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'''フィチン酸'''(フィチンさん、phytic acid)は生体物質の1種で、''myo''-[[イノシトール]]の六[[リン酸エステル]]。''myo''-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六リン酸(''myo''-inositol-1,2,3,4,5,6-hexaphosphate または hexakisphosphate または hexakis(dihydrogenphosphate))とも言う。略称は IP{{sub|6}}。組成式は C{{sub|6}}H{{sub|18}}O{{sub|24}}P{{sub|6}} 、[[分子量]]は 660.08、[[CAS登録番号]]は [83-86-3]。[[種子]]など多くの[[植物]]組織に存在する主要な[[リン]]の貯蔵形態であり、特にフィチン(Phytin: フィチン酸の[[カルシウム]]・[[マグネシウム]]混合塩で、水不溶性)の形が多く存在する<ref name=nskkk1962.39.647>早川利郎、伊賀上郁夫、「[https://doi.org/10.3136/nskkk1962.39.647 フィチン酸の構造と機能]」 『日本食品工業学会誌』 Vol. 39 (1992) No. 7 P 647-655, {{DOI|10.3136/nskkk1962.39.647}}</ref>。[[キレート]]作用が強く、多くの[[金属]][[イオン]]を強く結合する。ミオイノシトールと共通の作用を持つとされている<ref name=jsnfs.58.151> 岡崎由佳子、片山徹之、「[https://doi.org/10.4327/jsnfs.58.151 フィチン酸の栄養的再評価 ミオイノシトールとの共通性を中心に]」『日本栄養・食糧学会誌』 Vol.58 (2005) No.3 P.151-156, {{DOI|10.4327/jsnfs.58.151}}</ref>。
'''フィチン酸'''(フィチンさん、phytic acid)は生体物質の1種で、''myo''-[[イノシトール]]の六[[リン酸エステル]]。''myo''-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六リン酸(''myo''-inositol-1,2,3,4,5,6-hexaphosphate または hexakisphosphate または hexakis(dihydrogenphosphate))とも言う。略称は IP{{sub|6}}。[[種子]]など多くの[[植物]]組織に存在する主要な[[リン]]の貯蔵形態であり、特にフィチン(Phytin: フィチン酸の[[カルシウム]]・[[マグネシウム]]混合塩で、水不溶性)の形が多く存在する<ref name=nskkk1962.39.647>早川利郎、伊賀上郁夫、「[https://doi.org/10.3136/nskkk1962.39.647 フィチン酸の構造と機能]」 『日本食品工業学会誌』 Vol. 39 (1992) No. 7 P 647-655, {{DOI|10.3136/nskkk1962.39.647}}</ref>。ミオイノシトールと共通の作用を持つとされている<ref name=jsnfs.58.151/>。


== 解説 ==
== 分布 ==
フィチン酸は未精製の穀物や豆類に多く含まれる。精製後の穀物にも少量含まれているが、白米では炊飯により多くが分解される<ref>森治夫、「[https://doi.org/10.4327/jsnfs1949.12.254 本邦産穀類及び穀類製品のフィチン酸の研究(第1報)]」『栄養と食糧』 Vol. 12 (1959-1960) No. 4 P.254-257, {{DOI|10.4327/jsnfs1949.12.254}}</ref><ref>「[https://doi.org/10.4327/jsnfs1949.12.258 本邦産穀類及び穀類製品のフィチン酸の研究 (第2報) 数種の穀類及び穀類製品のフィチン酸含有量について]」『栄養と食糧』 Vol.12 (1959-1960) No.4 P.258-260, {{DOI|10.4327/jsnfs1949.12.258}}</ref>。
フィチン酸の形のリンは、非反芻動物ではフィチン酸[[消化酵素]]である{{仮リンク|フィターゼ|en|Phytase}}(フィチン酸を[[加水分解]]しリン酸を遊離する酵素)がないため、一般に吸収されにくい。一方[[反芻]]動物はルーメン(反芻胃)内の[[微生物]]によって作られるフィターゼがこれを分解するためフィチンを利用できる。現在非反芻動物([[ブタ]]、[[ニワトリ]]など)は主に[[ダイズ]]、[[トウモロコシ]]などの[[穀物]]で肥育されているが、これらに含まれるフィチンは動物に吸収されずに腸管を通過するため、自然界のリン濃度を上昇させ、[[富栄養化]]などの[[環境問題]]につながる恐れがある。飼料にフィターゼを添加することでフィチン由来のリンの吸収を増すことができる。またいくつかの穀物で、種子のフィチン酸含量を大幅に低下させ無機リン含量を上昇させた[[品種]]が作出されている。しかし生育に問題があることからこれらの品種は広く利用されるに至っていない


<ref name="pmid8304953">{{cite journal |authors=Weisburger JH, Reddy BS, Rose DP, Cohen LA, Kendall ME, Wynder EL |title=Protective mechanisms of dietary fibers in nutritional carcinogenesis |journal=Basic Life Sci. |volume=61 |issue= |pages=45–63 |date=1993 |pmid=8304953 |doi= |url=}}</ref>。
フィチン酸は未精製の穀物や豆類に多く含まれる。精製後の穀物にも少量含まれているが、白米では炊飯により多くが分解される<ref>森治夫、「[https://doi.org/10.4327/jsnfs1949.12.254 本邦産穀類及び穀類製品のフィチン酸の研究(第1報)]」『栄養と食糧』 Vol. 12 (1959-1960) No. 4 P.254-257, {{DOI|10.4327/jsnfs1949.12.254}}</ref><ref>「[https://doi.org/10.4327/jsnfs1949.12.258 本邦産穀類及び穀類製品のフィチン酸の研究 (第2報) 数種の穀類及び穀類製品のフィチン酸含有量について]」『栄養と食糧』 Vol.12 (1959-1960) No.4 P.258-260, {{DOI|10.4327/jsnfs1949.12.258}}</ref>。フィチン酸は[[鉄]]、[[亜鉛]]など重要なミネラルに対して強い[[キレート]]作用を示すため、一方、この性質が腸管での酸化ダメージを減らすことで[[大腸がん]]の予防に役立つ可能性がある。抽出したフィチン酸を添加した1925年の研究を根拠に、食品中のミネラルやタンパク質との強い結合となっている場合に、消化吸収を妨げる方向に働くと考えられてきた。しかし、現在では[[糠]]などに閉じ込められた状態ではミネラルの吸収に問題が見られないことがわかってきた。ただし、ミネラルが著しく少ない食事において、フィチン酸が大量の場合にミネラルの吸収を阻害する可能性があり、この作用は必須ミネラルの摂取量が著しく低い発展途上国の子供のような人々には好ましくない


== 動物による利用 ==
1960年代から食物繊維が大腸がんを予防するのではないかと考えられてきたが、1985年、がんを予防しているのは食物繊維ではなくて繊維に含まれるフィチン酸の摂取量が多い場合に大腸がんの発生率が少ないことが報告された<ref name=nskkk1962.39.647 />。その後、フィチン酸の単独投与によってがんの抑制作用が観察されていった。
フィチン酸の形のリンは、非反芻動物ではフィチン酸[[消化酵素]]である{{仮リンク|フィターゼ|en|Phytase}}(フィチン酸を[[加水分解]]しリン酸を遊離する酵素)がないため、一般に吸収されにくい。一方[[反芻]]動物はルーメン(反芻胃)内の[[微生物]]によって作られるフィターゼがこれを分解するためフィチンを利用できる。


現在非反芻動物([[ブタ]]、[[ニワトリ]]など)は主に[[ダイズ]]、[[トウモロコシ]]などの[[穀物]]で肥育されているが、これらに含まれるフィチンは動物に吸収されずに腸管を通過するため、自然界のリン濃度を上昇させ、[[富栄養化]]などの[[環境問題]]につながる恐れがある。飼料にフィターゼを添加することでフィチン由来のリンの吸収を増すことができる。
1998年には京都で、フィチン酸などの米ぬか成分に関する国際シンポジウムが開かれ、フィチン酸の生理作用の研究報告がなされた。[[尿路結石]]や[[腎結石]]の予防、[[歯垢]]形成の抑制、大腸がん、乳がん、肺がん、皮膚がんの予防に役立つ可能性がある。抗がん作用や抗腫瘍作用、抗酸化作用による治療への応用が期待されて研究が進められている。イノシトールとの同時に摂取したほうが効果が吸収されやすい。現在では、単独に遊離された[[サプリメント]]が流通している

またいくつかの穀物で、種子のフィチン酸含量を大幅に低下させ無機リン含量を上昇させた[[品種]]が作出されている。しかし生育に問題があることからこれらの品種は広く利用されるに至っていない。

== 吸収や欠乏 ==
[[画像:Pita (bread).JPG|thumb|[[ピタ]]。これだけを主に食べている地域での観察によって、フィチン酸は子供の発育に悪影響を及ぼす可能性があるとされてきたが、その他の多くの地域では他の食材が豊富なので、そのようにミネラルが欠乏するほどではない<ref name="pmid8304953">{{cite journal |authors=Weisburger JH, Reddy BS, Rose DP, Cohen LA, Kendall ME, Wynder EL |title=Protective mechanisms of dietary fibers in nutritional carcinogenesis |journal=Basic Life Sci. |volume=61 |issue= |pages=45–63 |date=1993 |pmid=8304953 |doi= |url=}}</ref>。]]

抽出したフィチン酸を添加した1925年の研究を根拠に、食品中のミネラルやタンパク質との強い結合となっている場合に、消化吸収を妨げる方向に働くと考えられてきた。

フィチン酸は[[マグネシウム]]、[[亜鉛]]など重要なミネラルの利用率を低下させると考えられてきたが、その背景にはイランのように、主に[[ピタ]]だけを食べている地域の観察によって子供の発育に悪影響が出ると考えられるようになったことがあるが、多くの他の地域では肉や魚、野菜や果物が豊富なのでそのような欠乏のおそれはない<ref name="pmid8304953"/>{{sfn|アブルカラム・M. シャムスディン|2000|pp=143-145}}<!--論文の訳文抜粋がある-->。ミネラルが著しく少ない食事において、フィチン酸が大量の場合にミネラルの吸収を阻害する可能性があり、この作用は必須ミネラルの摂取量が著しく低い発展途上国の子供のような人々には好ましくない。

1984年に大川らがフィチン酸の多い米ぬかを毎日10グラム、2年間にわたり高カルシウム血症の患者に投与した研究があるが、カルシウム、リン、マグネシウムの低下はなかった<ref name="pmid3801813">{{cite journal |authors=Ebisuno S, Morimoto S, Yoshida T, Fukatani T, Yasukawa S, Ohkawa T |title=Rice-bran treatment for calcium stone formers with idiopathic hypercalciuria |journal=Br J Urol |volume=58 |issue=6 |pages=592–5 |date=December 1986 |pmid=3801813 |doi= |url=}}</ref>{{sfn|アブルカラム・M. シャムスディン|2000|pp=143-145}}。

1980年代以降には、フィチン酸の摂取によって、脳や心臓組織中のフィチン酸が増加し、また組織中でフィチン酸が合成されていることからビタミンのような物質だと考えられるようになってきた<ref name=jsnfs.58.151> 岡崎由佳子、片山徹之、「[https://doi.org/10.4327/jsnfs.58.151 フィチン酸の栄養的再評価 ミオイノシトールとの共通性を中心に]」『日本栄養・食糧学会誌』 Vol.58 (2005) No.3 P.151-156, {{DOI|10.4327/jsnfs.58.151}}</ref>。

== 健康への有益作用 ==
単独に遊離された[[サプリメント]]が流通している。

食事調査では、1960年代から食物繊維が大腸がんを予防するのではないかと考えられてきたが、1985年、がんを予防しているのは食物繊維ではなくて繊維に含まれるフィチン酸の摂取量が多い場合に大腸がんの発生率が少ないことが報告された<ref name=nskkk1962.39.647 />。その後、フィチン酸の単独投与によってがんの抑制作用が観察されていった。

1998年には京都で、フィチン酸などの米ぬか成分に関する国際シンポジウムが開かれ、フィチン酸の生理作用の研究報告がなされた{{sfn|アブルカラム・M. シャムスディン}}。[[尿路結石]]や[[腎結石]]の予防、[[歯垢]]形成の抑制、大腸がん、乳がん、肺がん、皮膚がんの予防に役立つ可能性がある{{sfn|アブルカラム・M. シャムスディン}}。抗がん作用や抗腫瘍作用、抗酸化作用による治療への応用が期待されて研究が進められている{{sfn|アブルカラム・M. シャムスディン}}。イノシトールとの同時に摂取したほうが効果が吸収されやすい。

2002年の文献探索によって、フィチン酸の抗がん作用の研究は人は対象とされておらず、主に動物を対象とした28研究が発見されている<ref name="pmid12594974">{{cite journal |authors=Fox CH, Eberl M |title=Phytic acid (IP6), novel broad spectrum anti-neoplastic agent: a systematic review |journal=Complement Ther Med |volume=10 |issue=4 |pages=229–34 |date=December 2002 |pmid=12594974 |doi= |url=}}</ref>。


==摂取==
==摂取==
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==参考文献==
==参考文献==
* アブルカラム・M. シャムスディン天然抗ガン物質IP6の驚異―革命的効果でガンの治療が変わる』坂本孝作・訳、講談社ブルーバックス、2000年。ISBN 978-4062573047
* {{Cite book |和書 |author=アブルカラム・M. シャムスディン |translator=坂本孝 |date=2000 |title=天然抗ガン物質IP6の驚異―革命的効果でガンの治療が変わる |publisher=講談社 |series=ブルーバックス |isbn=978-4062573047| ref=harv }}
* {{cite journal |title=フィチン酸の構造と機能 |authors=早川利郎、伊賀上郁夫 |journal=日本食品工業学会誌|volume=39|number=7|year=1992|url=https://doi.org/10.3136/nskkk1962.39.647 |doi=10.3136/nskkk1962.39.647 }}
* {{cite journal
|title=フィチン酸の構造と機能
|authors=早川利郎、伊賀上郁夫
|journal=日本食品工業学会誌|volume=39|number=7|year=1992
|url=https://doi.org/10.3136/nskkk1962.39.647
|doi=10.3136/nskkk1962.39.647
}}


==出典==
==出典==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* 木村午朗、「[https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.25.167 フチン酸について]」 『有機合成化学協会誌』 Vol.25 (1967) No.2 P.167-179, {{DOI|10.5059/yukigoseikyokaishi.25.167}}
* 木村午朗、「[https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.25.167 フチン酸について]」 『有機合成化学協会誌』 Vol.25 (1967) No.2 P.167-179, {{DOI|10.5059/yukigoseikyokaishi.25.167}}
* [http://web.archive.org/web/20080118133051/http://www.ip-6.jp/ IP-6.jp IP6とイノシトール](2008年1月18日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]])
* [http://www.nutrition.org/cgi/content/full/133/11/3778S ''Cancer Inhibition by Inositol Hexaphosphate (IP6) and Inositol: From Laboratory to Clinic'']
*{{cite journal |authors=Gibson RS |title=A historical review of progress in the assessment of dietary zinc intake as an indicator of population zinc status |journal=Adv Nutr |volume=3 |issue=6 |pages=772–82 |date=November 2012 |pmid=23153731 |doi=10.3945/an.112.002287 |url=https://doi.org/10.3945/an.112.002287}}



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2019年5月16日 (木) 07:11時点における版

フィチン酸
{{{画像alt1}}}
フィチン酸の構造
識別情報
CAS登録番号 83-86-3 チェック
PubChem 890
ChemSpider 16735966 チェック
UNII 7IGF0S7R8I チェック
日化辞番号 J9.332G
E番号 E391 (酸化防止剤およびpH調整剤)
KEGG C01204
ChEBI
特性
化学式 C6H18O24P6
モル質量 660.04 g mol−1
外観 淡褐色油状液体
関連する物質
関連物質 イノシトール
イノシトールリン酸
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

フィチン酸(フィチンさん、phytic acid)は生体物質の1種で、myo-イノシトールの六リン酸エステルmyo-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六リン酸(myo-inositol-1,2,3,4,5,6-hexaphosphate または hexakisphosphate または hexakis(dihydrogenphosphate))とも言う。略称は IP6種子など多くの植物組織に存在する主要なリンの貯蔵形態であり、特にフィチン(Phytin: フィチン酸のカルシウムマグネシウム混合塩で、水不溶性)の形が多く存在する[1]。ミオイノシトールと共通の作用を持つとされている[2]

分布

フィチン酸は未精製の穀物や豆類に多く含まれる。精製後の穀物にも少量含まれているが、白米では炊飯により多くが分解される[3][4]

[5]

動物による利用

フィチン酸の形のリンは、非反芻動物ではフィチン酸消化酵素であるフィターゼ英語版(フィチン酸を加水分解しリン酸を遊離する酵素)がないため、一般に吸収されにくい。一方反芻動物はルーメン(反芻胃)内の微生物によって作られるフィターゼがこれを分解するためフィチンを利用できる。

現在、非反芻動物(ブタニワトリなど)は、主にダイズトウモロコシなどの穀物で肥育されているが、これらに含まれるフィチンは動物に吸収されずに腸管を通過するため、自然界のリン濃度を上昇させ、富栄養化などの環境問題につながる恐れがある。飼料にフィターゼを添加することでフィチン由来のリンの吸収を増すことができる。

またいくつかの穀物で、種子のフィチン酸含量を大幅に低下させ無機リン含量を上昇させた品種が作出されている。しかし生育に問題があることからこれらの品種は広く利用されるに至っていない。

吸収や欠乏

ピタ。これだけを主に食べている地域での観察によって、フィチン酸は子供の発育に悪影響を及ぼす可能性があるとされてきたが、その他の多くの地域では他の食材が豊富なので、そのようにミネラルが欠乏するほどではない[5]

抽出したフィチン酸を添加した1925年の研究を根拠に、食品中のミネラルやタンパク質との強い結合となっている場合に、消化吸収を妨げる方向に働くと考えられてきた。

フィチン酸はマグネシウム亜鉛など重要なミネラルの利用率を低下させると考えられてきたが、その背景にはイランのように、主にピタだけを食べている地域の観察によって子供の発育に悪影響が出ると考えられるようになったことがあるが、多くの他の地域では肉や魚、野菜や果物が豊富なのでそのような欠乏のおそれはない[5][6]。ミネラルが著しく少ない食事において、フィチン酸が大量の場合にミネラルの吸収を阻害する可能性があり、この作用は必須ミネラルの摂取量が著しく低い発展途上国の子供のような人々には好ましくない。

1984年に大川らがフィチン酸の多い米ぬかを毎日10グラム、2年間にわたり高カルシウム血症の患者に投与した研究があるが、カルシウム、リン、マグネシウムの低下はなかった[7][6]

1980年代以降には、フィチン酸の摂取によって、脳や心臓組織中のフィチン酸が増加し、また組織中でフィチン酸が合成されていることからビタミンのような物質だと考えられるようになってきた[2]

健康への有益作用

単独に遊離されたサプリメントが流通している。

食事調査では、1960年代から食物繊維が大腸がんを予防するのではないかと考えられてきたが、1985年、がんを予防しているのは食物繊維ではなくて繊維に含まれるフィチン酸の摂取量が多い場合に大腸がんの発生率が少ないことが報告された[1]。その後、フィチン酸の単独投与によってがんの抑制作用が観察されていった。

1998年には京都で、フィチン酸などの米ぬか成分に関する国際シンポジウムが開かれ、フィチン酸の生理作用の研究報告がなされた[8]尿路結石腎結石の予防、歯垢形成の抑制、大腸がん、乳がん、肺がん、皮膚がんの予防に役立つ可能性がある[8]。抗がん作用や抗腫瘍作用、抗酸化作用による治療への応用が期待されて研究が進められている[8]。イノシトールとの同時に摂取したほうが効果が吸収されやすい。

2002年の文献探索によって、フィチン酸の抗がん作用の研究は人は対象とされておらず、主に動物を対象とした28研究が発見されている[9]

摂取

食品中のフィチン酸含有量

穀類のぬか胚芽および豆類に多く含まれている。

食品中のフィチン酸含有量
食品中のフィチン酸含有量[10]
食品 フィチン酸
[ g/100g(乾燥重量)]
とうもろこし(胚芽) 6.39
米() 2.56-8.7
小麦(ふすま) 2.1-7.3
亜麻仁 2.15-3.69
ゴマ 1.44-5.36
小麦(胚芽) 1.14-3.91
大豆 1.0-2.22
とうもろこし 0.72-2.22
いんげん豆 0.61-2.38
ライ麦 0.54-1.46
オート麦 0.42-1.16
小麦 0.39-1.35
アーモンド 0.35-9.42
えんどう豆 0.22-1.22
くるみ 0.20-6.69
カシューナッツ 0.19-4.98
ピーナツ 0.17-4.47
豆腐 0.1-2.29
0.06-1.08
推定摂取量
国別の推定摂取量[10]
対象 摂取量(mg/日)
イギリス 600-800
イタリア 平均 293
米国 平均 750
インド 成人 1290-2500
中国 都市部 781
中国 非都市部 1342
体内での分布

ラットにフィチン酸CaMg塩を摂取させた場合、脳に最も多く蓄積される。[10]

安全性

詳細は出典参照のこと。

NOAEL[11][12][13]
ラット 経口 300mg/kg bw/day (2.5%未満 水溶液投与)
LD50[11][12][13]
ラット♂ 経口 405mg/kg bw
ラット♀ 経口 480mg/kg bw

参考文献

  • アブルカラム・M. シャムスディン 著、坂本孝 訳『天然抗ガン物質IP6の驚異―革命的効果でガンの治療が変わる』講談社〈ブルーバックス〉、2000年。ISBN 978-4062573047 
  • 早川利郎、伊賀上郁夫 (1992). “フィチン酸の構造と機能”. 日本食品工業学会誌 39 (7). doi:10.3136/nskkk1962.39.647. https://doi.org/10.3136/nskkk1962.39.647. 

出典

  1. ^ a b 早川利郎、伊賀上郁夫、「フィチン酸の構造と機能」 『日本食品工業学会誌』 Vol. 39 (1992) No. 7 P 647-655, doi:10.3136/nskkk1962.39.647
  2. ^ a b 岡崎由佳子、片山徹之、「フィチン酸の栄養的再評価 ミオイノシトールとの共通性を中心に」『日本栄養・食糧学会誌』 Vol.58 (2005) No.3 P.151-156, doi:10.4327/jsnfs.58.151
  3. ^ 森治夫、「本邦産穀類及び穀類製品のフィチン酸の研究(第1報)」『栄養と食糧』 Vol. 12 (1959-1960) No. 4 P.254-257, doi:10.4327/jsnfs1949.12.254
  4. ^ 本邦産穀類及び穀類製品のフィチン酸の研究 (第2報) 数種の穀類及び穀類製品のフィチン酸含有量について」『栄養と食糧』 Vol.12 (1959-1960) No.4 P.258-260, doi:10.4327/jsnfs1949.12.258
  5. ^ a b c Weisburger JH, Reddy BS, Rose DP, Cohen LA, Kendall ME, Wynder EL (1993). “Protective mechanisms of dietary fibers in nutritional carcinogenesis”. Basic Life Sci. 61: 45–63. PMID 8304953. 
  6. ^ a b アブルカラム・M. シャムスディン 2000, pp. 143–145.
  7. ^ Ebisuno S, Morimoto S, Yoshida T, Fukatani T, Yasukawa S, Ohkawa T (December 1986). “Rice-bran treatment for calcium stone formers with idiopathic hypercalciuria”. Br J Urol 58 (6): 592–5. PMID 3801813. 
  8. ^ a b c アブルカラム・M. シャムスディン.
  9. ^ Fox CH, Eberl M (December 2002). “Phytic acid (IP6), novel broad spectrum anti-neoplastic agent: a systematic review”. Complement Ther Med 10 (4): 229–34. PMID 12594974. 
  10. ^ a b c “Phytate in foods and significance for humans: Food sources, intake, processing, bioavailability, protective role and analysis”. Molecular Nutrition & Food Research 53 (Supplement S2): Table.9. (2009). doi:10.1002/mnfr.200900099. PMID 19774556. 
  11. ^ a b フィチン酸”. 日本医薬品添加剤協会. 2017年10月2日閲覧。
  12. ^ a b “Carcinogenicity study in rats of phytic acid ‘Daiichi’, a natural food additive”. Food and Chemical Toxicology 30 (2). (1992). doi:10.1016/0278-6915(92)90146-C. PMID 1555793. 
  13. ^ a b 既存添加物の安全性評価に関する調査研究(平成8年度調査) 別添1”. 公益財団法人 日本食品化学研究振興財団. 2017年10月2日閲覧。

外部リンク