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貧困、失業、大切な人との離別などが抑うつを引き起こすこともあるが、社会的、状況的原因を薬で解決することはできない<ref name="IK2009177"/>。この場合、運動などが有効である<ref name="IK2009177"/>。また、運動療法は薬物療法に比べてうつが再発する可能性が低い<ref>{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=345-346}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=515-516}}</ref><ref>{{harvnb|Irving Kirsch|2009|pp=170-171}} (翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|p=230}})</ref>。

1800年代初め、[[アメリカ合衆国]]で広く利用された[[スコットランド]]の医師ウィリアム・バカン([[w:William Buchan (physician)|William Buchan]])の医学書『[[w:Domestic medicine|Domestic Medicine]]』は、[[メランコリー|憂うつ]]の治療について、「患者はできるだけたくさん戸外で運動すべきである…こうした計画に食生活の厳格な節制を加えるなら、ただ患者を家の中に閉じ込めて薬漬けにするよりも、治療法としてはるかに理にかなっている{{refnest|group="注"|原文: “The patient ought to take as much exercise in the open air as he can bear
...A plan of this kind, which astrict attention to diet, is a much more rational method of cure, than confining the patient within doors, and plying him with medicines.” <ref name="RW2009344"/>}}」と述べている<ref name="RW2009344">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|p=344}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|p=514}})</ref>。

2004年、[[英国国立医療技術評価機構]](NICE)は「[[抗うつ薬]]はリスク便益比の観点から、軽度のうつの初期治療には推奨できない{{refnest|group="注"|原文: “antidepressants are not recommended for the initial treatment of mild depression, because the risk-benefits ratio is poor.” <ref name="RW2009345"/>}}」としている。寧ろ、医師は薬物以外の代替法を試し、「軽度のうつ病患者には年齢を問わず、構造化された指導付き運動プログラムのメリット{{refnest|group="注"|原文: “patients of all ages with mild depression of the benefits of following a structured and supervised exercise programme.” <ref name="RW2009345"/>}}」を推奨すべきだとしている<ref name="RW2009345">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|p=345}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=514-515}})</ref>。

2007年のNICEのガイドラインでは、[[フィジカルトレーニング]]は軽度の抑うつ治療に推奨された<ref name="nice2007">{{cite report |url= http://www.nice.org.uk/nicemedia/pdf/CG023fullguideline.pdf |format=PDF |title=CG23 : Management of depression in primary and secondary care |publisher=[[英国国立医療技術評価機構]] |date=2007 |page=99}}</ref>。

2009年、[[イギリス]]の[[総合診療医]](GP)の20%以上(2004年の4倍)が抑うつ症状の患者にしばしば運動療法を「処方」している。短期的には、6週間以内に著しい改善があり、効果は大きく、抑うつ症状のある患者の70%が運動プログラムに反応したという研究報告がある。長期的にも多くの副効果(心臓血管機能・認知機能・性的機能・筋力・社会性の向上、高血圧・睡眠の改善)がある<ref>{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=345-347}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=515-517}})</ref>。

2009年、[[プラセボ効果]]を研究する[[ハル大学]]の[[アービング・カーシュ]]博士は、運動にも[[心理療法]]や[[抗うつ薬]]と同等の効果があると紹介している。薬物療法や心理療法ほど多面的な研究はなされていないが、効果を評価する[[臨床試験]]は沢山行われている。主に中程度〜重度の症状に効果があり、定期的に続ける限り持続し、時間が経過すると効果が大きくなる。さらに、[[疫学|疫学的研究]]から予防効果も示唆されている。運動の種類は「[[ウォーキング]]([[有酸素運動]])」「[[ウェイトトレーニング]]([[無酸素運動]])」など何でも良く、20分の運動を週3日行えば十分効果がある。ただし、運動と抗うつ薬を併用するより、運動のみのほうが効果が高い。臨床試験の欠陥を理由に運動の効果が否定されることがあるが、抗うつ薬の臨床試験にも欠陥{{refnest|group="注"|[[二重盲検]]試験では医師と被験者に[[抗うつ薬]]と[[偽薬]]のどちらを投与するか知らせないが、抗うつ薬の副作用によって医師の87%、被験者の80%(抗うつ薬群89%、偽薬群59%)にどちらを投与したか見破られるという報告がある。この研究で被験者の80%が言い当てる確率は100万分の1以下である<ref>{{harvnb|Irving Kirsch|2009|pp=14-16}} (翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|pp=29-30}})</ref>。}}が存在している<ref>{{harvnb|Irving Kirsch|2009|pp=169-173}} (翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|pp=229-233}})</ref>。

重度のうつ病には運動でさえもおっくうで不可能な場合がある。

2012年、[[日本うつ病学会]]のガイドラインは「本来軽症に限った治療法ではない」と断った上で、軽症のうつ病への適用について、「運動を行うことが可能な患者の場合、うつ病の運動療法に精通した担当者のもとで、実施マニュアルに基づいた運動療法が用いられることがある。一方で運動の効果については否定的な報告もあり、まだ確立された治療法とは言えない」と述べている{{Sfn|日本うつ病学会|2012}}。

2013年、[[コクラン・ライブラリ]]によれば、運動の効果は心理療法や薬物療法と同程度である<ref>{{cite journal |author=Cooney GM, Dwan K, Greig CA, Lawlor DA, Rimer J, Waugh FR, McMurdo M, Mead GE |title=Exercise for depression |journal=Cochrane Database of Systematic Reviews |date=2013 |issue=9 |pages=CD004366 |doi=10.1002/14651858.CD004366.pub6}}</ref>。

運動はうつ病の症状を改善させない。通常の治療と比較して抗うつ剤の使用を減少させない。身体活動を増加させることは、うつ病からの回復の機会を増加させない。<ref>{{cite web|url=http://www.bmj.com/content/344/bmj.e2758|accessdate=2012-03-22|title=Facilitated physical activity as a treatment for depressed adults: randomised controlled trial}}</ref>。


== 糖尿病における運動療法 ==
== 糖尿病における運動療法 ==

2015年9月16日 (水) 19:08時点における版

運動療法(うんどうりょうほう、英語: Exercise therapy)とは、身体の全体または一部を動かすことで症状の軽減や機能の回復を目指す療法のこと[1]治療体操機能訓練などとも言う。

概説

運動療法というのは、その名称どおり、運動すること、つまり身体を動かすこと、を治療法として用いることである。 運動療法には関節可動域回復訓練、麻痺回復促進訓練、歩行訓練、筋力増強、心肺機能改善訓練などが含まれる。

理学療法士が行う治療では、日常生活活動訓練物理療法などと並び主用な治療法のひとつである。

健康維持・増進における運動の効果が医学的に認識され、運動医学スポーツ医学が研究されるようになって、生活習慣病などに効果が期待されている分野である。運動療法は、現在は主に生活習慣病(高血圧動脈硬化虚血性心疾患糖尿病高脂血症等)に効果的とされている。[2]

運動療法の意義

  1. 関節可動域、筋力、協調性の改善
  2. 肺活量の増大
  3. 最大酸素摂取量、最大酸素負債量の増加
  4. 心拍出量の増加と心拍数の低下
  5. 運動時の血圧上昇が低く抑えられる
  6. 糖代謝の改善
  7. 脂質代謝の改善

うつ病における運動療法

英国国立医療技術評価機構診療ガイドラインでは、軽中度のうつ病患者に対しては、認知行動療法と並んで運動療法を選択肢の一つとして推奨している[3]。患者が運動療法を選択した場合は、訓練を受けたコーチの下でグループ単位で行わなければならない、また1回あたり45分-1時間、週3回を10-14週間程度としなければならないとしている[3]

貧困、失業、大切な人との離別などが抑うつを引き起こすこともあるが、社会的、状況的原因を薬で解決することはできない[4]。この場合、運動などが有効である[4]。また、運動療法は薬物療法に比べてうつが再発する可能性が低い[5][6]

1800年代初め、アメリカ合衆国で広く利用されたスコットランドの医師ウィリアム・バカン(William Buchan)の医学書『Domestic Medicine』は、憂うつの治療について、「患者はできるだけたくさん戸外で運動すべきである…こうした計画に食生活の厳格な節制を加えるなら、ただ患者を家の中に閉じ込めて薬漬けにするよりも、治療法としてはるかに理にかなっている[注 1]」と述べている[7]

2004年、英国国立医療技術評価機構(NICE)は「抗うつ薬はリスク便益比の観点から、軽度のうつの初期治療には推奨できない[注 2]」としている。寧ろ、医師は薬物以外の代替法を試し、「軽度のうつ病患者には年齢を問わず、構造化された指導付き運動プログラムのメリット[注 3]」を推奨すべきだとしている[8]

2007年のNICEのガイドラインでは、フィジカルトレーニングは軽度の抑うつ治療に推奨された[9]

2009年、イギリス総合診療医(GP)の20%以上(2004年の4倍)が抑うつ症状の患者にしばしば運動療法を「処方」している。短期的には、6週間以内に著しい改善があり、効果は大きく、抑うつ症状のある患者の70%が運動プログラムに反応したという研究報告がある。長期的にも多くの副効果(心臓血管機能・認知機能・性的機能・筋力・社会性の向上、高血圧・睡眠の改善)がある[10]

2009年、プラセボ効果を研究するハル大学アービング・カーシュ博士は、運動にも心理療法抗うつ薬と同等の効果があると紹介している。薬物療法や心理療法ほど多面的な研究はなされていないが、効果を評価する臨床試験は沢山行われている。主に中程度〜重度の症状に効果があり、定期的に続ける限り持続し、時間が経過すると効果が大きくなる。さらに、疫学的研究から予防効果も示唆されている。運動の種類は「ウォーキング有酸素運動)」「ウェイトトレーニング無酸素運動)」など何でも良く、20分の運動を週3日行えば十分効果がある。ただし、運動と抗うつ薬を併用するより、運動のみのほうが効果が高い。臨床試験の欠陥を理由に運動の効果が否定されることがあるが、抗うつ薬の臨床試験にも欠陥[注 4]が存在している[12]

重度のうつ病には運動でさえもおっくうで不可能な場合がある。

2012年、日本うつ病学会のガイドラインは「本来軽症に限った治療法ではない」と断った上で、軽症のうつ病への適用について、「運動を行うことが可能な患者の場合、うつ病の運動療法に精通した担当者のもとで、実施マニュアルに基づいた運動療法が用いられることがある。一方で運動の効果については否定的な報告もあり、まだ確立された治療法とは言えない」と述べている[13]

2013年、コクラン・ライブラリによれば、運動の効果は心理療法や薬物療法と同程度である[14]

運動はうつ病の症状を改善させない。通常の治療と比較して抗うつ剤の使用を減少させない。身体活動を増加させることは、うつ病からの回復の機会を増加させない。[15]

糖尿病における運動療法

糖尿病における運動療法の効果としては以下のようなことがあげられる。

運動の急性効果としてブドウ糖、脂肪酸の利用が促進され血糖が低下する。
運動の慢性効果としてインスリン抵抗性が改善する。
エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果がある。
加齢や運動不足による筋萎縮骨粗鬆症の予防に有効である。
高血圧脂質異常症の改善に有効である。

有酸素運動とレジスタンス運動がインスリン抵抗性の改善に有効とされている。前者としてはジョギング、水泳、後者としては水中歩行があげられる。治療効果が見込める運動量としては歩行として1回15分以上を一日二回、1週間に3日以上が望ましいとされている。消費エネルギーとしては200Kcal程度であり、運動による減量はほとんど期待できない。減量は食事療法によって行い、運動療法はあくまでもインスリン抵抗性を改善させる目的で行う。即ち、糖尿病治療中で運動をした分食事を増やすというのは全く治療になっていない。

治療目的で運動療法を行う患者の場合、糖尿病以外に不整脈といった疾患が合併している場合が多々ある。こういった場合のふさわしい運動強度というのはケースバイケースとなるので医療機関に相談することが望ましいとされている。但し、糖尿病を改善したいのなら基本的なことは変わらない。

糖尿病における運動療法で気をつけるべき点としては低血糖発作である。特にSU薬を用いていると空腹時低血糖を起こしやすいので、食前の運動を避けるといった工夫が必要な場合もある。

運動療法を控えた方が良い場合

基本的には糖尿病慢性期合併症が生じてしまったら運動療法は行わない方が良いといわれている。網膜症があれば、低血糖をおこし交感神経が反応し高血圧になると網膜剥離を起こすこともある。腎症があれば、運動でタンパク尿は増えて、腎臓をさらに障害する。神経症があれば運動は怪我のリスクとなる。

糖尿病の代謝コントロールが極端に悪い時(空腹時血糖値250mg/dl以上、または尿中ケトン体中等度以上陽性)
増殖網膜症による新鮮な眼底出血がある場合(運動によって網膜症が悪化し失明する恐れがある、眼科医と相談が必要である)。
腎不全の状態にあるとき。
虚血性心疾患や心肺機能に障害がある場合
骨、関節疾患がある場合
急性感染症
糖尿病性壊疽
高度の糖尿病性自律神経障害

これらが認められた場合は運動療法は制限した方がよいとされている。ただし、運動療法の制限の適応になったとしても日常動作まで制限されることは稀であり、安静臥床を必要とするということではない。

1(不可):他動運動

0(ゼロ):他動運動

  • マットおよび訓練台:基本動作訓練など用途は広い
  • 傾斜台(斜面台):起立性低血圧予防などに用いる
  • 階段:必要な時に組み立てることのできるものもある
  • トレッドミル:速度と傾斜を調整できるものがほとんどである
  • 鏡:姿勢矯正などに用いる
  • その他:心電図モニター肺活量計など


注意点

体調に不安がある場合は、医師や専門のトレーナーの指導を受けることが望ましい。

運動は適度な範囲に収める必要がある。過剰な運動は逆効果となる。

脚注

  1. ^ Exercise therapy”. MeSH. 2015年8月31日閲覧。
  2. ^ 今後は、心臓疾患脳疾患など、「生活習慣+ストレス」により生ずるその他の疾病についても、運動により生活習慣を改め、運動によりストレスを軽減することで、予防治療効果を得ることも期待される[要出典]
  3. ^ a b 英国国立医療技術評価機構 (2009-08). CG90: Depression in adults (Report). Chapt.1.4.2. {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  4. ^ a b 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「IK2009177」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  5. ^ Robert Whitaker 2009, pp. 345–346 (翻訳書は ロバート・ウィタカー 2010, pp. 515–516
  6. ^ Irving Kirsch 2009, pp. 170–171 (翻訳書は アービング・カーシュ 2010, p. 230)
  7. ^ a b Robert Whitaker 2009, p. 344 (翻訳書は ロバート・ウィタカー 2010, p. 514)
  8. ^ a b c Robert Whitaker 2009, p. 345 (翻訳書は ロバート・ウィタカー 2010, pp. 514–515)
  9. ^ CG23 : Management of depression in primary and secondary care (PDF) (Report). 英国国立医療技術評価機構. 2007. p. 99.
  10. ^ Robert Whitaker 2009, pp. 345–347 (翻訳書は ロバート・ウィタカー 2010, pp. 515–517)
  11. ^ Irving Kirsch 2009, pp. 14–16 (翻訳書は アービング・カーシュ 2010, pp. 29–30)
  12. ^ Irving Kirsch 2009, pp. 169–173 (翻訳書は アービング・カーシュ 2010, pp. 229–233)
  13. ^ 日本うつ病学会 2012.
  14. ^ Cooney GM, Dwan K, Greig CA, Lawlor DA, Rimer J, Waugh FR, McMurdo M, Mead GE (2013). “Exercise for depression”. Cochrane Database of Systematic Reviews (9): CD004366. doi:10.1002/14651858.CD004366.pub6. 
  15. ^ Facilitated physical activity as a treatment for depressed adults: randomised controlled trial”. 2012年3月22日閲覧。

参考文献

  • 日本糖尿病学会 編『糖尿病治療ガイド2008-2009』文光堂、2008年。ISBN 9784830613708 

関連事項

外部リンク


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