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'''シデロホア'''(ギリシャ語: "鉄運搬体")とは、[[微生物]]やいわゆる[[栄養素 (植物)|ストラテジーII植物]]（[[イネ科]]植物）が分泌する[[鉄]][[キレート剤]]である<ref name= |
'''シデロホア'''(ギリシャ語: "鉄運搬体")とは、[[微生物]]やいわゆる[[栄養素 (植物)|ストラテジーII植物]]（[[イネ科]]植物）が分泌する[[鉄]][[キレート剤]]である<ref name=Neilands1 /><ref name="J. B. Neilands" /><ref name="R. C. Hider" /><ref name="J. H. Crosa" /><ref name="CornelisP" /><ref name="Miller" />。知られている中で、Fe<sup>3+</sup> に対して最も高い[[化学親和力|親和性]]を持つ水溶性化合物の一つである。 |
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== 概要 == |
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まず、自然界における鉄の役割を説明する。鉄はすべての生物において必須の栄養素である。[[代謝]]や[[DNA]]の合成に要求される。この元素は地球の[[地殻]]において最も豊富なものの一つであるにもかかわらず、土壌や海洋といった多くの環境での[[生物学的利用能]]は限定的である。これは、水中でのFe<sup>3+</sup> イオンの[[溶解度]]が低いためによる。この三価イオンの形態は、酸素存在下を含む非酸性の水中で優勢である。また、[[酸化鉄]]や[[水酸化鉄]]といった一般的な[[鉱物相]]－土壌の赤色や黄色を形成している－として自然界に蓄積されている。しかし、生物は三価鉄を容易に利用することはできない<ref name="Kraemer">< |
まず、自然界における鉄の役割を説明する。鉄はすべての生物において必須の栄養素である。[[代謝]]や[[DNA]]の合成に要求される。この元素は地球の[[地殻]]において最も豊富なものの一つであるにもかかわらず、土壌や海洋といった多くの環境での[[生物学的利用能]]は限定的である。これは、水中でのFe<sup>3+</sup> イオンの[[溶解度]]が低いためによる。この三価イオンの形態は、酸素存在下を含む非酸性の水中で優勢である。また、[[酸化鉄]]や[[水酸化鉄]]といった一般的な[[鉱物相]]－土壌の赤色や黄色を形成している－として自然界に蓄積されている。しかし、生物は三価鉄を容易に利用することはできない<ref name="Kraemer" /><ref name="Kraemer&Borer" />。微生物やイネ科植物は、鉄を利用するためにシデロホアを分泌する。この化合物は、鉱物相からFe<sup>3+</sup> [[錯体]]を取り出し、[[能動輸送]]により鉄を栄養素として吸収することを可能にする。多くのシデロホアは[[非リボソームペプチド]]であり<ref name="R. C. Hider" /><ref name="Miethke" />、いくつかは独立して生合成される<ref name=Challis2005 />。シデロホアはいくつかの病原微生物にとっても重要である<ref name="R. C. Hider" /><ref name="J. H. Crosa" /><ref name="Miller" />。宿主の哺乳類体内で鉄は[[ヘモグロビン]]、[[トランスフェリン]]、[[ラクトフェリン]]、[[フェリチン]]と結合している。細菌体内の鉄分濃度は10<sup>−24</sup> mol L<sup>−1</sup>程度に維持される必要があるため<ref name="Raymond" />、細菌は外部から鉄を獲得する機構を具えている。例えば、[[炭疽症]]の原因菌''[[炭疽菌|Bacillus anthracis]]''は2種類のシデロホア、バチリバクチン[ bacillibactin ]とペトロバクチン[ petrobactin ]を分泌し、鉄タンパク質から二価鉄を吸収している。バチリバクチンは免疫タンパク質シデロカリンsiderocalinとの結合性を示す<ref name="Raymond2" />。一方、ペトロバクチンは免疫系に捕捉される実験結果は確認されておらず、また、マウスにおいて病毒性に重要であることが明らかとなっている<ref name=Cendrowski2004 />。 |
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シデロホアの中でも、[[エンテロバクチン]][ enterobactin ]が最もFe<sup>3+</sup> との結合性が強いとされる<ref name="Raymond" |
シデロホアの中でも、[[エンテロバクチン]][ enterobactin ]が最もFe<sup>3+</sup> との結合性が強いとされる<ref name="Raymond" />。鉄に対する高いキレート作用のため、シデロホアは、[[鉄中毒]]や[[サラセミア]]といった人体内の鉄濃度異常に対する治療への利用が研究されている。いわゆる、[[キレーション療法]]のための治療薬として期待されている。すでに、シデロホアの一つである[[デフェロキサミン|デフェロキサミンB]]が実用化されている。<ref name="T. Zhou" />いくつかの病原微生物はシデロホアではなく、[[ヘム]]と結合する'''ヘムホア'''を産生する。また、これらの鉄結合性物質を外部へと分泌せず、細胞膜上で鉄イオンまたはヘムタンパク質と結合する[[受容体]]を持つものも存在する<ref name="Vogel" />。これらとは別に、真核生物は鉄獲得の機構を持つ。すなわち、環境中のpHを低下させる、あるいは、不溶性の三価鉄を二価鉄に還元させる。 |
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== 構造 == |
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[[ファイル:Catecholate-Iron-Complex.png|right|thumb|カテコレート-鉄錯体]] |
[[ファイル:Catecholate-Iron-Complex.png|right|thumb|カテコレート-鉄錯体]] |
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シデロホアは通常、６座配位子の正八面体の安定した化合物である。最も強力なシデロホアは、分子一つ当たり3つの2座配位子を有しており、6座配位子錯体を形成する。このとき、別々の配位子で鉄分子を一つだけキレートしているときよりも[[エントロピー]]変化は小さい<ref name="John M. Roosenberg" |
シデロホアは通常、６座配位子の正八面体の安定した化合物である。最も強力なシデロホアは、分子一つ当たり3つの2座配位子を有しており、6座配位子錯体を形成する。このとき、別々の配位子で鉄分子を一つだけキレートしているときよりも[[エントロピー]]変化は小さい<ref name="John M. Roosenberg" />。シデロホアの包括的なリストは作成されている<ref name="Appendix(i)"><cite class="citation journal" contenteditable="false">R. C. Hider and X. Kong (2010). </cite></ref>。シデロホアが反応する鉄はFe<sup>3+</sup> であり、Fe2+に対する親和性は低い。微生物は一般的に、シデロホアと結合しているFe3+ をFe<sup>2+</sup> に還元することでシデロホアから鉄分を放出させている<ref name="Miethke" />。 |
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シデロホアはその配位子により分類されている。多数派のグループには[[カテコール]]（フェノラート）、[[ヒドロキサム酸]]、各種[[カルボン酸]]（例えば、[[クエン酸]]誘導体）が含まれる |
シデロホアはその配位子により分類されている。多数派のグループには[[カテコール]]（フェノラート）、[[ヒドロキサム酸]]、各種[[カルボン酸]]（例えば、[[クエン酸]]誘導体）が含まれる。クエン酸はシデロホアとして働くことができる<ref name=Winkelmann1999 />。シデロホアには多くの種類が存在するが、これは微生物間の生存競争にかけて生じた進化圧の結果である。すなわち、各種微生物にとって自身のシデロホアが他の種の輸送体に横取りされることを避け、かつ、病原微生物の場合は宿主の免疫系により不活性化されることを防がなければならない<ref name="R. C. Hider" /><ref name="Miller" />。 |
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== 種類 == |
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環境中の鉄が欠乏すると細胞内の鉄イオン濃度が低くなり、Fe<sup>2+</sup> がリプレッサーから分離し、リプレッサーはDNAから遊離する。こうして、抑制されていた遺伝子は発現するようになり、鉄の獲得能力は底上げされる。 |
環境中の鉄が欠乏すると細胞内の鉄イオン濃度が低くなり、Fe<sup>2+</sup> がリプレッサーから分離し、リプレッサーはDNAから遊離する。こうして、抑制されていた遺伝子は発現するようになり、鉄の獲得能力は底上げされる。 |
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[[グラム陰性]]および、ゲノムDNAに[[アデニン]]と[[チミン]]が豊富な[[グラム陽性細菌]]において、通常、リプレッサーは''Fur'' (ferric uptake regulator)リプレッサーである。一方、ゲノムDNAに[[グアニン]]と[[シトシン]]が豊富なグラム陽性細菌([[放線菌]] |
[[グラム陰性]]および、ゲノムDNAに[[アデニン]]と[[チミン]]が豊富な[[グラム陽性細菌]]において、通常、リプレッサーは''Fur'' (ferric uptake regulator)リプレッサーである。一方、ゲノムDNAに[[グアニン]]と[[シトシン]]が豊富なグラム陽性細菌([[放線菌門]][ [[放線菌|Actinobacteria]] ]など)の場合は、''DtxR'' (diphtheria toxin repressor)である。''DtxR''の名称は、''Corynebacterium diphtheriae''において制御する遺伝子が人体に危険な[[ジフテリア]]毒素[ diphtheria toxin ]であるためである<ref name="Miethke" />。 |
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=== 植物 === |
=== 植物 === |
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[[ファイル:Deoxymugineic_acid_and_nicotianamine.png|thumb|ファイトシデロホアの一つであるデオキシムギネ酸[ Deoxymugineic acid ]]] |
[[ファイル:Deoxymugineic_acid_and_nicotianamine.png|thumb|ファイトシデロホアの一つであるデオキシムギネ酸[ Deoxymugineic acid ]]] |
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一般的に土壌中の鉄濃度は植物成長の要求量以上であるが、石灰質土壌の場合にはその高いpHにより鉄が不溶性の[[水酸化鉄]]となり、植物の鉄不足が現れる。石灰質土壌は世界中の耕作地の30％である。鉄不足の条件下で、[[イネ科]]植物はデオキシムギネ酸などの植物シデロホア（ファイトシデロホア[ Phytosiderophore ]）を分泌する<ref name="Sugiura" |
一般的に土壌中の鉄濃度は植物成長の要求量以上であるが、石灰質土壌の場合にはその高いpHにより鉄が不溶性の[[水酸化鉄]]となり、植物の鉄不足が現れる。石灰質土壌は世界中の耕作地の30％である。鉄不足の条件下で、[[イネ科]]植物はデオキシムギネ酸などの植物シデロホア（ファイトシデロホア[ Phytosiderophore ]）を分泌する<ref name="Sugiura" />。ファイトシデロホアの構造は微生物シデロホアとは異なり、3つのα-アミノカルボン酸ユニットと、中心と結合した2つのα-アミノカルボン酸をもつ。後者の二座は三価鉄への高い選択性に寄与する。環境中へと分泌された後、鉄を捕捉したファイトシデロホア（鉄-ファイトシデロホア錯体）は細胞内へと輸送される。この輸送は細胞膜上でのプロトンとの[[共輸送]]により行われる<ref name="Mori" />。このとき、錯体中の三価鉄は二価鉄に還元され、ファイトシデロホアへの親和性を失う。そして、二価鉄に対する親和力が強い[[ニコチアナミン]]に捕捉され、根の細胞外から出ないようにされる<ref name="Walker" />。ニコチアナミンはまた[[師部]]を通じた植物体内全体への鉄イオンの運搬に関わると考えられている。 |
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== 脚注 == |
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<ref name=Neilands1>{{cite journal |author=J. B. Neilands |title=A Crystalline Organo-iron Pigment from a Rust Fungus (''Ustilago sphaerogena'') |journal=Journal of the American Chemical Society |volume=74 |issue=19 |pages=4846-4847 |date=1952 |url=http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja01139a033?journalCode=jacsat |doi=10.1021/ja01139a033 }}</ref> |
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<ref name="J. B. Neilands">{{cite journal |author=J. B. Neilands |title=Siderophores: Structure and Function of Microbial Iron Transport Compounds |journal=Journal of Biological Chemistry |volume=270 |issue=45 |pages=26723-26726 |date=1995 |url=http://www.jbc.org/content/270/45/26723.short |doi=10.1074/jbc.270.45.26723 }}</ref> |
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<ref name="J. H. Crosa">{{cite book |editor=Jorge H. Crosa1, Alexandra R. Mey2, Shelley M. Payne |title=Iron Transport in Bacteria |isbn=9781555816544 |doi=10.1128/9781555816544 |year=2004 |url=http://www.asmscience.org/content/book/10.1128/9781555816544 |publisher=American Society for Microbiology |location=ワシントンDC }}</ref> |
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<ref name="CornelisP">{{cite book |author= |editor=Cornelis, P. and Andrews, S. C. |title=Iron Uptake and Homeostasis in Microorganisms |publisher=Caister Academic Press |location=UK |isbn=9781904455653 |url=http://centaur.reading.ac.uk/7728/ |year=2010 }}</ref> |
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<ref name="Miller">Marvin J. Miller, Siderophores (microbial iron chelators) and siderophore-drug conjugates (new methods for microbially selective drug delivery). University of Notre Dame, 4/21/2008</ref> |
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<ref name="Kraemer">{{cite journal |author=Stephan M. Kraemer, Alison Butler, Paul Borer, Javiera Cervini-Silva |title=Siderophores and the Dissolution of Iron-Bearing Minerals in Marine Systems |journal=Reviews in mineralogy and geochemistry |volume=59 |issue=1 |pages=53-84 |date=2005 |url=http://rimg.geoscienceworld.org/content/59/1/53 |doi=10.2138/rmg.2005.59.4 }}</ref> |
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<ref name="Kraemer&Borer">{{cite journal |author=Paul M. Borer, Barbara Sulzberger, Petra Reichard, Stephan M. Kraemer |title=Effect of siderophores on the light-induced dissolution of colloidal iron(III) (hydr)oxides |journal=Marine Chemistry |volume=93 |issue=2-4 |pages=179-193 |date=15 January 2005 |url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304420304002312 |doi=10.1016/j.marchem.2004.08.006 }}</ref> |
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<ref name="R. C. Hider">{{cite journal |author=R. C. Hider and X. Kong |title=Chemistry and biology of siderophores |journal=Natural product reports |volume=27 |issue=5 |pages=637-657 |date=2010 |url=http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2010/np/b906679a/ |doi=10.1039/B906679A }}</ref> |
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<ref name="Miethke">{{cite journal |author=Marcus Miethke and Mohamed A. Marahiel |title=Siderophore-Based Iron Acquisition and Pathogen Control |journal=Microbiology and molecular biology reviews |volume=71 |issue=3 |pages=413-451 |date=1 September 2007 |url=http://mmbr.asm.org/content/71/3/413.short |pmid=17804665 |pmc=2168645 |doi=10.1128/MMBR.00012-07 }}</ref> |
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<ref name=Challis2005>{{cite journal |author=Gregory L. Challis Dr. |title=A Widely Distributed Bacterial Pathway for Siderophore Biosynthesis Independent of Nonribosomal Peptide Synthetases |journal=Chembiochem |volume=6 |issue=4 |pages=601-611 |date=2005 |url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.200400283/full |pmid=15719346 |doi=10.1002/cbic.200400283 }}</ref> |
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<ref name="Raymond">{{cite journal |author=Kenneth N. Raymond, Emily A. Dertz, & Sanggoo S. Kim |title=Enterobactin: An archetype for microbial iron transport |journal=Proceedings of the National Academy of Sciences |volume=100 |issue=7 |pages=3584-3588 |date=2003 |url=http://www.pnas.org/content/100/7/3584.short |pmid=12655062 |pmc=152965 |doi=10.1073/pnas.0630018100}}</ref> |
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<ref name="Raymond2">{{cite journal |author=Rebecca J. Abergel, Melissa K. Wilson, Jean E. L. Arceneaux, Trisha M. Hoette, Roland K. Strong, B. Rowe Byers, and Kenneth N. Raymond |title=Anthrax pathogen evades the mammalian immune system through stealth siderophore production |pmid=17132740 |pmc=1693691 |journal=Proceedings of the National Academy of Sciences |volume=103 |issue=49 |pages=18499-18503 |date=2006 |url=http://www.pnas.org/content/103/49/18499.short |doi=10.1073/pnas.0607055103 }}</ref> |
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<ref name=Cendrowski2004>{{cite journal |author=Stephen Cendrowski,William MacArthur, Philip Hanna |title=''Bacillus anthracis'' requires siderophore biosynthesis for growth in macrophages and mouse virulence |journal=Molecular microbiology |volume=51 |issue=2 |pages=407-417 |date=Jan 2004 |pmid=14756782 |url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1365-2958.2003.03861.x/full |doi=10.1046/j.1365-2958.2003.03861.x }}</ref> |
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<ref name="T. Zhou">{{cite journal |author=Tao Zhou Yongmin Ma, Xiaole Kong and Robert C. Hider |title=Design of iron chelators with therapeutic application |journal=Dalton transactions |volume=41 |issue=21 |pages= |date=6371-6389 |url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010854502000504 |doi=10.1039/C2DT12159J }}</ref> |
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<ref name="Vogel">{{cite journal |author=Karla D.KrewulakHans J.Vogel |title=Structural biology of bacterial iron uptake |journal=Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes |volume=1778 |issue=9 |pages=1781-1804 |date=2008 |url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0005273607002738 |pmid=17916327 |doi=10.1016/j.bbamem.2007.07.026 }}</ref> |
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<ref name="John M. Roosenberg">{{cite journal |author=Roosenberg, I. I., Lin, Y. M., Lu, Y., & Miller, M. J. |title=Studies and Syntheses of Siderophores, Microbial Iron Chelators, and Analogs as Potential Drug Delivery Agents |journal=Current medicinal chemistry |volume=7 |issue=2 |pages=159-197 |date=2000 |url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10637361 |pmid=10637361 |doi=10.2174/0929867003375353 }}</ref> |
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<ref name=Winkelmann1999>{{cite book |author=Prof. Dr. H.-J. Rehm & Dr. G. Reed |editor=David Clark, Nanette Pazdernik |title=Biotechnology 2nd Edition |chapter=5. Microbial Siderophores |pages= |date=7 May 2008 |url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/9783527620999.ch5g/summary |doi=10.1002/9783527620999.ch5g |isbn=9780123850164 }}</ref> |
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<ref name="Sugiura">{{cite journal |author=Y. Sugiura & K. Nomoto |title=Phytosiderophores structures and properties of mugineic acids and their metal complexes |journal=Siderophores from Microorganisms and Plants |volume= |issue= |pages=107-135 |date=1984 |url=https://link.springer.com/chapter/10.1007/BFb0111313 |doi=10.1007/BFb0111313 }}</ref> (1984). </cite></ref> |
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<ref name="Mori">{{cite journal |author=Astrid Sigel & Helmut Sigel |title=Metal Ions in Biological Systems, Volume 35: Iron Transport and Storage Microorganisms, Plants, and Animals |journal=Metal-Based Drugs |volume=5 |issue=5 |pages=262 |date=1998 |url=https://www.hindawi.com/archive/1998/359826/abs/ |pmc=2365134 |doi=10.1155/MBD.1998.262a }}</ref> |
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<ref name="Walker">{{cite journal |author=Elsbeth L. Walker & Erin L. Connolly |title=Time to pump iron: iron-deficiency-signaling mechanisms of higher plants |journal=Current Opinion in Plant Biology |volume=11 |issue=5 |pages=530-535 |date=2008 |url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18722804 |pmid=18722804 |doi=10.1016/j.pbi.2008.06.013 }}</ref> |
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2017年9月13日 (水) 15:05時点における版
シデロホア(ギリシャ語: "鉄運搬体")とは、微生物やいわゆるストラテジーII植物（イネ科植物）が分泌する鉄キレート剤である[1][2][3][4][5][6]。知られている中で、Fe3+ に対して最も高い親和性を持つ水溶性化合物の一つである。
概要
まず、自然界における鉄の役割を説明する。鉄はすべての生物において必須の栄養素である。代謝やDNAの合成に要求される。この元素は地球の地殻において最も豊富なものの一つであるにもかかわらず、土壌や海洋といった多くの環境での生物学的利用能は限定的である。これは、水中でのFe3+ イオンの溶解度が低いためによる。この三価イオンの形態は、酸素存在下を含む非酸性の水中で優勢である。また、酸化鉄や水酸化鉄といった一般的な鉱物相－土壌の赤色や黄色を形成している－として自然界に蓄積されている。しかし、生物は三価鉄を容易に利用することはできない[7][8]。微生物やイネ科植物は、鉄を利用するためにシデロホアを分泌する。この化合物は、鉱物相からFe3+ 錯体を取り出し、能動輸送により鉄を栄養素として吸収することを可能にする。多くのシデロホアは非リボソームペプチドであり[3][9]、いくつかは独立して生合成される[10]。シデロホアはいくつかの病原微生物にとっても重要である[3][4][6]。宿主の哺乳類体内で鉄はヘモグロビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、フェリチンと結合している。細菌体内の鉄分濃度は10−24 mol L−1程度に維持される必要があるため[11]、細菌は外部から鉄を獲得する機構を具えている。例えば、炭疽症の原因菌Bacillus anthracisは2種類のシデロホア、バチリバクチン[ bacillibactin ]とペトロバクチン[ petrobactin ]を分泌し、鉄タンパク質から二価鉄を吸収している。バチリバクチンは免疫タンパク質シデロカリンsiderocalinとの結合性を示す[12]。一方、ペトロバクチンは免疫系に捕捉される実験結果は確認されておらず、また、マウスにおいて病毒性に重要であることが明らかとなっている[13]。
シデロホアの中でも、エンテロバクチン[ enterobactin ]が最もFe3+ との結合性が強いとされる[11]。鉄に対する高いキレート作用のため、シデロホアは、鉄中毒やサラセミアといった人体内の鉄濃度異常に対する治療への利用が研究されている。いわゆる、キレーション療法のための治療薬として期待されている。すでに、シデロホアの一つであるデフェロキサミンBが実用化されている。[14]いくつかの病原微生物はシデロホアではなく、ヘムと結合するヘムホアを産生する。また、これらの鉄結合性物質を外部へと分泌せず、細胞膜上で鉄イオンまたはヘムタンパク質と結合する受容体を持つものも存在する[15]。これらとは別に、真核生物は鉄獲得の機構を持つ。すなわち、環境中のpHを低下させる、あるいは、不溶性の三価鉄を二価鉄に還元させる。
構造
シデロホアは通常、６座配位子の正八面体の安定した化合物である。最も強力なシデロホアは、分子一つ当たり3つの2座配位子を有しており、6座配位子錯体を形成する。このとき、別々の配位子で鉄分子を一つだけキレートしているときよりもエントロピー変化は小さい[16]。シデロホアの包括的なリストは作成されている[17]。シデロホアが反応する鉄はFe3+ であり、Fe2+に対する親和性は低い。微生物は一般的に、シデロホアと結合しているFe3+ をFe2+ に還元することでシデロホアから鉄分を放出させている[9]。
シデロホアはその配位子により分類されている。多数派のグループにはカテコール（フェノラート）、ヒドロキサム酸、各種カルボン酸（例えば、クエン酸誘導体）が含まれる。クエン酸はシデロホアとして働くことができる[18]。シデロホアには多くの種類が存在するが、これは微生物間の生存競争にかけて生じた進化圧の結果である。すなわち、各種微生物にとって自身のシデロホアが他の種の輸送体に横取りされることを避け、かつ、病原微生物の場合は宿主の免疫系により不活性化されることを防がなければならない[3][6]。
種類
微生物や菌類のシデロホアを以下に示す。
ヒドロキサム酸型シデロホア[ Hydroxamate siderophores ]
| シデロホア | 保有生物 |
|---|---|
| フェリクローム [ ferrichrome ] | Ustilago sphaerogena |
| デフェロキサミンB [ Desferrioxamine B ]
(デフェロキサミン[ Deferoxamine ]) |
Streptomyces pilosus
Streptomyces coelicolor |
| デフェロキサミンE [ Desferrioxamine E ] | Streptomyces coelicolor |
| フサリニンC[ fusarinine C ] | Fusarium roseum |
| オルニバクチン[ ornibactin ] | Burkholderia cepacia |
| ロドトルル酸 [ rhodotorulic acid ] | Rhodotorula pilimanae |
カテコール型シデロホア[ Catecholate siderophores ]
| シデロホア | 保有微生物 |
|---|---|
| エンテロバクチン[ enterobactin ] | Escherichia coli
enteric bacteria |
| バチリバクチン[ bacillibactin ] | Bacillus subtilis |
| ビブリオバクチン[ vibriobactin ] | Vibrio cholerae |
混合配位子型
| シデロホア | 保有微生物 |
|---|---|
| アゾトバクチン[ azotobactin ] | Azotobacter vinelandii |
| ピヨベルジン[ pyoverdine ] | Pseudomonas aeruginosa |
| エルシニアバクチン[ yersiniabactin ] | Yersinia pestis |
生物学的な役割
微生物
シデロホア産生の微生物は普通、鉄を十分に摂取しているとき、シデロホアの利用（シデロホアの合成と、細胞外に分泌したものの吸収）に関わる遺伝子の発現を抑制している。鉄摂取の十分さは細胞内濃度で認識している。抑制方法はFe2+-依存性リプレッサーであり、細胞内鉄イオン濃度が十分に高いとき、リプレッサーが当該遺伝子の上流に結合してその発現を阻害している。
環境中の鉄が欠乏すると細胞内の鉄イオン濃度が低くなり、Fe2+ がリプレッサーから分離し、リプレッサーはDNAから遊離する。こうして、抑制されていた遺伝子は発現するようになり、鉄の獲得能力は底上げされる。
グラム陰性および、ゲノムDNAにアデニンとチミンが豊富なグラム陽性細菌において、通常、リプレッサーはFur (ferric uptake regulator)リプレッサーである。一方、ゲノムDNAにグアニンとシトシンが豊富なグラム陽性細菌(放線菌門[ Actinobacteria ]など)の場合は、DtxR (diphtheria toxin repressor)である。DtxRの名称は、Corynebacterium diphtheriaeにおいて制御する遺伝子が人体に危険なジフテリア毒素[ diphtheria toxin ]であるためである[9]。
植物
一般的に土壌中の鉄濃度は植物成長の要求量以上であるが、石灰質土壌の場合にはその高いpHにより鉄が不溶性の水酸化鉄となり、植物の鉄不足が現れる。石灰質土壌は世界中の耕作地の30％である。鉄不足の条件下で、イネ科植物はデオキシムギネ酸などの植物シデロホア（ファイトシデロホア[ Phytosiderophore ]）を分泌する[19]。ファイトシデロホアの構造は微生物シデロホアとは異なり、3つのα-アミノカルボン酸ユニットと、中心と結合した2つのα-アミノカルボン酸をもつ。後者の二座は三価鉄への高い選択性に寄与する。環境中へと分泌された後、鉄を捕捉したファイトシデロホア（鉄-ファイトシデロホア錯体）は細胞内へと輸送される。この輸送は細胞膜上でのプロトンとの共輸送により行われる[20]。このとき、錯体中の三価鉄は二価鉄に還元され、ファイトシデロホアへの親和性を失う。そして、二価鉄に対する親和力が強いニコチアナミンに捕捉され、根の細胞外から出ないようにされる[21]。ニコチアナミンはまた師部を通じた植物体内全体への鉄イオンの運搬に関わると考えられている。
脚注
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