「レシチン」の版間の差分

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体内で[[脂肪]]が[[エネルギー]]として利用・貯蔵される際、[[タンパク質]]と結びついて[[血液]]の中を移動するが、このタンパク質と脂肪の結合にレシチンを必要とする。体内のレシチンの総量は、体重60kgのヒトで600g程度である。レシチンの不足は、[[疲労]]、[[免疫系|免疫力]]低下、[[不眠症|不眠]]、[[動脈硬化症|動脈硬化]]、[[糖尿病]]、悪玉[[コレステロール]]の沈着など多くの症状の原因となる。
体内で[[脂肪]]が[[エネルギー]]として利用・貯蔵される際、[[タンパク質]]と結びついて[[血液]]の中を移動するが、このタンパク質と脂肪の結合にレシチンを必要とする。体内のレシチンの総量は、体重60kgのヒトで600g程度である。レシチンの不足は、[[疲労]]、[[免疫系|免疫力]]低下、[[不眠症|不眠]]、[[動脈硬化症|動脈硬化]]、[[糖尿病]]、悪玉[[コレステロール]]の沈着など多くの症状の原因となる。

== 工業的製法 ==
レシチンは、搾油したての油に温水を加えて沈殿させたものを、[[遠心分離機]]を用いて分け取ったのち、乾燥させてつくる。水分を含んでいるときは黄色い豆腐状の物体となっているが、乾燥すると褐色の水飴のようになる。

== 用途 ==
[[フライパン]]や鉄板にくっつきにくくなる性質を利用して、炒め油および鉄板焼き油などに添加される。反面、[[乳化]]作用によって泡が立って吹きこぼれやすくなるので、揚げ物用の油には用いられない。

レシチンを多く含む食べ物には卵黄、大豆製品、穀類、[[ゴマ油]]、コーン油、小魚、[[レバー (食材)|レバー]]、[[ウナギ]]などがあげられ、これらの食品から抽出されたレシチンを用いた[[健康食品]]が販売されている。

===食品添加物===
植物性レシチン([[アブラナ]]科[[アブラナ]]、[[マメ]]科[[ダイズ]]の[[種子]]の[[油脂]]から分離して得られたもの)は[[既存添加物名簿]]に収載されており、[[食品添加物]]として使用が認められている。2014年4月、新たにひまわりレシチンが認可された。なお、他の[[植物]]のレシチンは使用できない。

== 研究 ==
基礎研究では、レシチン投与による[[アルコール]]性肝障害に伴う[[肝臓]]の繊維化と[[肝硬変]]の予防、肝障害(肝毒性のある物質や[[肝炎]][[ウイルス]]による)の改善、イギリスの臨床試験で[[C型肝炎]]患者の有意な症状改善と組織学的改善が報告されている<ref>蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004)p.371</ref>。

== 注意点 ==
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== 組成 ==
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== 工業的製法 ==
レシチンは、搾油したての油に温水を加えて沈殿させたものを、[[遠心分離機]]を用いて分け取ったのち、乾燥させてつくる。水分を含んでいるときは黄色い豆腐状の物体となっているが、乾燥すると褐色の水飴のようになる。

== 用途 ==
[[フライパン]]や鉄板にくっつきにくくなる性質を利用して、炒め油および鉄板焼き油などに添加される。反面、[[乳化]]作用によって泡が立って吹きこぼれやすくなるので、揚げ物用の油には用いられない。

レシチンを多く含む食べ物には卵黄、大豆製品、穀類、[[ゴマ油]]、コーン油、小魚、[[レバー (食材)|レバー]]、[[ウナギ]]などがあげられ、これらの食品から抽出されたレシチンを用いた[[健康食品]]が販売されている。

===食品添加物===
植物性レシチン([[アブラナ]]科[[アブラナ]]、[[マメ]]科[[ダイズ]]の[[種子]]の[[油脂]]から分離して得られたもの)は[[既存添加物名簿]]に収載されており、[[食品添加物]]として使用が認められている。2014年4月、新たにひまわりレシチンが認可された。なお、他の[[植物]]のレシチンは使用できない。

== 研究 ==
基礎研究では、レシチン投与による[[アルコール]]性肝障害に伴う[[肝臓]]の繊維化と[[肝硬変]]の予防、肝障害(肝毒性のある物質や[[肝炎]][[ウイルス]]による)の改善、イギリスの臨床試験で[[C型肝炎]]患者の有意な症状改善と組織学的改善が報告されている<ref>蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004)p.371</ref>。

== 注意点 ==
稀に[[嘔気]]、[[嘔吐]]、[[下痢]]などの症状<ref>蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004)p.371</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==

2016年3月20日 (日) 00:04時点における版

レシチンの化学構成

レシチン(lecithin)は、グリセロリン脂質の一種。自然界の動植物においてすべての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分である。レシチンという名前は、ギリシャ語卵黄を意味するレシトース(Lekithos)に由来する。

レシチンは、元々はリン脂質 の1種類であるホスファチジルコリンの別名であったが、現在ではリン脂質を含む脂質製品のことを総称してレシチンと呼んでいる。市場などでは原料に何を使用しているかで分類され、卵黄を原料とするものは「卵黄レシチン」、大豆を原料とするものは「大豆レシチン」と呼ばれ、区別される。

レシチンの特性として、油を水に分散させてエマルションを作る乳化力、皮膚や粘膜から物質を透過吸収する浸透作用がある。 このため、医薬用リポソームの材料、静脈注射用脂肪乳剤、痔や皮膚病の治療薬として利用されている。

体内で脂肪エネルギーとして利用・貯蔵される際、タンパク質と結びついて血液の中を移動するが、このタンパク質と脂肪の結合にレシチンを必要とする。体内のレシチンの総量は、体重60kgのヒトで600g程度である。レシチンの不足は、疲労免疫力低下、不眠動脈硬化糖尿病、悪玉コレステロールの沈着など多くの症状の原因となる。

工業的製法

レシチンは、搾油したての油に温水を加えて沈殿させたものを、遠心分離機を用いて分け取ったのち、乾燥させてつくる。水分を含んでいるときは黄色い豆腐状の物体となっているが、乾燥すると褐色の水飴のようになる。

用途

フライパンや鉄板にくっつきにくくなる性質を利用して、炒め油および鉄板焼き油などに添加される。反面、乳化作用によって泡が立って吹きこぼれやすくなるので、揚げ物用の油には用いられない。

レシチンを多く含む食べ物には卵黄、大豆製品、穀類、ゴマ油、コーン油、小魚、レバーウナギなどがあげられ、これらの食品から抽出されたレシチンを用いた健康食品が販売されている。

食品添加物

植物性レシチン(アブラナアブラナマメダイズ種子油脂から分離して得られたもの)は既存添加物名簿に収載されており、食品添加物として使用が認められている。2014年4月、新たにひまわりレシチンが認可された。なお、他の植物のレシチンは使用できない。

研究

基礎研究では、レシチン投与によるアルコール性肝障害に伴う肝臓の繊維化と肝硬変の予防、肝障害(肝毒性のある物質や肝炎ウイルスによる)の改善、イギリスの臨床試験でC型肝炎患者の有意な症状改善と組織学的改善が報告されている[1]

注意点

稀に嘔気嘔吐下痢などの症状[2]

組成

レシチンのリン脂質構成(%)
種類 ホスファチジル
コリン
ホスファチジル
エタノールアミン
ホスファチジル
イノシトール
ホスファチジル
セリン
スフィンゴ
ミエリン

人乳 28 19 6 9 37 [3]
レシチン 73 15 1 - 2-3 [4]
大豆レシチン 18-21 12-16 11-14 3-4 - [4]
菜種レシチン 30-32 30-32 14-18 - - [4]
紅花レシチン
(サフラワー)
32-39 14-17 21-27 - - [4]
グレープシード
オイル
21-22 10-13 19-29 - - [5]

脚注

  1. ^ 蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004)p.371
  2. ^ 蒲原聖可『サプリメント事典』(平凡社、2004)p.371
  3. ^ Richard M. Cowett (1991), Principles of Perinatal-Neonatal Metabolism, Springer-Verlag, pp. 448, ISBN 978-1-4684-0402-9, http://link.springer.com/book/10.1007%2F978-1-4684-0400-5 
  4. ^ a b c d Yeshajahu Pomeranz (1985), Functional Properties of Food Components, Academic Press Inc, pp. 365, ISBN 978-0-12-561280-7, http://www.sciencedirect.com/science/book/9780125612807 
  5. ^ T. Ovcharova, M.Zlatanov, A. Ivanov (Dec 2014), CHANGES IN GRAPE SEED OIL DURING FERMENTATION, 9, 3, European International Journal of Science and Technology, pp. 179,184, ISSN 2304-9693, http://www.eijst.org.uk/images/frontImages/gallery/Vol._3_No._9/19._178-187.pdf 

外部リンク