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[[File:Codeine 3d transparent.gif|thumb|right|180px|コデインの分子模型。]]
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'''コデイン'''({{Lang-en-short|[[:en:Codeine|Codeine]]}})または'''メチルモルヒネ'''は局所[[麻酔]]、鎮咳、および下痢止めの作用を持つμ受容体アゴニストの[[オピオイド]]である。塩である硫酸コデインもしくはリン酸コデイン({{Lang-en-short|[[:en:Codeine phosphate|Codeine phosphate]]}})として製品化されている。
'''コデイン'''({{Lang-en-short|[[:en:Codeine|Codeine]]}})または'''メチルモルヒネ'''は局所[[麻酔]]、鎮咳、および下痢止めの作用のある、μ受容体アゴニストの[[オピオイド]]である。塩である硫酸コデインもしくはリン酸コデイン({{Lang-en-short|[[:en:Codeine phosphate|Codeine phosphate]]}})として製品化されている。


リン酸コデインは鎮痛剤や下痢止めとして用いられるが、コデインを還元して製造した[[ジヒドロコデイン]]を鎮咳薬として風邪薬に配合するのが一般的である。
リン酸コデインは鎮痛剤や下痢止めとして用いられるが、コデインを還元して製造した[[ジヒドロコデイン]]を鎮咳薬として風邪薬に配合するのが一般的である。


== 概要 ==
== 歴史 ==
コデインは[[1832年]][[フランス]]の薬学者'''Pierre Jean Robiquet'''によって、アヘンからテバインと共に単離されたことで発見された。アヘン由来の天然化合物ベンジルイソキノリン型アルカロイドだが、コデインはアヘン中のアルカロイドとして0.7 - 2.5%ほどしか含まれない。化学構造上モルヒネに類似し、フェノール環3位のOH基がメチル置換されたメチルモルヒネであるため、アメリカ合衆国内で使用されているコデインは[[モルヒネ]]をO-メチル化して合成されている
コデインは1832年にフランスの薬学者Pierre Jean Robiquetによって、アヘンからテバインと共に単離されたことで発見された。


==合成==
WHO方式がん性痛治療法の第2段階の弱オピオイドの第1選択薬に指定されている。コデインはプロドラッグであり、グルクロン酸抱合及びO-脱メチル化された代謝産物のみが薬効薬理を発揮する。代謝産物の約10%がモルヒネとなり、鎮痛力価はモルヒネの半分にも満たないとされる。
アヘン由来の天然化合物ベンジルイソキノリン型アルカロイドだが、コデインはアヘン中のアルカロイドとして0.7 - 2.5%ほどしか含まれない。化学構造上モルヒネに類似し、フェノール環3位のOH基がメチル置換されたメチルモルヒネであるため、アメリカ合衆国内で使用されているコデインは[[モルヒネ]]をO-メチル化して合成されている。

==代謝==
コデインはプロドラッグであり、グルクロン酸抱合及びO-脱メチル化された代謝産物のみが薬効薬理を発揮する。代謝産物の約10%がモルヒネとなり、鎮痛力価はモルヒネの半分にも満たないとされる。


== 適応 ==
== 適応 ==
厚生労働省において認可されている使用方法は以下のようになっている。
厚生労働省において認可されている使用方法は以下のようになっている。
* ''' 上気道炎、急性気管支炎に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難 '''<ref>ただし有効性には議論がある『Schroeder & Fahey, 2001』</ref>
* 上気道炎、急性気管支炎に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難
* ''' 激しい下痢症状の改善 '''
* 激しい下痢症状の改善 '''
* ''' 軽度から中程度の疼痛時における鎮痛 '''
* 軽度から中程度の疼痛時における鎮痛

文献を探索した結果、一般医薬品の急性咳に対する有効性には、十分な証拠がないと結論されている<ref name="pmid25420096">{{cite journal|last1=Smith|first1=Susan M|last2=Schroeder|first2=Knut|last3=Fahey|first3=Tom|last4=Smith|first4=Susan M|title=Over-the-counter (OTC) medications for acute cough in children and adults in community settings|journal=Cochrane Database Syst Re|pages=CD001831|year=2014|pmid=25420096|doi=10.1002/14651858.CD001831.pub5}}</ref>。


現在の投与方法は主に経口で、形状は錠、散、シロップなどがある。錠剤ではコデインはしばしば[[アセトアミノフェン]]、[[アスピリン]]、[[イブプロフェン]]と共に調合される。これらの組み合わせは、それぞれ単体での使用よりも良い疼痛コントロールが可能となる。1日に純粋なコデインの使用量が240mgを超えてしまった場合、コデインには天井効果が存在するため副作用が増強される恐れがある。
現在の投与方法は主に経口で、形状は錠、散、シロップなどがある。錠剤ではコデインはしばしば[[アセトアミノフェン]]、[[アスピリン]]、[[イブプロフェン]]と共に調合される。これらの組み合わせは、それぞれ単体での使用よりも良い疼痛コントロールが可能となる。1日に純粋なコデインの使用量が240mgを超えてしまった場合、コデインには天井効果が存在するため副作用が増強される恐れがある。

== 副作用 ==
一般的な副作用は次の通りである:
掻痒感、吐き気、嘔吐、眠気、口内乾燥感、瞳孔縮小、[[起立性低血圧]]、排尿障害、[[便秘]]。<ref name="rosshi2004"/>

ほとんどの副作用への耐性、および作用への耐性は長期連用と共に形成する。これは作用または副作用毎に形成される速度は異なる。たとえば便秘を含む作用への耐性形成は、遅い。

潜在的に深刻な副作用は他のオピオイドと同様に呼吸抑制である。この抑制は用量依存であり、この呼吸抑制が過量服用時に深刻な結果をもたらす。

=== 授乳による乳児の死亡 ===
コデインを使用していた母親が[[授乳]]を行った乳児が死亡した症例の報告がある<ref>Gideon Koren、James Cairns、David Chitayat、Andrea Gaedigk、Steven J Leeder (2006-08) "[http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673606692556 Pharmacogenetics of morphine poisoning in a breastfed neonate of a codeine-prescribed mother]"</ref>。既述の通り、ヒトの体内では投与されたコデインの約10%がCYP2D6によってモルヒネになるとされている。本症例は、授乳婦の体内でコデインから生成したモルヒネが、母乳を通して乳児に移行し、モルヒネの毒性によって乳児が死亡したと見られている。


== 作用機序 ==
== 作用機序 ==
コデインは肝臓で全代謝の約80%が[[グルクロン酸抱合]]され、約10%は[[シトクロムP450]]の分子種の1つである[[CYP2D6]]を触媒としてO-脱メチル化を受け、残りは[[CYP3A4]]を触媒としてN-脱メチル化される。これらのうち、O-脱メチル化されてできる代謝産物のモルヒネが、主に薬効を発揮する。
コデインは肝臓で全代謝の約80%が[[グルクロン酸抱合]]され、約10%は[[シトクロムP450]]の分子種の1つである[[CYP2D6]]を触媒としてO-脱メチル化を受け、残りは[[CYP3A4]]を触媒としてN-脱メチル化される。これらのうち、O-脱メチル化されてできる代謝産物のモルヒネが、主に薬効を発揮する。


体内でコデインから生成したモルヒネがグルクロン酸抱合受けてできる'''morphine-6-glucuronide'''(以降'''M-6-G''')がモルヒネと共に[[オピオイド受容体]]に作用し、下降性疼痛を抑制することで鎮痛作用の主体を担っている。一方、グルクロン酸抱合によってコデインは'''codeine-6-glucuronide'''(以降'''C-6-G''')に代謝される。'''C-6-G'''は全代謝の約80%を占めるが、'''μ'''受容体への結合が弱く、鎮痛には関与していないとされる。しかし一部鎮痛に関与しているとの報告もある。N-脱メチル化されたコデインは、ノルコデインになり、最後はノルモルヒネに代謝される。
体内でコデインから生成したモルヒネがグルクロン酸抱合受けてできるmorphine-6-glucuronide(以降M-6-Gとする)がモルヒネと共に[[オピオイド受容体]]に作用し、下降性疼痛を抑制することで鎮痛作用の主体を担っている。一方、グルクロン酸抱合によってコデインはcodeine-6-glucuronide(以降C-6-G)に代謝される。C-6-Gは全代謝の約80%を占めるが、μ受容体への結合が弱く、鎮痛には関与していないとされる。しかし一部鎮痛に関与しているとの報告もある。N-脱メチル化されたコデインは、ノルコデインになり、最後はノルモルヒネに代謝される。


モルヒネと極めて類似した化学構造と薬理作用を有するが、モルヒネに比べ作用は弱く、力価は鎮痛作用は1/6、鎮静・催眠作用は約1/4、呼吸抑制作用も1/4程度とされている。反面、鎮咳作用量でモルヒネに比べ便秘、悪心・嘔吐等の副作用が少なく、依存性形成も弱いので、主として鎮咳の目的に使用される。論理的には30mgのモルヒネ(経口)と同じ鎮痛作用を期待するには、約200mgのコデイン(経口)の投与が必要である<ref>Rossi, 2004</ref>。しかし実際には1回60mg、24時間につき240mg以上は投与されない。これは天井効果により、投与量を多くしても効果は投与量に比例して大きくならないからである。反対に副作用が強くなる恐れがある。
モルヒネと極めて類似した化学構造と薬理作用を有するが、モルヒネに比べ作用は弱く、力価は鎮痛作用は1/6、鎮静・催眠作用は約1/4、呼吸抑制作用も1/4程度とされている。反面、鎮咳作用量でモルヒネに比べ便秘、悪心・嘔吐等の副作用が少なく、依存性形成も弱いので、主として鎮咳の目的に使用される。論理的には30mgのモルヒネ(経口)と同じ鎮痛作用を期待するには、約200mgのコデイン(経口)の投与が必要である<ref name="rosshi2004">Rossi S (Ed.) (2004). ''Australian Medicines Handbook'' 2004. Adelaide: Australian Medicines Handbook. ISBN 0-9578521-4-2. </ref>。しかし実際には1回60mg、24時間につき240mg以上は投与されない。これは天井効果により、投与量を多くしても効果は投与量に比例して大きくならないからである。反対に副作用が強くなる恐れがある。


=== 薬物動態 ===
=== 薬物動態 ===
本邦においてコデインは散、錠、シロップといった経口での投与がある。健康な成人男性にコデインリン酸塩水和物として65mg経口投与したとき、血中濃度は約1時間後に'''C<small>max</small>'''に達する。その後、3-4時間で半減期を迎える。30mgを経口で投与した場合、48時間以内に約95%が尿中に排泄される。
本邦においてコデインは散、錠、シロップといった経口での投与がある。健康な成人男性にコデインリン酸塩水和物として65mg経口投与したとき、血中濃度は約1時間後にC<small>max</small>に達する。その後、3-4時間で半減期を迎える。30mgを経口で投与した場合、48時間以内に約95%が尿中に排泄される。


カフカス人種([[コーカサス]]地方)の約6-10%、アジア人種の約2%、アラビア人種の約1%は酵素欠損によりほとんど機能しないCYP2D6を持っており、コデインは鎮痛効果をほとんど持たない。しかし、依然としてほとんどの副作用は起こりうる。また医薬品によってはCYP2D6を阻害しコデインの有効性を損なったり失わせたりする。これらには[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]] などがある。
カフカス人種([[コーカサス]]地方)の約6-10%、アジア人種の約2%、アラビア人種の約1%は酵素欠損によりほとんど機能しないCYP2D6を持っており、コデインは鎮痛効果をほとんど持たない。しかし、依然としてほとんどの副作用は起こりうる。また医薬品によってはCYP2D6を阻害しコデインの有効性を損なったり失わせたりする。これらには[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]] などがある。


== 規制 ==
== 薬 ==
コデインそのものはμ-[[オピオイド受容体]]に弱い親和力を示す。主要な鎮痛作用はμ-オピオイド受容体へのモルヒネの親和性による。しかし他の作用または副作用は他のオピオイド受容体への作用による。

==診療ガイドライン==
WHO方式がん性痛治療法の第2段階の弱オピオイドの第1選択薬に指定されている。

== 規制 ==
日本では低濃度のコデインが含まれる医薬品は[[処方箋]]なしで入手する事が可能であるが、単体のコデインは[[指定医薬品]]であるため購入は医師の処方箋によるものでなければならない。
日本では低濃度のコデインが含まれる医薬品は[[処方箋]]なしで入手する事が可能であるが、単体のコデインは[[指定医薬品]]であるため購入は医師の処方箋によるものでなければならない。


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オーストラリアとカナダでは、コデインは規制されているが、許可された薬剤師による最大15mg/錠での調合による入手が処方箋なしで可能である。
オーストラリアとカナダでは、コデインは規制されているが、許可された薬剤師による最大15mg/錠での調合による入手が処方箋なしで可能である。

== 薬理 ==
コデインそのものはμ-[[オピオイド受容体]]に弱い親和力を示す。主要な鎮痛作用はμ-オピオイド受容体へのモルヒネの親和性による。しかし他の作用または副作用は他のオピオイド受容体への作用による。

== 副作用 ==
一般的な副作用は次の通りである:
掻痒感、吐き気、嘔吐、眠気、口内乾燥感、瞳孔縮小、[[起立性低血圧]]、排尿障害、[[便秘]]。(Rossi, 2004)

ほとんどの副作用への耐性、および作用への耐性は長期連用と共に形成する。これは作用または副作用毎に形成される速度は異なる。たとえば便秘を含む作用への耐性形成は、遅い。

潜在的に深刻な副作用は他のオピオイドと同様に呼吸抑制である。この抑制は用量依存であり、この呼吸抑制が過量服用時に深刻な結果をもたらす。

== コデインと授乳 ==
コデインを使用していた母親が[[授乳]]を行った乳児が死亡した症例の報告がある<ref>Gideon Koren、James Cairns、David Chitayat、Andrea Gaedigk、Steven J Leeder (2006年8月) [http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0140673606692556 Pharmacogenetics of morphine poisoning in a breastfed neonate of a codeine-prescribed mother]</ref>。既述の通り、ヒトの体内では投与されたコデインの約10%がCYP2D6によってモルヒネになるとされている。本症例は、授乳婦の体内でコデインから生成したモルヒネが、母乳を通して乳児に移行し、モルヒネの毒性によって乳児が死亡したと見られている。


== 乱用 ==
== 乱用 ==
コデインはしばしば[[乱用]]される事があり、これは入手の容易性によるものと推定される。しかしコデインを過量に服用し続けると、[[薬物依存]]に陥る。またコデインを成分とする市販のせき止め薬を処理して、強力な麻薬の[[デソモルヒネ]]を密造する方法が近年になってインターネットに拡散し、ロシアなどで乱用被害の増加が問題になっている。
コデインはしばしば[[乱用]]される事があり、これは入手の容易性によるものと推定される。しかしコデインを過量に服用し続けると、[[薬物依存]]に陥る。またコデインを成分とする市販のせき止め薬を処理して、強力な麻薬の[[デソモルヒネ]]を密造する方法が近年になってインターネットに拡散し、ロシアなどで乱用被害の増加が問題になっている。


== 脚注 ==
== 出典 ==
{{Reflist}}
<references/>
== 参考資料 ==
* Rossi S (Ed.) (2004). Australian Medicines Handbook 2004. Adelaide: Australian Medicines Handbook. ISBN 0-9578521-4-2.
* Schroeder K & Fahey T (2004). Over-the-counter medications for acute cough in children and adults in ambulatory settings. The Cochrane Database of Systematic Reviews 2004 (4), DOI:10.1002/14651858.CD001831.pub2.


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2015年9月30日 (水) 05:45時点における版

コデイン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
MedlinePlus a682065
胎児危険度分類
  • US: C
法的規制
投与経路 経口、直腸
薬物動態データ
生物学的利用能90%(経口)
代謝肝臓CYP2D6
半減期2.5 - 3時間
排泄48時間までに約95%が尿中に排泄
識別
CAS番号
76-57-3 チェック
ATCコード R05DA04 (WHO)
combinations: N02AA59 (WHO), N02AA79 (WHO)
PubChem CID: 5284371
IUPHAR/BPS 1673
DrugBank DB00318 チェック
ChemSpider 4447447 チェック
UNII Q830PW7520 チェック
KEGG C06174  チェック
ChEBI CHEBI:16714 チェック
ChEMBL CHEMBL485 チェック
化学的データ
化学式C18H21NO3
分子量299.364 g/mol
テンプレートを表示
ファイル:Codeine 3d transparent.gif
コデインの分子模型。

コデイン: Codeine)またはメチルモルヒネは局所麻酔、鎮咳、および下痢止めの作用のある、μ受容体アゴニストのオピオイドである。塩である、硫酸コデインもしくはリン酸コデイン(: Codeine phosphate)として製品化されている。

リン酸コデインは鎮痛剤や下痢止めとして用いられるが、コデインを還元して製造したジヒドロコデインを鎮咳薬として風邪薬に配合するのが一般的である。

歴史

コデインは1832年にフランスの薬学者Pierre Jean Robiquetによって、アヘンからテバインと共に単離されたことで発見された。

合成

アヘン由来の天然化合物ベンジルイソキノリン型アルカロイドだが、コデインはアヘン中のアルカロイドとして0.7 - 2.5%ほどしか含まれない。化学構造上モルヒネに類似し、フェノール環3位のOH基がメチル置換されたメチルモルヒネであるため、アメリカ合衆国内で使用されているコデインはモルヒネをO-メチル化して合成されている。

代謝

コデインはプロドラッグであり、グルクロン酸抱合及びO-脱メチル化された代謝産物のみが薬効薬理を発揮する。代謝産物の約10%がモルヒネとなり、鎮痛力価はモルヒネの半分にも満たないとされる。

適応

厚生労働省において認可されている使用方法は以下のようになっている。

  • 上気道炎、急性気管支炎に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難
  • 激しい下痢症状の改善
  • 軽度から中程度の疼痛時における鎮痛

文献を探索した結果、一般医薬品の急性咳に対する有効性には、十分な証拠がないと結論されている[1]

現在の投与方法は主に経口で、形状は錠、散、シロップなどがある。錠剤ではコデインはしばしばアセトアミノフェンアスピリンイブプロフェンと共に調合される。これらの組み合わせは、それぞれ単体での使用よりも良い疼痛コントロールが可能となる。1日に純粋なコデインの使用量が240mgを超えてしまった場合、コデインには天井効果が存在するため副作用が増強される恐れがある。

副作用

一般的な副作用は次の通りである: 掻痒感、吐き気、嘔吐、眠気、口内乾燥感、瞳孔縮小、起立性低血圧、排尿障害、便秘[2]

ほとんどの副作用への耐性、および作用への耐性は長期連用と共に形成する。これは作用または副作用毎に形成される速度は異なる。たとえば便秘を含む作用への耐性形成は、遅い。

潜在的に深刻な副作用は他のオピオイドと同様に呼吸抑制である。この抑制は用量依存であり、この呼吸抑制が過量服用時に深刻な結果をもたらす。

授乳による乳児の死亡

コデインを使用していた母親が授乳を行った乳児が死亡した症例の報告がある[3]。既述の通り、ヒトの体内では投与されたコデインの約10%がCYP2D6によってモルヒネになるとされている。本症例は、授乳婦の体内でコデインから生成したモルヒネが、母乳を通して乳児に移行し、モルヒネの毒性によって乳児が死亡したと見られている。

作用機序

コデインは肝臓で全代謝の約80%がグルクロン酸抱合され、約10%はシトクロムP450の分子種の1つであるCYP2D6を触媒としてO-脱メチル化を受け、残りはCYP3A4を触媒としてN-脱メチル化される。これらのうち、O-脱メチル化されてできる代謝産物のモルヒネが、主に薬効を発揮する。

体内でコデインから生成したモルヒネがグルクロン酸抱合受けてできるmorphine-6-glucuronide(以降M-6-Gとする)がモルヒネと共にオピオイド受容体に作用し、下降性疼痛を抑制することで鎮痛作用の主体を担っている。一方、グルクロン酸抱合によってコデインはcodeine-6-glucuronide(以降C-6-G)に代謝される。C-6-Gは全代謝の約80%を占めるが、μ受容体への結合が弱く、鎮痛には関与していないとされる。しかし一部鎮痛に関与しているとの報告もある。N-脱メチル化されたコデインは、ノルコデインになり、最後はノルモルヒネに代謝される。

モルヒネと極めて類似した化学構造と薬理作用を有するが、モルヒネに比べ作用は弱く、力価は鎮痛作用は1/6、鎮静・催眠作用は約1/4、呼吸抑制作用も1/4程度とされている。反面、鎮咳作用量でモルヒネに比べ便秘、悪心・嘔吐等の副作用が少なく、依存性形成も弱いので、主として鎮咳の目的に使用される。論理的には30mgのモルヒネ(経口)と同じ鎮痛作用を期待するには、約200mgのコデイン(経口)の投与が必要である[2]。しかし実際には1回60mg、24時間につき240mg以上は投与されない。これは天井効果により、投与量を多くしても効果は投与量に比例して大きくならないからである。反対に副作用が強くなる恐れがある。

薬物動態

本邦においてコデインは散、錠、シロップといった経口での投与がある。健康な成人男性にコデインリン酸塩水和物として65mg経口投与したとき、血中濃度は約1時間後にCmaxに達する。その後、3-4時間で半減期を迎える。30mgを経口で投与した場合、48時間以内に約95%が尿中に排泄される。

カフカス人種(コーカサス地方)の約6-10%、アジア人種の約2%、アラビア人種の約1%は酵素欠損によりほとんど機能しないCYP2D6を持っており、コデインは鎮痛効果をほとんど持たない。しかし、依然としてほとんどの副作用は起こりうる。また医薬品によってはCYP2D6を阻害しコデインの有効性を損なったり失わせたりする。これらには選択的セロトニン再取り込み阻害薬 などがある。

薬理

コデインそのものはμ-オピオイド受容体に弱い親和力を示す。主要な鎮痛作用はμ-オピオイド受容体へのモルヒネの親和性による。しかし他の作用または副作用は他のオピオイド受容体への作用による。

診療ガイドライン

WHO方式がん性痛治療法の第2段階の弱オピオイドの第1選択薬に指定されている。

規制

日本では低濃度のコデインが含まれる医薬品は処方箋なしで入手する事が可能であるが、単体のコデインは指定医薬品であるため購入は医師の処方箋によるものでなければならない。

コデインはアメリカ合衆国では規制薬物法 (Controlled Substances Act) で規制されている。コデインを単独で含む鎮痛剤はスケジュールII規制薬物である。アスピリンもしくはアセトアミノフェンとの組み合わせではスケジュールIIIである。コデインはアメリカ合衆国外では液体鎮咳剤の形で非処方箋医薬品(Schedule V)として入手可能である。国際的にはコデインは麻薬に関する単一条約でスケジュールII薬物と指定されている。

イギリスでは、コデインはMisuse of Drugs ActでClass B薬物に指定されている。ただし、Co-codamolなどの低濃度のコデインが含まれる医薬品は処方箋なしで入手する事が可能である。

オーストラリアとカナダでは、コデインは規制されているが、許可された薬剤師による最大15mg/錠での調合による入手が処方箋なしで可能である。

乱用

コデインはしばしば乱用される事があり、これは入手の容易性によるものと推定される。しかしコデインを過量に服用し続けると、薬物依存に陥る。またコデインを成分とする市販のせき止め薬を処理して、強力な麻薬のデソモルヒネを密造する方法が近年になってインターネットに拡散し、ロシアなどで乱用被害の増加が問題になっている。

出典

  1. ^ Smith, Susan M; Schroeder, Knut; Fahey, Tom; Smith, Susan M (2014). “Over-the-counter (OTC) medications for acute cough in children and adults in community settings”. Cochrane Database Syst Re: CD001831. doi:10.1002/14651858.CD001831.pub5. PMID 25420096. 
  2. ^ a b Rossi S (Ed.) (2004). Australian Medicines Handbook 2004. Adelaide: Australian Medicines Handbook. ISBN 0-9578521-4-2.
  3. ^ Gideon Koren、James Cairns、David Chitayat、Andrea Gaedigk、Steven J Leeder (2006-08) "Pharmacogenetics of morphine poisoning in a breastfed neonate of a codeine-prescribed mother"

外部リンク