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「山陽電気鉄道5030系電車」の版間の差分

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製造は全車とも[[川崎重工業]]兵庫工場が担当している。
製造は全車とも[[川崎重工業]]兵庫工場が担当している。


山陽電気鉄道では車両の形式称号について書類上は「クモハ」や「モハ」などの車種を示す記号を用いているが、現車では車内を含め一切表記しておらず、また車両番号が重複しないよう同一数字を用いる形式では奇数・偶数で車種を分けて管理している。このため、本記事の以下の記述では、車種構成の項以外についてはこれらの記号を基本的に省略し、必要に応じて(M'c)や(M)などの略記号を付して解説する。また、解説の便宜上、神戸(西代・三宮)方先頭車+F(Formation=編成の略)を編成名として記述(例:5020以下6両編成=5020F)する。
山陽電気鉄道では車両の形式称号について書類上は「クモハ」や「モハ」などの車種を示す記号を用いているが、現車では車内を含め一切表記しておらず、また車両番号が重複しないよう同一数字を用いる形式では奇数・偶数で車種を分けて管理している。このため、本記事の以下の記述では、車種構成の項以外についてはこれらの記号を基本的に省略し、必要に応じて (M'c) (M) などの略記号を付して解説する。また、解説の便宜上、神戸(西代・三宮)方先頭車+F(Formation=編成の略)を編成名として記述(例:5020以下6両編成=5020F)する。
{{鉄道車両
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|車両名=山陽電気鉄道5030系電車
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|電動機=[[富士電機ホールディングス|富士電機]]製[[かご形三相誘導電動機]]<br />MLR105 170kW
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[[1998年]][[2月15日]]から開始された[[直通特急 (阪神・山陽)|姫路 - 阪神梅田間直通運転]]に伴う所要編成数の増加に伴い、在来の[[山陽電気鉄道5000系電車|5000系]]の後継車種として設計・製造された。又、[[山陽電気鉄道2300系電車|2300系]]の置き換えも行われた。
[[1998年]][[2月15日]]から開始された[[直通特急 (阪神・山陽)|姫路 - 阪神梅田間直通運転]]に伴う所要編成数の増加に伴い、在来の[[山陽電気鉄道5000系電車|5000系]]の後継車種として設計・製造された。又、[[山陽電気鉄道2300系電車|2300系]]の置き換えも行われた。


[[1964年]]の[[山陽電気鉄道3000系電車|3000系]]以来、山陽電鉄では電車用標準電動機として長らく三菱電機MB-3020Sが採用されてきたが、20世紀の終焉と前後してこの電動機の製造が打ち切られ、しばらくは社内で廃車発生品や予備品の転用・交換<ref>廃車となった[[山陽電気鉄道2000系電車|2000系]]に搭載されていた三菱電機MB-3037を2300系や3両編成で運用されている3000系に搭載し、これによって捻出されたMB-3020Sを新造された5000系に搭載した。</ref>を行うことで需要に対応していたがそれにも限度があり、またVVVFインバータ制御による三相交流誘導電動機の一般化など周辺状況も[[界磁添加励磁制御]]を選択するほかかった5000系製造開始時とは大きく変化していたことから、山陽としては実に34年ぶりの新型電動機の採用となった。
[[1964年]]の[[山陽電気鉄道3000系電車|3000系]]以来、山陽電鉄では電車用標準電動機として長らく三菱電機MB-3020Sが採用されてきたが、20世紀の終焉と前後してこの電動機の製造が打ち切られ、しばらくは社内で廃車発生品や予備品の転用・交換<ref>廃車となった[[山陽電気鉄道2000系電車|2000系]]に搭載されていた三菱電機MB-3037を2300系や3両編成で運用されている3000系に搭載し、これによって捻出されたMB-3020Sを新造された5000系に搭載した。</ref>を行うことで需要に対応していたがそれにも限度があり、またVVVFインバータ制御による三相交流誘導電動機の一般化など周辺状況も[[界磁添加励磁制御]]を選択するほかかった5000系製造開始時とは大きく変化していたことから、山陽としては実に34年ぶりの新型電動機の採用となった。


本系列は[[1997年]]に12両、[[2000年]]に8両、合計20両が製造された。5000系と比較して、制御装置が[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]方式VVVFインバータ制御に変更されたほか、1人-2人掛け転換クロスシートを採用(車端部はロングシート)するなど内装面でも変化が見られる。
本系列は[[1997年]]に12両、[[2000年]]に8両、合計20両が製造された。5000系と比較して、制御装置が[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]方式VVVFインバータ制御に変更されたほか、1人-2人掛け転換クロスシートを採用(車端部はロングシート)するなど内装面でも変化が見られる。
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*モハ5230形5230・5232
*モハ5230形5230・5232
**電動車(M1)。主制御器とパンタグラフを搭載し、モハ5230形奇数番号車とはユニットを構成しない単独の電動車であるが、パンタグラフについてはこちらの偶数番号車に集約搭載しているため、5030系のみの編成では奇数番号車との2両で1単位として扱われる。
**電動車 (M1) 。主制御器とパンタグラフを搭載し、モハ5230形奇数番号車とはユニットを構成しない単独の電動車であるが、パンタグラフについてはこちらの偶数番号車に集約搭載しているため、5030系のみの編成では奇数番号車との2両で1単位として扱われる。
*モハ5230形5231・5233・5235・5237・5239・5241
*モハ5230形5231・5233・5235・5237・5239・5241
**電動車(M2)。主制御器を搭載する。基本的には偶数番号車と同様の設計だが、パンタグラフを搭載しないため、運用時には5030系単独の編成ではモハ5230形偶数番号車から、5000系と5030系の混結編成ではモハ5250形から1,500[[ボルト (単位)|V]]母線給電を受ける必要がある。
**電動車 (M2) 。主制御器を搭載する。基本的には偶数番号車と同様の設計だが、パンタグラフを搭載しないため、運用時には5030系単独の編成ではモハ5230形偶数番号車から、5000系と5030系の混結編成ではモハ5250形から1,500[[ボルト (単位)|V]]母線給電を受ける必要がある。
*モハ5250形5250-5255
*モハ5250形5250-5255
**電動車(M3)。主制御器とパンタグラフを搭載する。
**電動車 (M3) 。主制御器とパンタグラフを搭載する。
*クハ5630形5630 - 5633
*クハ5630形5630 - 5633
**制御車(Tc)。偶数番号車(Tc1)が神戸寄り<ref>Tc1は山陽では[[山陽電気鉄道200形電車|200形タイプIII(111 - 113)]]以来の神戸(大阪)向きである。</ref>、奇数番号車(Tc2)が姫路寄りにそれぞれ運転台を備える制御車。運転台の位置以外は基本的に共通設計で、いずれもCPとSIVを搭載する。
**制御車 (Tc) 。偶数番号車 (Tc1) が神戸<ref>Tc1は山陽では[[山陽電気鉄道200形電車|200形タイプIII (111 - 113) ]]以来の神戸(大阪)である。</ref>、奇数番号車(Tc2)が姫路にそれぞれ運転台を備える制御車。運転台の位置以外は基本的に共通設計で、いずれもCPとSIVを搭載する。
*サハ5530形5530・5531
*サハ5530形5530・5531
**付随車(T)。補機類を一切搭載しない。
**付随車 (T) 。補機類を一切搭載しない。


== 編成 ==
== 編成 ==
直通特急用を前提として設計された本系列では、編成は6両編成を基本とする。そのため、神戸から5630形(Tc1)-5230形(M1)-5230形(M2)-5530形(T)-5250形(M3)-5630形(Tc2)の6両編成を基本とする。
直通特急用を前提として設計された本系列では、編成は6両編成を基本とする。そのため、神戸から5630形 (Tc1) - 5230形 (M1) - 5230形 (M2) -5530形 (T) -5250形 (M3) - 5630形 (Tc2) の6両編成を基本とする。


ただし5000系の項で記したり、2000年の直通特急増発にあたって5000系4両編成4本に中間車を2両ずつ組み込んで6両編成を増強したが、この際、主電動機の生産終了で従来と同じ5200形が製造できなかったことから、本系列の5230形(M2)・5250形(M3)を一部仕様変更の上で製造してこれに充てている。
ただし5000系の項で記したとおり、2000年の直通特急増発にあたって5000系4両編成4本に中間車を2両ずつ組み込んで6両編成を増強したが、この際、主電動機の生産終了で従来と同じ5200形が製造できなかったことから、本系列の5230形 (M2) ・5250形 (M3) を一部仕様変更の上で製造してこれに充てている。


{| style="text-align:center; border-spacing:2em 0em; float:left;"
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== 車体 ==
== 車体 ==
車体は5000系5次車に準じており、窓配置も継承しているが、座席は阪神線内の混雑に対処するために山側1人-浜側2人掛けの転換クロスシートとなった<ref>神戸(大阪)先頭で進行方向左側が山側、右側が浜側となる。</ref>ほか、車内スピーカーも増設された。
車体は5000系5次車に準じており、窓配置も継承しているが、座席は阪神線内の混雑に対処するために山側1人-浜側2人掛けの転換クロスシートとなった<ref>神戸(大阪)先頭で進行方向左側が山側、右側が浜側となる。</ref>ほか、車内スピーカーも増設された。


1次車2編成には[[阪神電気鉄道|阪神]][[阪神8000系電車|8000系]](車両更新済みの分のみ)や[[阪神9000系電車|9000系]]、[[阪神9300系電車|9300系]]、[[阪神1000系電車|1000系]]、[[阪神5500系電車|5500系]]と同じく扉開閉予告ブザーが装備されているほか、車内にはLED式案内装置<ref>面積は、阪神車両と比較して縦の長さが倍程度の大型サイズ。表示部の下には山陽姫路 - 阪神梅田までの路線図(し阪神線内は直通特急停車駅のみ)も掲示されていたが、この路線図は[[阪神なんば線]]開業以降に撤去された。</ref>と非常電話装置が標準装備されている。
1次車2編成には[[阪神電気鉄道|阪神]][[阪神8000系電車|8000系]](車両更新済みの分のみ)や[[阪神9000系電車|9000系]]、[[阪神9300系電車|9300系]]、[[阪神1000系電車|1000系]]、[[阪神5500系電車|5500系]]と同じく扉開閉予告ブザーが装備されているほか、車内にはLED式案内装置<ref>面積は、阪神車両と比較して縦の長さが倍程度の大型サイズ。表示部の下には山陽姫路 - 阪神梅田までの路線図(ただ阪神線内は直通特急停車駅のみ)も掲示されていたが、この路線図は[[阪神なんば線]]開業以降に撤去された。</ref>と非常電話装置が標準装備されている。


2次車ではアルミニウム構体の接合法が外板の見栄えの向上を図るために[[ミグ溶接]]から[[摩擦攪拌接合|摩擦攪拌式(FSW)]]に変更され、新車間の連結面には外幌が取り付けられた。また、クロスシートの配置が山側2人-浜側1人掛けと逆になったほか、5000系の編成に2両ずつ挟んで使用するため、車内案内装置と非常電話装置は準備工事にとどまっている<ref>本来LEDの案内表示機となる部分には広告枠が付けられている。</ref>。
2次車ではアルミニウム構体の接合法が外板の見栄えの向上を図るために[[ミグ溶接]]から[[摩擦攪拌接合|摩擦攪拌式 (FSW) ]]に変更され、新車間の連結面には外幌が取り付けられた。また、クロスシートの配置が山側2人-浜側1人掛けと逆になったほか、5000系の編成に2両ずつ挟んで使用するため、車内案内装置と非常電話装置は準備工事にとどまっている<ref>本来LEDの案内表示機となる部分には広告枠が付けられている。</ref>。


冷房装置は5000系のCU-71Sを低騒音・高効率形に改良したCS-71SCを搭載している。またこの機種変更により、これまで屋根上の冷房機の前後左右各1基ずつ搭載されていた通風器が廃止されている。
冷房装置は5000系のCU-71Sを低騒音・高効率形に改良したCS-71SCを搭載している。またこの機種変更により、これまで屋根上の冷房機の前後左右各1基ずつ搭載されていた通風器が廃止されている。
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山陽初採用となったVVVFインバータ制御装置は、高耐圧[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]]を使用する3レベルインバータ制御器の富士電機CDA964で、モーターをIGBT素子で1基ずつ制御する個別制御方式を採る。
山陽初採用となったVVVFインバータ制御装置は、高耐圧[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]]を使用する3レベルインバータ制御器の富士電機CDA964で、モーターをIGBT素子で1基ずつ制御する個別制御方式を採る。


山陽では2000系以降長らく「富士電機(あるいは前身の川崎電機製造)製の制御装置+三菱電機製のモーター」の組み合わせであったが、本系列では制御器との組み合わせの関係上、モーターも富士電機製三相交流誘導電動機であるMLR105<ref>定格出力170kW。</ref>となった。この電動機は保守上3000・5000系と駆動装置を共通化することが求められたため、高回転数化により軽量化と出力強化の両立を図るケースが多いこの種の誘導電動機としては異例の強トルク低回転数設計となっており、歯車比も5000系以前と共通の82:15(5.47)である。
山陽では2000系以降長らく「富士電機(あるいは前身の川崎電機製造)製の制御装置+三菱電機製のモーター」の組み合わせであったが、本系列では制御器との組み合わせの関係上、モーターも富士電機製三相交流誘導電動機であるMLR105<ref>定格出力170kW。</ref>となった。この電動機は保守上3000・5000系と駆動装置を共通化することが求められたため、高回転数化により軽量化と出力強化の両立を図るケースが多いこの種の誘導電動機としては異例の強トルク低回転数設計となっており、歯車比も5000系以前と共通の82:15 (5.47) である。


=== 台車 ===
=== 台車 ===
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=== 補助電源・空気圧縮機 ===
=== 補助電源・空気圧縮機 ===
補助電源装置は両端の5630形にIGBT方式静止型インバーターであるCDA963(170kVA)を搭載、片方が故障しても冷房装置の能力を半減させるだけで運転を継続する機能を有している。
補助電源装置は両端の5630形にIGBT方式静止型インバーターであるCDA963 (170kVA) を搭載、片方が故障しても冷房装置の能力を半減させるだけで運転を継続する機能を有している。


また、この補助電源の変更に伴い[[空気圧縮機|CP]]も交流電源駆動のHS20-1が採用され、メンテナンスフリー化が図られた。
また、この補助電源の変更に伴い[[空気圧縮機|CP]]も交流電源駆動のHS20-1が採用され、メンテナンスフリー化が図られた。
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直通特急の運転開始を1年後に控えた1997年3月、5630F・5632Fの6両編成2本が竣工した。山陽電鉄では1991年竣工の5000系5022F以降、増結用中間車の増備ばかり続いていたことから、編成単位での増備は7年ぶりのことである。
直通特急の運転開始を1年後に控えた1997年3月、5630F・5632Fの6両編成2本が竣工した。山陽電鉄では1991年竣工の5000系5022F以降、増結用中間車の増備ばかり続いていたことから、編成単位での増備は7年ぶりのことである。


直通特急の運転開始1年前と早期落成が図られたのは、5000系在来車への阪神線全線乗り入れ対応工事<ref>5500形への連結器偏差アダプタの搭載、運転台に対する列車種類選別装置とデッドマン装置の解除機能の追加など。なお、この改造は検査や事故発生時を考慮して、4両編成のまま残された2編成に対しても施工されている。</ref>や、直通区間への試運転による予備車不足の解消を図るためであり、両編成とも阪神線内への試運転に充当されるかたわら、ダイヤ改正までは阪急神戸線の[[六甲駅|阪急六甲]]への乗り入れ運用にも充当されていた<ref>なお、直通特急運転に関するプレスリリースは本形式の登場直後であったことから、運転台に取り付けられた阪神線内乗り入れを示す表示は取り外されていたり隠されていたりしていた。</ref>。
直通特急の運転開始1年前と早期落成が図られたのは、5000系在来車への阪神線全線乗り入れ対応工事<ref>5500形への連結器偏差アダプタの搭載、運転台に対する列車種類選別装置とデッドマン装置の解除機能の追加など。なお、この改造は検査や事故発生時を考慮して、4両編成のまま残された2編成に対しても施工されている。</ref>や、直通区間への試運転による予備車不足の解消を図るためであり、両編成とも阪神線内への試運転に充当されるかたわら、ダイヤ改正までは阪急神戸線の[[六甲駅|阪急六甲]]への乗り入れ運用にも充当されていた<ref>なお、直通特急運転に関するプレスリリースは本形式の登場直後であったことから、運転台に取り付けられた阪神線内乗り入れを示す表示などは取り外されていたり隠されていたりしていた。</ref>。


直通特急の運転開始を前にして両社の車両を使った試運転は何度も実施されたが、1997年7月30日の阪神梅田初乗り入れ日には5630Fが充当され、阪神梅田での折り返しの際には「特急・姫路」の方向幕を掲出して翌年の運転開始をPRするとともに、写真撮影に訪れた鉄道ファンに格好の被写体を提供していた。翌年2月の直通特急の運転開始時には5000系6本と本系列2本の6両編成8本が、直通特急の運用に充当されるようになった。
直通特急の運転開始を前にして両社の車両を使った試運転は何度も実施されたが、1997年7月30日の阪神梅田初乗り入れ日には5630Fが充当され、阪神梅田での折り返しの際には「特急・姫路」の方向幕を掲出して翌年の運転開始をPRするとともに、写真撮影に訪れた鉄道ファンに格好の被写体を提供していた。翌年2月の直通特急の運転開始時には5000系6本と本系列2本の6両編成8本が、直通特急の運用に充当されるようになった。


2001年3月のダイヤ改正に際して山陽電鉄は5030系2次車8両を増備して5000系4両編成4本に組み込み、6両編成を12本へ増やして直通特急運用の増加に対応した。また、このダイヤ改正では直通特急が大増発されたことによって本系列による阪神線内び高速神戸駅折り返しの間合い運用が出現、夜間には梅田駅構内や御影留置線で滞泊する運用も出現した。
2001年3月のダイヤ改正に際して山陽電鉄は5030系2次車8両を増備して5000系4両編成4本に組み込み、6両編成を12本へ増やして直通特急運用の増加に対応した。また、このダイヤ改正では直通特急が大増発されたことによって本系列による阪神線内および高速神戸駅折り返しの間合い運用が出現、夜間には梅田駅構内や御影留置線で滞泊する運用も出現した。


[[2006年]]10月のダイヤ改正以降は運用に大きな変化はなく、[[2010年]]1月現在、本系列は20両が在籍して5000系とともに直通特急や特急を主体にして運用されている。
[[2006年]]10月のダイヤ改正以降は運用に大きな変化はなく、[[2010年]]1月現在、本系列は20両が在籍して5000系とともに直通特急や特急を主体にして運用されている。

2011年3月25日 (金) 11:37時点における版

山陽電気鉄道5030系電車(さんようでんきてつどう5030けいでんしゃ)は、山陽電気鉄道(山陽電鉄)が所有する3扉セミクロスシートの通勤形電車である。

製造は全車とも川崎重工業兵庫工場が担当している。

山陽電気鉄道では車両の形式称号について書類上は「クモハ」や「モハ」などの車種を示す記号を用いているが、現車では車内を含め一切表記しておらず、また車両番号が重複しないよう同一数字を用いる形式では奇数・偶数で車種を分けて管理している。このため、本記事の以下の記述では、車種構成の項以外についてはこれらの記号を基本的に省略し、必要に応じて (M'c) や (M) などの略記号を付して解説する。また、解説の便宜上、神戸(西代・三宮)方先頭車+F(Formation=編成の略)を編成名として記述(例:5020以下6両編成=5020F)する。

山陽電気鉄道5030系電車
ファイル:Sanyo-5030.JPG
山陽5030系 100周年記念ヘッドマーク付き
基本情報
製造所 川崎重工業
主要諸元
編成 6
軌間 1,435
電気方式 直流1,500V
最高運転速度 110
起動加速度 2.8
減速度(常用) 4.2
減速度(非常) 4.5
編成定員 760
車両定員 先頭車120 中間車130
車両重量 33.1 - 33.7t(5230形) 28.3t(5630形) 24.4t(5530形)
全長 19,000
全幅 先頭車2,800 中間車2,796
全高 4,060 4,100(パンタグラフ搭載車)
台車 川崎重工業製軸梁式ダイレクトマウント空気ばね台車
KW-93A・94A
主電動機 富士電機かご形三相誘導電動機
MLR105 170kW
駆動方式 WNドライブ
歯車比 82:15 (5.47)
編成出力 2,040kW
制御装置 富士電機製CDA964(IGBT素子方式VVVFインバータ制御)
制動装置 HRDA-1電気指令式
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概要

1998年2月15日から開始された姫路 - 阪神梅田間直通運転に伴う所要編成数の増加に伴い、在来の5000系の後継車種として設計・製造された。又、2300系の置き換えも行われた。

1964年3000系以来、山陽電鉄では電車用標準電動機として長らく三菱電機MB-3020Sが採用されてきたが、20世紀の終焉と前後してこの電動機の製造が打ち切られ、しばらくは社内で廃車発生品や予備品の転用・交換[1]を行うことで需要に対応していたがそれにも限度があり、またVVVFインバータ制御による三相交流誘導電動機の一般化など周辺状況も界磁添加励磁制御を選択するほかなかった5000系製造開始時とは大きく変化していたことから、山陽としては実に34年ぶりの新型電動機の採用となった。

本系列は1997年に12両、2000年に8両、合計20両が製造された。5000系と比較して、制御装置がIGBT方式VVVFインバータ制御に変更されたほか、1人-2人掛け転換クロスシートを採用(車端部はロングシート)するなど内装面でも変化が見られる。

車種構成

本系列は以下の各形式で構成される。

5000系では様々な技術的制約などから直通特急に用いられる6両編成ではMT比2:1として走行性能を確保していたが、本系列単独の編成では制御方式が変更されて主電動機出力が向上したため、MT比1:1を基本としている。

そのため、基本的な附番ルールは5000系に準じるものの、基本形式となるべき5030形が設定されておらず、制御車である5630形が編成の両端に連結され、また仕様の異なるM3は番号区分の必要からM1・M2から番号を離した5250形とされている。

なお、M1 - M3の電動車3種はいずれも集電装置関連以外は基本的に共通設計である。

  • モハ5230形5230・5232
    • 電動車 (M1) 。主制御器とパンタグラフを搭載し、モハ5230形奇数番号車とはユニットを構成しない単独の電動車であるが、パンタグラフについてはこちらの偶数番号車に集約搭載しているため、5030系のみの編成では奇数番号車との2両で1単位として扱われる。
  • モハ5230形5231・5233・5235・5237・5239・5241
    • 電動車 (M2) 。主制御器を搭載する。基本的には偶数番号車と同様の設計だが、パンタグラフを搭載しないため、運用時には5030系単独の編成ではモハ5230形偶数番号車から、5000系と5030系の混結編成ではモハ5250形から1,500V母線給電を受ける必要がある。
  • モハ5250形5250-5255
    • 電動車 (M3) 。主制御器とパンタグラフを搭載する。
  • クハ5630形5630 - 5633
    • 制御車 (Tc) 。偶数番号車 (Tc1) が神戸方[2]、奇数番号車(Tc2)が姫路方にそれぞれ運転台を備える制御車。運転台の位置以外は基本的に共通設計で、いずれもCPとSIVを搭載する。
  • サハ5530形5530・5531
    • 付随車 (T) 。補機類を一切搭載しない。

編成

直通特急用を前提として設計された本系列では、編成は6両編成を基本とする。そのため、神戸方から5630形 (Tc1) - 5230形 (M1) - 5230形 (M2) -5530形 (T) -5250形 (M3) - 5630形 (Tc2) の6両編成を基本とする。

ただし、5000系の項で記したとおり、2000年の直通特急増発にあたって5000系4両編成4本に中間車を2両ずつ組み込んで6両編成を増強したが、この際、主電動機の生産終了で従来と同じ5200形が製造できなかったことから、本系列の5230形 (M2) ・5250形 (M3) を一部仕様変更の上で製造してこれに充てている。

6両編成
5630 5230 5230 5530 5250 5630
Tc1 M1 M2 T M3 Tc
6両編成(5000・5030系混結)
5000 5000 5500 5230 5250 5600
M'c M T M2 M3 Tc

車体

車体は5000系5次車に準じており、窓配置も継承しているが、座席は阪神線内の混雑に対処するために山側1人-浜側2人掛けの転換クロスシートとなった[3]ほか、車内スピーカーも増設された。

1次車2編成には阪神8000系(車両更新済みの分のみ)や9000系9300系1000系5500系と同じく扉開閉予告ブザーが装備されているほか、車内にはLED式案内装置[4]と非常電話装置が標準装備されている。

2次車ではアルミニウム構体の接合法が外板の見栄えの向上を図るためにミグ溶接から摩擦攪拌式 (FSW) に変更され、新車間の連結面には外幌が取り付けられた。また、クロスシートの配置が山側2人-浜側1人掛けと逆になったほか、5000系の編成に2両ずつ挟んで使用するため、車内案内装置と非常電話装置は準備工事にとどまっている[5]

冷房装置は5000系のCU-71Sを低騒音・高効率形に改良したCS-71SCを搭載している。またこの機種変更により、これまで屋根上の冷房機の前後左右各1基ずつ搭載されていた通風器が廃止されている。

主要機器

主制御器・主電動機

山陽初採用となったVVVFインバータ制御装置は、高耐圧IGBT素子を使用する3レベルインバータ制御器の富士電機CDA964で、モーターをIGBT素子で1基ずつ制御する個別制御方式を採る。

山陽では2000系以降長らく「富士電機(あるいは前身の川崎電機製造)製の制御装置+三菱電機製のモーター」の組み合わせであったが、本系列では制御器との組み合わせの関係上、モーターも富士電機製三相交流誘導電動機であるMLR105[6]となった。この電動機は保守上3000・5000系と駆動装置を共通化することが求められたため、高回転数化により軽量化と出力強化の両立を図るケースが多いこの種の誘導電動機としては異例の強トルク低回転数設計となっており、歯車比も5000系以前と共通の82:15 (5.47) である。

台車

5000系5020F以降に採用された軸梁式ダイレクトマウント空気ばね台車であるKW-93(Mc・M用)・94(T・Tc用)を小改良したKW-93A(M用)・94A(T・Tc用)をそれぞれ装着する。

集電装置

パンタグラフは廃車発生品のPK-55のストックがなくなったことから、M1とM3に下枠交差式パンタグラフのPK-60(1次車)あるいはPK-80(2次車)を各車に2基ずつ搭載し、M2へは隣接するM1あるいはM3から給電される。PK-80は山陽初の電磁かぎ外し式で、1次車についてもM3は後にこれに交換している。

ブレーキ

5000系のHRDA-1電気指令式ブレーキを踏襲採用する。

補助電源・空気圧縮機

補助電源装置は両端の5630形にIGBT方式静止型インバーターであるCDA963 (170kVA) を搭載、片方が故障しても冷房装置の能力を半減させるだけで運転を継続する機能を有している。

また、この補助電源の変更に伴いCPも交流電源駆動のHS20-1が採用され、メンテナンスフリー化が図られた。

個別分類

1次車(5230 - 5233・5250・5251・5530・5531・5630 - 5633)

翌1998年の直通特急運転開始に備え、1997年に5630Fと5632Fの6両編成2本(12両)が製造された。

基本的には中間車しか製造されなかった5000系5次車を編成単位で新製したような外観であるが、3078F以来久々の下枠交差式パンタグラフ搭載となり、クーラーカバーの形状が変更され、さらには冷房機を換気にも使用することで通風器も省略されたため、側窓だけではなく、屋根上も在来車とはやや印象を異にしている。

2次車(5235・5237・5239・5241・5252 - 5255)

2001年3月のダイヤ改正において直通特急をそれまでの昼間時30分間隔から15分間隔に増発しただけでなく、山陽特急は土曜・休日の夜間の一部の列車を除く全列車が阪神梅田駅まで直通運転を実施することになったことから、5000系の内、5004F - 5010Fの4両編成4本へ中間車を2両ずつ増結して6両編成化することとなり、2000年にM2車の5235・5237・5239・5241とM3車の5252 - 5255の合計8両が製造された。基本的には5030系1次車から大きな変更はないが、行先表示器が5241・5255が組み込まれる編成に対応してLED式に変更されている。なお、2次車のナンバリングは将来Tc1-M1-T-Tc2が増備されて5030系だけで6連を組成した場合に対応したものとなっている。

運用

直通特急の運転開始を1年後に控えた1997年3月、5630F・5632Fの6両編成2本が竣工した。山陽電鉄では1991年竣工の5000系5022F以降、増結用中間車の増備ばかり続いていたことから、編成単位での増備は7年ぶりのことである。

直通特急の運転開始1年前と早期落成が図られたのは、5000系在来車への阪神線全線乗り入れ対応工事[7]や、直通区間への試運転による予備車不足の解消を図るためであり、両編成とも阪神線内への試運転に充当されるかたわら、ダイヤ改正までは阪急神戸線の阪急六甲への乗り入れ運用にも充当されていた[8]

直通特急の運転開始を前にして両社の車両を使った試運転は何度も実施されたが、1997年7月30日の阪神梅田初乗り入れ日には5630Fが充当され、阪神梅田での折り返しの際には「特急・姫路」の方向幕を掲出して翌年の運転開始をPRするとともに、写真撮影に訪れた鉄道ファンに格好の被写体を提供していた。翌年2月の直通特急の運転開始時には5000系6本と本系列2本の6両編成8本が、直通特急の運用に充当されるようになった。

2001年3月のダイヤ改正に際して山陽電鉄は5030系2次車8両を増備して5000系4両編成4本に組み込み、6両編成を12本へ増やして直通特急運用の増加に対応した。また、このダイヤ改正では直通特急が大増発されたことによって本系列による阪神線内および高速神戸駅折り返しの間合い運用が出現、夜間には梅田駅構内や御影留置線で滞泊する運用も出現した。

2006年10月のダイヤ改正以降は運用に大きな変化はなく、2010年1月現在、本系列は20両が在籍して5000系とともに直通特急や特急を主体にして運用されている。

車体装飾

5000系と同様、本系列も直通特急の主力として阪神梅田 - 山陽姫路間91.8kmという私鉄の優等列車としては長距離を走ることから、沿線で開催されるイベントやNHK大河ドラマで沿線が舞台になるときは、その宣伝効果を生かして本系列がしばしば一編成丸ごとラッピングが施され、利用者や沿線住民へのPRと乗客誘致に役立てられている。

脚注

  1. ^ 廃車となった2000系に搭載されていた三菱電機MB-3037を2300系や3両編成で運用されている3000系に搭載し、これによって捻出されたMB-3020Sを新造された5000系に搭載した。
  2. ^ Tc1は山陽では200形タイプIII (111 - 113) 以来の神戸(大阪)方である。
  3. ^ 神戸(大阪)方先頭で進行方向左側が山側、右側が浜側となる。
  4. ^ 面積は、阪神車両と比較して縦の長さが倍程度の大型サイズ。表示部の下には山陽姫路 - 阪神梅田までの路線図(ただし、阪神線内は直通特急停車駅のみ)も掲示されていたが、この路線図は阪神なんば線開業以降に撤去された。
  5. ^ 本来LEDの案内表示機となる部分には広告枠が付けられている。
  6. ^ 定格出力170kW。
  7. ^ 5500形への連結器偏差アダプタの搭載、運転台に対する列車種類選別装置とデッドマン装置の解除機能の追加など。なお、この改造は検査や事故発生時を考慮して、4両編成のまま残された2編成に対しても施工されている。
  8. ^ なお、直通特急運転に関するプレスリリースは本形式の登場直後であったことから、運転台に取り付けられた阪神線内乗り入れを示す表示などは取り外されていたり隠されていたりしていた。

参考文献

  • 『鉄道ピクトリアル』各号(1990年5月臨時増刊号 No.528 特集『山陽電気鉄道/神戸電鉄』、2001年12月臨時増刊号 No.711 特集『山陽電気鉄道/神戸電鉄』)
  • 『関西の鉄道』 No.49 特集 『阪神電気鉄道 山陽電気鉄道 兵庫県の私鉄PartII』

関連項目