ブゾロイバナ

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ブゾロイバナ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : シソ類 lamiids
: シソ目 Lamiales
: シソ科 Lamiaceae
亜科 : オドリコソウ亜科 Lamiodeae
: ヒゲオシベ連 Pogostemoneae
: ブゾロイバナ属 Anisomeles
: ブゾロイバナ A. indica
学名
Anisomeles indica (L.) Kuntze (1891)
和名
ブゾロイバナ

ブゾロイバナ Anisomeles indica (L.) Kuntze (1891) は、シソ科植物。全体に毛が多く、立ち上がった茎の先の穂のようになった花序に紫色の唇花をつける。

特徴[編集]

やや大柄な多年生草本[1]は高さ1.5mに達する。茎は直立するが横枝も出し、その断面は4角形になっている[2]。対生のは長さ3-10cm、幅2-7cm、長さ1-4cmの葉柄がある。葉身の形は卵形で先端は突き出して尖り、基部は真っ直ぐ切れたようになっており、縁には鈍い鋸歯が並び、葉質は膜質[2]。植物の地上部全体が刺激的な匂いを発する[3]

花期は3-10月まで、は茎の節に密集した集散花序をなし、これが茎に並んで穂のような形を取り、その長さは4-13cmになる。萼は筒状で10本の脈があり、また毛が密生している。萼は長さ6mmほどでその先端は5つの歯状に突き出して3角状披針形で先端は突き出して尖る[2]。花冠は紅紫色で長さ15mmほどの唇花型。上唇は狭い長楕円形で縁に切れ込みなどはない。下唇は幅が広くて長さ10-12mm、3つに裂けており、その中裂片は大きく2つに浅く裂けている。

名前について[編集]

和名については竹他(1981)は花冠の上唇と下唇の形が著しく違う、ということに基づくものである、としており、この書の後継である大橋他編(2017)もこれを引き継いだものとなっている。しかしその表現として「ぶぞろい」は奇妙である。他方で初島(1975)では『ブソロイバナ属』の『ブソロイバナ』となっており[2]、沖縄関連の書籍はこれに合わせている。日本本土に分布のない植物なので、こちらが本来の和名であると思われる。もっとも「ぶそろい」もまた奇異ではある。さらに黒崎(1997)では和名をフゾロイバナ属のフゾロイバナとしてあり[4]、日本語の表現としてはこの「ふぞろい」が一番まともに見えるが、この名はこの書以外では見つからない。

なお、和名の意味づけについては上記の通りであるが、実は属の学名が『不同の部分』の意味で、この花冠裂片の形が異なる特徴を元にしている[2]。他方、池原(1979)はこの説と併記の形で、個々の花が不揃いにポツリポツリと咲かせるから、という説を紹介している[5]

分布と生育環境[編集]

日本では奄美大島以南の琉球列島にあり、国外では台湾中国南部から東南アジアニューギニア南アジアまで広く分布があるほか、マスカリン諸島西インド諸島などに帰化している[6]インドではヒマラヤの標高1800m付近まで分布している[3]

日当たりのいい原野や、山地の路傍などに見られる[7]。インドでは林縁部や荒地の他、農耕地にも出現し、また地域によってはこの種のみの純群落を作り、他種の侵入を許さない様子も見られる[3]

類似種など[編集]

本種の属するブゾロイバナ属はアジアアフリカオーストラリアに26種が知られ、大半はオーストラリアの固有種となっており、日本には本種のみが知られる[6]

萼が等しい大きさに5裂し、花冠は上唇が小さくて平坦で、対して下唇が遙かに大きく、雄しべが長く突き出ることなどが特徴となる。

保護の状況[編集]

環境省レッドデータブックには取り上げられていないが、鹿児島県では絶滅危惧I類に指定されている[8]

利害[編集]

日本においては南方系の珍しいものではあるが、沖縄では道ばたにも出現するもので、ほぼ雑草である。かといって畑に出ることはなく、害というものもない。

ただし国外では薬草などとして用いられたものであり、インドでは化粧水や駆風剤として用いられてきた[9]スリランカでは伝統医療において本種の茎や葉に鎮痛作用があるとされてきた[10]。台湾では伝統的な医療において一般的に用いられてきたもので、様々な障害、例えば胃腸の障害、肝臓病、炎症性の皮膚炎などに効果があるとされた[11]。本種植物体の成分とその効果については現在も研究が進められている。

出典[編集]

  1. ^ 以下、主として大橋他編(2017),p.120
  2. ^ a b c d e 初島(1975),p.533
  3. ^ a b c Batish et al.(2012),p.104
  4. ^ 黒崎(1997),p.238
  5. ^ 大橋他編(1979),p.133
  6. ^ a b 大橋他編(2017),p.120
  7. ^ 池原(1979),p.133
  8. ^ 日本のレッドデータ検索システム[1]2023/05/30閲覧
  9. ^ Yadava & Barsainya(1998),p.41
  10. ^ Dharmasiri et al.(2003)
  11. ^ Huang et al.(2012)p.6221

参考文献[編集]

  • 大橋広好他編、『改訂新版 日本の野生植物 5 ヒルガオ科~スイカズラ科』、(2017)、平凡社
  • 佐竹義輔他、『日本の野生植物 草本III 合弁花類』、(1981)、平凡社
  • 初島住彦、『琉球植物誌』追加・訂正版、(1975)、 沖縄生物教育研究会
  • 池原直樹、『沖縄植物野外活用図鑑 第5巻 低地の植物』、(1979)、新星図書
  • 黒崎史平、「メハジキ」:『朝日百科 植物の世界 2』、(1997)、朝日新聞社、:p.237-238
  • R. N. Yadava & Deepak Barsainya, 1998. Chemistry and Antimicrobial Activity of thw essential oil from Anisomeles indica (L.). Ancient Science of Life vol. 18(1): p.41-48.
  • Daizy Rani Batish et al. 2012. Chemical characterization and phytotoxicity of volatile essential oil from leaves of Anisomeles indica (Lamiaceae). Biochemical Systematics and Ecology 41: p.104-109.
  • Huey-Chun Huang et al. 2012. Antioxidative Characteristics of Anisomeles indica Extract and Inhibitory Effect of Ovatodiolide on Melanogenesins. Int. J. Mol. Sci. 13: p.6220-6235.
  • M. G. Dharmasiri et al. 2003. Water Extract of Leaves and Stems of Preflowering but not Flowering Plant of Anisomeles indica Posses Analgesic and Antihyperalgesic Activities in Rats. Pharmaceutical Biology Vol.41 no.1 :p.37-44.