「AGS 155mm砲」の版間の差分
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[[1991年]][[9月27日]]、[[アメリカ海軍]]は「フロム・ザ・シー」(From the Sea)と題する海軍白書を発表した。これは、[[冷戦]]構造崩壊後の[[非対称戦争]]・[[戦争以外の軍事作戦]]の要請増大に対応して、主たる作戦海域を外洋域(Ocean)から沿海域(Littoral)に切り替えるという重要な[[ドクトリン]]変更の端緒であった{{Sfn|山本|2003}}。 |
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これに伴い、将来水上戦闘艦を開発する一大プロジェクトとして[[1990年代]]に進められていたSC-21(Surface Combatant for 21st Century)計画のコンセプト開発でも、[[水陸両用作戦]]における海上[[火力支援]](NSFS)任務が重視された。当時、アメリカ海軍では[[Mk 45 5インチ砲|Mk.45 5インチ単装砲]]のような中口径艦砲しか保有しておらず、1発あたりの威力や投射弾量、射程距離に限界が指摘されていた。これに対して[[アメリカ海兵隊]]は、AGSの選定にあたり、地上部隊装備の[[M198 155mm榴弾砲]]と同程度の威力と、最低{{Convert|41|nmi|km}}(できれば{{Convert|63|nmi|km}})の射程を要請していた |
これに伴い、将来水上戦闘艦を開発する一大プロジェクトとして[[1990年代]]に進められていたSC-21(Surface Combatant for 21st Century)計画のコンセプト開発でも、[[水陸両用作戦]]における海上[[火力支援]](NSFS)任務が重視された。当時、アメリカ海軍では[[Mk 45 5インチ砲|Mk.45 5インチ単装砲]]のような中口径艦砲しか保有しておらず、1発あたりの威力や投射弾量、射程距離に限界が指摘されていた。これに対して[[アメリカ海兵隊]]は、AGSの選定にあたり、地上部隊装備の[[M198 155mm榴弾砲]]と同程度の威力と、最低{{Convert|41|nmi|km}}(できれば{{Convert|63|nmi|km}})の射程を要請していた{{Sfn|山本|2003}}。これに応じて、SC-21計画艦に搭載するための大口径艦砲として開発されたのが本システムである{{Sfn|堤|2014}}。 |
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当初は、砲身は甲板下に縦に固定しておいて、垂直方向に誘導砲弾を打ち出す垂直発射砲(Vertical Gun for Advanced Ships)として計画されていた。しかし[[1999年]]9月に計画は修正され、従来の無誘導砲弾も使用できる、在来式の旋回砲架とされた |
当初は、砲身は甲板下に縦に固定しておいて、垂直方向に誘導砲弾を打ち出す垂直発射砲(Vertical Gun for Advanced Ships)として計画されていた。しかし[[1999年]]9月に計画は修正され、従来の無誘導砲弾も使用できる、在来式の旋回砲架とされた{{Sfn|野木|2004}}。 |
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砲楯は、可動式の砲架部分と、固定式の砲身格納部分に分かれており、使用しないときには砲身を完全に砲楯内に収容することでステルス性を確保している。砲架部分は[[スリップリング]]を使用して全周無制限の旋回に対応している。また[[仰俯角]]は、俯角5度から仰角70度まで可能である。[[銃砲身|砲身]]は62[[口径#砲|口径]]長の長砲身とされた。冷却は水冷方式であり、外部を冷却用の筒で覆っている。当初は[[ステルス性]]を考慮して、砲身自体を台形の平面で覆うことも検討されたものの、結局、従来通りの円筒形となった。上記の複雑な砲楯形状はこれを受けた措置であった |
砲楯は、可動式の砲架部分と、固定式の砲身格納部分に分かれており、使用しないときには砲身を完全に砲楯内に収容することでステルス性を確保している。砲架部分は[[スリップリング]]を使用して全周無制限の旋回に対応している。また[[仰俯角]]は、俯角5度から仰角70度まで可能である。[[銃砲身|砲身]]は62[[口径#砲|口径]]長の長砲身とされた。冷却は水冷方式であり、外部を冷却用の筒で覆っている。当初は[[ステルス性]]を考慮して、砲身自体を台形の平面で覆うことも検討されたものの、結局、従来通りの円筒形となった。上記の複雑な砲楯形状はこれを受けた措置であった{{Sfn|堤|2014}}。 |
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装填は砲身を垂直に立てて行われる。砲塔下の弾薬庫には、弾薬が8発入の弾薬箱(パレット)に収容されて格納されている。弾薬箱の選択・移動から弾薬の取り出し、揚弾薬・装填および操砲まで完全に自動化されており、弾薬庫内も含めて無人化されている。砲・砲塔、揚弾薬・装填機構、また弾薬庫内での弾薬箱移動を含めて、動力は全て電動であり、800キロワットの電力を要するとされている。弾薬庫内にはパレット38個(砲弾304発)が収容されている |
装填は砲身を垂直に立てて行われる。砲塔下の弾薬庫には、弾薬が8発入の弾薬箱(パレット)に収容されて格納されている。弾薬箱の選択・移動から弾薬の取り出し、揚弾薬・装填および操砲まで完全に自動化されており、弾薬庫内も含めて無人化されている。砲・砲塔、揚弾薬・装填機構、また弾薬庫内での弾薬箱移動を含めて、動力は全て電動であり、800キロワットの電力を要するとされている。弾薬庫内にはパレット38個(砲弾304発)が収容されている{{Sfn|堤|2014}}。 |
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[[砲弾]]としては |
本砲は、アメリカ海軍で伝統的な152 mm(6インチ)口径ではなく、地上部隊用の榴弾砲で一般的な155 mm口径を採用しているが、弾薬の互換性は持たない{{Sfn|堤|2014}}。[[砲弾]]としては誘導砲弾にも対応しており、当初は、[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]/[[慣性航法装置|INS]]誘導の長射程対地攻撃弾{{Enlink|Long Range Land Attack Projectile|LRLAP}}の搭載が計画されていた。これは[[ロッキード・マーティン]]社が開発していたもので、ロケット補助推進弾{{Enlink|Rocket-assisted projectile|RAP}}とすることで118 kmという長射程(最終的には185 kmへの延伸を計画)、またGPS/INS誘導とすることで[[平均誤差半径]](CEP)20 - 50メートルという精度を確保していた。砲弾重量は102 kg、炸薬量は11 kgであった{{Sfn|堤|2014}}。しかし2013年2月には射距離117 kmを記録したものの、当初計画では1発あたりの価格が3万5,000ドルとされていたものが80-100万ドルにまで高騰していたことから、2016年11月に採用がキャンセルされた{{Sfn|多田|2020}}。代替砲弾としては、127mm砲や、開発中の[[レールガン]]用に開発されている超高速砲弾(HVP)の利用が考えられており{{Efn2|なおHVPは、後には砲発射誘導砲弾({{Lang|en|Gun Launched Guided Projectile, GLGP}})とも称されるようになっている{{Sfn|多田|2020}}。}}、本砲では発射速度10発/分、最大射距離130 km以上と見積もられている{{Sfn|多田|2020}}。 |
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このほか、対艦攻撃用として、ミリ波誘導で最大射程56 kmの誘導砲弾の構想もあった{{Sfn|多田|2007}}。なお無誘導砲弾として、最大射程44 kmのBLRP(Ballistic Long Range Projectile)の構想もあったが、これは2006年に開発の棚上げが決定され、中止されたとの説もある{{Sfn|堤|2014}}。 |
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なお本砲は、アメリカ海軍で伝統的な152 mm(6インチ)口径ではなく、地上部隊用の榴弾砲で一般的な155 mm口径を採用しているが、弾薬の互換性は持たない<ref name="堤2014"/>。 |
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SC-21計画をもとに建造された[[ズムウォルト級ミサイル駆逐艦]]では、艦首甲板に2門が搭載されている。また、Mk.45と換装して[[アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦]]に搭載できるように小型軽量化した'''AGSライト'''も開発されている |
SC-21計画をもとに建造された[[ズムウォルト級ミサイル駆逐艦]]では、艦首甲板に2門が搭載されている。また、Mk.45と換装して[[アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦]]に搭載できるように小型軽量化した'''AGSライト'''も開発されている{{Sfn|堤|2014}}。 |
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* {{Cite journal|和書|last=多田|first=智彦|year=2007|month=7|title=「ズムウォルト」級 その驚くべきメカニズムと戦闘能力 (特集・米次期DDG「ズムウォルト」級を解剖する)|journal=[[世界の艦船]]|issue=676|pages=82-89|publisher=[[海人社]]|naid=40015488226|ref=harv}} |
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* {{Cite journal|和書|last=多田|first=智彦|year=2020|month=10|title=現代の艦載兵器(第10回)艦載砲(その1)|journal=世界の艦船|issue=933|pages=200-205|publisher=海人社|naid=40022358707|ref=harv}} |
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* {{Cite journal|和書|last=堤|first=明夫|year=2014|month=11|title=155ミリAGS 驚異のメカニズム (特集 現代の艦砲)|journal=世界の艦船|issue=806|pages=76-81|publisher=海人社|naid=40020216048|ref=harv}} |
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* {{Cite journal|和書|authorlink=江藤巌|last=野木|first=恵一|year=2004|month=4|title=最新艦砲とその対地攻撃能力 (特集・艦対地攻撃)|journal=世界の艦船|issue=624|pages=80-85|publisher=海人社|naid=40006119834|ref=harv}} |
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* {{Cite journal|和書|last=山本|first=紀義|year=2003|month=04|title=現代艦砲の新傾向を探る (特集・現代の艦砲)|journal=世界の艦船|issue=609|pages=70-75|publisher=海人社|naid=80015796559|ref=harv}} |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
2021年5月2日 (日) 01:21時点における版
Advanced Gun System | |
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ダグウェイ性能試験場での試射 | |
種類 | 艦砲 (後装式ライフル砲) |
原開発国 | アメリカ合衆国 |
運用史 | |
配備期間 | 2016年 - 現在 |
開発史 | |
開発者 | BAEシステムズ・ランド&アーマメンツ |
製造業者 | BAEシステムズ・ランド&アーマメンツ |
諸元 ([1]) | |
重量 |
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要員数 | 遠隔操作 |
| |
砲弾 | 半完全弾薬筒 |
口径 | 155 mm (6.1 in) 62口径長 |
銃砲身 | 単装 |
作動方式 | 隔螺式閉鎖機 |
仰角 | +70 - -5度 |
旋回角 | 全周無制限 |
発射速度 |
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初速 | 825メートル毎秒 |
有効射程 |
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155mm先進砲システム(英語: Advanced Gun System, AGS)は、アメリカ合衆国のユナイテッド・ディフェンス(現在のBAEシステムズ・ランド&アーマメンツ)社が開発した艦砲。
来歴
1991年9月27日、アメリカ海軍は「フロム・ザ・シー」(From the Sea)と題する海軍白書を発表した。これは、冷戦構造崩壊後の非対称戦争・戦争以外の軍事作戦の要請増大に対応して、主たる作戦海域を外洋域(Ocean)から沿海域(Littoral)に切り替えるという重要なドクトリン変更の端緒であった[2]。
これに伴い、将来水上戦闘艦を開発する一大プロジェクトとして1990年代に進められていたSC-21(Surface Combatant for 21st Century)計画のコンセプト開発でも、水陸両用作戦における海上火力支援(NSFS)任務が重視された。当時、アメリカ海軍ではMk.45 5インチ単装砲のような中口径艦砲しか保有しておらず、1発あたりの威力や投射弾量、射程距離に限界が指摘されていた。これに対してアメリカ海兵隊は、AGSの選定にあたり、地上部隊装備のM198 155mm榴弾砲と同程度の威力と、最低41海里 (76 km)(できれば63海里 (117 km))の射程を要請していた[2]。これに応じて、SC-21計画艦に搭載するための大口径艦砲として開発されたのが本システムである[3]。
設計
当初は、砲身は甲板下に縦に固定しておいて、垂直方向に誘導砲弾を打ち出す垂直発射砲(Vertical Gun for Advanced Ships)として計画されていた。しかし1999年9月に計画は修正され、従来の無誘導砲弾も使用できる、在来式の旋回砲架とされた[4]。
砲楯は、可動式の砲架部分と、固定式の砲身格納部分に分かれており、使用しないときには砲身を完全に砲楯内に収容することでステルス性を確保している。砲架部分はスリップリングを使用して全周無制限の旋回に対応している。また仰俯角は、俯角5度から仰角70度まで可能である。砲身は62口径長の長砲身とされた。冷却は水冷方式であり、外部を冷却用の筒で覆っている。当初はステルス性を考慮して、砲身自体を台形の平面で覆うことも検討されたものの、結局、従来通りの円筒形となった。上記の複雑な砲楯形状はこれを受けた措置であった[3]。
装填は砲身を垂直に立てて行われる。砲塔下の弾薬庫には、弾薬が8発入の弾薬箱(パレット)に収容されて格納されている。弾薬箱の選択・移動から弾薬の取り出し、揚弾薬・装填および操砲まで完全に自動化されており、弾薬庫内も含めて無人化されている。砲・砲塔、揚弾薬・装填機構、また弾薬庫内での弾薬箱移動を含めて、動力は全て電動であり、800キロワットの電力を要するとされている。弾薬庫内にはパレット38個(砲弾304発)が収容されている[3]。
本砲は、アメリカ海軍で伝統的な152 mm(6インチ)口径ではなく、地上部隊用の榴弾砲で一般的な155 mm口径を採用しているが、弾薬の互換性は持たない[3]。砲弾としては誘導砲弾にも対応しており、当初は、GPS/INS誘導の長射程対地攻撃弾 (LRLAP) の搭載が計画されていた。これはロッキード・マーティン社が開発していたもので、ロケット補助推進弾 (RAP) とすることで118 kmという長射程(最終的には185 kmへの延伸を計画)、またGPS/INS誘導とすることで平均誤差半径(CEP)20 - 50メートルという精度を確保していた。砲弾重量は102 kg、炸薬量は11 kgであった[3]。しかし2013年2月には射距離117 kmを記録したものの、当初計画では1発あたりの価格が3万5,000ドルとされていたものが80-100万ドルにまで高騰していたことから、2016年11月に採用がキャンセルされた[5]。代替砲弾としては、127mm砲や、開発中のレールガン用に開発されている超高速砲弾(HVP)の利用が考えられており[注 1]、本砲では発射速度10発/分、最大射距離130 km以上と見積もられている[5]。
このほか、対艦攻撃用として、ミリ波誘導で最大射程56 kmの誘導砲弾の構想もあった[6]。なお無誘導砲弾として、最大射程44 kmのBLRP(Ballistic Long Range Projectile)の構想もあったが、これは2006年に開発の棚上げが決定され、中止されたとの説もある[3]。
SC-21計画をもとに建造されたズムウォルト級ミサイル駆逐艦では、艦首甲板に2門が搭載されている。また、Mk.45と換装してアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦に搭載できるように小型軽量化したAGSライトも開発されている[3]。
脚注
注釈
出典
参考文献
- 多田, 智彦「「ズムウォルト」級 その驚くべきメカニズムと戦闘能力 (特集・米次期DDG「ズムウォルト」級を解剖する)」『世界の艦船』第676号、海人社、2007年7月、82-89頁、NAID 40015488226。
- 多田, 智彦「現代の艦載兵器(第10回)艦載砲(その1)」『世界の艦船』第933号、海人社、2020年10月、200-205頁、NAID 40022358707。
- 堤, 明夫「155ミリAGS 驚異のメカニズム (特集 現代の艦砲)」『世界の艦船』第806号、海人社、2014年11月、76-81頁、NAID 40020216048。
- 野木, 恵一「最新艦砲とその対地攻撃能力 (特集・艦対地攻撃)」『世界の艦船』第624号、海人社、2004年4月、80-85頁、NAID 40006119834。
- 山本, 紀義「現代艦砲の新傾向を探る (特集・現代の艦砲)」『世界の艦船』第609号、海人社、2003年4月、70-75頁、NAID 80015796559。
関連項目
- Mk 16 6インチ砲 - ブルックリン級以降の軽巡洋艦で搭載されていた152mm砲。
- Mk 71 8インチ砲 - 1970年代に開発された軽量203mm砲。命中精度とコスト面の問題から中止された。