「ヤング率」の版間の差分

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'''ヤング率'''(ヤングりつ、{{lang-en|Young's modulus}})は、[[フックの法則]]が成立する[[弾性]]範囲における、同軸方向の[[ひずみ]]と[[応力]]の[[比例]]定数である<ref name = "機械工学辞典_804"/>。この名称は[[トマス・ヤング]]に由来する。'''縦弾性係数'''(たてだんせいけいすう、{{lang-en|modulus of longitudinal elasticity}}<ref name = "機械工学辞典_804"/>)とも呼ばれる。
'''ヤング率'''(ヤングりつ、{{lang-en|Young's modulus}})は、[[フックの法則]]が成立する[[弾性]]範囲における、同軸方向の[[ひずみ]]と[[応力]]の[[比例]]定数である<ref name = "機械工学辞典_804"/>。この名称は[[トマス・ヤング]]に由来する。'''縦弾性係数'''(たてだんせいけいすう、{{lang-en|modulus of longitudinal elasticity}}<ref name = "機械工学辞典_804"/>)とも呼ばれる。

== 概要 ==
ヤング率は、線形弾性体では


[ひずみ ε ]= [応力 σ ] / [ヤング率 E ]  ([[フックの法則]])より、
[ひずみ ε ]= [応力 σ ] / [ヤング率 E ]  ([[フックの法則]])より、
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である。
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一方向の[[引張り]]または[[圧縮]]応力の方向に対するひずみ量の関係から求める。ヤング率は、縦軸に応力、横軸にひずみをとった[[応力ひずみ曲線]]の直線部の傾きに相当する。
一般の材料では、一方向の[[引張り]]または[[圧縮]]応力の方向に対するひずみ量の関係から求める。ヤング率は、縦軸に応力、横軸にひずみをとった[[応力-ひずみ曲線]]の直線部の傾きに相当する。


たとえば、ヤング率が約10tf/mm<sup>2</sup>(=98GPa)である[[銅]]では、断面積1mm<sup>2</sup>、長さ1mのワイヤに10kgのオモリをぶら下げると、0.1%のひずみが生じすなわち約1mm伸びることなどを推定することに使う値である。
たとえば、ヤング率が約10tf/mm<sup>2</sup>(=98GPa)である[[銅]]では、断面積1mm<sup>2</sup>、長さ1mのワイヤに10kgのオモリをぶら下げると、0.1%のひずみが生じ、約1mm伸びることなる。


[[結晶]]の[[原子]]間距離の変化に対する抵抗というモデルイメージある。原子間の凝集力が弾性的性質を決める。したがって応力と変形の機構が同じ種類の材質間では、[[融点]]と[[弾性率|弾性係数]]の間にはある程度の相関がある。応力がある大きさ(比例限度)を超えると、結晶の不完全な部分が不可逆的に動くことによって変形することになるので、応力とひずみの関係はリニア(線形)ではなくなり、応力を取り除いても元の寸法に戻らなくなる。この現象を[[降伏 (物理)|降伏]]という。
ヤング率は[[結晶]]の[[原子]]間距離の変化に対する抵抗と考えることができ、原子間の凝集力が弾性的性質を決める。したがって応力と変形の機構が同じ種類の材質間では、[[融点]]と[[弾性率|弾性係数]]の間にはある程度の相関がある{{要出典|date=2015年11月}}。応力がある大きさ(比例限度)を超えると、結晶の不完全な部分が不可逆的に動くことによって変形することになるので、応力とひずみの関係はリニア(線形)ではなくなり、応力を取り除いても元の寸法に戻らなくなる。この現象を[[降伏 (物理)|降伏]]という。


[[金属]]のヤング率は数十 - 数百GPaである。この値は100%の弾性ひずみを生じる応力の値であるが、実際の材料は1%以下のひずみで降伏するものが多いので、ヤング率は通常[[強度|引張強さ]]の数百倍の大きさである。
[[金属]]のヤング率は数十数百GPaである。この値は100%の弾性ひずみを生じる応力の値であるが、実際の材料は1%以下のひずみで降伏するものが多いので、ヤング率は通常[[強度|引張強さ]]の数百倍の大きさである。


弾性的性質は[[温度]]によって変化するので解析時には注意が必要である。変化の近似式は
弾性的性質は[[温度]]によって変化するので解析時には注意が必要である。変化の近似式は
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ここで E<sub>0</sub> は0[K]でのヤング率、B, T<sub>c</sub> は材料によって異なる定数である。一例として、1000℃における鋼のヤング率は常温の2/3程度に減少する。
ここで E<sub>0</sub> は0[K]でのヤング率、B, T<sub>c</sub> は材料によって異なる定数である。一例として、1000℃における鋼のヤング率は常温の2/3程度に減少する。


[[樹脂]]においては応力ひずみ線図のリニアの領域ほとんど存在しないで[[セカント係数]]などを用いる。
[[樹脂]]のように応力-ひずみリニアの領域ほとんど存在しない材料は、ヤング率として[[セカント係数]](応力-ひずみ曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾き)などを用いる。


== 主な物質のヤング率 ==
== 主な物質のヤング率 ==
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== 弾性率の相関関係 ==
== 弾性率の相関関係 ==
等方均質弾性体では、ヤング率 ''E''、[[ポアソン比]] ''ν''、[[剛性率] ''G'' の間に次の関係がある<ref name="理科年表"/>。
等方均質弾性体では、ヤング率 ''E''、[[ポアソン比]] ''ν''、[[剛性率]] ''G'' の間に次の関係がある<ref name="理科年表"/>。


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2015年11月2日 (月) 05:44時点における版

ヤング率(ヤングりつ、英語: Young's modulus)は、フックの法則が成立する弾性範囲における、同軸方向のひずみ応力比例定数である[1]。この名称はトマス・ヤングに由来する。縦弾性係数(たてだんせいけいすう、英語: modulus of longitudinal elasticity[1])とも呼ばれる。

概要

ヤング率は、線形弾性体では

[ひずみ ε ]= [応力 σ ] / [ヤング率 E ]  (フックの法則)より、

である。

一般の材料では、一方向の引張りまたは圧縮応力の方向に対するひずみ量の関係から求める。ヤング率は、縦軸に応力、横軸にひずみをとった応力-ひずみ曲線の直線部の傾きに相当する。

たとえば、ヤング率が約10tf/mm2(=98GPa)であるでは、断面積1mm2、長さ1mのワイヤに10kgのオモリをぶら下げると、0.1%のひずみが生じ、約1mm伸びることになる。

ヤング率は結晶原子間距離の変化に対する抵抗と考えることができ、原子間の凝集力が弾性的性質を決める。したがって応力と変形の機構が同じ種類の材質間では、融点弾性係数の間にはある程度の相関がある[要出典]。応力がある大きさ(比例限度)を超えると、結晶の不完全な部分が不可逆的に動くことによって変形することになるので、応力とひずみの関係はリニア(線形)ではなくなり、応力を取り除いても元の寸法に戻らなくなる。この現象を降伏という。

金属のヤング率は数十〜数百GPaである。この値は100%の弾性ひずみを生じる応力の値であるが、実際の材料は1%以下のひずみで降伏するものが多いので、ヤング率は通常引張強さの数百倍の大きさである。

弾性的性質は温度によって変化するので解析時には注意が必要である。変化の近似式は

ここで E0 は0[K]でのヤング率、B, Tc は材料によって異なる定数である。一例として、1000℃における鋼のヤング率は常温の2/3程度に減少する。

樹脂のように応力-ひずみ曲線にリニアの領域がほとんど存在しない材料では、ヤング率としてセカント係数(応力-ひずみ曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾き)などを用いる。

主な物質のヤング率

注:以下に載せる値は目安であり、必ずしも保証されるものではない。

主な物質のヤング率
材料 ヤング率(E)
単位:GPa
出典
ゴム (小ひずみ) 0.01〜0.1 [2]
PTFE (テフロン) 0.5 [2]
ポリエチレン 0.4〜0.13 [3]
ポリプロピレン 1.5〜2 [2]
ポリアセタールコポリマー 2.75 [4]
ポリスチレン 3〜3.5 [2]
ポリカーボネート 2.3 [4]
ナイロン 1.2〜2.9 [3]
チーク 木材 13 [3]
高強度コンクリート (圧縮時) 30 [2]
マグネシウム合金 45 [5]
アルミニウム 70.3 [6]
アルミ合金 69〜76 [5]
ガラス 80.1 [6]
黄銅 103 [4]
チタン 107 [5]
129.8 [6]
鋳鉄 152.3 [6]
201〜216 [6]
16.1 [6]
78 [6]
82.7 [3]
亜鉛 48 [4]
ベリリウム 287 [2]
タングステン 345 [5]
モリブデン 324 [5]
炭化ケイ素 〜600 [7]
ジルコニア 〜250 [7]
酸化アルミニウム(アルミナ) 〜400 [7]
オスミウム 550 [2]
炭化タングステン 450〜650 [2]

弾性率の相関関係

等方均質弾性体では、ヤング率 Eポアソン比 ν剛性率 G の間に次の関係がある[3]

同様にヤング率、ポアソン比、体積弾性率、剛性率、ラメの第一定数の五つの弾性率はそれぞれ、二つを用いて残りの三つを表すことができる。

脚注

  1. ^ a b 「機械工学辞典」p.804
  2. ^ a b c d e f g h The Engineering ToolBox - Modulus of Elasticity - Young Modulus for some common Materials”. 2014年1月2日閲覧。
  3. ^ a b c d e 国立天文台『理科年表 平成22年(机上版)』丸善出版、2009年、379頁。ISBN 978-4-621-08191-4 
  4. ^ a b c d 高野菊雄『トラブルを防ぐプラスチック材料の選び方・使い方』(第1版)工業調査会、2005年6月15日、61頁。ISBN 4-7693-4190-3 
  5. ^ a b c d e 「機械材料学」p.154
  6. ^ a b c d e f g 「物理学」p.89
  7. ^ a b c 「機械材料学」p.195

参考文献

  • 日本機械学会 編『機械工学辞典』(第2版)丸善、2007年1月20日。ISBN 978-4-88898-083-8 
  • 小出昭一郎『物理学』(3版)裳華房、2003年。ISBN 4-7853-2074-5 
  • 平川賢爾、大谷泰夫、遠藤正浩、坂本東男『機械材料学』(第1版)朝倉書店、2004年12月5日。ISBN 978-4-254-23702-3 

関連項目