フランク=タムの公式

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フランク=タムの公式(フランク=タムのこうしき、: Frank–Tamm formula)は、荷電粒子が物質中での光速を超える場合に放出されるチェレンコフ放射の、単位長さあたりの放射エネルギー周波数スペクトルを求める公式である。1937年にチェレンコフ放射の理論的説明を与えたロシアの物理学者イリヤ・フランクイーゴリ・タムにちなんで名付けられ、彼らはこの功績により1958年ノーベル物理学賞を受賞した。

荷電粒子が物質中の位相速度を超えた場合、その粒子からエネルギー運動量を保存する形でコヒーレント光子が放出されうる。このプロセスは崩壊と見なすこともできる。

方程式[編集]

単位長さおよび単位周波数幅あたりに放出されるエネルギーについて

となる。ただし、このとき条件として、β = v/c > 1/n(ω) が課される。ここで、μ(ω)n(ω) はそれぞれ周波数に依存する透磁率屈折率で、q は荷電粒子の電荷v は荷電粒子の速度c は真空中での光速を指す。

チェレンコフ放射線は、蛍光放出スペクトルの特徴的なピークは持たない。周波数ごとの相対強度はおおまかには周波数に比例している。高周波数(短波長)ではより強いため、可視光領域のチェレンコフ放射は青白く見え、実際チェレンコフ放射は紫外線領域にある。

単位長さあたりに放射される全エネルギーは、荷電粒子の速度 v が物質中の光速 c/n(ω) より大きい領域での周波数 ω に関する積分

で得られ、十分に高周波な領域では屈折率は1になるため、この積分は収束する[注 1]

フランク=タム公式の導出[編集]

荷電粒子が相対論的に媒質中を等速度で移動する場合を考える。ガウス単位系でのマクスウェル方程式を考え、ポテンシャルをモード展開すると

となる。電荷の移動速度を v とし、電荷および電流は密度として

フーリエ変換することで

のように表現できる。この電荷密度および電流密度を代入し、方程式を解くことで

が得られる。電磁場とポテンシャルの関係式を用いて、電場および磁場のモード展開を考えると

が得られる。エネルギー損失に注目するため、粒子の軌跡から b だけ離れた点 (0, b, 0) での電場を求めたい。ここでの b はインパクトパラメータと呼ばれる。波数依存性をなくすため

を導入する。まず、荷電粒子の運動方向の成分について計算する。

簡単のため

を定義する。積分を k1, k2, k3 に分ける。k1 積分はデルタ関数の定義によってただちに

となる。k3 積分は π/(λ2 + k 2
2
 
)1/2
となるため、

となる。最後の積分の結果はベッセル関数により

と与えられる。他の電場成分も同様な計算によってできる。それらの結果を書くと以下のようになる。

これによりエネルギー損失を求めることが可能となる。荷電粒子の経路のまわりの半径 a の円筒を通るエネルギーの流れを考えると、エネルギー保存則を考えることで

と表現できる。ある時刻で x について積分すると、ある点で全時刻にわたる積分をするのと等しい。実際 dx = vdt であり、

となる。これを周波数の積分に改めることで

となり、周波数の積分にすることで、原子半径に比べて十分長い波長の放射のみを考えることができる。つまり、|λa| ≫ 1 という仮定によりベッセル関数を漸近的に

と求めることができ、結果として

が得られる。全周波数積分の実部を考える。λ が正の実部を持てば、指数関数は大きな b で急速に0になる。つまり、エネルギーは軌跡のまわりにのみ存在するが、純虚数の λ では指数関数は1になってしまい、エネルギーは軌跡から離れたところへ散逸することを示している。これがチェレンコフ放射である。λ が純虚数であることは ε(ω) が実であり、β2ε(ω) > 1 を満たすことに相当する。これが、チェレンコフ放射の条件 v > c/ε(ω) に対応する。純虚数の条件は λ*/λ = i となるため、積分はさらに

と簡略される。これがガウス単位での表示によるフランク=タム公式である。この導出はジャクソン第3版に基づく[1]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 屈折率 n は真空中の光速度と媒質中での電磁波の位相速度の比として定義される。屈折率は特定の条件下において1を下回ることがある。

出典[編集]

  1. ^ Jackson, John (1999). Classical Electrodynamics (3rd ed.). John Wiley & Sons, Inc. pp. 646-654. ISBN 0-471-30932-X 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]