晶系
空間群 P42/mnm P4/mmm P42/mnm Fm3m
化学組成 Cu(Fe,Ni)8S8 (Fe,Ni,Co,Cu)9S8 Cu2(Fe,Ni)7S8 Fe4.5Ni4.5S8
密度 (g/cm3) 4.76 6.45 4.89 5.07
硬度 (kg/cm3) 130 - 170 125 - 145 120 - 140 140 - 150
格子定数 a (Å) 10.566(5) 8.707(1) 10.089(1) 10.038(1)
c (Å) 9.749(8) 10.439(6) 10.402(1)
c/a 0.9227 1.1994 1.0306
V (Å3) 1088.4(14) 791.4(4) 1058.9(2) 1011.4(3)
反射率 (%) 436nm 25.6 - 31.9 34.7 - 37.8 27.1 - 29.6 38.4
497nm 29.9 - 36.1 40.0 - 43.2 34.4 - 37.9 44.1
546nm 33.2 - 39.1 43.2 - 46.4 38.9 - 43.6 47.3
586nm 36.1 - 41.5 45.4 - 48.5 44.9 - 49.8 49.5
648nm 39.3 - 44.3 47.8 - 50.7 42.2 - 46.9 51.9

サイド・ストーリー[編集]

苣木鉱は1998年北風嵐によって研究された、北海道様似町にある幌満峡に分布する幌満橄欖岩の中から発見された日本産新鉱物である[8]。苣木鉱は幌満鉱および様似鉱と共に発見されたが[7]、苣木鉱はこの2つに先駆けて2005年に独立種として承認された。幌満鉱と様似鉱の承認はこの2年後である[5][6][4]。名称は東北大学苣木浅彦に因む。北風は苣木鉱の発見で2009年日本鉱物学会櫻井賞を受賞している[7]

産地の幌満峡付近はアポイ岳ジオパークに指定されており、サンプルの採集は制限されている[7]

脚注[編集]

関連項目[編集]