ウルトラ・ダラー

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ウルトラ・ダラーとは、外交ジャーナリスト手嶋龍一の小説。新潮文庫新潮社)より2007年12月1日付で発売された。

偽のアメリカ・ドル紙幣「ウルトラ・ダラー」出現を発端にした国際的な諜報戦、国際外交の暗闇など外交インテリジェンスを題材とした小説であり、「日本初のインテリジェンス小説」とされる[1]

あらすじ[編集]

1968年、東京の若き彫刻職人が失踪したことが全ての始まりだった。2002年、アイルランドのダブリンで新種の偽ドル札「ウルトラ・ダラー」が発見された。この偽札発見が欧州・アメリカ・アジアを巻き込んで行く・・・。

登場人物[編集]

スティーブン・ブラッドレー
イギリス人イギリスの情報機関、秘密情報部(SIS、MI6)の要員。オックスフォード大学コーパス・クリスティ・カレッジを卒業後に、SISに入った。ただし、入部の経緯から、諜報任務のみに従事する専業の要員ではなく、表の顔(アンダーカバー)はBBCラジオ部門東京特派員という肩書きで、実際に番組作成やレポートなどを手掛けている。日本語がきわめて堪能。また、浮世絵競馬などに様々な分野に明るく、篠笛など趣味も多彩である。
マイケル・コリンズ
アメリカ人オクラホマ州出身。合衆国財務省シークレット・サービス[2]で特別捜査官として勤務し、偽札摘発にあたっている。「贋金ハンター」の異名を持つ。ハーバード大学在籍中にローズ奨学金を得て渡英し、オックスフォード大学のコーパス・クリスティ・カレッジに学び修士号を取得、その後はイェール大学ロー・スクールでも学んだという秀才。スティーブンとは、コーパス・クリスティ・カレッジの同窓生という間柄で、互いに何かとウマの合う親友である。
槙原 麻子(まきはら あさこ)
本作のヒロイン的存在。篠笛師範で、多くの弟子を指導する傍ら、若手演奏者としてコンサートを開くなど活躍している。スティーブンとは初め師匠と弟子として出会ったが、のちに恋人になる。
サキ
スティーブンの日本での暮らしを支える老婦人。かつてスティーブンの父が、仕事の都合で香港と東京に家族共々住んでいた折、ブラッドレー家の暮らしを「お手伝いさん」として支えた人物。スティーブンは当時まだ小さな子供だったが、長じてBBC特派員として(さらにはSISの要員として)日本に赴任するにあたり、夫に先立たれて独り身だったサキに頼み込み、自宅に招いた。スティーブン宅に住み込み、食事など家事全般を取り仕切っている。
高遠 希恵(たかとお きえ)
外交・安全保障分野担当の内閣官房副長官[3]。総理大臣官邸で外交・安全保障分野を担当している。外務官僚で、かつては条約局(現・国際法局)などに属していた経験がある。離婚歴があり(バツイチ)、息子が1人居る。
瀧澤 勲(たきざわ いさお)
外務省アジア大洋州局長。大阪出身で、イギリス贔屓(アングロファイル)である。
ケビン・ファラガー
アイルランド共和国軍(IRA)武闘派の「陰の領袖」と黙される人物であり、偽ドル紙幣流通のキーパーソンの1人。SISからは「レッド・フォックス」というコードネームで呼ばれている。この「ケビン・ファラガー」なる人物は、名前こそ架空であるが、作者の手嶋によれば、実在の人物であるショーン・ガーランドを描写したものだという[4]

脚注[編集]

  1. ^ 佐藤優の書評による。
  2. ^ 現在シークレット・サービスは、国土安全保障省の傘下に移されている。
  3. ^ 現在、外交・安全保障分野担当の内閣官房副長官職というポストは存在しない。内閣官房副長官職の定員は3人であり、うち2人は「政務担当」として政治家国会議員)が就任することになっている。高遠のような官僚出身者が就任できるのは、原則として事務担当の官房副長官職である。総理大臣官邸に執務室を置き、官僚出身者が就任するポストの中で外交・安全保障分野に専ら携わるのは、外政担当および安全保障・危機管理担当の内閣官房副長官補職の2つであり、このうち外務省出身者が就くのは外政担当の副長官補職である。
  4. ^ アメリカVS中国 諜報戦争の恐るべき現実」 手嶋龍一オフィシャルサイトの著作アーカイブより。原本は月刊『現代』(2006年4月号)に掲載されている。

関連項目[編集]