ミュージカル南十字星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ミュージカル南十字星』(ミュージカルみなみじゅうじせい)は、劇団四季ミュージカル作品。浅利慶太の演出により2004年に初演された。以後、断続的に上演されている。

目次

[編集] 作品

バリ島、テガララン地区のライステラス(段々畑)

太平洋戦争中の日本によるインドネシア進駐と軍政統治、そして歴史的には合法性が疑問視されるBC級戦犯裁判において無実の罪で裁かれた日本軍将兵の悲劇を描いた、史実を踏まえたフィクション。演出として、水とインドネシアの(というよりバリ島の)伝統芸能を作中で多用しているのが特徴の一つ。水は、三毛作が標準であるインドネシアの稲作農業、ひいてはインドネシアをイメージして利用していると思われる。

[編集] 昭和三部作

本作は劇団四季の昭和三部作と呼ばれる作品群の一つ(残り二作は『ミュージカル李香蘭』と『ミュージカル異国の丘』)。但し、姉妹作の『異国の丘』においては九重首相と架空名にされていた近衛文麿首相は、本作品では(ナレーションで)本名で呼ばれており、三部作で作品世界がリンクしているわけではない。あくまでも「昭和の戦争」を描いた三部作という意味である。

[編集] 登場人物とそのモデル

作品の登場人物には、モデルになったと思われる人物がいる。以下、登場人物とモデルと思われる人物の一覧。

  • 保科勲(主人公)
京大法科を卒後に入営、尉官に任命後、インドネシアへ。戦後、戦犯裁判で有罪、絞首刑。
モデル(1):捕虜に木の根(ゴボウ)を食べさせたために捕虜虐待容疑で有罪となったとされる軍人[1]
モデル(2):木村久夫。1942年、京都帝大経済学部在学中に入営。カーニコバル島へ出征。1946年、上官の罪をかぶり、BC級戦犯としてシンガポールのチャンギー刑務所内で絞首刑。死を前にして手に入れた、田辺元『哲学通論』の余白に隙間なく書き綴った遺稿が、『きけわだつみのこえ』に収められている。
  • 島村中将
インドネシア進駐軍の司令官。B級戦犯として絞首刑。
モデル:今村均陸軍大将。ジャワ島攻略を指揮・攻略し、軍政を担当した司令官。豪州軍による戦犯裁判では死刑判決、住人嘆願により減刑され禁固10年。蘭軍による裁判では無罪確定。豪州軍管轄下で刑期満了の後、帰国。天寿を全うする。
  • ニングラット博士
インドネシア独立運動の理論的・精神的指導者の一人。日本軍進駐前は蘭軍に幽閉されていた。
モデル:ハッタと思われる。独立後にインドネシア副大統領(正大統領と同格)、のちに隠棲。
  • 岡野教授
主人公の叔父。京大法科の元教授。京大事件後に隠棲。
モデル:滝川事件の教授陣の一人(滝川事件の関係者に、岡野を連想させる名前の教授はいない)。

[編集] 作品中のインドネシアの文化と芸能

劇中の舞台はジャワ島と思われるが、舞台に登場するインドネシアの芸能の一部はバリ島固有の文化であり、作劇に若干の混乱が見られる。バリ島はバリ・ヒンドュ教を信奉しており、イスラム教が主流のインドネシアの中において、その文化・歴史・芸術は特異なものである。特にバリ舞踏の多くはその物語性や振付にヒンドュ教の影響を色濃く残しており、「インドネシアの文化」として紹介されるには地域色が強すぎるため、違和感を覚える人もいる(あえて例えて言うなら、東京の盆踊り大会で江戸っ子が沖縄舞踊を踊るのが日本の伝統、と紹介しているようなもの)。

インドネシアのろうけつ染め
インドネシアの織物。劇中で「日本のかすりに似ているバティック」と表現されていた織物は、イカットのことと思われる(本来イカットとバティックは異なる)。
インドネシアの伝統楽器によるアンサンブル。地域ごとに楽器編成に特徴があり、劇中の編成はバリ・ガムランと思われる。
インドネシアの影絵芝居。四季ファンには『ライオンキング』でお馴染み。
バリ舞踏の演目の一つ。日本の獅子舞に似た聖獣バロンと魔女ランダの永遠の戦い。
バリ舞踏の演目の一つ。数名の女性による舞踏。独立したダンスでもあるが、バロンダンス中でも踊られる。滑らかな所作と指先・目の動きが特徴的な踊り。
バリ舞踏の演目の一つ。数十人~百数十人の男声合唱団を伴う『ラーマーヤナ』劇。
  • ムルデカ
「ムルデカ」とはインドネシア語で「独立」を意味する単語。

[編集] 公演

  • 2004年9/12~1/10 - 四季劇場・秋(東京初演)(初演)
  • 2005年12/18~翌1/15 - 四季劇場・秋(東京再演)(戦後60年記念公演)
  • 2006年4/2~5/14 - 京都劇場(京都初演)
  • 2006年7/2~7/30 - 新名古屋ミュージカル劇場(名古屋初演)
  • 2009年9/13~9/27- 四季劇場・秋(東京再々演)

[編集] スタッフ

  • 企画・構成・演出:浅利慶太
  • 台本:劇団四季文芸部
  • 作詞:浅利慶太
  • 作曲:三木たかし
  • 振付:加藤敬二
  • 美術:土屋茂昭
  • 照明:沢田祐二
  • 衣裳:小林巨和
  • 音楽監督:鎮守めぐみ
  • ガムラン音楽製作:和田啓

[編集] 主要キャスト

  • 保科勲:阿久津陽一郎
  • リナ・ニングラット:樋口麻美大平敦子秋夢子
  • 島村中将:田代隆秀
  • 原田大尉:鈴木周
  • 塚本少尉:前田貞一郎
  • ニングラット博士:武見龍麿・池田英治
  • ルアット・ニングラット:栗原英雄・内田圭
  • ニルワン:藤川和彦・小出敏英
  • キキ:高城信江・丸山知紗・大徳朋子・山中由貴
  • オットー・ウィンクラー:吉賀陶馬ワイス
  • 原田春子:中野今日子・末次美沙緒・武木綿子・都築香弥子
  • 岡野教授:光枝明彦・維田修二

[編集] 無料招待

劇団四季の昭和三部作製作理念「語り継ぐ日本の歴史」(劇団四季公式サイト内)に基づき、初演の頃より南方戦線従軍経験者を無料で公演に招待している。同じく昭和三部作の一つである『ミュージカル異国の丘』の公演では、実際にシベリア抑留体験を持つ方が無料招待の対象となっている。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

[編集] 脚注

  1. ^ このエピソードについては場所や人物、刑罰が資料や証言によって一定せず、事実の存在を疑う意見もある。ゴボウ#食文化の違いによる誤解を参照。