ヒヨス

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ヒヨス
Hyoscyamus niger - Köhler–s Medizinal-Pflanzen-073.jpg
ヒヨス
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ナス目 Solanales
: ナス科 Solanaceae
: ヒヨス属 Hyoscyamus
: ヒヨス H. niger
学名
Hyoscyamus niger L.
英名
henbane
Hyoscyamus niger

ヒヨス(Hyoscyamus niger)[1]ユーラシア大陸原産のナス科の植物である[1]。現在は世界中に分布している。

毒性と歴史的な利用[編集]

ヒヨスは、マンドレイクベラドンナチョウセンアサガオ等の植物と組み合わせて、その向精神作用を利用して麻酔薬として歴史的に用いられてきた[1][2][3]。向精神作用としては、幻視や浮遊感覚がある[4]。ヒヨスの利用は大陸ヨーロッパ、アジア、中東で始まり[5]、中世にはイギリスに伝わった。古代ギリシア人によるヒヨスの利用はガイウス・プリニウス・セクンドゥスによって記録されている。この植物はHerba Apollinarisと記述され、アポローンの神官によって神託を得るのに用いられた[1]

ヒヨスには毒性があり、動物なら少量で死に至る。henbaneという英名は1265年まで遡る。語源は定かではないが、"hen"はニワトリという意味ではなく[6]、恐らくもともとは「死」を意味していた。ヒヨスの葉や種子には、ヒヨスチアミンスコポラミン、その他のトロパン・アルカロイドが含まれている[1]。人間がヒヨスを摂取した時の症状には、幻覚[1]、瞳孔散大、情動不安、肌の紅潮等がある。また人によっては頻脈、痙攣、嘔吐、高血圧、超高熱、運動失調等の症状が表れることもある。

全ての動物が毒性の影響を受けるわけではなく、ヨトウガ等のチョウ目の幼虫はヒヨスの葉を食糧としている。

11世紀から16世紀にホップに代用されるまで、ヒヨスはビールの原料として風味付けに用いられてきた(例えば、1516年のビール純粋令では、ビールの原料として麦芽、ホップ、水以外の使用が禁じられた)[7]

ヒヨスの花

1910年、ロンドン在住のアメリカ人ホメオパシー実践者であるホーリー・ハーヴェイ・クリッペンは、妻を毒殺するのにヒヨスから抽出したスコポラミンを用いたと言われている[8]

またハムレットの父の耳に注がれたヘベノンという毒物はヒヨスのことであると考えられている[2][9]。(ただし他の説もある[10]。)

誤解[編集]

2008年、シェフのアントニー・トンプソンは、Healthy and Organic Living誌の8月号に「ヒヨスをサラダに入れると美味である」と寄稿した。その後彼は、アカザと混同していて間違えたと釈明し、購読者に対し、「ヒヨスはとても毒性が強く、決して食べてはならない」という警告文を郵送した[11]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f Roberts 1998, p. 31.
  2. ^ a b Anthony John Carter MB FFARCS (March 2003), “Myths and mandrakes” (PDF), Journal of the Royal Society of Medicine 96 (3): 144–147, doi:10.1258/jrsm.96.3.144, PMC 539425, PMID 12612119, http://www.jrsm.org/cgi/reprint/96/3/144.pdf 
  3. ^ A. J. Carter (1996-12-21), “Narcosis and nightshade”, British Medical Journal 313 (7072): 1630–1632, PMC 2359130, PMID 8991015, http://www.bmj.com/archive/7072ad4.htm 
  4. ^ Schultes & Smith 1976, p. 22
  5. ^ Joseph Perez, Janet Lloyd, The Spanish Inquisition, Yale University Press, 2006, ISBN 0-300-11982-8, ISBN 978-0-300-11982-4, p229 footnote 10]
  6. ^ Anatoly Liberman, J. Lawrence Mitchell (2008), An Analytic Dictionary of English Etymology: An Introduction, U of Minnesota Press, pp. 108–110, ISBN 9780816652723, http://books.google.com/?id=_m7k1Oi-cakC&pg=PA108&lpg=PA109&dq=henbane+An+Analytic+Dictionary+of+English 
  7. ^ Dan Rabin, Carl Forget (1998), The Dictionary of Beer and Brewing, Taylor & Francis, xii, ISBN 9781579580780, http://books.google.com/?id=XRyxWu8rRnQC&pg=PR12&lpg=PR12&dq=grut+henbane 
  8. ^ "The Crippen Case – Discovery of Poison", The Times, Wednesday, September 7th, 1910, p3
  9. ^ “Hebenon”, Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913 + 1828), http://machaut.uchicago.edu/?action=search&word=hebenon&resource=Webster%27s&quicksearch=on 2010年11月18日閲覧。 
  10. ^ Anatoly Liberman, J. Lawrence Mitchell (2008), An Analytic Dictionary of English Etymology: An Introduction, U of Minnesota Press, pp. 110–111, ISBN 9780816652723, http://books.google.com/?id=_m7k1Oi-cakC&pg=PA110&lpg=PA110&dq=hebenon+henbane 
  11. ^ Dawar, Anil (2008年8月4日). “TV chef Worrall Thompson recommends deadly weed as salad ingredient”. The Guardian (London). http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2008/aug/04/foodanddrink.foodsafety?gusrc=rss&feed=networkfront 2008年8月4日閲覧。 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]