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'''子宮体癌'''とは、子宮腔側の上皮組織である[[子宮内膜]]から生じる[[癌]]([[腺癌]])である<ref name=アメリカ国立衛生研究所>{{Cite web |url=https://www.cancer.gov/types/uterine/patient/endometrial-treatment-pdq#section/all |title=Endometrial Cancer Treatment (PDQ®)–Patient Version - NCI |accessdate=2023-5-16 }}</ref>。
{{出典の明記|date=2022年7月}}
'''子宮体癌'''(しきゅうたいがん)は、[[子宮癌]]のうち子宮体部に発生する[[癌]]。


== 概要 ==
子宮腔側の上皮組織である[[子宮内膜]]に発生し、'''子宮内膜癌'''(しきゅうないまくがん、{{lang-en-short|Endometrial cancer}})と同義。なお、子宮体部の筋層に発生する[[悪性腫瘍]]は、[[子宮肉腫]]と呼ばれる。
子宮体癌の始めの症状は、[[月経]]に関係しない[[膣]]からの[[出血]]である<ref name=アメリカ国立衛生研究所/>。この出血の程度によっては、血が[[下り物|おりもの]]に混ざり褐色になることもある<ref name=国立がん研究センター/>。その他の症状には[[排尿]]での痛み([[排尿障害]])<ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、[[性交]]での痛み({{仮リンク|性交疼痛症|en|Dyspareunia}})<ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、下腹部の痛み<ref name=国立がん研究センター>{{Cite web |url=https://ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/index.html |title=子宮体がん(子宮内膜がん):{{Bracket|国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ}} |accessdate=2023-5-16 }}</ref>などがある。


子宮体癌患者の約 40% が[[肥満]]であり<ref name=WCR2014Epi>{{cite book |author=International Agency for Research on Cancer |year=2014 |title=World Cancer Report 2014 |publisher=[[World Health Organization]] |isbn=978-92-832-0429-9 |at=Chapter 5.12}}</ref>、実際に肥満は子宮体癌の原因のひとつとされている<ref name=予防・検診>{{Cite web |url=https://ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/prevention_screening.html |title=子宮体がん(子宮内膜がん) 予防・検診:{{Bracket|国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ}} |accessdate=2023-5-16 }}</ref>。また、[[出産]]経験が無い<ref name=予防・検診/><ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、[[月経#閉経|閉経]]が遅い<ref name=予防・検診/><ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、[[乳癌]]の治療で用いられる[[タモキシフェン]]の服用<ref name=予防・検診/><ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、[[更年期障害]]の治療で用いられる[[エストロゲン]]の服用<ref name=予防・検診/><ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、月経を幼少期に迎えた<ref name=アメリカ国立衛生研究所/>、[[糖尿病]]<ref name=予防・検診/>、近親者に[[大腸癌]]患者が居る<ref name=予防・検診/>、月経不順([[無排卵月経]]{{small|(無排卵性月経周期、無排卵周期症、無排卵性周期症などとも)}})<ref name=日本産科婦人科学会>{{Cite web |url=https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=11 |title=子宮体がん|公益社団法人 日本産科婦人科学会 |accessdate=2023-5-16 }}</ref>、高齢<ref>{{Cite web |url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6457820/ |title=Adjuvant chemotherapy for advanced endometrial cancer - PMC |accessdate=2023-5-16 }}</ref>なども、子宮体癌の原因である。
[[組織学]]的には[[腺癌]]である。


[[日本]]での子宮体癌の予防には、[[禁煙]]<ref name=予防・検診/><ref name=科学的根拠に基づくがん予防>{{Cite web |url=https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html |title=科学的根拠に基づくがん予防:{{Bracket|国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ}} |accessdate=2023-5-16 }}</ref>、節度のある[[酒|飲酒]]<ref name=予防・検診/><ref name=科学的根拠に基づくがん予防/>、バランスの良い食事<ref name=予防・検診/><ref name=科学的根拠に基づくがん予防/><ref name=日本成人病予防協会>{{Cite web |url=https://www.japa.org/lifestyle_diseases/cancer/uterine_body_cancer/ |title=子宮体がん {{!}} 生活習慣病 {{!}} 生活習慣病を予防する 特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 |accessdate=2023-5-16 }}</ref>、[[野菜]]や[[果物]]の摂取<ref name=科学的根拠に基づくがん予防/>、適度な運動の実践<ref name=予防・検診/><ref name=科学的根拠に基づくがん予防/><ref name=日本成人病予防協会/>、太り過ぎない<ref name=科学的根拠に基づくがん予防/>、痩せ過ぎない<ref name=科学的根拠に基づくがん予防/>などが効果的と言われている。
== 疫学 ==
[[子宮頸癌]]の主因が[[ヒトパピローマウイルス]] (HPV) への感染であるのとは異なり、子宮体癌の発生は[[女性ホルモン]]の[[エストロゲン]](卵胞ホルモン)による影響の蓄積が大きい。そのため、中高年(50代から60代で好発)・初経が早い・[[月経#閉経|閉経]]が遅い・出産歴がない・[[肥満]]・[[糖尿病]]・[[高血圧]]・ゲスターゲン製剤を併用しないエストロゲン製剤の単独使用など、エストロゲンの影響が強い人はよりリスクが高くなる。子宮癌のうち子宮頸癌の比率が発展途上国で高いのに対し、欧米先進国では子宮体癌の比率が高まる傾向にある。日本でも、従来は子宮癌といえば子宮頸癌が大多数を占めていたが、食生活の高脂質・高蛋白化や少子化・初産年齢の上昇といった要因から、子宮体癌の発生率が増加し、また若年での発症も増えてきている。
* 閉経後女性では、乳製品を多量に摂取する群は、ほとんど摂取しない群に比べて約1.4倍子宮体癌罹患率が高かった<ref>Ganmaa D, et al. Milk, dairy intake and risk of endometrial cancer: A 26-year follow-up. Int J Cancer. 2012;130:2664-74.</ref>。


子宮体癌の検査には、膣から子宮内に細いチューブやブラシを入れ、子宮内膜の細胞を少し採取し、この検体([[細胞診検体]])から癌の細胞があるかどうかを検査する[[細胞診断]]、膣に手を入れて検査する[[双合診|内診]]、[[肛門]]に手を入れて検査する[[直腸検査|直腸診]]、[[血液検査]]や[[尿検査]]で癌の種類により特徴的に産生される物質「[[腫瘍マーカー]]」の成分を検査する腫瘍マーカー検査などがある<ref name=検査>{{Cite web |url=https://ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/diagnosis.html |title=子宮体がん(子宮内膜がん) 検査:{{Bracket|国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ}} |accessdate=2023-5-16 }}</ref>。
== 病因 ==
一般に以下の二つがある。
* [[エストロゲン]]依存性
: 多くは[[子宮内膜増殖症]]より発生する。
* [[エストロゲン]]非依存性
: [[子宮内膜増殖症]]を経ないで発生する。


[[国立がん研究センター]]によれば、[[2019年]]の[[女性]]の子宮体癌患者数は、[[乳癌]]、大腸癌、[[肺癌]]、[[胃癌]]、[[膵臓癌]]に次いで5位で17880名である<ref name=全国がん罹患データ>{{Cite web |url=https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/excel/cancer_incidenceNCR(2016-2019).xls |title=cancer_incidenceNCR(2016-2019).xls |accessdate=2023-5-16 }}</ref>。
== 検査 ==
* 細胞診:子宮内膜の組織を吸引し細胞診で評価する。
* 組織診:子宮内膜の組織を掻爬して病理組織評価する。


== 出典 ==
現在、一般に「子宮がん検診」と称して、各種検診等で行われている検査は「[[子宮頸癌]]」の検査で、子宮体癌の検査ではなく、子宮体癌の検査は、産婦人科受診での診察等を受けてから行われている。
{{reflist}}


[[カテゴリ:女性の健康]]
== 肉眼分類 ==
[[カテゴリ:がん_(悪性腫瘍)]]
{{節スタブ}}
[[カテゴリ:婦人科疾患]]

[[カテゴリ:子宮]]
== 病期分類 ==
; 0期 :子宮内膜の異型増殖を認めるもので、前癌状態([[子宮内膜増殖症#分類|子宮内膜異型増殖症]])。
; I期 :がんが子宮体部にのみ認められるもの。
:; Ia期 :子宮内膜にのみ認められるもの。
:; Ib期 :子宮筋層への浸潤が筋層の2分の1以内のもの。
:; Ic期 :子宮筋層への浸潤が筋層の2分の1を超えるもの。
; II期 :がんが子宮体部を越えて子宮頸部に拡がったもの。
:; IIa期 :頸管内の浸潤が粘膜内にあるもの。
:; IIb期 :頸管内の浸潤が粘膜を越えて深く浸潤しているもの。
; III期 :がんが子宮外に拡がっているが、骨盤を越えて外には拡がっていないもの。または骨盤内あるいは大動脈周囲のリンパ節に転移を認めるもの。
:; IIIa期 :子宮の外の膜や骨盤の腹膜あるいは卵巣卵管に転移しているもの、あるいは腹水の中にがん細胞の認められるもの。
:; IIIb期 :腟壁に転移を認めるもの。
:; IIIc期 :骨盤内、あるいは大動脈周囲のリンパ節に転移を認めるもの。もしくは、基靭帯(きじんたい)に浸潤を認めるもの。
; IV期 :がんが骨盤を越えて身体の他の部位へ拡がるか、または膀胱、あるいは腸の内腔を侵すもの。
:; IVa期 :膀胱あるいは腸の粘膜までがんの浸潤を認めるもの。
:; IVb期 :骨盤を越えた遠隔臓器転移を認めるもの。あるいは腹腔内や鼠径部のリンパ節に転移を認めるもの。

== 治療 ==
病期や出産希望の有無により異なるが、子宮摘出が基本となる。
; ホルモン療法 :0期~Ia期のごく早期で、挙児希望がある若年女性の場合。
: エストロゲンによる症状の進行作用に対して、がん細胞の増殖や転移を抑える作用のあるゲスターゲン(黄体ホルモン)製剤を高用量で使用する。子宮を温存してのホルモン療法を行う際は、異型の病巣を含む子宮内膜の全面掻爬が必要となる。
; 外科手術療法
:; 単純子宮全摘出術 :0期~Ia期のごく早期で、挙児希望がない場合。子宮を体部・頸部とも含めて全体を摘出する。通常、卵管・卵巣も併せて摘出する('''両側付属器切除術''')。開腹による「腹式」と、膣側から摘出を行う「膣式」とがあり、確実性の高い腹式が標準となるが、0期には傷跡が小さく術後の回復が早い膣式が選択されることもある。
:; 準広汎子宮全摘術(拡大子宮全摘出術) :I期~II期の場合。子宮、卵巣、卵管のほか、周囲の組織や膣の一部も切除する。骨盤内や腹部大動脈周囲の[[リンパ節郭清]]を行うこともある。
:; 広汎子宮全摘出術 :II期の場合(及びIII期の一部)。子宮、卵巣、卵管のほか、周囲の組織も広い範囲で切除する。通常、骨盤内のリンパ節郭清も同時に行い、場合によっては腹部大動脈周囲のリンパ節郭清も行う。
; 放射線療法 :III期~IV期で、がんが子宮外に拡がり比較的狭い範囲に固まっている場合。あるいは、手術後にがんが再発した場合。
: [[X線]]や高エネルギー線を照射し、がん細胞を殺す。体外の機材から照射する方法(外照射)と、子宮腔内や腟内に小さな放射線源を入れる方法(腔内照射)がある。
: 手術と併せて行う場合と、高齢または他の病気による体の負担やがんの拡がり具合のため手術ができずに単独で行われる場合とがある。
; [[化学療法 (悪性腫瘍)|化学療法]] :III期~IV期で、がんが子宮外に拡がっていたり全身に転移のある場合。あるいは、手術後にがんが再発した場合。
: [[抗がん剤]]を内服や点滴で投与し、がん細胞を殺す。
: 手術と併せて行う場合と、既に全身に[[転移 (医学)|転移]]しているなど手術ができずに単独で行われる場合とがある。
:術後に化学療法を行う場合にはGOG122試験の結果からAP療法(ドキソルビシン+シスプラチンの併用療法)を行う。
:進行・再発例に対してはAP療法(GOG107試験)、TAP療法(AP療法+パクリタキセル;GOG177試験)、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン;GOG209試験)が選択肢となる。TAP療法はAP療法に対する優越性が確認されたものの、毒性が強いため[[標準治療]]としての地位を確立できなかった。TC療法はTAP療法に対する非劣性が確認された。ホルモン受容体陽性例には内分泌療法も検討する(GOG81試験)。MSI-high症例には他の固形癌と同様にペムブロリズマブが選択肢となる。
{{Main|[[転移 (医学)|転移]]}}

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

== 参考文献 == <!-- {{Cite book}} --> <!-- {{Cite journal}} -->
* 『[http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0066/G0000271 子宮体癌治療ガイドライン 2009年版]』 日本産婦人科腫瘍学会 ([http://minds.jcqhc.or.jp/ Minds医療情報サービス])
* 『[http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0066/G0000135 子宮体癌治療ガイドライン 2006年版]』 日本産婦人科腫瘍学会 (Minds医療情報サービス)

== 関連項目 ==
<!-- {{Commonscat|}} -->
* [[婦人科学]]
* [[癌の一覧]]

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[[Category:がん (悪性腫瘍)]]
[[Category:婦人科疾患]]
[[Category:子宮]]

2023年5月18日 (木) 12:29時点における版

子宮体癌とは、子宮腔側の上皮組織である子宮内膜から生じる腺癌)である[1]

概要

子宮体癌の始めの症状は、月経に関係しないからの出血である[1]。この出血の程度によっては、血がおりものに混ざり褐色になることもある[2]。その他の症状には排尿での痛み(排尿障害[1]性交での痛み(性交疼痛症英語版[1]、下腹部の痛み[2]などがある。

子宮体癌患者の約 40% が肥満であり[3]、実際に肥満は子宮体癌の原因のひとつとされている[4]。また、出産経験が無い[4][1]閉経が遅い[4][1]乳癌の治療で用いられるタモキシフェンの服用[4][1]更年期障害の治療で用いられるエストロゲンの服用[4][1]、月経を幼少期に迎えた[1]糖尿病[4]、近親者に大腸癌患者が居る[4]、月経不順(無排卵月経(無排卵性月経周期、無排卵周期症、無排卵性周期症などとも)[5]、高齢[6]なども、子宮体癌の原因である。

日本での子宮体癌の予防には、禁煙[4][7]、節度のある飲酒[4][7]、バランスの良い食事[4][7][8]野菜果物の摂取[7]、適度な運動の実践[4][7][8]、太り過ぎない[7]、痩せ過ぎない[7]などが効果的と言われている。

子宮体癌の検査には、膣から子宮内に細いチューブやブラシを入れ、子宮内膜の細胞を少し採取し、この検体(細胞診検体)から癌の細胞があるかどうかを検査する細胞診断、膣に手を入れて検査する内診肛門に手を入れて検査する直腸診血液検査尿検査で癌の種類により特徴的に産生される物質「腫瘍マーカー」の成分を検査する腫瘍マーカー検査などがある[9]

国立がん研究センターによれば、2019年女性の子宮体癌患者数は、乳癌、大腸癌、肺癌胃癌膵臓癌に次いで5位で17880名である[10]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i Endometrial Cancer Treatment (PDQ®)–Patient Version - NCI”. 2023年5月16日閲覧。
  2. ^ a b 子宮体がん(子宮内膜がん):[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]”. 2023年5月16日閲覧。
  3. ^ International Agency for Research on Cancer (2014). World Cancer Report 2014. World Health Organization. Chapter 5.12. ISBN 978-92-832-0429-9 
  4. ^ a b c d e f g h i j k 子宮体がん(子宮内膜がん) 予防・検診:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]”. 2023年5月16日閲覧。
  5. ^ 子宮体がん|公益社団法人 日本産科婦人科学会”. 2023年5月16日閲覧。
  6. ^ Adjuvant chemotherapy for advanced endometrial cancer - PMC”. 2023年5月16日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g 科学的根拠に基づくがん予防:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]”. 2023年5月16日閲覧。
  8. ^ a b 子宮体がん | 生活習慣病 | 生活習慣病を予防する 特定非営利活動法人 日本成人病予防協会”. 2023年5月16日閲覧。
  9. ^ 子宮体がん(子宮内膜がん) 検査:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]”. 2023年5月16日閲覧。
  10. ^ cancer_incidenceNCR(2016-2019).xls”. 2023年5月16日閲覧。