混合器 (ヘテロダイン)

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混合器(こんごうき)

  • 2 つの異なる周波数 f1 と f2 とを入力すると、ヘテロダインの原理により、その和と差の周波数 f1±f2 を出力する回路。本稿で解説。
  • 複数の異なる周波数伝送路をひとつの伝送路にまとめて出力する機器回路。→混合器

混合器の記号

混合器(こんごうき)とは、アナログ乗算器であり、2 つの異なる周波数 f_1\,\!f_2\,\! の信号を入力すると、ヘテロダインの原理により、その和と差の周波数 f_1 \pm f_2 の信号を出力する回路である。混合回路周波数混合器周波数混合回路ミキサミキサ回路周波数変換器周波数変換回路周波数コンバータ等とも呼ばれる。

概要[編集]

2 つの異なる周波数 f_1\,\! および f_2\,\! の信号を入力して、それらの周波数の和または差の周波数 f_1 + f_2\,\! または f_1 - f_2\,\! の信号を取り出す機能を持つ回路を混合器と呼ぶ。送信機受信機、特にスーパーヘテロダイン受信機ダイレクトコンバージョン受信機等で周波数を変換したい時によく用いられる回路である。

原理[編集]

2 つの異なる周波数の信号 f_1\,\!f_2\,\! とは、次のように表すことができる。

\sin 2 \pi f_1 t = \sin \omega_1 t\,\!
\sin 2 \pi f_2 t = \sin \omega_2 t\,\!
(ただし、\omega_1 = 2 \pi f_1\,\!\omega_2 = 2 \pi f_2\,\!

混合器は、これら 2 つの周波数の信号を乗算して、次の式で表される信号の積を出力する。これは、トランジスタFET真空管等の素子が非線形で動作する領域を利用して行う。

\sin \omega_1 t \sin \omega_2 t = \dfrac{1}{2} \cos (\omega_1 - \omega_2) t - \dfrac{1}{2} \cos (\omega_1 + \omega_2) t  …… (1)

この乗算の結果、新しい信号 f_1 + f_2\,\!f_1 - f_2\,\! とが発生する。LC 共振回路等により、f_1 + f_2\,\! または f_1 - f_2\,\! のうちの必要な方の信号のみを取り出して出力する。

混合器の種類[編集]

混合器は、ダイオードを用いる受動型(パッシブ・ミキサ)とトランジスタを用いる能動型(アクティブ・ミキサ)に分類できる。 能動ミキサは利得があるため後続段から発生するノイズを減少させるので、RFシステムでは広く採用されている。一方で、受動ミキサは典型的には線形性と高速性を達成するため、マイクロ波基地局回路に用途がある[1]

また、混合器は、2つの入力ポートの単層差動の種類によって、

  1. 2端子ミキサ (トランジスタ、FET、真空管を用いた混合器ダイオード・ミキサ
  2. シングル・バランスド・ミキサ
  3. ダブル・バランスド・ミキサ

に分類することもできる。

トランジスタ、FET、真空管を用いた混合器[編集]

2 つの信号を注入する電極により、ベース注入方式エミッタ注入方式と、AM変調でよく用いられるコレクタ変調方式がある(バイポーラトランジスタを使用した場合)。トランジスタの非線形部分での動作が必要なため、一般的には通常の増幅器に比べコレクタ電流を少なくしたバイアス点を選ぶようにする。

FET真空管を用いた場合にも、同様の方式が存在する。

デュアル・ゲート FET を使用する場合、f_1\,\! をゲート 1 に、f_2\,\! をゲート 2 にそれぞれ注入するという方式で混合器を構成できる。

この方式では、新しい信号 f_1 + f_2\,\!f_1 - f_2\,\! の他に、元の周波数 f_1\,\!f_2\,\! も出力してしまうので、フィルタ(回路図中では LC 共振回路)で出力に現れないようにする。

ベース注入方式[編集]

混合器(ベース注入方式)

2 つの信号源を両方ともトランジスタのベース端子に入力する方式である。

利点は、入力信号 f_1\,\!f_2\,\! の信号レベルが小さくできることである。

弱点としては、強力な信号が注入された場合、信号 f_1\,\!f_2\,\!とが干渉し合い、引き込み現象が起こることがあるということである。引き込み現象の例として、たとえばスーパーヘテロダイン受信機の混合器として用いた場合、f_1\,\! を放送局から受信した信号、f_2\,\!局部発振器とすると、放送局からの信号 f_1\,\! が強力に入感した場合、それが局部発振器 f_2\,\! に干渉して、発振周波数が不安定になることが挙げられる。ただし、クリスタル・コンバータのように、f_2\,\! が水晶発振器である場合、引き込み現象は非常に起こりにくい。

エミッタ注入方式[編集]

混合器(エミッタ注入方式)

2 つの信号のうち 1 つ(f_1\,\!)をトランジスタのベース端子に、もう 1 つ(f_2\,\!)をエミッタ端子に注入する方式である。

利点としては、ベース注入方式で起こるような引き込み現象を起こさないことである。

その一方で、エミッタ端子に注入する f_2\,\! の信号レベルが大きくないと、混合器として動作しない。

コレクタ変調方式[編集]

コレクタ変調

2 つの信号のうち 1 つ(f_1\,\!)をトランジスタのベース端子に、もう 1 つ(f_2\,\!)をコレクタ端子に注入する方式である。

利点としては、コレクタ電流の飽和領域(直線部分)を使用するため、比較的大きい変調度までひずみの少ない変調波を得ることができることである。

その一方で、変調に必要な電力が大きくなる。 [2]

シングル・バランスド・ミキサ[編集]

能動型シングル・バランスド・ミキサ [3]

局部発振器からの信号 LO が差動で入力できるが、RF信号が単相でしか入力できないような混合器(ミキサ)を、シングル・バランスド・ミキサと呼ぶ[3]

差動で信号を入力することにより、トランジスタ一石による混合器(ミキサ)よりも、端子間のアイソレーションが改善される。

トランジスタを用いた能動型シングル・バランスド・ミキサのほかにも、ダイオードを2つ用いた受動型シングル・バランスド・ミキサ[4][5]もある。

DBM[編集]

DBM とは double balanced mixerダブル・バランスド・ミキサーの略で、二重平衡変調器ともいう。 局部発振器からの信号 LO と、アンテナからのRF信号の両者が、差動で入力できるようになっている混合器(ミキサ)を DBM と呼ぶ。

ダイオード DBM[編集]

ダイオード DBM

ダイオード DBM は 4 本のダイオードと 2 つの高周波トランスとで構成され[5][6]リング変調回路 とも呼ばれる[7][8]。 図のように信号 f_1\,\!f_2\,\! とをダイオード DBM に入力すると、出力側のトランス T2 からは、#原理の式 (1) で示されるように、f_1 + f_2\,\!f_1 - f_2\,\! とが出力される(f_1 > f_2\,\! の場合)。DBM では信号がバランスされているため、f_1\,\! および f_2\,\! は出力されない。DBM の出力端子にフィルタ回路を接続し、2 つの信号の和または差のどちらかの信号のみを取り出して用いる。

回路を構成するダイオード高周波トランスを適切に選べば、1W 程度の信号を注入して動作させることができる。スーパーヘテロダイン受信機で使用する場合、妨害波の影響を受けにくくするために、受信信号 f_1\,\! に対し局部発振器からの信号 f_2\,\! を強力に注入する必要がある。このように強力な局部発信信号で動作させると、局部発振器からの信号が漏れたり、スプリアスが強力に漏れたりするので、シールド処理をしっかり施す必要がある。

ダイオード DBM は、シールドされた 1 つのモジュール(部品)としても市販されている[9][10][11]ので、手軽に利用することができる。最近では、このようなモジュールのほとんどではショットキー・バリア・ダイオードが用いられている。ショットキー・バリア・ダイオードは順方向電圧が低く、低ノイズであるという特徴がある。

ダイオード DBM は、測定器など高性能な混合器が必要とされる場合に、特によく用いられる。

変調回路として用いる場合、f_1\,\!搬送波を、f_2\,\! に低周波信号を入力すると、振幅変調の一つである抑圧搬送波両側波帯(DSB-SC)が出力される。抑圧搬送波単側波帯(SSB-SC)を得るには、ダイオード DBM の出力にクリスタル・フィルタ等の急峻な特性を持つフィルタで、片方の側波帯を阻止し、もう片方の側波帯を通過させる。

高周波回路では各信号の入力の一方を接地する場合が多く、高周波トランスバランと呼ばれることがある[12]

集積回路による DBM[編集]

ダイオード高周波トランスとで構成されたDBM以外に、集積回路でDBMを実装した素子もある[13][14][15]。アナログ乗算器差動増幅回路)で構成されたギルバートセル型のものが、集積回路上でDBMを実装する場合に多く用いられる。シングル・バランスド・ミキサよりもさらにアイソレーションが改善され、集積回路上のレイアウト(素子の配置・配線)を注意することにより 40dB~60dB の分離が可能である[16]ギルバートセル型以外にも、電位差測定型ミキサ[17][18]や、抵抗CMOSスイッチによる受動型ミキサ[19]などのDBMを集積回路で実装することができる。

ダイオード・ミキサ[編集]

ダイオード・ミキサ[5]

ダイオードを1個使用して混合器を構成することもできる[5]。 このミキサは、高周波トランスバラン)がないため、広帯域で周波数のあばれが少ないが、RFポートとLOポートのアイソレーションが悪いので、内部機器ではほとんど使われない[20]

参照[編集]

  1. ^ 黒田忠広監訳「RFマイクロエレクトロニクス」 p.201 丸善 2002 ISBN 4-621-07005-3
  2. ^ 堀桂太郎著「アナログ電子回路の基礎」p.117 東京電機大学出版局 2003 ISBN 4-501-32290-X
  3. ^ a b c 黒田忠広監訳「RFマイクロエレクトロニクス」 p.205 丸善 2002 ISBN 4-621-07005-3
  4. ^ Renesus ショットキーバリアダイオード
  5. ^ a b c d 高周波回路教室 パッシブ・ミキサ
  6. ^ DBMの動作原理を知る
  7. ^ 無線工学の基礎 リング変調回路の構成
  8. ^ 電子情報通信学会編 「通信方式」p.87 コロナ社 1985 ISBN 4-339-00032-9
  9. ^ R&K社 DBM
  10. ^ Mini-Circuits DBM ADE-1を使った汎用DBMの製作
  11. ^ TDK DBM CB3034Mを使った汎用DBMの製作
  12. ^ DOUBLE BALANCED MIXERS AND BALUNS
  13. ^ OnSemi MC1496 Datasheet
  14. ^ US Patent 6,275,688
  15. ^ Canadian Patent CA 2323023
  16. ^ Thomas H.Lee "The Design of CMOS Radio-Frequency Integrated Circuit" Second Edition p.420, Cambridge University Press, 2004, ISBN 978-0-521-83539-8
  17. ^ : potentiometric mixer
  18. ^ トーマス・H・リー著、「The Design of CMOS Radio-Frequency Integrated Circuit」、第二版、p.427、ケンブリッジ大学出版局、2004年、ISBN 978-0-521-83539-8
  19. ^ トーマス・H・リー著、「The Design of CMOS Radio-Frequency Integrated Circuit」、第二版、p.429、ケンブリッジ大学出版局、2004年、ISBN 978-0-521-83539-8
  20. ^ 森栄二著「マイクロウェーブ技術入門講座 基礎編」p.387 CQ出版 2003 ISBN 4-7898-3040-3

参考文献[編集]

外部リンク[編集]