非リボソームペプチド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

非リボソームペプチド(ひリボソームペプチド、英:Nonribosomal peptide(s))は微生物細菌二次代謝産物の中で、アミノ酸が多数結合している構造のものを指す。NRP、もしくはNRPsと略記される。裸鰓類のような高等生物もNRPを作り出していることが知られているが、それも生体内部に住み着いた微生物によるものではないかと考えられている。ペプチド結合を多数持つにもかかわらずリボソームを経由せずに合成されるため、非リボソームペプチドと呼ばれている。

リボソームで合成されるポリペプチドとは異なり、非リボソームペプチド合成酵素(ひリボソームペプチドごうせいこうそ、英:Nonribosomal peptide synthetases)によりアミノ酸から合成される。この酵素NRPSと略記されるため、NRPsとの混同には注意が必要である。NRPSはモジュール式の分子組み立て工場のモデルで説明されることが多い。mRNAを設計図としてペプチド鎖を合成するリボソームとは異なり、NRPSには設計図がなく各NRPSにより合成できる分子もあらかじめ決まっている。、非リボソームペプチドはリボソームペプチドより非常に多様な分子構造を持っており、様々なNRPSにより合成される。

NRPは環状構造もしくは枝状構造を取ることが多く、コドンにコードされていないアミノ酸D-アミノ酸や、N-メチル化、N-ホルミル化、グリコシル化、アシル化、ハロゲン化、ヒドロキシル化などの修飾を受けたアミノ酸)を含むことも多い。同じ配列のペプチドが二量体、三量体となりNRPを形成することも多い。ペプチド鎖が環化されることもあり、オキサゾリンチアゾリンといった酸化還元可能な分子も合成される。また時には脱水素化も行われ、セリンからデヒドロアラニンが合成される。これらはほんの一例であり、他にもNRP合成酵素により多様な反応・合成が行われている。

非リボソームペプチドは非常に多様性を持った構造の分子であり、自然界にも生理学的活性薬理学的特性を持つ分子として広く存在している。毒性を持つものが多く、親鉄性を持ち、着色していることが多い。このうち一部は抗生物質細胞増殖抑制剤免疫抑制剤として利用されている。

生合成[編集]

非リボソームペプチドは一つの、あるいは複数の非リボソームペプチド(NRP)合成酵素により合成される。通常NRP合成酵素の遺伝子は、微生物では1つのオペロンに、真核生物では遺伝子クラスタ中にコードされている。合成酵素は1つのアミノ酸導入に対して、1つのモジュールと呼ばれるブロックにより構成されている。それぞれのモジュールは、ドメインと呼ばれるNRP合成に必要な様々な役割を持つ部位の集合体により成立しており、約15個のアミノ酸によりモジュール同士が繋がっている。

非リボソームペプチドの生合成の仕組みは、ポリケチド脂肪酸の生合成と類似した部分を持っている。このためNRP合成酵素の中にはポリケチド合成酵素のモジュールを含むものもあり、アセテートやプロピオネートがペプチド鎖に挿入される。

モジュール[編集]

非リボソームペプチド合成酵素は、以下のモジュールの組み合わせにより構成されている。このうち開始モジュールと終結モジュールは各酵素につきそれぞれ1つ、伸長モジュールは合成されるペプチド残基の数だけ存在している。右側には各モジュールの主な構成ドメイン要素を示している。

  • 開始モジュール:[F/NMe]-A-PCP-
  • 伸長モジュール:-(C/Cy)-[NMe]-A-PCP-[E]-
  • 終結モジュール:-(TE/R)
N末端からC末端へ伸長する。[]で表される要素は任意、()で表される要素はどちらか一方しか存在しない。

ドメイン[編集]

必須[編集]
  • A:アデニル化部位
  • PCP:チオエステル化及びペプチド移動部位(4'-ホスホパンテテインを含む)
  • C:縮合部位(アミノ結合形成部位)
任意[編集]

開始段階[編集]

まずAドメインでアミノ酸のカルボン酸ATPにより活性化され、アミノアシルAMPが合成される。続いてPCPドメインにより、同じくPCPドメインに含まれている4-ホスホパンテテインセリン部位とアミノアシルAMPとがチオエステルを形成し、アミノ酸がPCPドメインに結合する。このときFドメインやNMeドメインを間に挟むと、アミノ基にホルミル基やメチル基が導入された修飾アミノ酸が導入される。

伸長段階[編集]

各伸長モジュールにつき、アミノ酸が1つ付加し鎖が伸長する。

前モジュールまでに伸長されてきたペプチド鎖のチオエステルと、当該モジュールのPCP部位に結合したアミノ酸のアミノ基とが、Cドメイン上で反応しアミド結合が形成される。これによりペプチド鎖が隣のモジュールのPCPドメイン上に移動する。

CドメインがCyドメインに置き換わることがある。Cyドメインはアミド結合形成に加えてセリン、トレオニンシステインといったアミノ酸側鎖をアミド結合を形成している窒素原子と反応させ、オキサゾリジンやチアゾリジン骨格を導入するといった役割を持つ。

ここにEドメインが挿入されると、L-アミノ酸の立体配置を逆転(エピマー化)させD-アミノ酸が合成され、鎖の伸長に用いられる。

終結段階[編集]

チオエステル分解部位であるTEドメインは、伸長してきたペプチド鎖とPCPドメイン間のチオエステルを解離させ、ペプチド鎖を切り出す。その際にラクタムラクトンの形成に伴い環状分子を生成するTEドメインも多い。

TEドメインの代わりにRドメインが用いられる場合は、チオエステルが還元され末端がアルデヒドやアルコールとなることで切り出される。

修飾[編集]

生成したペプチドはグリコシル化アシル化ハロゲン化ヒドロキシル化などの修飾を受けることが多い。これらの修飾酵素は通常NRP合成酵素と複合体を作り、同じオペロンや遺伝子クラスタにコードされている。

酵素活性の調節[編集]

4-ホスホパンテテインのアシルCoAの部分がPCPドメインに結合して初めて合成酵素に活性が生じる。逆にアシル部位がPCPドメインから外れると酵素活性が失われる。

基質特異性[編集]

多くのドメインは基質特異性が非常に緩く、A-ドメインでアミノ酸配列を決定しているだけである。すなわちA-ドメインがリボソームペプチド合成のコドンに相当する部位に当たる。

ポリケチドとの関連[編集]

ポリケチド合成酵素(英:polyketide synthetases、PKS)とNRP合成酵素が似ているため、非リボソームペプチドとポリケチドとが融合した構造の二次代謝産物も多数存在する。これはNRPモジュールとPKモジュールとが連続していることを意味している。両酵素のPCPドメインの構造が似ているために連続反応が可能なのであるが、縮合機構は全く異なる。

[編集]

参考文献[編集]

  • "Nonribosomal peptides: from genes to products" by Dirk Schwarzer, Robert Finking, and Mohamed A. Marahiel in Nat. Prod. Rep. 20(3):275-287 (2003) doi:10.1039/b111145k
  • "Modular Peptide Synthetases Involved in Nonribosomal Peptide Synthesis" by Mohamed A. Marahiel, Torsten Stachelhaus, and Henning D. Mootz in Chem. Rev. 97(7):2651-2673 (1997) doi:10.1021/cr960029e
  • Stephan A. Sieber, Mohamed A. Marahiel (2005). “Molecular Mechanisms Underlying Nonribosomal Peptide Synthesis: Approaches to New Antibiotics”. Chem. Rev. 105: 715-738. doi:10.1021/cr0301191. 

関連項目[編集]