無洗米

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

無洗米(むせんまい)は、研ぎ洗いすることなく水を加えて炊くだけで食べられるように加工されたのことである。従来の精白では少し残ってしまう肌(ぬか)をあらかじめ取り去ってあるために、この糠を洗い落とすための研ぎ洗い作業の必要がない。

概要[編集]

無洗米の一般家庭への普及は首都圏の生協より広まったとされる[1]。業務用として多くの社員食堂や大手外食産業で積極的に扱われている。
採用されている理由は洗う時間や使用水量を削減できるという経済的な理由と、洗米作業における経験の差等による炊飯時の食味の差が出づらい、などが主である。
以前は、業界内では準無洗米と呼ばれていた。無洗米として販売されているにもかかわらず、実際には1~2回の洗米をしないと美味しく炊き上がらない商品が多く出回るなど、食味に関して問題があるとされ敬遠される事もあった。
しかし、現在では水洗い乾燥法・湿式法、乾式法、BG製法、NTWP製法などの製法で加工された無洗米が主流となってきており、食味的な問題は払拭され、無洗米の生産量は上昇傾向にある。
一方で無洗米という名称、および従来の(研ぐ必要のある)米への固定観念から、無洗米を研ぎ洗いせずに炊くことへの抵抗感も年長者を中心に存在する(名称節を参照のこと)。

名称[編集]

「無洗米」という名称について、NHK総合テレビの『お元気ですか日本列島』および同ラジオ第1の『ラジオほっとタイム』内のコーナー『気になることば』2008年2月27日の放送にて「『既洗米』と呼んだ方がいいのではないか」との意見が紹介された[2]。だが上で述べたように無洗米は研米されて作られるもので、製法により異なるが最も普及しているBG無洗米は水で洗ってあるわけではない。また同番組内では食品関係での接頭辞「無」の用法に着目し、「無着色=生産者が着色を行っていない」、「無農薬=生産者が農薬を使用していない」であることから、「無洗米」は 「生産者が米を洗っていない」といった意味になるのではないかと指摘している。しかし「無」と同様に否定を表す接頭辞「非」や「不」では「非洗米」「不洗米」と印象があまり良くないことなどから、「洗う必要がない」ことを端的に表す表現の難しさも挙げている。

さらに3月6日の同コーナーでは名称から来る無洗米への誤解の実例や、無洗米に代わる視聴者の考えた呼び方の案なども紹介された[3]

利点[編集]

  • 米を洗わないため、洗った際の栄養の流出がなくなる(処理方法によっては既に流出した状態で流通している)。
  • とぎ汁が出ないため、環境負荷が小さいと言われる。
    米のとぎ汁に含まれる糠の成分であるリン窒素などは浄化が難しく水質汚染の原因となっているため、無洗米は環境に優しいとされている。糠を再利用できれば優秀な肥料や飼料として用いられる。[4]
    米を3合洗った場合、とぎ汁の水質汚染の指標を表すBOD負荷量は、通常の精白米6.1~7.9グラム前後で、無洗米は0.2~0.5グラム前後と普通の精白米の10%以下しか出ない[5]。しかしBODそのものに対する異論も存在する[6]
    無洗米に水を入れると白く濁る場合があるが、これは米のデンプンであり、洗うと余計に栄養が流出することになる。
  • 洗う手間や時間の省略
  • 節水になる
  • 研ぎ洗いでは重量の3~4%が捨てられるので、無洗米は輸送・スペースの効率化に寄与する
  • キッチンシンク、配水管、排水溝などの洗浄作業の軽減
  • 炊飯ごとの味のムラが少ない
  • 研ぎ方の指導の必要がない
  • 内釜で研いでいる場合、内側の加工面が傷つくが、その心配がない。

鮮度[編集]

国民生活センターによるテスト結果では、無洗米は精白米に比べ鮮度の低下が早い[7]とされている。 一方、特定非営利活動法人全国無洗米協会は、酸化しやすいヌカを除いているため、逆に精白米に比べ酸化しにくく鮮度は落ちにくいと主張している[8]

これは、国民生活センター側が無洗米も精白米の一部であるとして、日本精米工業会から出されているph指示薬による測定を行ったものである。 これに対して、全国無洗米協会側は、表面に残るぬかが存在しないためph指示薬が反応できず試薬本来の赤色のままであり一般精米を想定した従来の測定方法は有効ではないと指摘している[9]

ケツト科学研究所日本穀物検定協会と共同開発した「米の鮮度判定器」の技術資料の中では、 無洗米化処理を施した米は、原料精米よりph値が低くなる傾向がある事について、処理過程によるものであり品質の劣化によるものではないと記載されている。 ただし無洗米にも処理方法によって、変化度合いが事なる注意書きが記されており、2006年版の技術資料の中では、変更傾向などの参考値は調査中とされている[10]

批判[編集]

生活廃水からのBOD負荷量は1日1人あたり45グラムであり、割合としては台所からが最も多い[5]。その中で、とぎ汁が最大の汚染原因と協会は主張しているが、専門家が調査したところ、家庭用排水に占めるとぎ汁の比率はごくわずかであった。[11]これをふまえ、台所よりの排水がBOD負荷量第1位といっても、その中でとぎ汁が飛びぬけて環境汚染の原因とするのは誤りであるとする主張がある。[11]

製法[編集]

BG精米製法
1991年、東洋精米機製作所が発表し、当初業務用として販売した。「糠で糠を取る」方法である。白米表面にある「肌ヌカ」と呼ばれる付着糠の粘着性を利用し、くっつけてはがす事で取り除く。BGとはBran(糠)Grind(削る)の頭文字である。従来の精白加工と違い、おいしい部分を残し糠だけを取り去る。製造工程上、薬品などによる化学的な処理を施すことがないため、安全で無駄がない。廃棄物も利用するというゼロ・エミッションの考えのもと、取りさった糠も「米の精」という商品名で肥料・飼料などに用いられる。以前は技術開示がないため様々な風評がささやかれていたが、2004年に無洗米機を一般公開、特許申請を行いほぼ完全に公開した。
しかし、実際には未だに東洋精米機の一部技術者以外は各精米工場で稼働している機械のある場所には立ち入りできず、未だ不透明な部分は残っている[12]
水洗い乾燥法・湿式法
水洗いで糠を除去する方法。サタケのスーパージフライスやクリキのSYシリーズなどがこの製法である。社団法人 日本精米工業会で実施された「官能食味評価」において最も高い評価を受けたのは、この方式を採用した株式会社クリキ製の機械である。大量の水を使用するために、大掛かりな汚水処理設備が必要である。
NTWP(ネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス)加工法
湿式法の一つで、水を使い米表面の糠を軟らかくした後、熱付着剤として加熱したタピオカ(中華料理やデザートに用いる)に糠を付着させて取り除く方法。高級食材であるタピオカの加工コストが高いという欠点がある。また水の乾燥とタピオカの加熱にボイラーが必要になる。
乾式法
研米機やブラッシなどで糠を取り除いたもの。水を加えた際に白い濁りがでることがあるが、タンパク質でありヌカではないため食味に影響はない。[独自研究?]
水洗い乾燥法や湿式法と比較すると、水分を加えない分だけ鮮度と食味が保たれるメリットがある。
家庭用精米機の無洗米
上述のいずれの範疇に含まれるのか判然としないが、家庭用精米機においても無洗米コースを設けた機種が開発され、近年市場に出回るようになった[13]。この機能を備えた製品では、精米後に米を研がずにそのまま炊飯することが可能とされている。

歴史[編集]

20世紀初頭頃には精米の無洗化処理を目的とした研米機が開発されていた。なめし皮やポリウレタンによる研磨方式、静電気を利用した静電分離方式のほか、精米機に噴風装置を組み込んだものもあった。一部は陸軍で「不洗米」として試用されたが、普及には至らなかった。無洗米は1955年ごろまでは淘(と)がない米という意味で不淘洗米と呼ばれることもあった。栄養学の創設者である佐伯矩が栄養の損失を理由に、「淘洗は精白にも優る米食人の禍根である」と、淘洗(とぎ洗い)を問題視している[14]

1977年サタケが無洗米時代の先駆けとしてクリーンライト加湿精米装置を開発したが、実用に耐えるものではなく、必ずしも無洗米の実現という目的を達成していたとは言えない。

1991年頃に新たな無洗米製造機が開発され、また同時期に東洋精米機製作所が「BG精米製法」を開発し、BG無洗米が登場し普及に弾みが付いた。

特許[編集]

サタケと東洋精米機製作所の間で、無洗米製造機(水洗い方式)に関して特許係争があったが、2004年にサタケが勝訴し、東洋精米機製作所が保有していた「洗い米特許」は無効となった。

NPO法人[編集]

「無洗米の信頼を得るため」というふれこみで、2000年10月22日に、BG無洗米を製造している米穀業者らが中心となって特定非営利活動法人全国無洗米協会を設立した。BG無洗米としての統一規格を作り、キャラクターである「エコメちゃん」の認証マークを交付している。

脚注[編集]

  1. ^ 無洗米の広がり :: 広がる無洗米の輪 - 全国無洗米協会
  2. ^ http://www.nhk.or.jp/a-room/kininaru/2007/02/0227.html
  3. ^ http://www.nhk.or.jp/a-room/kininaru/2007/03/0306.html
  4. ^ 相子清造 『無洗米の衝撃-コメが風土を変える』2005年12月、ISBN 978-4-7511-0551-1。30頁。
  5. ^ a b 家庭排水をきれいにするために(PDF) (千葉県環境研究センター)
  6. ^ 合成洗剤を微生物が分解する場合、微生物は洗剤の毒性で死亡するため、酸素消費量がとぎ汁を分解する際より少なくなる。そのためBOD上では合成洗剤の方がとぎ汁よりも環境への負荷が小さくなる
  7. ^ 国民生活センター | 無洗米の品質・安全衛生・環境性等を調べる 2002年6月6日
  8. ^ 特定非営利活動法人全国無洗米協会 | 無洗米Q&A
  9. ^ 国民生活センター | 無洗米の品質・安全衛生・環境性等を調べる
  10. ^ 米の鮮度判定器 RN-820「鮮度マイスター」| 株式会社ケツト科学研究所
  11. ^ a b え!「とぎ汁が環境破壊の帝王」? 新聞「農民」 2002年4月22日
  12. ^ 舘澤貢次. “『”無洗米”製造装置等の情報開示を』”. エーアンドエーリサーチ. 2010年10月30日閲覧。
  13. ^ 特開2003-340296 / 特願2002-155782 / 特許番号3904974 特許電子図書館
  14. ^ 佐伯矩 『栄養』 栄養社。

参考文献[編集]

  • 相子清造 『無洗米の衝撃-コメが風土を変える』 旭屋出版、2005年12月、ISBN 978-4-7511-0551-1
  • 日本子孫基金 『食べるな、危険!』 講談社出版、2002年10月

外部リンク[編集]