上顎中切歯

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上顎中切歯(じょうがくちゅうせっし、英語: maxillary central incisor)は上顎歯列正中線の両側に並ぶのこと。正中から一番目にあることから上顎1番とも言い、左側の歯を大黒歯、右側の歯を恵比寿歯とも言う。切歯の中で最も大きい[1][2]

近心側隣接歯:反対側の上顎中切歯

遠心側隣接歯:上顎側切歯

対合歯:下顎中切歯下顎側切歯

歯冠が完成するのは四~五歳時で、七~八歳で萌出、歯根完成は九~十歳の時である[3]。ほぼ左右対称な歯である[4]

歯冠[編集]

唇側面[編集]

唇側面

U字型で、切縁部と歯頸部を比較すると歯頸部の方がわずかに狭い[4][5]隅角徴は確認できる[6]。切縁から歯頸部に向けて歯冠部の2/3程度を近心唇側面溝と遠心唇側面溝という浅い二つの溝が走り[6]、これで三分された部位には、近心唇側面隆線、中央唇側面隆線、遠心唇側面隆線が起こる[6]

舌側面[編集]

舌側面

舌側面は唇側面より歯頸部で狭まっているため、三角形またはV字型である[4][6]。切縁2/3で凹面であり、周縁の隆起部を、近心側を近心辺縁隆線、遠心側を遠心辺縁隆線といい、中央の陥没部を舌側面窩という[6]。黄色人種はシャベル型切歯が多い[7][8]。舌側面窩にも唇側面と同様に、近心舌側面溝と遠心舌側面溝があり[6]、この二つの溝により三つに分けられた近心舌側面隆線、中央舌側面隆線、遠心舌側面隆線が確認できることがある[6]。しかしこれらは唇側側に比べると発育が悪い。両辺縁隆線は歯頸部で合流し、基底結節となる。基底結節から切縁に向け、数本の棘突起が見える[6]盲孔は上顎側切歯と比べ少ないが、存在することもある[7]。また、まれに切歯結節が見られることもある[9]

隣接面[編集]

近心面
遠心面

隣接面は細長い三角形。隣接歯との接触点は切縁近くの中央部[10]。わずかにふくらんでいる。

切縁[編集]

切縁は近心側がわずかに高い[4]。最大豊隆部は近心よりで彎曲徴が確認できる。

歯根[編集]

単根歯であり[10]、円錐形と三角錐の中間。唇側面、近心舌側面、遠心舌側面が確認できる[11]歯根徴が確認できない場合もある。

歯髄腔[編集]

歯髄腔は歯の外形と類似した形態を取る[10]が、第二象牙質の形成のため、年を取るにつれ縮小する。根管は円形に近い。単純根管が多く、側枝分岐根管になることは少ない[12]

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ 藤田ら, p.38
  2. ^ 栗栖, p.28
  3. ^ 本川ら, p.53
  4. ^ a b c d 藤田ら, p.39
  5. ^ 栗栖, p.29
  6. ^ a b c d e f g h 栗栖, p.30
  7. ^ a b 藤田ら, p.40
  8. ^ 赤井, pp.134-135
  9. ^ 赤井, p.136
  10. ^ a b c 栗栖, p.31
  11. ^ 藤田ら, p.42
  12. ^ 栗栖, p.32

参考文献[編集]

  • 赤井三千男 編『歯の解剖学入門』(第1版第6刷)医歯薬出版東京都文京区、2000年10月31日。ISBN 4-263-40572-2 
    • 栗栖浩二郎「第2章 永久歯 I.切歯」『歯の解剖学入門』、28-41頁。 
    • 赤井三千男「第5章 歯の異常」『歯の解剖学入門』、131-148頁。 
  • 原著藤田恒太郎改訂桐野忠大山下靖雄『歯の解剖学』(第22版第6刷)金原出版、2000年1月30日。ISBN 4-307-45007-8 
  • 本川渉久芳陽一 著「第4章 歯の発育」、下岡正八五十嵐清治内村登木村光孝鈴木康生大東道治本川渉渡部茂 編『新小児歯科学』(第1版第5刷)クインテッセンス出版東京都文京区、2004年3月25日、51-78頁。ISBN 4-87417-501-5 

関連項目[編集]