メタノピュルス・カンドレリ

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メタノピュルス・カンドレリ
Arkea.jpg
Methanopyrus kandleri AV19
分類
ドメイン : 古細菌 Archaea
: ユリアーキオータ界
Euryarchaeota
: ユリアーキオータ門
Euryarchaeota
: メタノピュルス綱
Methanopyri
: メタノピュルス目
Methanopyrales
: メタノピュルス科
Methanopyraceae
: メタノピュルス属
Methanopyrus
: M. カンドレリ
Methanopyrus kandleri
学名
Methanopyrus kandleri
Kurr et al. 1992

メタノピュルス・カンドレリメタノパイラス- メタノピルス- Methanopyrus kandleri)は、深海熱水噴出孔などに生息するグラム陽性桿菌偏性嫌気性の超好熱メタン菌メタン生成古細菌)である。複数の培養株が知られるが、何れも100℃を大きく上回る温度での増殖が可能。このうちの一つStrain 116は、2009年現在知られている中では最も高温(122°C)で増殖が可能な生物であると報告されている。

Methanopyrusに属すのは、Methanopyrus kandleri 1種のみである。また、この属のみでメタノピュルス綱 (Methanopyri) を構成する。

学名の由来は、属名が「methan-um」(: メタン)+「ο」(: 接続母音)+「πῦρ」(希: 炎)+「us」(羅: 男性名詞屈折語尾)。種小名は微生物学者「Otto Kandler」への献名で、そのラテン語名Kandlerusを属格としたkandleriカンドレリーが採用されている。ラテン語として語形成を行うと、Methanopyrus kandleri(古典ラテン語の音写はメタノピュルス・カンドレリー[1])となり、全体として「カントラーさんの、炎を好むメタン菌」といった意味を帯びる。

生育条件[編集]

ブラックスモーカー

生息する場所は深海の熱水噴出孔、特に中央海嶺近傍である。具体的な場所としては、1991年カリフォルニア湾の海底2000mにあるブラックスモーカーより発見された(AV19株)。また、インド洋中央海嶺の水深2450mなどからも発見されている(116株)。

基準株AV19株による記載では、生育温度84-110°C、至適生育温度98°Cに達し、メタン菌としては好熱性、耐熱性共に最も高い。また、2008年に独立行政法人海洋研究開発機構の高井研らによって新たに報告された別の116株(DNA-DNAハイブリ79.5%、鞭毛や窒素固定能がないなどやや性質に違いがある)は、常圧下では116°Cまで増殖が可能だが、生息条件に近い200-400気圧に加圧することにより122°Cで増殖が可能なことが確認された。これは同じ古細菌であるPyrolobus fumariiの持つ113℃、Strain 121の121℃(参考記録)を上回っており、確認されたものとしては最も高温での増殖記録である。130℃3時間のオートクレーブにも耐える。

増殖条件(AV19株)
  • 生育温度 : 84-110°C(至適98°C
  • 生育最適 : pH5.5-7(至適6.5)
  • 生育NaCl濃度 : 0.2-4%(至適塩濃度2%)

特徴[編集]

外観は普通の桿菌で、太さ0.5μm、長さ2-15μmほどの大きさである。一方の極に鞭毛を持つ場合が多い。細胞壁シュードムレインより構成され、その表面をたんぱく質が覆う。このシュードムレインと呼ばれる構造は比較的珍しく、古細菌の中でもメタノピュルスとメタノバクテリウム綱のみに見られる特徴である。グラム染色ではグラム陽性に染色される。細胞膜はジエーテル型である。

栄養的には嫌気条件で水素と二酸化炭素からメタンを合成する典型的なメタン菌といえる。窒素固定なども全て自前で行う。他のメタン菌のようにギ酸酢酸アルコール類を代謝することはできず、水素のみを利用している。

ゲノムと進化的位置付け[編集]

系統的には16S rRNA系統解析などの結果からユリアーキオータ門の中でも最も深い分岐をしていると考えられていたが、より詳細な解析により、近年は同じシュードムレインより成る細胞壁を持つメタノバクテリウム綱と近縁とされることも多い。

ゲノム配列は2002年に決定された。ゲノムサイズは169万4969bpORFは1,692箇所(Methanopyrus kandleri AV19)。超好熱菌としては一般的なサイズである。

参考文献[編集]

  • Kurr M, Huber R, Konig H, Jannasch HW, Fricke H, Trincone A, Kristjansson JK, Stetter KO (1991). “Methanopyrus kandleri, gen. and sp. nov. represents a novel group of hyperthermophilic methanogens, growing at 110°C”. Arch. Microbiol. 156: 239–247. doi:10.1007/BF00262992. 
  • Slesarev AI, Mezhevaya KV, Makarova KS, Polushin NN, Shcherbinina OV, Shakhova VV, Belova GI, Aravind L, Natale DA, Rogozin IB, Tatusov RL, Wolf YI, Stetter KO, Malykh AG, Koonin EV, Kozyavkin SA. (2002). “The complete genome of hyperthermophile Methanopyrus kandleri AV19 and monophyly of archaeal methanogens”. Proc Natl Acad Sci U S A 99: 4644–9. doi:10.1073/pnas.032671499. 
  • 生命の最高生育温度記録更新
  • Takai K, Nakamura K, Toki T, Tsunogai U, Miyazaki M, Miyazaki J, Hirayama H, Nakagawa S, Nunoura T, Horikoshi K (2008). “Cell proliferation at 122°C and isotopically heavy CH4 production by a hyperthermophilic methanogen under high-pressure cultivation”. Proc Natl Acad Sci U S A 105: 10949-54. doi:10.1073/pnas.0712334105. 

脚注[編集]

  1. ^ 英語の音写はメセイノパイラス・カンドラリ