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[[ファイル:Shiomidai.jpg|thumb|汐見台ニュータウンのハンプとフォルト]]
[[ファイル:Shiomidai.jpg|thumb|汐見台ニュータウンのハンプとフォルト]]
'''交通静穏化'''(こうつうせいおんか)または'''トラフィック・カーミング'''([[英語|英]]: traffic calming)とは、住環境保全や交通安全のために[[自動車]]交通を抑制する取り組みのことである<ref>{{Cite web|url=http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=3247|title=EICネット[環境用語集:「トラフィック・カーミング」]|accessdate=2017-07-30|publisher=EICネット}}</ref>。特に住宅密集地の[[生活道路]]を利用する近隣住民の交通安全を確保するために行われる。
'''交通静穏化'''(こうつうせいおんか)または'''トラフィック・カーミング'''({{lang-en|traffic calming}})とは、住環境保全や交通安全のために[[自動車]]交通を抑制する取り組みのことである<ref>{{Cite web|url=http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=3247|title=EICネット[環境用語集:「トラフィック・カーミング」]|accessdate=2017-07-30|publisher=EICネット}}</ref>。特に住宅密集地の[[生活道路]]を利用する近隣住民の交通安全を確保するために行われる。


オランダの[[ボンエルフ]]の訳語としてこの語が用いられることもある。
オランダの[[ボンエルフ]]の訳語としてこの語が用いられることもある。


== 概要 ==
== 概要 ==
地域間の移動を目的として大量の交通に対応した構造を持つ[[幹線道路]]とは異なり、住宅地の中を通る[[生活道路]]は幅員が狭く、自動車と歩行者の交通が錯綜しやすい。[[抜け道]]などの目的で自動車が高速かつ大量に生活道路を通過する場合、近隣住民に交通事故の危険が及ぶこととなり、騒音等による住環境悪化の恐れある。[[モータリゼーション]]の進展と共にうした問題を解決する必要性は高まり、21世紀に入っ現在でも欧米を中心とする各国で継続的に交通静穏化の取り組みが行われている。
地域間の移動を目的として大量の交通に対応した構造を持つ[[幹線道路]]とは異なり、住宅地の中を通る[[生活道路]]は幅員が狭く、自動車と歩行者の交通が錯綜しやすい。[[抜け道]]などの目的で自動車が高速かつ大量に生活道路を通過する場合、近隣住民に交通事故の危険が及ぶこととなり、また騒音等による住環境悪化の恐れある。こを解決するた行う取り組みを総称して交通静穏化といい、生活道路における自動車交通抑制を目的として、道路構造や交通規制などの改善が行われる。


== 取り組み ==
=== 経緯 ===
[[1963年]]にイギリスで発表された報告書『[[ブキャナンレポート|都市における交通]]』では、都市の道路を機能や役割によって分類し、それに応じて適切な整備を行うべきという理念に基づき、いかにして増加する自動車交通に対処すべきかを説いた。そこでは、急速な[[モータリゼーション]]の進展による自動車交通・台数の増加に対して行政がとるべき対処として「自動車交通より住環境の保全を優先させる地域を設ける」という施策を例示した<ref>{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/houkokusyo.pdf|title=生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書|accessdate=2017-08-31|publisher=警察庁|page=15}}</ref>。
交通静穏化への取り組みは、[[1970年代]]初めの[[オランダ]]における[[ボンエルフ]]({{lang-nl-short|woonerf}}、「生活の庭」の意)が始まりとされる。


[[1970年代]]初めには、[[オランダ]]で'''ボンエルフ'''と称する取り組みが開始され、歩車分離に代わる考え方として歩車共存が打ち出された。この取り組みにより、歩道と車道の区別をなくし、自動車がスピードを出せないような道路構造にすることで、従来車道だった空間まで住民の生活スペースに含まれるような道路が幹線道路に囲まれた地域(以下、ゾーン)毎に整備された。ボンエルフが整備された地域では、自動車が歩行者に対して一切の優先権を持たなくなり、住環境の向上に貢献することとなる。地域一帯で歩車共存空間を整備する取り組みは、1970年代終盤より欧州各国に波及した<ref>{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/houkokusyo.pdf|title=生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書|accessdate=2017-08-31|publisher=警察庁|page=14}}</ref>。
[[日本]]では、[[1980年]]に[[大阪府]][[大阪市]]長池町に[[コミュニティ道路]]が開通し、[[宮城県]][[七ヶ浜町]]では[[西洋環境開発]]がボンエルフ建設に取り組んだ[[汐見台ニュータウン]]の分譲が開始された。同社は後に京都市西区でも同様の理念で[[桂坂ニュータウン]]も建設する。このコミュニティ道路事業は[[1996年]]に「コミュニティゾーン」となって取り組みが広げられることとなる。


しかし、ボンエルフのように大規模な道路改修を要する取り組みは、住民の同意を得るのが難しかったり、その工事費用が莫大なものになることから、1980年代からはより簡易な'''ゾーン対策'''が広まりを見せた。これにおいては、速度規制を道路路線別ではなくゾーン全体で一括して設定し、速度抑制を促す道路構造の変更は、ゾーン内の必要箇所と幹線道路との出入口で重点的に行うこととなった<ref>{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/houkokusyo.pdf|title=生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書|accessdate=2017-08-31|publisher=警察庁|page=|pages=20-21}}</ref>。ゾーン対策は1984年にオランダで'''Zone30'''として法制化され、ボンエルフと同様欧州各国もこれに続いた<ref>{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/houkokusyo.pdf|title=生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書|accessdate=2017-08-31|publisher=警察庁|pages=16-19}}</ref>。
その後、オランダでは[[信号機|交通信号]]や[[道路標識]]をなくす「[[共有空間]](Shared Space)」という考え方が提唱され、[[欧州連合]]の援助で[[ドイツ]]のボームテがこのプロジェクトに取り組んで国際的に注目されるなど、交通静穏化の手法は進化し続けている。


その後、オランダでは[[信号機|交通信号]]や[[道路標識]]をなくす「[[共有空間]](Shared Space)」という考え方が提唱され、[[欧州連合]]の援助で[[ドイツ]]のボームテがこのプロジェクトに取り組んで国際的に注目されるなど、交通静穏化の手法は進化し続けている。
日本においても、[[2003年]]には[[国土交通省]]・[[警察庁]]が進める[[あんしん歩行エリア]]の指定による整備を進めている。さらに、2011年9月には警察庁が「ゾーン30」の取り組みを開始した<ref>{{Cite web|url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B330-190377|title=ゾーン30|accessdate=2017-02-16|publisher=コトバンク}}</ref>。


== 手法 ==
== 手法 ==
[[ファイル:Speed bump (asphalt).jpg|thumb|right|240px|ハンプ]]
[[ファイル:Gahoe-ro street Speed hump.JPG|thumb|right|240px|ハンプの例。[[ソウル特別市|ソウル]][[鐘路区]]嘉会路]]
[[ファイル:錯視 (15073682070).jpg|thumb|180px|イメージバンプの例]]
[[ファイル:錯視 (15073682070).jpg|thumb|180px|イメージバンプの例]]
交通規制や路面標示によって運転者への注意喚起を行うソフト的対策と、路上に構造物(物理的デバイス)を設置して道路そのものに手を加えるハード的対策が行われる。地域の実情に合わせて様々な手法を組み合わせ、交通静穏化を実施する<ref>{{Cite book|和書|author=一般社団法人 交通工学研究会|title=改定 生活道路のゾーン対策マニュアル|date=2017年6月13日|year=|publisher=丸善出版株式会社|ISBN=978-4-905990-86-4|pages=49-55}}</ref>。
歩車分離や自動車の速度抑制を目的とした道路構造の改善が行われる。基本的には、地域の実情に合わせて以下のいずれかを組み合わせて交通静穏化を行う。

* '''狭窄''' - 植栽枡(フォルト)や[[ボラード]]などを使用して車道の一部を狭くし、速度を低下させる。複数の狭窄でスラロームやクランクなどの蛇行道路にすることもある。
=== ソフト面 ===
* '''[[一方通行]]''' - 交通量の抑制や[[抜け道]]防止に設定される。指定方向外進行禁止もこれに含まれる。
* '''速度''' - 重大事故を避けるべく、時速30キロ以下に設定するのが望ましいとされる<ref>{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/houkokusyo.pdf|title=生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書|accessdate=2017-08-31|publisher=警察庁|page=23}}</ref>。ゾーン対策を行う場合は、路線別ではなくゾーン内で一括して規制対象とする。
* '''路面標示''' - 規制の内容や路側帯の明示など、カラー舗装も利用して運転者に視覚的な注意喚起を促す。特に[[錯視]]で路面に隆起があるように見せる物は'''イメージハンプ'''という'''。'''
* '''車種''' - 主に大型車の進入を禁止する。騒音対策で二輪を指定する事例や、歩行者専用道路規制を用いて通行車両を居住者用のものに限定する事例もある。
* '''駐車''' - 駐車禁止指定で通行の安全を確保したり、道路の左端以外を駐車可能場所として指定することで、意図した交通静穏化の効果を得られるようにする。

=== ハード面 ===
* '''狭窄''' - 車道の一部を狭くし、車両の通過速度を低下させる。歩道を張り出させたり、[[ボラード]]を設置するほか、環境や景観に配慮して花壇や樹木を置く場合もある{{sfn|浅井建爾|2001|p=158}}。
* '''蛇行''' - 複数の狭窄を組み合わせ、車両の通過速度を低下させる。直線的な屈折が連続するものはクランク、曲線的なものはスラローム、連続しない蛇行はシケインと呼ばれる。
* '''車止め''' - 道路の一部を遮断することで自動車の通過を防ぎ、抜け道などの目的で地域外の自動車が進入しないようにする。柵やボラードなどを用いる。
* '''車止め''' - 道路の一部を遮断することで自動車の通過を防ぎ、抜け道などの目的で地域外の自動車が進入しないようにする。柵やボラードなどを用いる。
* '''[[クルドサック]]''' - 住宅が面する道路を袋小路状にし、通過交通の流入を防ぐもの。の先端はロータリー状に、住民や立寄者便宜る。
* '''[[クルドサック]]''' - 住宅が面する道路を袋小路状にし、通過交通の流入を防ぐもの。車止めで十字を遮断同様効果狙う例もある。
* [[ハンプ (道路)|'''ハンプ''']] - 路面の一部を隆起させ、通過車両の速度を低下させるよう促す。舗装材をそのまま用いるものや、ゴム製のものがある。
* [[ハンプ (道路)|'''ハンプ''']] - 路面の一部を隆起させ、通過車両の速度を低下させるよう促す。舗装材をそのまま用いるものや、ゴム製のものがある。

* '''ロードペイント''' - [[路面標示]]などを用いて、視覚的に注意を促すもの。[[錯視]]を利用したものはイメージハンプとも呼ばれる。
== 実施 ==
これらを組み合わせた道路を「コミュニティ道路」、また一定の区域でまとめて交通静穏化を行ったものを「コミュニティゾーン」という。

=== コミュニティ道路 ===
以上の手法を実施した道路をコミュニティ道路と呼ぶ。日本では歩車分離のものを'''コミュニティ道路'''、歩車共存としたものを'''歩車共存道路'''と呼ぶ。いずれも自動車の通行を主たる目的とはせず、より歩行者優先を強調するものである。

=== コミュニティ・ゾーン ===
ゾーン対策として特定の地域でまとめて実施したものを'''コミュニティ・ゾーン'''と呼ぶ。前述の通り、通常は路線別に交通規制や道路構造の変更が決定される(線的対策)ところを、ある特定の地域を一つの「ゾーン」として指定し、ゾーン内の全ての道路の最高速度を集合体として捉えて対策を行う(面的対策)ものである。

== 日本 ==
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ 交通事故発生件数(日本){{refnest|group="注"|いずれの年も、財団法人交通事故総合分析センター『交通統計(平成15~27年版)』<ref>{{Cite web|url=http://www.itarda.or.jp/materials/publications.php?page=4|title=交通統計 - 交通事故総合分析センター|accessdate=2017-07-30|publisher=財団法人 交通事故総合分析センター}}</ref>の「道路幅員別・昼夜別交通事故件数」より。ただし表中「総数」は全て同27年版より。表中「隘路」は、2003年~2006年分は3.5m未満合計と3.5m以上合計を足したもの。2007年~2014年分は単路3.5m未満合計と単路3.5m以上合計、交差点第一当事者(小)合計を足したもの。表中「割合」は隘路を総数で割ったもの。}}
!年!!総数(件)!!隘路(件)!!割合
|-
|2003年||939,650||201,151||21.5%
|-
|2004年||952,720||208,135||21.8%
|-
|2005年||934,346||205,569||22.0%
|-
|2006年||887,267||197,643||22.3%
|-
|2007年||832,704||210,588||25.3%
|-
|2008年||766,394||193,316||25.2%
|-
|2009年||737,637||183,011||24.8%
|-
|2010年||725,924||181,425||25.0%
|-
|2011年||692,084||171,455||24.8%
|-
|2012年||665,157||162,581||24.4%
|-
|2013年||629,033||151,705||24.1%
|-
|2014年||573,842||137,921||24.0%
|-
|2015年||536,899||126.456||23.6%
|-
|2016年||499,201||{{N/A}}||{{N/A}}
|}
[[日本]]では、[[1980年]]に[[大阪市]]が市道にクランクやハンプなどを設置し、欧州の事例と同様の効果を狙った[[コミュニティ道路|'''コミュニティ道路''']]が開通した。また、[[西洋環境開発]]は[[宮城県]][[七ヶ浜町]]に汐見台ニュータウンとしてボンエルフ状の分譲地を造成し、後に京都市西区でも同様の理念で[[桂坂ニュータウン]]を建設したのが始まりである。

欧米における生活道路網のゾーン対策が効果を見せていたことから、日本でも1996年より[[警察庁]]が各都道府県警に向けてこれと同様の「'''コミュニティ・ゾーン対策'''」を推進した<ref>{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/kisei/kisei19960624-1.pdf|title=コミュニティ・ゾーン対策の推進について|accessdate=2017-07-30|date=1996-06-24|publisher=警察庁}}</ref>。これは交通規制の実施と物理的デバイスの設置を一挙に行うことで交通静穏化を目指すものであったが、これらを一つの事業として行うには住民や自治体などとの連携が不可欠であり、立案から実施までに長い時間を要する上、住民の合意が得られなかったり、自治体が必要な予算を捻出できないなどして、計画倒れになる事例もあった。<ref name=":1">{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/kisei/kisei20110920.pdf|title=ゾーン30の推進について(通達)|accessdate=2017-07-30|date=2011-09-20|publisher=警察庁}}</ref>。また、[[2003年]]には国土交通省により「'''あんしん歩行エリア'''」の指定が行われ、都道府県公安委員会と道路管理者によって対策が行われたが、2012年までの9年間で全国1378箇所の指定に留まった。あんしん歩行エリアもコミュニティ・ゾーン対策と類似したもので<ref name=anshin />、依然として同様の問題点を抱えており、日本におけるゾーン対策の広まりは不十分なままであった。

一方、交通事故発生件数は[[2004年]](平成16年)を境に減少傾向となり、2010年には2004年比23.8%減となったにもかかわらず、生活道路と想定される幅員5.5m未満の道路における件数は同12.8%減に留まっており、全体における割合も微増減を繰り返していた<ref name=":0">{{Cite web|url=https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/houkokusyo.pdf|title=生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書|accessdate=2017-07-30|publisher=警察庁}}</ref><ref>{{Web cite|url=https://www.mlit.go.jp/common/001183290.pdf|title=第2章 生活道路に関する交通事故の分析・整理及び傾向把握|accessdate=2017-07-30|publisher=国土交通省|page=8}}</ref>。特に交通死亡事故に占める歩行者の割合は欧米に比べて高く、その多くが自宅の付近で事故に遭っていることからも、依然としてゾーン対策の拡充が求められていた<ref name=anshin>{{Cite web|url=http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/06/060711_.html|title=「あんしん歩行エリア」及び「事故危険箇所」を指定|accessdate=2017-07-30|publisher=国土交通省}}</ref>。

これを受けた警察庁は、[[2006年]]に17人が死傷した事故<ref>https://ja.wikinews.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%8F%A3%E5%B8%82%E3%81%A7%E4%BF%9D%E8%82%B2%E5%9C%92%E5%85%90%E3%81%AE%E5%88%97%E3%81%AB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%90%E3%83%B3%E3%80%8116%E4%BA%BA%E6%AD%BB%E5%82%B7 川口市で保育園児の列にライトバン、16人死傷(ウィキニュース)</ref>により生活道路における30キロ制限の対策を進めていた[[川口市]]を参考に、国土交通省と共にゾーン対策に関する調査を更に進める<ref name=":2">{{Cite web|url=http://www.nikkei.com/article/DGXLZO16210010Q7A510C1CR8000/|title=「ゾーン30」導入広がる 生活道路で時速30キロ規制|accessdate=2017-08-03|publisher=[[日本経済新聞]]}}</ref>。2009年、これを元に交通規制基準の一部改正を行い、従来2車線以上の道路に関するものしかなかった速度規制基準について、生活道路及び区域規制に関する基準を追加した<ref name=":0" />。

そして[[2011年]][[9月20日]]、「'''ゾーン30'''の推進について」と題した[[通達]]を全国の各行政機関向けに発表し、本格的な取り組みが開始された。ゾーン30は警察庁が主体となって行われ、これまでのゾーン対策と異なり、住民に対して同意の得やすい速度規制(指定区域内全体における時速30キロ制限)のみを先に実施し、必ずしも物理的デバイスの設置を同時に行うものではない。警察がゾーン30を指定することで自治体や道路管理者による危険箇所策定の手間が軽減し、物理的デバイスなどの整備を促進することが期待されている<ref name=":1" /><ref name=":2" />。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* {{Wayback |url=http://ut.t.u-tokyo.ac.jp/research/2003/01hashimoto.pdf |title=住宅地における面的交通静穏化施策に関する研究 |date=20050411121213}}
* {{Wayback |url=http://ut.t.u-tokyo.ac.jp/research/2003/01hashimoto.pdf |title=住宅地における面的交通静穏化施策に関する研究 |date=20050411121213}}
* [http://www.qsr.mlit.go.jp/sakoku/syakai/pdf/file5-3.pdf 国土交通省]{{リンク切れ|date=2016年8月22日 (月) 12:42 (UTC)}}
* [http://www.qsr.mlit.go.jp/sakoku/syakai/pdf/file5-3.pdf 国土交通省]{{リンク切れ|date=2016年8月22日 (月) 12:42 (UTC)}}



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2017年10月14日 (土) 14:22時点における版

汐見台ニュータウンのハンプとフォルト

交通静穏化(こうつうせいおんか)またはトラフィック・カーミング英語: traffic calming)とは、住環境保全や交通安全のために自動車交通を抑制する取り組みのことである[1]。特に住宅密集地の生活道路を利用する近隣住民の交通安全を確保するために行われる。

オランダのボンエルフの訳語としてこの語が用いられることもある。

概要

地域間の移動を目的として大量の交通に対応した構造を持つ幹線道路とは異なり、住宅地の中を通る生活道路は幅員が狭く、自動車と歩行者の交通が錯綜しやすい。抜け道などの目的で自動車が高速かつ大量に生活道路を通過する場合、近隣住民に交通事故の危険が及ぶこととなり、また騒音等による住環境悪化の恐れもある。これを解決するために行う取り組みを総称して交通静穏化といい、生活道路における自動車交通の抑制を目的として、道路構造や交通規制などの改善が行われる。

経緯

1963年にイギリスで発表された報告書『都市における交通』では、都市の道路を機能や役割によって分類し、それに応じて適切な整備を行うべきという理念に基づき、いかにして増加する自動車交通に対処すべきかを説いた。そこでは、急速なモータリゼーションの進展による自動車交通・台数の増加に対して行政がとるべき対処として「自動車交通より住環境の保全を優先させる地域を設ける」という施策を例示した[2]

1970年代初めには、オランダボンエルフと称する取り組みが開始され、歩車分離に代わる考え方として歩車共存が打ち出された。この取り組みにより、歩道と車道の区別をなくし、自動車がスピードを出せないような道路構造にすることで、従来車道だった空間まで住民の生活スペースに含まれるような道路が幹線道路に囲まれた地域(以下、ゾーン)毎に整備された。ボンエルフが整備された地域では、自動車が歩行者に対して一切の優先権を持たなくなり、住環境の向上に貢献することとなる。地域一帯で歩車共存空間を整備する取り組みは、1970年代終盤より欧州各国に波及した[3]

しかし、ボンエルフのように大規模な道路改修を要する取り組みは、住民の同意を得るのが難しかったり、その工事費用が莫大なものになることから、1980年代からはより簡易なゾーン対策が広まりを見せた。これにおいては、速度規制を道路路線別ではなくゾーン全体で一括して設定し、速度抑制を促す道路構造の変更は、ゾーン内の必要箇所と幹線道路との出入口で重点的に行うこととなった[4]。ゾーン対策は1984年にオランダでZone30として法制化され、ボンエルフと同様欧州各国もこれに続いた[5]

その後、オランダでは交通信号道路標識をなくす「共有空間(Shared Space)」という考え方が提唱され、欧州連合の援助でドイツのボームテがこのプロジェクトに取り組んで国際的に注目されるなど、交通静穏化の手法は進化し続けている。

手法

イメージバンプの例

交通規制や路面標示によって運転者への注意喚起を行うソフト的対策と、路上に構造物(物理的デバイス)を設置して道路そのものに手を加えるハード的対策が行われる。地域の実情に合わせて様々な手法を組み合わせ、交通静穏化を実施する[6]

ソフト面

  • 一方通行 - 交通量の抑制や抜け道防止に設定される。指定方向外進行禁止もこれに含まれる。
  • 速度 - 重大事故を避けるべく、時速30キロ以下に設定するのが望ましいとされる[7]。ゾーン対策を行う場合は、路線別ではなくゾーン内で一括して規制対象とする。
  • 路面標示 - 規制の内容や路側帯の明示など、カラー舗装も利用して運転者に視覚的な注意喚起を促す。特に錯視で路面に隆起があるように見せる物はイメージハンプという
  • 車種 - 主に大型車の進入を禁止する。騒音対策で二輪を指定する事例や、歩行者専用道路規制を用いて通行車両を居住者用のものに限定する事例もある。
  • 駐車 - 駐車禁止指定で通行の安全を確保したり、道路の左端以外を駐車可能場所として指定することで、意図した交通静穏化の効果を得られるようにする。

ハード面

  • 狭窄 - 車道の一部を狭くし、車両の通過速度を低下させる。歩道を張り出させたり、ボラードを設置するほか、環境や景観に配慮して花壇や樹木を置く場合もある[8]
  • 蛇行 - 複数の狭窄を組み合わせ、車両の通過速度を低下させる。直線的な屈折が連続するものはクランク、曲線的なものはスラローム、連続しない蛇行はシケインと呼ばれる。
  • 車止め - 道路の一部を遮断することで自動車の通過を防ぎ、抜け道などの目的で地域外の自動車が進入しないようにする。柵やボラードなどを用いる。
  • クルドサック - 住宅が面する道路を袋小路状にし、通過交通の流入を防ぐもの。車止めで十字路を遮断し同様の効果を狙う例もある。
  • ハンプ - 路面の一部を隆起させ、通過車両の速度を低下させるよう促す。舗装材をそのまま用いるものや、ゴム製のものがある。

実施

コミュニティ道路

以上の手法を実施した道路をコミュニティ道路と呼ぶ。日本では歩車分離のものをコミュニティ道路、歩車共存としたものを歩車共存道路と呼ぶ。いずれも自動車の通行を主たる目的とはせず、より歩行者優先を強調するものである。

コミュニティ・ゾーン

ゾーン対策として特定の地域でまとめて実施したものをコミュニティ・ゾーンと呼ぶ。前述の通り、通常は路線別に交通規制や道路構造の変更が決定される(線的対策)ところを、ある特定の地域を一つの「ゾーン」として指定し、ゾーン内の全ての道路の最高速度を集合体として捉えて対策を行う(面的対策)ものである。

日本

交通事故発生件数(日本)[注 1]
総数(件) 隘路(件) 割合
2003年 939,650 201,151 21.5%
2004年 952,720 208,135 21.8%
2005年 934,346 205,569 22.0%
2006年 887,267 197,643 22.3%
2007年 832,704 210,588 25.3%
2008年 766,394 193,316 25.2%
2009年 737,637 183,011 24.8%
2010年 725,924 181,425 25.0%
2011年 692,084 171,455 24.8%
2012年 665,157 162,581 24.4%
2013年 629,033 151,705 24.1%
2014年 573,842 137,921 24.0%
2015年 536,899 126.456 23.6%
2016年 499,201 N/A N/A

日本では、1980年大阪市が市道にクランクやハンプなどを設置し、欧州の事例と同様の効果を狙ったコミュニティ道路が開通した。また、西洋環境開発宮城県七ヶ浜町に汐見台ニュータウンとしてボンエルフ状の分譲地を造成し、後に京都市西区でも同様の理念で桂坂ニュータウンを建設したのが始まりである。

欧米における生活道路網のゾーン対策が効果を見せていたことから、日本でも1996年より警察庁が各都道府県警に向けてこれと同様の「コミュニティ・ゾーン対策」を推進した[10]。これは交通規制の実施と物理的デバイスの設置を一挙に行うことで交通静穏化を目指すものであったが、これらを一つの事業として行うには住民や自治体などとの連携が不可欠であり、立案から実施までに長い時間を要する上、住民の合意が得られなかったり、自治体が必要な予算を捻出できないなどして、計画倒れになる事例もあった。[11]。また、2003年には国土交通省により「あんしん歩行エリア」の指定が行われ、都道府県公安委員会と道路管理者によって対策が行われたが、2012年までの9年間で全国1378箇所の指定に留まった。あんしん歩行エリアもコミュニティ・ゾーン対策と類似したもので[12]、依然として同様の問題点を抱えており、日本におけるゾーン対策の広まりは不十分なままであった。

一方、交通事故発生件数は2004年(平成16年)を境に減少傾向となり、2010年には2004年比23.8%減となったにもかかわらず、生活道路と想定される幅員5.5m未満の道路における件数は同12.8%減に留まっており、全体における割合も微増減を繰り返していた[13][14]。特に交通死亡事故に占める歩行者の割合は欧米に比べて高く、その多くが自宅の付近で事故に遭っていることからも、依然としてゾーン対策の拡充が求められていた[12]

これを受けた警察庁は、2006年に17人が死傷した事故[15]により生活道路における30キロ制限の対策を進めていた川口市を参考に、国土交通省と共にゾーン対策に関する調査を更に進める[16]。2009年、これを元に交通規制基準の一部改正を行い、従来2車線以上の道路に関するものしかなかった速度規制基準について、生活道路及び区域規制に関する基準を追加した[13]

そして2011年9月20日、「ゾーン30の推進について」と題した通達を全国の各行政機関向けに発表し、本格的な取り組みが開始された。ゾーン30は警察庁が主体となって行われ、これまでのゾーン対策と異なり、住民に対して同意の得やすい速度規制(指定区域内全体における時速30キロ制限)のみを先に実施し、必ずしも物理的デバイスの設置を同時に行うものではない。警察がゾーン30を指定することで自治体や道路管理者による危険箇所策定の手間が軽減し、物理的デバイスなどの整備を促進することが期待されている[11][16]

脚注

  1. ^ EICネット[環境用語集:「トラフィック・カーミング」]”. EICネット. 2017年7月30日閲覧。
  2. ^ 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書”. 警察庁. p. 15. 2017年8月31日閲覧。
  3. ^ 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書”. 警察庁. p. 14. 2017年8月31日閲覧。
  4. ^ 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書”. 警察庁. pp. 20-21. 2017年8月31日閲覧。
  5. ^ 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書”. 警察庁. pp. 16-19. 2017年8月31日閲覧。
  6. ^ 一般社団法人 交通工学研究会『改定 生活道路のゾーン対策マニュアル』丸善出版株式会社、2017年6月13日、49-55頁。ISBN 978-4-905990-86-4 
  7. ^ 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書”. 警察庁. p. 23. 2017年8月31日閲覧。
  8. ^ 浅井建爾 2001, p. 158.
  9. ^ 交通統計 - 交通事故総合分析センター”. 財団法人 交通事故総合分析センター. 2017年7月30日閲覧。
  10. ^ コミュニティ・ゾーン対策の推進について”. 警察庁 (1996年6月24日). 2017年7月30日閲覧。
  11. ^ a b ゾーン30の推進について(通達)”. 警察庁 (2011年9月20日). 2017年7月30日閲覧。
  12. ^ a b 「あんしん歩行エリア」及び「事故危険箇所」を指定”. 国土交通省. 2017年7月30日閲覧。
  13. ^ a b 生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書”. 警察庁. 2017年7月30日閲覧。
  14. ^ 第2章 生活道路に関する交通事故の分析・整理及び傾向把握”. 国土交通省. p. 8. 2017年7月30日閲覧。
  15. ^ https://ja.wikinews.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%8F%A3%E5%B8%82%E3%81%A7%E4%BF%9D%E8%82%B2%E5%9C%92%E5%85%90%E3%81%AE%E5%88%97%E3%81%AB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%90%E3%83%B3%E3%80%8116%E4%BA%BA%E6%AD%BB%E5%82%B7 川口市で保育園児の列にライトバン、16人死傷(ウィキニュース)
  16. ^ a b 「ゾーン30」導入広がる 生活道路で時速30キロ規制”. 日本経済新聞. 2017年8月3日閲覧。
  1. ^ いずれの年も、財団法人交通事故総合分析センター『交通統計(平成15~27年版)』[9]の「道路幅員別・昼夜別交通事故件数」より。ただし表中「総数」は全て同27年版より。表中「隘路」は、2003年~2006年分は3.5m未満合計と3.5m以上合計を足したもの。2007年~2014年分は単路3.5m未満合計と単路3.5m以上合計、交差点第一当事者(小)合計を足したもの。表中「割合」は隘路を総数で割ったもの。

関連項目

外部リンク