ヨメガカサ

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ヨメガカサ
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
亜綱 : 始祖腹足亜綱 Eogastropoda
上目 : 笠形腹足上目 Patellogastropoda
: カサガイ目 Docoglossa
上科 : ヨメガカサ上科 Nacelloidea
: ヨメガカサ科 Nacellidae
: ヨメガカサ属 Cellana
: ヨメガカサ C. toreuma
学名
Cellana toreuma (Reeve,1854)
和名
ヨメガカサ(嫁が笠)
岩に張り付くヨメガカサ(右側が前方):長崎市

ヨメガカサ(嫁が笠、Cellana toreuma)は、カサガイ目ヨメガカサ科(ツタノハガイ科)に分類される巻貝の一種。平たい円錐形の殻をもつ、いわゆる「カサガイ」の一種で、北西太平洋海岸で普通に見られる。ヨメノサラ(嫁の皿。香川県愛媛県)、ボベサラ(ボベ皿。島根県益田市[1]ベベガイ(ベベ貝。島根県出雲市[2]などの地方名もある。

特徴[編集]

成体は殻長3-4cm程度だが、稀に殻長6cmに達する個体も見られる。日本産のカサガイ類の中では中型の部類に入る。貝殻は前方が狭まる楕円形だが縁に大小の凹凸があり、きれいな楕円形の個体は少ない。殻頂は体の前方に寄るが、殻高は数mm程度にとどまり、カサガイ類の中でも比較的扁平な殻をもつ。但し波浪の強い海岸では殻長が小さく、殻高が高くなることが知られる。

殻の表面は深い放射肋を刻み、肋の上に大小の顆粒がある。模様は薄黄色地に斑点、放射状に茶色の帯が複数入るなど変異に富む。アオサ等の多い環境ではこれらの藻類が付着することも多い。一方、殻の裏側は真珠光沢があり、いくらか黄色を帯びる。

別名「ヨメノサラ」は、貝殻をに例え、平たい皿で食い分を減らすという嫁いびりに繋げた呼称である。

生態[編集]

北海道南部から東南アジアまで、北西太平洋沿岸の熱帯温帯域に広く分布する。

岩礁海岸の潮間帯に生息し、防波堤など人工の海岸でも見られる。カサガイ類としては個体数も多く、分布域では普通種である。

多くの海岸性腹足類に見られるように、満潮時と干潮時はほとんど動かずじっとしており、その間の波が岩場を洗う時間帯に動き出し、摂餌活動を行う。岩に付着する微細藻類を、鋸のような刃を持つ歯舌で削り取って食べる。貝類にしては摂餌の際の行動範囲は広く、1日に10m以上移動することもある。このため岩から剥がして水槽などに入れても、餌が食べられずに死んでしまう。ウノアシ等に見られるような帰巣行動は見られない。

産卵期は6-12月の長期にわたり、数回の放卵・放精を行う。寿命は1-2年だが夏季の個体数減少が激しい。これは熱射・乾燥による衰弱が大きな原因とみられる。

利用[編集]

塩茹で、味噌汁炊き込みご飯などで食用にもされるが、市場に流通するほどの漁獲量はなく可食部も少ないので、個人や地域レベルでの消費にとどまる。島根県の海岸部では、ヨメガカサ科の貝を「ぼべ」(石見)、「べべ」(出雲)、「ぼべん」(隠岐)などと称して、夏に採り、ニンジンなどの根菜類と「ぼべ飯」、「べべ飯」などと称する炊き込みご飯として食べることが一般的である。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 尚学図書編、『日本方言大辞典』p2220、小学館、1989年。
  2. ^ 尚学図書編、『日本方言大辞典』p2151、小学館、1989年。

参考文献[編集]

  • 内田亨監修『学生版 日本動物図鑑』北隆館 ISBN 4-8326-0042-7
  • 行田義三『貝の図鑑 採集と標本の作り方』南方新社 ISBN 4-931376-96-7
  • 小林安雅『ヤマケイポケットガイド16 海辺の生き物』山と渓谷社 ISBN 4-635-06226-0
  • 奥谷喬司・楚山勇『山渓フィールドブックス4 サンゴ礁の生きもの』山と渓谷社 ISBN 4-635-06061-6