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ラテン語の文法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

本項ではラテン語の文法 (: grammatica) について述べる。

概要

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ラテン語は、他のすべての古インド・ヨーロッパ語族と同様に、強い屈折を持ち、それゆえに語順が柔軟である。従って、古典ラテン語はインド・ヨーロッパ祖語の形態を保存した古風な言語と言える。名詞には主格、呼格、属格、与格、対格、奪格、所格という最大で7種類の格変化が、動詞には4種類の活用がある。ラテン語は冠詞、類別詞を持たない。例えば、英語における "a girl" と "the girl" の区別はなく、同じ意味の語 "puella" が両方の意味で使われる。 構文は一般的にSOV型であるが、詩歌においてはこれ以外の語順も普通に見られる。ラテン語は前置詞を使用し、通常は修飾する名詞の後に形容詞を置くライト・ブランチング言語 (Right-branchingである。ラテン語はまた、pro脱落言語及び動詞枠付け言語でもある。

語順

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ラテン語は強い屈折を持つ言語であるため、語順を柔軟に変えることができる。通常の散文においては主語、間接目的語、直接目的語、修飾語・句、動詞という語順になる傾向があった。従属動詞を含む他の成分、例えば不定詞などは、動詞の前に置かれた。

形容詞および分詞は通常名詞の直後であるが、美しさや大きさ、量、質、真理を表す修飾語は修飾する名詞に先行した。関係節は関係代名詞が示す先行詞の後が普通であった。こういった語順が古典ラテン語の文章語にありふれていた時代でも、しばしば異なった語順が見られた。また、口語での語順がどうであったかを示す決定的な証拠はない。(俗ラテン語も参照)

一方で、詩歌では韻律を守るために語順が変わることがあった。ラテン語では、強勢ではなく、母音の長短(長母音・二重母音と、短母音とでの対立)や子音の結合が韻律を支配した。ローマ世界の詩人が目で読むためでなく、耳で聞くために詩を創作したことを念頭に置く必要がある。なぜなら創作物の多くは聴衆の娯楽のために供されたためである。それ故に語順の変化は韻律のためならず、修辞的な意味もあり、聴衆の理解を妨げないように工夫された。ウェルギリウスの『選集』では次のような例がある。"Omnia vincit amor, et nos cedamus amori!": "Omnia", "amor", "amori"は個々の句の中であまりこない位置に置かれているため、印象が鮮明になっている。なお、この文の韻律はヘクサメトロスと呼ばれるものであり、同じくウェルギリウスが編纂した古代ローマ帝国の国民的叙事詩『アエネイス』でも用いられている。

以下に文例を示す。なお、この例ではローマ人に一般的な名前である"Marcus"が、文中での文法的な役割に応じて末尾が変化している。英語などの場合には語順の変化は文法違反になったり意味が曖昧になったりするが、ラテン語の場合これらの例文の語順は、文法的に完全に正しく、意味も明確である。

  • Marcus ferit Corneliam. (主・動・対) 訳:「マルクスがぶった、コルネリアを」
  • Marcus Corneliam ferit. (主・対・動) 訳:「マルクスがコルネリアをぶった」
  • Cornelia dedit Marco donum. (主・動・与・対) 訳:「コルネリアが贈った、マルクスにプレゼントを」
  • Cornelia Marco donum dedit. (主・与・対・動) 訳:「コルネリアがマルクスにプレゼントを贈った」

奪格、地格、副詞、前置詞句についても同様に自由に動かすことができる。

  • Sermo vester semper in gratia sale (a vobis) conditus sit. (主・副詞・前置詞句・奪・前置詞句・動)訳:「いつも、塩で味つけられたやさしい言葉を使いなさい。」[1]
  • Ea ecclēsiae cum solīs suīs amicīs sola sua themata loquītur. (主・地・前置詞句・対・動)訳:「彼女は教会では自分の気の合う人達だけと、自分の興味のあることしか話さない。」

名詞節や不定詞でさえも文節を崩さない範囲で自由に語順を並び替えられる。

  • qui mendacia loquītur peribit. (主・対・動・動)訳:「偽りをいう者は滅びる。」(英語ではshallで表現)
  • Vos quomodo vos unicuique respondere oporteat sciatis (主・接続詞・対・動・動・動)訳:「そうすれば、ひとりびとりに対してどう答えるべきか、わかるであろう。」[2]

動詞

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活用の詳細は、活用の節を参照。

ラテン語の動詞は三つの(直説法、接続法、命令法)と六つの時制(現在、未完了過去、未来、完了、過去完了、未来完了)、二つの(能動態、受動態)、二つの数(単数、複数)、三つの人称(一人称、二人称、三人称)に応じて活用する。他に、準動詞として不定詞分詞動名詞動形容詞がある。これらはすべて、動詞の4基本形に基いて作られる。

ラテン語の殆どの動詞は規則動詞である。規則動詞には第1変化動詞(-āre)、第2変化動詞(-ēre)、第3変化動詞(-ere)、第4変化動詞(-īre)の四つに識別される。

時制(: tempus

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  • 現在(: praesens
発話の時点で起きている事象を表す。
Servus vīnum ad villam portat.
奴隷はワインを館へ運ぶ。
  • 未完了過去(: imperfectum
過去に継続して起きていた事象を表す。
Servus vīnum ad villam portābat.
奴隷はワインを館へ運んでいた。
  • 未来(: futurum simplex
未来に起きる事象を表す。
Servus vīnum ad villam portābit.
奴隷はワインを館へ運ぶつもりだ。
  • 完了(: perfectum
過去に起きた事象、あるいは現時点で完了した事象を表す。
Servus vīnum ad villam portāvit.
奴隷はワインを館へ運んだ。
  • 過去完了(: plusquamperfectum
過ぎ去った過去の時点で完了した事象を表す。
Servus vīnum ad villam portāverat.
奴隷はワインを館へ運び終えていた。
  • 未来完了(: futurum exactum
未来のある時点で完了した事象を表す。
Servus vīnum ad villam portāverit.
奴隷はワインを館へ運び終えているだろう。

法(: modus

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事実について述べる場合に用いられる。
Servus vīnum ad villam portat.
奴隷はワインを館へ運ぶ。
可能性や意思、事実に反する仮定などの表現に用いられる。
Servus vīnum ad villam portet.
奴隷はワインを館へ運ぶかもしれない。
従属節における動詞に用いられることがある。
Sperābāmus ut servus vinum ad villam portāret.
奴隷がワインを館へ運ぶことを、我々は望んだ。
命令文で用いられる。
"Portā vīnum ad villam!"
「ワインを館へ運べ!」

態(: genus

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動詞が主語に示されるものの動作を表す。
Servus vīnum ad villam portat.
奴隷はワインを館へ運ぶ。
動詞が主語に示されるものに対する動作を表す。
Vīnum ad villam ā servō portātur.
ワインは館へ奴隷によって運ばれる。

動詞の4基本形

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ラテン語の動詞の活用は、次の4つの基本形から形成される。

  1. 現在・直説法・能動態・単数・一人称
  2. 現在・不定法・能動態
  3. 完了・直説法・能動態・単数・一人称
  4. スピーヌム(目的分詞)あるいは完了受動分詞

たとえば「amō(愛する)」を例にとると、この4つはそれぞれ、

  1. amō (私は愛する)
  2. amāre (愛すること)
  3. amāvī (私は愛した)
  4. amātum (愛するために)あるいはamātus (愛された(こと))

となる。

辞書ではこの最初の形を見出し語とし、他の3つを併記するのが慣例となっている。2番目の形は不定詞として用いられる形であるが、現代の欧州諸語と異なり見出し語とはしない[3]。 上記「愛する」を例にとると、辞書の見出し語は amo であって、その後に省略した形を添え、amo, -are, -avi, -atum のように記載するのが通例である。

一方、現代語の語源辞典や、各種読み物の中で軽く語源にふれるような場合には、ラテン語の動詞をひくときに上記2番目(amare)の形を用いることも多い[4]。 とりわけイタリア語フランス語スペイン語などラテン語の血を引く現代語(ロマンス諸語)においては、辞書の見出しなどにももっぱら不定法の形(「愛する」の同系語を例にとれば、イタリア語: amareフランス語: aimerスペイン語: amar[5])を用いるようになっているので、ラテン語を含めた各言語の不定形どうしを対照することは一般的である。




活用 (: coniugatio)

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活用の概要

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語基
動詞には、未完了系列完了系列との2種類の語基がある。
語基には人称形、と、非人称形の語尾が付く。
語幹
一部の不規則活用を除くと、5種類ある。大きくわけて語幹に長母音を持つ3タイプと短母音を持つ2タイプに分けられる。
長母音
  • āによる第一活用
  • ēによる第二活用
  • īによる第四活用
短母音
  • iによる混合第三活用(i幹動詞)
  • eによる混合第三活用(子音幹動詞)
完了系列
完了系列の語基は語幹が変化してできる。変化には弱変化強変化がある。
弱変化
  • 長母音に対して、接尾辞-v(u)-を付加する。
  • 子音に対して、接尾辞-s-を加する。
強変化
  • 重音によるもの mordeō/momordī
  • 音量交替によるもの legō/lē
  • 音量も音色も交替するもの faciō/fē
時制
現在形は無標。他の時制は、語幹と人称語尾の間に接尾辞を挿入する。
詳細略
非人称形
不定法
能動態 -se/-re
受動態 -ī/-rī
分詞(形容詞型活用)
能動態 現在分詞 -(ē)ns/-(e)ntis
能動態 未来分詞 -tūrus/-tūra/-tūrum
受動態 完了分詞 -tus/-ta/-tum
動形容詞(形容詞型活用)
-ndus/-nda/-nda
スピーヌム(名詞型活用)
対格:-tum、奪格:-tū、与格:-tuī(古拙期のみ)
動名詞(名詞型活用)
対格:-ndus, 属格:-ndī, 奪格:-ndō
不定法の屈折形として用いられる。
人称形
以下の表による。
未完了形は以下の表による。
完了形、能動態直接法のみ下表で、他は、完了分詞+esse で表す。
態 (vox) 能動態 (activa) 受動態 (passiva)
単数 複数 単数 複数
完了以外 一人称 –ō, –m –mus –or, –r –mur
二人称 –s –tis –ris –minī
三人称 –t –nt –tur –ntur
態 (vox) 能動態 (activa)
単数 複数
完了 一人称 –ī –imus
二人称 –istī –istis
三人称 –it –ērunt / -ēre
参考文献
ジャクリーヌ・ダンジェル 著、遠山一郎 、高田大介 訳「第3章 アルスグラマティカ」『ラテン語の歴史』白水社〈文庫クセジュ〉、2001年9月(原著1995年)。ISBN 978-4-560-05843-5 

第一活用

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不定形が-areという語尾をとる動詞は、第一活用という型の規則的な変化をする。ここでは、「愛する」という意味のamo, amavi, amatum, amareを使って、活用語尾の具体例を示す。

不定詞 (infinitivus) ・分詞 (participium)

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態\時制 現在 (praesens) 完了 (perfectum) 未完了 過去完了 未来 (futurum) 前未来
能動態 (activa) 不定詞 -āre (amāre) -āvisse / -āsse (amāvisse / amāsse) - - -ātum esse (amātum esse) -
受動態 (passiva) 不定詞 -āri (amari) -ātum esse (amatum esse) - - -ātum iri (amātum iri) -
能動態 (activa) 分詞 -ans (amans) - - - -antūrus (amantūrus) -
受動態 (passiva) 分詞 - -antus (amantus) - - -andus (amandus) -

表に示したのは男性である。女性・中性については、次のような異同がある。

女性
不定詞において、-atum (amatum)は-atam (amatam)になる。
分詞においては、-anturus (amanturus)は-antura (amantura)に、-antus (amantus)は-a (amanta)に、-andus (amandus)は-anda (amanda)になる。
中性
不定詞では、男性と同じ形をとる。
分詞においては、-anturus (amanturus)は-anturum (amanturum)に、-antus (amantus)は-antum (amantum)に、-andus (amandus)は-andum (amandum)になる。

現在 (praesens) ・完了 (perfectum)

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態 (vox) 能動態 (activa)
時制 (tempus) 現在 (praesens) 完了 (perfectum)
叙法 (modus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus)
1人称単数 (ego) (amo) -em (amem) - -āvī (amāvī) -averim (amaverim) -
2人称単数 (tu) -as (amās) -es (ames) -a (ama) -avisti (amavisti) -averis (amaveris) -
3人称単数 (is/ea/id) -at (amat) -et (amet) - -avit (amāvit) -averit (amavit) -
1人称複数 (nos) -amus (amāmus) -emus (amemus) - -avimus (amavimus) -averimus (amaverimus) -
2人称複数 (vos) -atis (amātis) -etis (ametis) -ate (amāte) -avistis (amāvistis) -averitis (amāveritis) -
3人称複数 (ii (ei)/eae/ea) -ant (amant) -ent (ament) - -averunt (amāverunt) -averint (amāverint) -
態 (vox) 受動態 (passiva)
時制 (tempus) 現在 (praesens) 完了 (perfectum)
叙法 (modus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus)
1人称単数 (ego) -or (amor) -er (amer) - -ātus sum (amātus sum) -ātus sim (amātus sim) -
2人称単数 (tu) -āris (amaris) -eris (ameris) -āre (amare) -ātus es (amātus es) -ātus sis (amātus sis) -
3人称単数 (is/ea/id) -ātur (amātur) -etur (ametur) - -ātus est (amātus est) -atus sit (amatus sit) -
1人称複数 (nos) -āmur (amāmur) -emur (amemur) - -āti sumus (amāti sumus) -āti simus (amāti simus) -
2人称複数 (vos) -āmini (amāmini) -emini (amemini) -āmini (amāmini) -āti estis (amāti estis) -āti sitis (amāti sitis) -
3人称複数 (ii (ei)/eae/ea) -antur (amantur) -entur (amentur) - -ati sunt (amāti sunt) -ati sint (amati sint) -

表に示したのは男性である。女性の場合、-atus (amatus)は-ata (amata)に、-ati (amati)は-atae (amatae)に、また、中性の場合、-atus (amatus)は-atum (amatum)に、-ati (amati)は-ata (amata)になる。

未完了 (imperfectum) ・過去完了 (plusquamperfectum)

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未完了時制と、その完了である過去完了時制においては、命令法を全く欠いている。おそらく、過ぎ去ったことに命令しても無意味だからであろう。

態 (vox) 能動態 (activa)
時制 (tempus) 未完了 (imperfectum) 過去完了 (plusquamperfectum)
叙法 (modus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus)
1人称単数 (ego) -abam (amabam) -arem (amarem) - -averam (amaveram) -avissem (amavissem) -
2人称単数 (tu) -abas (amabas) -ares (amares) - -averas (amaveras) -avisses (amavisses) -
3人称単数 (is/ea/id) -abat (amabat) -aret (amaret) - -averat (amaverat) -avisset (amavisset) -
1人称複数 (nos) -abamus (amabamus) -aremus (amaremus) - -averamus (amaveramus) -avissemus (amavissemus) -
2人称複数 (vos) -abatis (amabatis) -aretis (amaretis) - -averatis (amaveratis) -avissetis (amavissetis) -
3人称複数 (ii(ei)/eae/ea) -abant (amabant) -arent (amarent) - -averant (amaverant) -avissent (amavissent) -
態 (vox) 受動態 (passiva)
時制 (tempus) 未完了 (imperfectum) 過去完了 (plusquamperfectum)
叙法 (modus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus)
1人称単数 (ego) -abar (amabar) -arer (amarer) - -atus eram (amatus eram) -atus essem (amatus essem) -
2人称単数 (tu) -abaris (amabaris) -areris (amareris) - -atus eras (amatus eras) -atus esses (amatus esses) -
3人称単数 (is/ea/id) -abatur (amabatur) -aretur (amaretur) - -atus erat (amatus erat) -atus esset (amatus esset) -
1人称複数 (nos) -abamur (amabamur) -aremur (amaremur) - -ati eramus (amati eramus) -ati essemus (amati essemus) -
2人称複数 (vos) -abamini (amabamini) -aremini (amaremini) - -ati eratis (amati eratis) -ati essetis (amati essetis) -
3人称複数 (ii (ei)/eae/ea) -abantur (amabantur) -arentur (amarentur) - -ati erant (amati erant) -ati essent (amati essent) -

表に示したのは男性である。女性の場合、-atus (amatus)は-ata (amata)に、-ati (amati)は-atae (amatae)に、また、中性の場合、-atus (amatus)は-atum (amatum)に、-ati (amati)は-ata (amata)になる。

未来 (futurum) ・前未来 (futurum praeteritum)

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未来時制と、その完了である前未来時制では、接続法を全く欠いている。これは、そもそも接続法という叙法が「想定されたことがら」を話すための叙法であるため、わざわざ重ねて未来時制を用いる必要がないからであろう。

態 (vox) 能動態 (activa)
時制 (tempus) 未来 (futurum) 前未来 (futurum praeteritum)
叙法 (modus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus)
1人称単数 (ego) -abo (amabo) - - -avero (amavero) - -
2人称単数 (tu) -abis (amabis) - -ato (amato) -averis (amaveris) - -
3人称単数 (is/ea/id) -abit (amabit) - -ato (amato) -averit (amaverit) - -
1人称複数 (nos) -abimus (amabimus) - - -averimus (amaverimus) - -
2人称複数 (vos) -abitis (amabitis) - -atote (amatote) -averitis (amaveritis) - -
3人称複数 (ii (ei)/eae/ea) -abunt (amabunt) - -anto (amanto) -averint (amaverint) - -
態 (vox) 受動態 (passiva)
時制 (tempus) 未来 (futurum) 前未来 (futurum praeteritum)
叙法 (modus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus) 直説法 (indicativus) 接続法 (subiunctivus) 命令法 (imperativus)
1人称単数 (ego) -abor (amabor) - - -atus ero (amatus ero) - -
2人称単数 (tu) -aberis (amaberis) - -ator (amator) -atus eris (amatus eris) - -
3人称単数 (is/ea/id) -abitur (amabitur) - -ator (amator) -atus erit (amatus erit) - -
1人称複数 (nos) -abimur (amabimur) - - -ati erimus (amati erimus) - -
2人称複数 (vos) -abimini (amabimini) - - -ati eritis' (amati eritis) - -
3人称複数 (ii (ei)/eae/ea) -abuntur (amabuntur) - -antor (amantor) -ati erunt (amati erunt) - -

表に示したのは男性である。女性の場合、-atus (amatus)は-ata (amata)に、-ati (amati)は-atae (amatae)に、また、中性の場合、-atus (amatus)は-atum (amatum)に、-ati (amati)は-ata (amata)になる。




限定詞と人称代名詞

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ラテン語には不定冠詞や定冠詞(the, a, an)が存在しないが、「弱い指示語」のis, ea, id(英語のthis, thatに相当)を定冠詞の代わりに使うことがある。

Persuāsīt populō ut eā pecūniā classis aedificārētur (Nepos)
「彼は、そのお金で船を作るべきだとして人々を説得した」(eā pecūniāは英語のby that moneyの意味だが、eāが定冠詞のように使われている)


ラテン語には指示語が存在する。hic, haec, hoc(近称「これ、この」。英語のthis。順に男性・女性・中性に対応する)、ille, illa, illud(遠称「あれ、あの」。英語のthat)、iste, ista, istud(中称「それ、その」。英語では"that one of yours")、直上のis, ea, id(「弱い指示語」。彼・彼女・それ)などである。


これらは、英語のthis, thatのように、指示語(形容詞的に)としても、代名詞(「これ、あれ...」)としても機能する。

Hic homō sānus nōn est (Plautus)
この男は健全ではない」
Hic, putō, sānus erat (Martial)
これ(=この男)は、私が思うに、健全だった」


人称代名詞も三つの人称のそれぞれに対応して存在する。人称代名詞は1人称・2人称にもあり、単数・複数がある。例:egō, nōs(私、私たち。1人称の単数・複数)、tū, vōs(あなた、あなたたち。2人称の単数・複数)。3人称はis, ea, id(英語のhe, she, itに相当)である。3人称の代名詞のみが性の変化を伴うのは、多くのロマンス諸語や英語と同様である。ラテン語では動詞の主語は動詞の活用に含まれているため、人称代名詞を文の主語として言うことは稀である。


限定詞には、所有形容詞や所有代名詞基数詞や序数詞数量詞疑問詞などもある。



比較の表現

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形容詞は英語と同じく、原級・比較級・最上級がある。最上級の形容詞は名詞の第1・第2格変化に、比較級は第3格変化にそれぞれ倣って格変化する。

文章中で、比較の対象は次の3つの方法で表される。

  • quamを用いる(英語のthan)。比較したい双方の語の文法上の格を一致させる。
  • 一部分を全体に対して比較するときは、属格(「部分の属格」)を用いる。
  • 奪格(「比較の奪格」)を用いる。


例:

  • Cornēlia est fortis puella「コルネリアは勇敢な少女だ」
  • Cornēlia est fortior puella quam Flāvia「コルネリアはフラヴィアよりも勇敢な少女だ」(quamを使用。Cornēliaが主格なのでFlāviaも主格になる)
  • Cornēlia est fortior Flāviā「コルネリアはフラヴィアよりも勇敢だ」(Flāviāは奪格で表現されている)
  • Cornēlia est fortior puellārum「コルネリアは少女たちに比べて勇敢だ」(比較対象が集団なので、部分の属格が用いられている)
  • Cornēlia est fortior puella「コルネリアはどちらかというと勇敢な少女だ」(比較対象はない)
  • Cornēlia est fortissima puella omnium/inter omnēs/ex omnibus「コルネリアはその全員のうちで最も勇敢な少女だ」(omniumは部分の属格。inter omnēsは「全員のうちで」。ex omnibus「全員から見て」)


比較表現:規則変化
原級 比較級 最上級
exter, -a, -um exterior, -ius extrēmus, -a, -um
longus, -a, um longior, -ius longissimus, -a, -um
brevis, -e brevior, -ius brevissimus, -a, -um
pulcher, -chra, -chrum pulchrior, -ius pulcherrimus, -a, -um
superus, -a, -um superior, -ius suprēmus, -a, -um
比較表現:不規則変化
原級 比較級 最上級
bonus, -a, -um melior, -ius optimus, -a, -um
magnus, -a, -um māior, -ius maximus, -a, -um
malus, -a, -um pēior, -ius pessimus, -a, -um
multus, -a, -um plūs; pl. plūres, plūra plūrimus, -a, -um
parvus, -a, -um minor, -us minimus, -a, -um




名詞

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文法上の性

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名詞には男性女性中性の3つの文法上の性がある。代名詞・形容詞は、以下のように、名詞の性に一致した語形変化をする。

  • ipse rēx 「王自身が」(男性名詞)
  • ipsa puella 「その少女自身が」(女性名詞)
  • ipsum bellum 「その戦争自体が」(中性名詞)
(「それ自身、それ自体」を意味するipse, ipsa, ipsumは名詞の性に応じて語形変化をしている)

性は単語の意味する内容に沿って決められていることが多い(例えば、風は男性名詞、木の名前は女性名詞、など)。

  • 男性名詞(masculine nouns)は男性(男の人、男子)を表す全ての名詞を含む。例:dominus「主人」、puer「少年」、deus「神」「男神」。また、非生物を表す名詞もある。例:hortus「庭」、exercitus「軍隊」、mōs「習慣」。第2格変化のうち、-us, -erで終わるものは通常、男性名詞である。
  • 女性名詞(feminine nouns)は女性(女の人、女子)を表す全ての名詞を含む。例:puella「少女」、mulier「女性」、dea「女神」。また、非生物や抽象的な事物を表す名詞もある。例:arbor「木」、urbs「町」、hūmānitās「親切」、nātiō「民族」。puellaのように-aで終わる第1格変化の名詞は通常、女性名詞である。例外としては、poēta「詩人」(男性名詞)がある。第3格変化のうち、-tāsと-tiōで終わるものは女性名詞である。
  • 中性名詞(neuter nouns)は物・事物(非生物)を表す。例:nōmen「名前」、corpus「体」、bellum「戦争」、venēnum「毒」。例外はscortum「街娼(男女とも)」。

男性名詞と女性名詞は、単数形の直接目的語(対格)になるときは、語尾が-mとなり(例:puellam, puerum, rēgem)、複数形の直接目的語になるときは、語尾が-sとなる(例:puellās, puerōs, rēgēs)。

中性名詞には、男性名詞・女性名詞と異なる次の二点の特徴がある。(1)複数形は-aで終わる。例:bella「戦争」、corpora「体」。(2)主語(主格)と直接目的語(対格)は同形になる。


格の語尾と表示順序

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ラテン語の名詞には単数・複数の2つの数があり、それぞれが「格」(英case、独Kasus、ラテン語:casus)と呼ばれる異なる語尾の形をとって変化する。 ラテン語には主格・属格・与格・対格・奪格・呼格・地格という7つの格がある(下の表の「Wheelock式」の表示順序)。 格にはそれぞれに異なる機能と意味がある。

文法書などでの格の表示順序は国によって違いが見られる。イギリスなどの国では、主格・呼格・対格・属格・与格・奪格となる(下の表でBrの欄)。アメリカでは、Gildersleeve and Lodgeの文法書(1895、GL)に従う伝統的な順序では、属格が2番目となり、奪格が最後に置かれ、主格・属格・与格・対格・呼格・奪格となる(下の表でGLの欄)。これよりも広く通用しているのがWheelockの文法書(1956年初版、2011年第7版、Wh)に従う順序で、GLのうち、最後の呼格と奪格の順序が逆になる(下の表でWhの欄)。 日本で定着しているのがこの最後のWheelock式である。下の表で他の2つに切り替えるには、GLとBrの菱形マーク(上下三角マーク)をクリックすると順序が変わる。

格の名称 単数 意味 複数 意味 用法 Wh GL Br
主格(Nominative) rēx (一人の)王が rēgēs 王たちが 主語(~が) 1 1 1
属格(Genitive) rēgis 王の rēgum 王たちの 所有(~の) 2 2 4
与格(Dative) rēgī 王に rēgibus 王たちに 間接目的語(~に) 3 3 5
対格(Accusative) rēgem 王を rēgēs 王たちを 直接目的語(~を) 4 4 3
奪格(Ablative) rēge 王とともに rēgibus 王たちとともに 手段・由来など 5 6 6
呼格(Vocative) rēx 王よ! rēgēs 王たちよ! 呼びかけ 6 5 2

以上の6つの格の他に、第7の格として地格(locative)があり、町の名前や小さな島の名前、domus(「家」)などの単語で用いられる。「場所」を表す格である。例:Rōmae「ローマで」、domī「家で」。ただし、この格を持つ名詞はごく一部に限られる。

上の表から分かるように、-ēs(複数主格と対格)や-ibus(複数与格と奪格)のような語尾は複数の格にまたがって共通の語尾となっている。ラテン語では、単語の機能が語尾で決まるため(英語のように語順ではなく)、rēgēs dūcuntと言えば、「王たちが導く」の意味にも、「彼らが王たちを導く」の意味にも読めることになる。ただし、実際の用例では、-ēsの語尾が主格か対格かは文脈から明らかであり、こうした意味の取り違えが起きることは稀である。


格変化

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ラテン語の7つの格は別々の形に変化する。これを格変化 (declension)と呼ぶ。 概観のため、例として、女性名詞のpuella(「少女」)、男性名詞のdominus(「主人」)、中性名詞のbellum(「戦争」)、中性名詞のcorpusの(「体」)の格変化を以下の表に示す。

少女
(単数)
(複数) 主人
(単数)
(複数) 戦争
(単数)
(複数)
(単数)
(複数) Wh GL Br
主格 puella puellae dominus dominī bellum bella corpus corpora 1 1 1
属格 puellae puellārum dominī dominōrum bellī bellōrum corporis corporum 2 2 4
与格 puellae puellīs dominō dominīs bellō bellīs corporī corporibus 3 3 5
対格 puellam puellās dominum dominōs bellum bella corpus corpora 4 4 3
奪格 puellā puellīs dominō dominīs bellō bellīs corpore corporibus 5 6 6
呼格 puella puellae domine dominī bellum bella corpus corpora 6 5 2

格変化にはタイプがあり、上の4つは典型的な格変化タイプを代表するものである。すなわち、puellaは第1格変化、dominusとbellumは第2格変化、corpusと(前節の表の)rexは第3格変化であり、ラテン語の名詞の大部分はこの3つのどれかに属する。 この他に、第4格変化(manus「手」)、第5格変化(diēs「日にち」)があるが、この2つに属する名詞はごく少数である。 代名詞にはそれぞれに特殊な格変化があり、例えば、上の表の名詞とは違い、単数属格で-īus、与格で-īの語尾になったりすることがある。

形容詞や代名詞には、名詞とは異なる不規則の格変化をするものもある。例えば、第3格変化の形容詞は単数奪格で-eではなく-īとなる。例えば、ingentī clāmōre(「大声で叫びながら」)は、同じ奪格ながら形容詞のingentīと名詞のclāmōreでは語尾が異なっている。第2格変化の形容詞には、単数属格が-īus、与格が-īとなるものがある。例:sōlus「一人で」、tōtus「全体の」。すると、tōtīus orbis(「世界全体の」)のように、同じ属格ながら形容詞のtōtīusと名詞のorbisでは異なる語尾となる。



格の用法

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※この項では抜粋のみを簡略に示す。


主格

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主格は能動態・受動態の文の主語を表す。コピュラ動詞(英語のbe動詞に相当、「AはBである」)の述語(「B」)も主格で表す。

respondit rēx王は返答した」(能動態の主語)
occīsus est rēx王は殺された」(受動態の主語)
rēx erat Aenēās nōbīs 「私たちの王はアエネアスだった」(主語)
rēx erat Aenēās nōbīs 「私たちの王はアエネアスだった」(コピュラ動詞の述語)
rēx factus est 「彼は王に選ばれた」「彼は王になった」(コピュラ動詞の述語)


属格

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属格は所有を表す。

rēgis fīlia 「王の娘」


与格

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与格は他動詞の間接目的語、「~へ」「~のために」(英to, for)などを表す。

rēgī nūntiātum est 「それは王に知らされた」
pāruit rēgī 「彼は王に従順だった」「彼は王に従った」
pecūniam rēgī crēdidit 「彼は金銭を王に委ねた」


対格

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対格は他動詞の直接目的語を表す。

rēgem petiērunt 「彼らは王に物乞いをした」

場所の名詞では、動作が向かう方向を表す。

Rōmam profectus est 「彼はローマへと旅立った」

対格支配の様々な前置詞とともに用いられる(動作の方向を表すことが多い)。

senātus ad rēgem lēgātōs mīsit 「元老院は大使を王の元へ派遣した」
cōnsul in urbem rediit 「コンスルは町へ帰還した」

時間や距離の長さを表す。

rēgnāvit annōs quīnque 「彼は5年間、支配した」
quīnque pedēs longus 「5フィートの背の高さ」


奪格

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奪格を単独で用いると、「手段・道具」を表す。

rēgibus exāctīs追放された王とともに」(=王が追放された後で)
gladiō sē transfīgit 「彼は剣で自害した」

奪格支配の前置詞とともに用いる。「~から」「~とともに」「~の中で」など。

ūnus ē rēgibus王たちのうちの一人」
cum rēgibus王たちと一緒に
ā rēgibus王たちから
prō rēge王のために

時間・場所を表す。

eō tempore当時」「そのとき
hōc locōこの場所で
paucīs diēbus数日のうちに」「数日経ったら

奪格単独で、場所の名詞とともに用いられて「~から」(起点)を表す。

Rōmā profectus est 「彼はローマから旅立った」
locō ille mōtus est 「彼は職から異動させられた」


呼格

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呼格は人への呼びかけを表す。

iubēsne mē, rēx, foedus ferīre? 「王よ、貴方は和平を結ぶよう私に命じますか?」


地格

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地格は稀にしか使用されない格で、町や小さな島の固有名詞、その他の僅かな単語で使用されるのみである。意味は場所を表す。例:domus「家」。

cōnsul alter Rōmae mānsit 「二人のコンスルのうちの一人はローマに留まった」
multōs annōs nostrae domī vīxit 「彼は長年、私たちの家に住んだ」



形容詞・代名詞の格の一致

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形容詞の格は必ず名詞に一致させる。同様に、性と数も一致させる。下の例文では、名詞のrēxが呼格なので、それを修飾するbonus(「良い」)も呼格にしなければならない。

ō bone rēx 「おお、良き王よ!」


同じく、代名詞も性・数・格を名詞に一致させる。下の例文では、代名詞のhic(「これ」)が男性形であり、男性名詞のamor(「愛」)に一致している。haec(「これ」)の方は女性形であり、女性名詞のpatria(「祖国」)に一致している。

hic amor, haec patria est 「これが私の愛であり、これが私の祖国である」





前置詞

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ラテン語の前置詞は、後に来る名詞のを限定(支配)する(大半は対格・奪格で、稀に属格もある)。例えば、前置詞ex(~の外へ)の後に来る名詞奪格でなければならない。また、意味によって異なる格を支配する前置詞もある。例えば、inは、対格支配の場合は、外から中への動的な動きを表し(「~の中へ」、英語のintoに近い)、奪格支配の場合は、静的な場所を表し、単に中にいることだけを意味する(「~の中で」、英語のin/on/insideに近い)。このような前置詞としては、他にsubがある(対格では「~の下へ」、奪格では「~の下で」)。

in urbem「町の中へ」(対格)
in urbe「町の中で」(奪格)


その他の大半の前置詞は一つの格のみを支配する。例えば、由来の「~から」、手段の「~を用いて」、同伴の「~と一緒に」などの意味は全て、奪格によって表現される。

ex urbe「町から外へ」
ab urbe「町から離れて」
cum Caesare「カエサルと一緒に」


その他の前置詞は対格を支配する。

extrā urbem「町の外で」
ad urbem「町へ向かって」「町の近くで」
per urbem「町を通って」
circum urbem「町の周りで」


ラテン語の前置詞には、現在の英単語の接頭語としてよく見かけるものが多いが、これは、ラテン語では、前置詞を単語の一部に使った複合語が多く、それが英語に受け継がれたためである。




※下の前置詞リストで、格ごとにまとめるには、「支配する格」をクリックする。

ラテン語の前置詞リスト
前置詞 支配する格 説明  (< >内は英語の対応語)
ā, ab, abs +奪格(abl) ~から(由来・奪取・場所・時間)(abは母音、または、hの前。absはc,t,kと合成するとき。āは子音の前) <英:from; down from; at, in, on, (of time) after, since (source of action or event) by, of>
absque +奪格(abl) ~無しに <英:without (古風。通常はsine, praeter)>
ad +対格(acc) ~の方へ/~に(方向・時) <英:towards, to, at>
adversus, adversum +対格(acc) ~に向かって(方向)<英:towards, against (副詞から)>
ante +対格(acc) ~の前に(場所・時)<英:before (also an adverb)>
apud +対格(acc) ~のもとで(場所)<英:at, by, near, among; chez; before, in the presence of, in the writings of, in view of>
causā +属格(gen) ~のために(理由・原因)<英:for the sake of (通常、名詞に後置する。causaの奪格形から)>
circum +対格(acc) ~のまわりで(場所)<英:about, around, near>
circā +対格(acc) ~の周りで、~について <英:around, near, about; regarding, concerning>
circiter +対格(acc) ~の近くで(場所・時間)<英:near, close, round about>
cis +対格(acc) ~の近くで <英:on, to this, the near side of, short of; before>
citrā +対格(acc) ~のこちら側に/~の内側に(場所)<英:on this side of (副詞から)>
clam +対格(acc) &
+奪格(abl)
~を知らずに <英:without the knowledge of, unknown to (副詞から)。対格の用法は稀。変化形にclanculumがある>
contrā +対格(acc) ~に向かって/~に反して(場所・対立)<英:against, opposite to, contrary to, otherwise, in return to, back>
cōram +奪格(abl) ~と向き合って <英:in person, face to face; publicly, openly>
cum +奪格(abl) ~と一緒に <英:with>
+奪格(abl) ~から/~について(場所・時の始点・手段・題材)<英:from, concerning, about;
from, away from, down from, out of>
ergā +対格(acc) ~の方に(方向)<英:(literally, of locality, ante-Classical and post-classical only, rare) over against, opposite to;
(in post-Augustean authors, especially in Tacitus, in general of every kind of mental relation to a person or thing) to, towards, in respect to, with regard to, concerning, about;
(Medieval Latin) from;
(Medieval Latin) applying to, addressing (oneself) to>
ex, ē +奪格(abl) ~から外へ <英:out of, from>
extrā +対格(acc) ~の外側に/~を除いて(方向・除外)<英:outside of, beyond>
fīne, fīnī +属格(gen) ~にまで <英:up to (fīnisの奪格形)>
grātiā +属格(gen) ~のために(利益)<英:for the sake of>
in +対格(acc) ~の中へ(方向)<英:into, to; about; according to; against>
+与格(dat) ~の中で(場所)<英:within, while in (時間)>
+奪格(abl) ~で(場所)<英:in, at, on, from (空間)>
īnfrā +対格(acc) ~の下に(方向・場所)<英:below>
inter +対格(acc) ~の間に <英:between, among; during, while>
intrā +対格(acc) ~の内側に <英:within, inside; during; in less than>
iūxtā +対格(acc) ~に近接して <英:nearly; near, close to, just as>
ob +対格(acc) ~のために(理由)<英:in the direction of, to, towards; on account of, according to, because of, due to, for (the purpose of); against; facing>
palam +奪格(abl) 隠すことなく <英:without concealment, openly, publicly, undisguisedly, plainly, unambiguously>
penes +対格(acc) ~の支配下に <英:Under one's government or command; In one's disposal or custody; At, with, about, concerning>
per +対格(acc) ~を通って/~を通して(場所・仲介)<英:through, by means of; during>
pōne +対格(acc) ~の後ろに <英:behind; in the rear of>
post +対格(acc) ~の後に(場所・時)<英:behind (of space); afterwards, after (of time) >
prae +奪格(abl) ~の前で <英:before, in front of, because of>
praeter +対格(acc) ~を除いて(除外)<英:besides, except; beyond; more than>
prō +奪格(abl) ~のために(利益)、~の前に <英:for, on behalf of; before; in front, instead of; about; according to; as, like; as befitting>
procul +奪格(abl) ~の遠くに <英:far, at a distance>
prope +対格(acc) ~の近くに(場所)<英:near, nearby, (figuratively) towards, about (in time)>
propter +対格(acc) ~のために(理由)<英:near, close to, hard by; because of, on account of, for; (rare) through, by means of>
secundum +対格(acc) ~に沿って(準拠)<英:next, along, according to>
simul +奪格(abl) ~と一緒に <英:with>
sine +奪格(abl) ~無しに <英:without>
sub +対格(acc) ~の下ヘ <英:under, up to, up under, close to (of a motion); until, before, up to, about>
+奪格(abl) ~の下に <英:under, beneath; behind; at the feet of; within, during; about, around (time)>
subter +対格(acc) ~のすぐ下に <英:directly below an area that is under another; underneath, (figuratively) below inferior>
+奪格(abl) ~の下に <英:underneath, (figuratively) below inferior>
super +対格(acc) ~の上に(場所)<英:(of place) above, on the top of, upon beyond; (of measure) above, beyond, over, in addition to>
+奪格(abl) ~に関して <英:concerning, regarding, about>
suprā +対格(acc) ~の上に/~の前に(方向・場所)(of place) <英:above, on the top, on the upper side; (of time) before, previously, formerly; (of number or measure) more, beyond, over (注:時間を表すときは、以前に言われたり書かれたりした物事を表す)>
tenus +属格(gen) &
+奪格(abl)
(属格・奪格)~に至るまで <英:right up to, as far as, just as far as>;
(奪格で過程を表し)~に至る過程で <英:up to (a given stage of)>;
(属格・奪格で制限を表す) ~の限度まで、~の限度内で <英:to the maximum extent of, within>;
(教会ラテン語で) 長く<英:lengthwise, along>
trāns +対格(acc) ~を通って/~を超えて(通過)<英:across, beyond>
versus,
versum
+対格(acc) ~の方へ(方向)<英:towards (副詞的)>
ultrā +対格(acc) を超えて <英:beyond>





接続詞

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ラテン語の接続詞は、人称時制のいずれによっても変化しない不変化の品詞である。

et(そして)、aut(または)、neque(~もない)、"sed, autem, vērum, vērō, at, atquī"(しかし)、"nam, namque, enim, etenim"(なぜなら)、igitur(だから)、sī(もし)、nisi(~でなければ)、ac sī(あたかも)、quamquam(たとえ~でも)、postquam(~したあとで)、ut(~するために)、nē(~しないために)、quia(なぜならば)などがある。

その他、複合的な接続詞を加えると、"et, -que, atque, ac"(そして)、"et...et, et...-que (atque), -que...et, -que... -que"(~も~も)、"etiam, quoque, neque nōn (necnōn), quīn etiam, itidem (item)"(~もまた)、"cum...tum, tum...tum"(~も~も)、"quā...quā"(一方で~他方で~)、"aut...aut, vel...vel (-ve)"(~もしくは~)、"sīve (seu)...sīve"(~であるか~であるか)、"nec (neque)...nec (neque), neque...nec, nec...neque"(~も~もない)、"tamen, attamen, sed tamen, vērum tamen"(それでも)、nihilōminus(~にもかかわらず)、cēterum(他方で)、"quāpropter, quārē, quamobrem, quōcircā, unde, ergō, igitur, itaque, ideō, idcircō, proinde"(だから)などがある。



副詞

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副詞は動詞・形容詞、他の副詞を修飾し、時間・場所・様態・方法などを表す。ラテン語の副詞は格変化はなく、無変化である。形容詞と同じく、副詞にも原級・比較級・最上級がある。

副詞の原級を作るには、形容詞に副詞の接尾辞(-ē, -er, -ter, -tus, -ō, -umなど)を付ける。例えば、形容詞clārus, -a, -um(「明るい」)からは副詞clārē(「明るく」「明らかに」)が得られる。第3格変化の形容詞から副詞を作るには、接尾辞-(i)terを付ける。例:形容詞celer(「速い」)から副詞celeriter(「速く」)を得る。

副詞の比較級は、形容詞の比較級から、中性単数主格の形(通常、-ius)をそのまま用いる。例えば、形容詞のclārior(男性単数主格。「より明るい」)は、中性単数主格のclāriusがそのまま副詞となる(「より明るく」)。

副詞の最上級は形容詞の最上級から得られ、語尾が必ず長母音の-ēになる。例えば、形容詞のclārissimus(男性単数主格。「最も明るい」「とても明るい」)では、副詞はclārissimēとなる(「最も明るく」「とても明るく」)。




数詞

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数詞(基数詞、cardinal numerals)では、1・2・3のみ、男性・女性・中性の性と格変化がある。格変化は通常の形容詞と同じになる。

ūnus, ūna, ūnum (1)
duo, duae, duo (2)
trēs, trēs, tria (3)


ūnus(「1」)は第1・第2格変化だが、単数属格では-īus、単数与格では-īとなるのが普通である(全ての性で)。duo(「2」)は不規則な格変化になるが、trēs, tria(「3」)は規則的な第3格変化である(語幹はtr-)。


quattuor(「4」)からdecem(「10」)までは格変化しない。

quattuor (4)
quīnque (5)
sex (6)
septem (7)
octō (8)
novem (9)
decem (10)


10の倍数(20,30,40...)も格変化しない。

vīgintī (20)
trīgintā (30)
quadrāgintā (40)
quīnquāgintā (50)
sexāgintā (60)
septuāgintā (70)
octōgintā (80)
nōnāgintā (90)


11から17までは、1の位の数に-decim(「10」)に付けて作る。11から順に、ūndecim, duodecim, tredecim, quattuordecim, quīndecim, sēdecim, septendecimとなる。

18と19は、20からの引き算(2と1を引く)で作る。すなわち、duodēvīgintī(18)とūndēvīgintī(19)となる(文字通りには「20引く2」「20引く1」)。

21から27までは、1の位を20に対して前置・後置のどちらでも可能である。前置の場合は、接続詞のetが必須になる(1の位を後置する場合は省略も可能)。例えば、21:vīgintī ūnus または ūnus et vīgintī(文字通りには「1と20」)、22:vīgintī duo または duo et vīgintī(文字通りには「2と20」)。28と29は10台と同じく引き算で作る。28:duodētrīgintā(「30引く2」)、29:ūndētrīgintā(「30引く1」)。これ以降の二けたの数字は20台と同じ要領で作るが、98と99は100からの引き算(*duodēcentum、*ūndēcentum。*は仮想上の単語を表す)ではなく、90と1の位の加算で作る(98:nōnāgintā octō、99:nōnāgintā novem)。


数詞は、1の位が1・2・3になるときのみ、格変化する。

vīgintī merulās vīdī「私は20羽のクロウタドリを見た」
vīgintī duās merulās vīdī「私は22羽のクロウタドリを見た」(1の位の2のduāsがmerulāsに一致して複数対格に格変化した形。10の位のvīgintīはどちらの文でも不変化である)


100台の数詞は次の通り。100以外は格変化をする。

centum (100、不変化)
ducentī, -ae, -a (200)
trecentī, -ae, -a (300)
quadringentī, -ae, -a (400)
quīngentī, -ae, -a (500)
sēscentī, -ae, -a (600)
septingentī, -ae, -a (700)
octingentī, -ae, -a (800)
nōngentī, -ae, -a (900)


1000はmilleで、不変化の形容詞だが、2000はduo mīliaとなる。mīliaは複数主格(対格も同形)の中性名詞で、この後に続く名詞は属格(「部分の属格」)に格変化させる。

mīlle leōnēs vīdī「私は1000匹のライオンを見た」(leōnēsは複数対格。milleは無変化の形容詞)
tria mīlia leōnum vīdī「私は3000匹のライオンを見た」(mīliaは複数対格の中性名詞。leōnumが複数属格となっている。文字通りには「ライオンたちの3000」)


序数詞(ordinal numerals, 第1・第2・第3...)は全て形容詞で、規則的な第1・第2格変化である。大半の序数詞は基数詞の語幹から作られる。

trīcēsimus, -a, -um(「第30の、30番目の」):基数詞 trīgintā (30)から
sēscentēsimus, -a, -um nōnus, -a, -um(「609番目の」):sēscentī novem (609)から

ただし、「第1の」はprīmus, -a, -umとなり、「第2の」はsecundus, -a, -umとなる(文字通りには「後に続いて」<英follow>の意味で、「後に続く」の動詞sequiから派生した語)。










※以下の節は移転先のラテン語の格変化で編集が継続されています。詳細はそちらを参照のこと。'’
※以下の節はwikibooks:ja:ラテン語の文法にも移植されています。ラテン語の文法に関して、より学習者寄りのコンテンツを見たい場合はそちらも参照のこと。

格変化 (declinatio)

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名詞の格変化 (declinatio)

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ラテン語の名詞は、 (numerus) ・ (casus) によって語の形を変える。これをdeclinatioという。日本語では、格変化と呼ばれる。数には、単数 (singularis) と複数 (pluralis) がある。古典ギリシア語のような双数はない。格には、主格 (nominativus) 、呼格(vocativus) 、属格 (genitivus) 、与格 (dativus) 、対格(accusativus) 、奪格 (ablativus) 、地格 (locativus) の七つがあるが、呼格は大体において主格と同形であり、また、地格についてはこの格を持っている語自体が稀である。従って、通常の名詞については、五つの格を覚えればよいということになる。つまり、通常一つの名詞につき、2*5=10の形を覚える必要がある。

しかし、ラテン語では、格変化はおおよそ規則的であり、パターン化されている。大概、典型的なものについて十個の形を覚えておけば、他の名詞については、単数主格と単数属格の形が分かれば、他の形は類推できる。このため、辞書には単数主格と単数属格の形しか出ていない。単語を書く際には、この二つの形を並べて書く(こうすることで、名詞であることも明らかになる)。

なお、名詞には必ずがあり、これを覚えておかないと、形容詞を正しく変化させることができないから(数・格のみならず、性をも一致させる必要があるため。これを性数格の一致という)、これも覚える必要がある。性には、男性(masculinum)・女性(femininum)・中性(neutrum)がある。中性は、イタリア語フランス語などでは消失してしまったが、ドイツ語には現在でもある。

A型格変化

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一つ目の型は、A型の格変化である。これは、属格単数形が-aeとなるものである。属格複数形が-arumという形をとることに着目して、A型の格変化(独:a-Deklination)と呼ばれる。第一格変化・第一種転尾とも呼ばれる。これには、幾つかのパターンがある。ラテン語式に関していえば、A型の格変化には、一つのパターンしかない。このパターンでは、単数主格と単数属格が、「-a, -ae」となる。その例外のパターンは、ギリシア語式のもので、ギリシア語から来た名詞については、これに従うものがある。いずれにせよ、複数の格変化は同じである。

-a, -ae
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第一のパターンは、単数主格で-a、単数属格で-aeとなるものである。以下は、「女性」を意味する「femina, feminae」の格変化である。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -a (femina) -ae (feminae)
属格 (genitivus) -ae (feminae) -ārum (feminarum)
与格 (dativus) -ae (feminae) -īs (feminis)
対格 (accusativus) -am (feminam) -ās (feminas)
奪格 (ablativus) (femina) -īs (feminis)

呼格は、主格と同形である。地格は、与格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
agricola, agricolae 農夫
athleta, athletae 競技者
auriga, aurigae 馭者
Belgae, Belgarum (pl.) ベルガエ人
conviva, convivae
incola, incolae 住人
nauta, nautae 水夫
Persae, Persarum (pl.) ペルシア人
poeta, poetae 詩人
このパターンの格変化をする女性名詞
Aeolia, Aeoliae アエオリア島(シチリア島付近にあったといわれる島)
Aetna, Aetnae エトナ火山(シチリア島の火山)
ala, alae 翼、脇の下、腕
amentia, amentiae 狂気
amica, amicae 女友達、恋人(女)
amicitia, amicitiae 友情、修好同盟
ancora, ancorae
anima, animae 空気(元素として考えられていた)、息、呼吸、魂、生命
aqua, aquae
aquila, aquilae
arrogantia, arrogantiae 高慢
Athenae, Athenarum (pl.) アテーナイ(アッティカの中心都市)
Attica, Atticae アッティカ
audacia, audaciae 大胆
aura, aurae 空気、大気
avaritia, avaritiae 貪欲、けち
bacca, baccae
Britannia, Britanniae ブリタニア
casa, casae 小屋
capra, caprae 牝山羊
caterva, catervae 群、団
causa, causae 原因、理由
cena, cenae 食事(inter cenam(食事中に)、ad cenam invitare(食事に招く))
clementia, clementiae 穏やかなこと、慈悲深いこと
columba, columbae
columna, columnae
concordia, concordiae 共感、一致
conscientia, conscientiae 共に与り知ること、自覚、良心
copia, copiae 沢山、量、軍勢
copiae, copiarum (pl.) 財産、兵力
cratera, craterae 混酒器、水槽、(crater, crateris (m.)と同じ)
cura, curae 注意、心配、手入れ
dea, deae 女神
dextera (dextra), dexterae (dextrae) 右手
diligentia, diligentiae 細心、勤勉
discordia, discordiae 不和
domina, dominae 女主人
fabula, fabulae 物語、寓話
fama, famae 噂、評判、名声
femina, feminae 女性
fera, ferae 野獣
figura, figurae 形成、形、姿、形造物、美しい形、状態(fingo, finxi, fictum, fingere(造り上げる)から)
forma, formae 形・形相、理想・典型、美
formica, formicae
fortuna, fortunae 幸運
fossa, fossae 堀、穴
fuga, fugae 逃亡
Gallia, Galliae ガリア、(現代ラテン語)フランス
gallina, gallinae 雌鶏
gena, genae
Germania, Germaniae ゲルマーニア、(現代ラテン語)ドイツ
gloria, gloriae 名声、栄光
Graecia, Graeciae ギリシア
gratia, gratiae 好意、感謝(gratias ago:有難う)
hasta, hastae 投槍
Henna, Hennae ヘンナ(シチリア島の町)
herba, herbae 草木、草
historia, historiae 研究、認識、記述、物語、歴史
hora, horae 時間、季節
iniuria, iniuriae 不正、侮辱、害
insania, insaniae 狂気
insidiae, insidiarum (pl.) 待ち伏せ、奸計
insula, insulae 島、道路に囲まれた借家
invidia, invidiae 嫉妬、憎悪
ira, irae 怒り
iracundia, iracundiae 短気
Italia, Italiae イタリア
Ithaca, Ithacae イタカ島(イオニア海の小島)
iustitia, iustitiae 正義
lacrima, lacrimae
laetitia, laetitiae 喜び
Latona, Latonae ラートーナ(アポローとディアナの母)
laurea, laureae
lingua, linguae 舌、弁舌、言語
luxuria, luxuriae 増殖、豊かな成長、豊かさ、放蕩
magistra, magistrae 女教師
mania, maniae 躁病
matrona, matronae 既婚婦人(mater, matris(母)から)
mensa, mensae
memoria, memoriae 記憶、記録、(omnis rerum memoria:世界史)
miseria, miseriae 惨めさ、悲惨、窮乏
misericordia, misericordiae 同情
modestia, modestiae 節制、控え目
pagina, paginae ページ
patientia, patientiae 忍耐
patria, patriae 祖国
pecunia, pecuniae お金
philosophia, philosophiae 哲学(愛智:φιλοσοφια)
poena, poenae 刑罰
porta, portae
prudentia, prudentiae 予見、洞察、精通
puella, puellae 少女
querela (querella), querelae (querellae) 嘆き、苦情、異議申立、起訴(querela nullitatis:無効確認の訴訟、querela damni:損害賠償の訴訟)、気分がすぐれないこと
regina, reginae 女王
Roma, Romae ローマ
rosa, rosae 薔薇
sapientia, sapientiae 分別、賢明、叡智
scientia, scientiae 知識、科学
sententia, sententiae 見解、決意、元老院の投票決議、判決
spina, spinae
stella, stellae
stultitia, stultitiae 馬鹿であること
superbia, superbiae プライド、傲慢
Thebae, Thebarum (pl.) テーベ(古代エジプトの首都)
tristitia, tristitiae 悲しみ
turba, turbae 不安、騒動
verecundia, verecundiae 羞恥、内気
via, viae
vita, vitae 生命・人生・生活
  • このパターンの格変化をする中性名詞
-ās, -ae
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ギリシア語式のパターンの一つ目は、主格単数が-ās、属格単数が-aeとなるものである。男性名詞となる。以下は、「Aeneas, Aeneas」(アエネーアース、希:Αινειας(アイネイアス)、人名)の格変化である。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -as (Aeneas) -ae (Aeneae)
属格 (genitivus) -ae (Aeneae) -arum (Aenearum)
与格 (dativus) -ae (Aeneae) -is (Aeneis)
対格 (accusativus) -am, -an (Aeneam, Aenean) -as (Aeneas)

呼格は、-ā、つまり奪格と同形となる。この場合はAenea。

このパターンの格変化をする男性名詞
Aeneas, Aeneae アエネーアース(人名)
Leonidas, Leonidae レオーニダース(スパルタの有名な王)
-ēs, -ae
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ギリシア語式のパターンの二つ目は、主格単数が-ēs、属格単数が-aeとなるものである。男性名詞となる。以下は、「pyrites, pyritae」(火打石、希:πυριτης)の格変化である。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -es (pyrites) -ae (pyritae)
属格 (genitivus) -ae (pyritae) -arum (pyritarum)
与格 (dativus) -ae (pyritae) -is (pyritis)
対格 (accusativus) -en (pyriten) -as (pyritas)
奪格 (ablativus) -e, -a (pyrite, pyrita) -is (pyritis)

呼格は、-ē (pyrite)または-a (pyrita)(短音)となる。つまり、奪格と同じ形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
pyrites, pyritae 火打石(希:πυριτης)
-e(長音), -ēs(長音)
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ギリシア語式のパターンの三つ目は、主格単数が-e(長音)、属格単数が-es(長音)となるものである。前二者が男性名詞だったのに対して、女性名詞となる。もはや単数属格は-aeの形をしていないが、複数属格はなお-arumという形をとるので、A型の格変化に含める。以下は、「epitome, epitomes」(要旨、希:επιτομη)の格変化である。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -e (epitome) -ae (epitomae)
属格 (genitivus) -es (epitomes) -arum (epitomarum)
与格 (dativus) -ae (epitomae) -is (epitomis)
対格 (accusativus) -en (epitomen) -as (epitomas)
奪格 (ablativus) -e (epitome) -is (epitomis)

呼格は、-e (epitome)(長音)となる。つまり、奪格と同形である(この場合、主格とも同形となる)。

このパターンの格変化をする女性名詞
epitome, epitomes 要旨(希:επιτομη)

O型格変化

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二つ目の型は、O型の格変化である。これは、属格単数形が-iとなるものである。属格複数形が-orumという形をとることに着目して、O型の格変化と呼ばれる。第二格変化とも呼ばれる。O型の格変化には、幾つかのパターンがある。

-us, -i
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一つ目のパターンは、単数主格で-usとなるものである。「馬」を意味する「equus, equi」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -us (equus) (equi)
属格 (genitivus) (equi) -ōrum (equorum)
与格 (dativus) (equo) -īs (equis)
対格 (accusativus) -um (equum) -ōs (equos)

呼格は、複数においては、主格と同形である。単数においては、-e (eque)という、主格と異なる形をとる。

このパターンの格変化をする男性名詞
amicus, amici 友(男性)
campus, campi 野原
cervus, cervi 牡鹿
cibus, cibi 食べ物
dominus, domini 主人
equus, equi
filius, filii 息子
Gallus, Galli ガリア人
numerus, numeri
nuntius, nuntii 使者
populus, populi 人民
Romanus, Romani ローマ人
servus, servi 奴隷
tribunus, tribuni 護民官
ventus, venti
このパターンの格変化をする女性名詞
Aegyptus, Aegypti エジプト
alvus, alvi
atomus, atomi 原子
Corinthus, Corinthi コリント
diphithongus, diphitongi 二重母音
ficus, fici 無花果
humus, humi 地面
laurus, lauri 月桂樹
methodus, methodi 方法
pinus, pini
このパターンの格変化をする中性名詞
pelagus, pelagi
virus, viri 毒、ウイルス
vulgus, vulgi 民衆
-um, -i
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二つ目のパターンは、単数主格で-umとなるものである。「プレゼント」を意味する「donum, doni」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -um (donum) -a (dona)
属格 (genitivus) (doni) -ōrum (donorum)
与格 (dativus) (dono) -īs (donis)
対格 (accusativus) -um (donum) -a (dona)
奪格 (ablativus) (dono) -īs (donis)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
argentum, argenti
arma, armorum (pl.) 武具
aurum, auri
basium, basii 接吻
bellum, belli 戦争
castra, castrorum (pl.) 陣営
consilium, consilii 計画、目的、相談、忠告
donum, doni プレゼント
exemplum, exempli 手本
exitium, exitii 破壊
gaudium, gaudii 喜び
officium, officii 義務、公務
oppidum, oppidi 城市
otium, otii 暇、安閑
periculum, periculii 危険
pilum, pili 重い投槍
praemium, praemii 褒美
remedium, remedii 薬、治療法
scutum, scuti 長楯
templum, templi 神殿
verbum, verbi 言葉
-, -i(語幹変化なし)
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単数主格で語幹のみとなるパターンには、二通りある。このうち、語幹の変化のないものの格変化を、ここで示しておく。「少年」を意味する「puer, pueri」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (puer) -i (pueri)
属格 (genitivus) -i (pueri) -orum (puerorum)
与格 (dativus) -o (puero) -is (pueris)
対格 (accusativus) -um (puerum) -os (pueros)
奪格 (ablativus) -o (puero) -is (pueris)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
gener, generi 婿
liberi, liberorum (pl.) 子供達
signifer, signiferi 旗手
socer, soceri
vesper, vesperi 夕方
puer, pueri 少年
vir, viri 男、夫、立派な人物
triumvir, triumviri 三頭政治家
  • このパターンの格変化をする女性名詞
  • このパターンの格変化をする中性名詞
-, -i(語幹変化あり)
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単数主格で語幹のみとなるパターンの2つ目は、語幹の変化を伴うものである。これは、単数主格以外では、語幹のeが約まって脱落する。「本」を意味する「liber, libri」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (liber) -i (libri)
属格 (genitivus) -i (libri) -orum (librorum)
与格 (dativus) -o (libro) -is (libris)
対格 (accusativus) -um (librum) -os (libros)
奪格 (ablativus) -o (libro) -is (libris)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
ager, agri
aper, apri
culter, cultri ナイフ
faber, fabri 職人
liber, libri
magister, magistri 教師
minister, ministri 召使い
  • このパターンの格変化をする女性名詞
  • このパターンの各変化をする中性名詞

I型格変化

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三つ目の型は、I型の格変化である。属格複数形が-iumとなることに着目して、こう呼ばれる。属格単数形では、-isという形になるが、これは、I型のみならず、子音型でもそうである。次の節で述べる子音型格変化と共通の語尾を持つことから、あわせて第三格変化と呼ばれることもある。I型の格変化にも、幾つかのパターンがある。

-is, -is
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一つ目のパターンは、単数主格で-isとなるものである。このパターンには、単数対格が-im、単数奪格が-īとなるものと、単数対格が-em、単数奪格が-eとなるものの二種類がある。前者のみを真正のI型格変化とし、後者については混合型という全く別の格変化(独:gemischte Deklination)として扱うものもある。しかし、これらは、辞書の形を見ただけでは区別することはできない。しかも、混合型の名詞でも、I型の単数奪格形を許容するものもある。したがって、ここでは区別しないことにする。その代り、I型か混合型かなどの註記を単語に附しておく。それでは、「塔」を意味する「turris, turris」(I型)、「敵」を意味する「hostis, hostis」(混合型)を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -is (turris, hostis) -es (turres, hostes)
属格 (genitivus) -is (turris, hostis) -ium (turrium, hostium)
与格 (dativus) -i (turri, hosti) -ibus (turribus, hostibus)
対格 (accusativus) -im / -em (turrim, hostem) -is (-es) (turris (turres), hostis (hostes))
奪格 (ablativus) -i / -e (turri, hoste) -ibus (turribus, hostibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
Albis, Albis(I型) エルベ川
civis, civis (m./f.) 市民
finis, finis 終り
hostis, hostis (m./f.)
ignis, ignis(混合型、但し単数奪格igniも可)
mensis, mensis 月(暦の)
Tiberis, Tiberis(I型) ティベリス川
testis, testis (m./f.) 証人
このパターンの格変化をする女性名詞
auris, auris
avis, avis
;civis, civis (m./f.) 市民
classis, classis(混合型) 艦隊、組、階級
febris, febris(I型)
hostis, hostis (m./f.)
navis, navis(混合型、但し単数奪格naviも可)
Neapolis, Neapolis(I型) ネアポリス(現在のナポリ)
puppis, puppis(I型) 船尾
securis, securis(I型)
sitis, sitis(I型) 喉の渇き
testis, testis (m./f.) 証人
turris, turris(I型)
tussis, tussis
vallis, vallis
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-es, -is
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二つ目のパターンは、単数主格で-esとなるものである。「狐」を意味する「vulpes, vulpis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -es (vulpes) -es (vulpes)
属格 (genitivus) -is (vulpis) -ium (vulpium)
与格 (dativus) -i (vulpi) -ibus (vulpibus)
対格 (accusativus) -em (vulpem) -is (-es) (vulpis (vulpes))
奪格 (ablativus) -e (vulpe) -ibus (vulpibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
このパターンの格変化をする女性名詞
aedes, aedis
caedes, caedis 殺害、虐殺
clades, cladis 損害
fames, famis 空腹、飢餓
nubes, nubis
vulpes, vulpis
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-s, -is
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三つ目のパターンは、単数主格でsがつくものである。このパターンには、語幹は変化しないが、語幹の末尾の子音とsが融合するため、語幹が変化しているように見えるものが多い。具体的には、

  • c+s=x
  • g+s=x
  • t+s=s
  • d+s=s

となる。それでは、「木の葉」を意味する「frons, frondis」と「額」を意味する「frons, frontis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -s (frons, frons) -es (frondes, frontes)
属格 (genitivus) -is (frondis, frontis) -ium (frondium, frontium)
与格 (dativus) -i (frondi, fronti) -ibus (frondibus, frontibus)
対格 (accusativus) -em (frondem, frontem) -is (-es) (frondis (frondes), frontis (frontes))
奪格 (ablativus) -e (fronde, fronte) -ibus (frondibus, frontibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
adulescens, adulescentis (m./f.) 青年
dens, dentis
fons, fontis 泉、源
infans, infantis (m./f.) 幼児
このパターンの格変化をする女性名詞
adulescens, adulescentis (m./f.) 青年
ars, artis 術、技、業
frons, frondis 木の葉
frons, frontis
gens, gentis 種族、人種
infans, infantis (m./f.) 幼児
mors, mortis
nox, noctis
pars, partis 部分
serpens, serpentis
urbs, urbis
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-, -is(語幹変化あり)
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四つ目のパターンは、単数主格で語幹のみとなり、語幹が変化するものである。そもそも、単数主格で語幹のみとなるパターンには二種類あり、上記の三つの格変化のパターンと大体似ているものと、そうでないものがある。前者は、主格単数で-erという語幹をもつものであり、ここで取上げるものである。後者は、主格単数で-al, -arという流音幹をもつものであり、次に取上げるものである。それでは、前者のパターンの格変化を見てみよう。「大雨」を意味する「imber, imbris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (imber) -es (imbres)
属格 (genitivus) -is (imbris) -ium (imbrium)
与格 (dativus) -i (imbri) -ibus (imbribus)
対格 (accusativus) -em (imbrem) -is (-es) (imbris (imbres))
奪格 (ablativus) -e (-i) (imbre (imbri)) -ibus (imbribus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
imber, imbris 大雨
venter, ventris
このパターンの格変化をする女性名詞
linter, lintris
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-, -is(語幹変化なし)
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五つ目のパターンは、単数主格で語幹のみとなり、語幹が変化しないものである。「動物」を意味する「animal, animalis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (animal) -ia (animalia)
属格 (genitivus) -is (animalis) -ium (animalium)
与格 (dativus) -i (animali) -ibus (animalibus)
対格 (accusativus) - (animal) -ia (animalia)
奪格 (ablativus) -i (animali) -ibus (animalibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
animal, animalis 動物
calcar, calcaris 拍車
exemplar, exemplaris 写し、模範
tribunal, tribunalis 古代ローマ大官の座席のあった高段、法廷
vectigal, vectigalis
-e, -is
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六つ目のパターンは、単数主格で-e、単数属格で-isとなるものである。これは、五つ目のパターンの亜種である。「」を意味する「mare, maris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -e (mare) -ia (maria)
属格 (genitivus) -is (maris) -ium (marium)
与格 (dativus) -i (mari) -ibus (maribus)
対格 (accusativus) -e (mare) -ia (maria)
奪格 (ablativus) -i (mari) -ibus (maribus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
cubile, cubilis 寝台
conclave, conclavis 部屋
mare, maris

子音型格変化

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四つ目の型は、子音型の格変化である。先程、属格複数形が-iumとなるものをI型の格変化と呼ぶことを見た。これに似た格変化のパターンが幾つかあり、それらは属格複数形が-子音+umとなるので、子音型の格変化と呼ばれる。属格単数形では、-isという形になるが、これはI型と同じである。中性の語は独特のパターンを取り、その他の語は、語幹によって、流音幹(独:Liquidastämme)・鼻音幹(独:Nasalstämme)・黙音幹(独:Mutastämme)に区別する。

中性:-, -is(語幹変化あり)
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一つ目のパターンは、中性名詞の格変化である。単数主格及び単数対格と、それ以外では、語幹の形が変化する。「体」を意味する「corpus, corporis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (corpus) -a (corpora)
属格 (genitivus) -is (corporis) -um (corporum)
与格 (dativus) -i (corpori) -ibus (corporibus)
対格 (accusativus) - (corpus) -a (corpora)
奪格 (ablativus) -e (corpore) -ibus (corporibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
agmen, agminis 動き、行軍縦隊
caput, capitis
carmen, carminis
corpus, corporis
frigus, frigoris 寒さ
genus, generis 出自、家門、種属
iter, itineris
ius, iuris
litus, litoris
lumen, luminis
nomen, nominis
opus, operis 仕事、努力、事業、著作物
rus, ruris 田野、田舎
sidus, sideris 星座
tempus, temporis 時間、時代、時勢、時機
vulnus, vulneris
流音幹:-, -is(語幹変化なし)
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二つ目のパターンは、流音幹である。これには、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わるものと、変らないものがある。まずは、語幹変化のないものを見よう。この場合、全く語幹が変化しないものもあるが、語幹の末尾のsが母音に挟まれてrとなるため、語幹が変化しているように見えるものもある。「愛」を意味する「amor, amoris」と「花」を意味する「flos, floris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (amor, flos) -es (amores, flores)
属格 (genitivus) -is (amoris, floris) -um (amorum, florum)
与格 (dativus) -i (amori, flori) -ibus (amoribus, floribus)
対格 (accusativus) -em (amorem, florem) -es (amores, flores)
奪格 (ablativus) -e (amore, flore) -ibus (amoribus, floribus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
amor, amoris
augur, auguris (m./f.) 鳥占官
Caesar, Caesaris カエサル
clamor, clamoris 叫び、歓声
color, coloris
consul, consulis 執政官
dolor, doloris 痛み、苦しみ
exsul, exsulis (m./f.) 追放された人
flos, floris
fur, furis 泥棒
honos (honor), honoris 名誉
imperator, imperatoris 命令者、大元帥(最高指揮官)
labor, laboris 労働
mercator, mercatoris 商人
mos, moris 習慣
odor, odoris 匂い
senator, senatoris 元老院議員
sol, solis 太陽
orator, oratoris 雄弁家
victor, victoris 勝利者
このパターンの格変化をする女性名詞
arbor, arboris
augur, augiris (m./f.) 鳥占官
exsul, exsulis (m./f.) 追放された人
mulier, mulieris 夫人
soror, sororis 姉妹
uxor, uxoris
  • このパターンの各変化をする中性名詞
流音幹:-, -is(語幹変化あり)
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三つ目のパターンは、流音幹のうち、語幹変化のあるものである。「父」を意味する「pater, patris」「母」を意味する「mater, matris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (pater, mater) -es (patres, matres)
属格 (genitivus) -is (patris, matris) -um (patrum, matrum)
与格 (dativus) -i (patri, matri) -ibus (patribus, matribus)
対格 (accusativus) -em (patrem, matrem) -es (patres, matres)
奪格 (ablativus) -e (patre, matre) -ibus (patribus, matribus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
pater, patris
frater, fratris 兄弟
このパターンの格変化をする女性名詞
mater, matris
  • このパターンの格変化をする中性名詞
鼻音幹:-, -is(語幹変化あり、n語幹)
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四つ目のパターンは、鼻音幹のうち、主格単数で語幹のみ、属格単数で-isとなるものである。これは、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わる。そもそも、鼻音幹には、m語幹とn語幹があるが、ここで扱うのはn語幹である(m語幹については、次で扱う)。「ヒト」を意味する「homō, hominis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (homo) -es (hominēs)
属格 (genitivus) -is (hominis) -um (hominum)
与格 (dativus) -i (homini) -ibus (hominibus)
対格 (accusativus) -em (hominem) -es (hominēs)
奪格 (ablativus) -e (homine) -ibus (hominibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
Apollō, Apollinis アポロー
Cicerō, Ciceronis キケロー
homo, hominis (m./f.)
latro, latronis 強盗
leo, leonis ライオン
sermo, sermonis 言葉、説法、会話
このパターンの格変化をする女性名詞
formido, formidinis 恐怖
grando, grandinis
homo, hominis (m./f.)
imago, imaginis 像、映像、似姿、肖像、幻影、表象
legio, legionis 軍団
libido, libidinis 欲望、情欲、気まぐれ(参照:フロイトのリビドー)
multitudo, multitudinis 多数
natio, nationis 出生、種属、人種、部族、国民
opinio, opinionis 意見(opinor, opinari, opinatus sumから)
oratio, orationis 演説
ordo, ordinis 順序、列、秩序
pulchritudo, pulchritudinis
regio, regionis 地方
virgo, virginis 処女
  • このパターンの各変化をする中性名詞
鼻音幹:-s, -is(語幹変化なし、m語幹)
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五つ目のパターンは、鼻音幹のうち、主格単数で-s、属格単数で-isとなるものである。これは、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わらず、m語幹である。このような語は、「冬」を意味する「hiems, hiemis」しかない。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -s (hiems) -es (hiemes)
属格 (genitivus) -is (hiemis) -um (hiemum)
与格 (dativus) -i (hiemi) -ibus (hiemibus)
対格 (accusativus) -em (hiemem) -es (hiemes)
奪格 (ablativus) -e (hieme) -ibus (hiemibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
このパターンの格変化をする女性名詞
hiems, hiemis 冬、嵐(動詞形はhiemo, hiemare, hiemavi, hiematum)
  • このパターンの各変化をする中性名詞
黙音幹:-s, -is(語幹変化なし)
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六つ目のパターンは、黙音幹(破裂音の語幹)である。単数主格で-s、単数属格で-isの語尾がつく。語幹変化はないのであるが、語幹の末尾の子音と、単数主格の語尾であるが、口調の関係で表記が変わることがある。このため、語幹変化があるように見える。具体的には、

  • c+s=x
  • g+s=x
  • t+s=s
  • d+s=s

となる。これに対して、pとbについては、そのままとなる。それでは、実定法としての「法」を意味する「lēx, lēgis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -s (lex) -es (leges)
属格 (genitivus) -is (legis) -um (legum)
与格 (dativus) -i (legi) -ibus (legibus)
対格 (accusativus) -em (legem) -es (leges)
奪格 (ablativus) -e (lege) -ibus (legibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
custos, custodis (m./f.) 番人
dux, ducis (m./f.) リーダー、ガイド(duco, ducere, duxi, ductum(導く)から)
eques, equitis 騎兵、騎士
hospes, hospitis (m./f.) お客
iudex, iudicis (m./f.) 裁判官(iudico, iudicare, iudicavi, iudicatum = ius, iuris (法)+ dico, dicere, dixi, dictum(語る)から)
lapis, lapidis
miles, militis 兵士
obses, obsidis 人質
pedes, peditis 歩行者、歩兵
pes, pedis
prīnceps, principis 発起人、首謀者、長、君主(プリーンケプス)(primus, prima, primum + capio, capere, cepi, captumから)
rex, regis 王(rego, regere, rexi, rectum(統治する・規定する)から)
sacerdos, sacerdotis (m./f.) 神官
このパターンの格変化をする女性名詞
aetas, aetatis 年齢
civitas, civitatis 市民 (civis, civis) の共同体、国家
custos, custodis (m./f.) 番人
dux, ducis (m./f.) ガイド、リーダー
facultas, facultatis 可能性、許可、能力、才能、特に弁舌の才能(facilis, facile(容易な・実行可能な)と同根)
hospes, hospitis (m./f.) お客
iudex, iudicis (m./f.) 裁判官
laus, laudis 賞賛
lex, legis 法律
lux, lucis 光、輝き
obses, obsidis (m./f.) 人質
pax, pacis 平和
plebs, plebis 平民
quies, quietis 休息
radix, radicis
sacerdos, sacerdotis (m./f.) 神官
salus, salutis 安全
virtus, virtutis
vox, vocis
  • このパターンの各変化をする中性名詞

U型格変化

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五つ目の型は、U型の格変化である。属格複数形が-uumとなることに着目して、こう呼ばれる。第四格変化と呼ばれることもある。属格単数形では、-uūsという形になる。単数主格が-usとなるパターンと、単数主格が-ūとなるパターンがある。

-us, -ūs
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一つ目のパターンは、単数主格で-usとなるものである。「贅沢」を意味する「luxus, luxus」を例に挙げて、格変化を示そう。

格\数 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -us (luxus) -us (luxus)
属格 (genitivus) -us (luxus) -uum (luxuum)
与格 (dativus) -ui (luxui) -ibus (luxibus)
対格 (accusativus) -um (luxum) -us (luxus)
奪格 (ablativus) -u (luxu) -ibus (luxibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
adventus, adventus 到着
arcus, arcus 弓、アーチ
casus, casus 落ちること、事件、不幸(cado, cecidi, casum, cadere(落ちる)から; casu:偶然に; casus belli:戦争の場合; casus major:不可抗力; casum senit dominus:所有者が危険を負担する(危険負担); casus a nemine praestatur:災害は何人も責任なし)
cultus, cultus 耕作、世話、養育、生活法、教養、尊敬、祭祀(colo, colui, cultum, colere(耕す、世話をする、保護する)から)
currus, currus
cursus, cursus コース
equitatus, equitatus 騎兵隊
exercitus, exercitus 軍隊
fluctus, fluctus
fructus, fructus 果実(fructus civilis:法定果実、fructus naturalis:天然果実、fructus exstantes:現存果実)
impetus, impetus 攻撃
luxus, luxus 贅沢
metus, metus 恐れ
peditatus, peditatus 歩兵隊
pulsus, pulsus 打つこと
sexus, sexus 性(seco, secui, sectum, secare(区分する)から)
tonitrus, tonitrus
tumultus, tumultus 騒ぎ
usus, usus 使用
vultus, vultus 顔つき
このパターンの格変化をする女性名詞
acus, acus
ficus, ficus 無花果(ficus, ficiとも)
laurus, laurus 月桂樹(laurus, lauriとも)
myrtus, myrtus ミルト(myrtus, myrtiとも)
porticus, porticus 柱廊
quercus, quercus オーク
tribus, tribus 種族
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-u(長音), -us(長音)
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二つ目のパターンは、単数主格で-u(長音)となるものである。「角」を意味する「cornu, cornus」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -u (cornu) -ua (cornua)
属格 (genitivus) -us (cornus) -uum (cornuum)
与格 (dativus) -ui (-u) (cornui (cornu)) -ibus (cornibus)
対格 (accusativus) -u (cornu) -ua (cornua)
奪格 (ablativus) -u (cornu) -ibus (cornibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
cornu, cornus
genu, genus
veru, verus 焼き串

E型格変化:-es, -ei

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六つ目の型は、E型の格変化である。属格複数形が-erumとなることに着目して、こう呼ばれる。第五格変化と呼ばれることもある。主格単数形・属格単数形では、「-es, -ei」という形になる。この一パターンしかない。「こと」を意味する「res, rei」を例に挙げて、格変化を示そう。

格\数 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -es (res) -es (res)
属格 (genitivus) -ei (rei) -erum (rerum)
与格 (dativus) -ei (rei) -ebus (rebus)
対格 (accusativus) -em (rem) -es (res)
奪格 (ablativus) -e (re) -ebus (rebus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
dies, diei 日(暦の / 単数では女性のこともある)
このパターンの格変化をする女性名詞
acies, aciei 戦線、刃
bona fides, bonae fidei 善意
effigies, effigiei 姿
fides, fidei 信義
materies, materiei 物質
res publica, rei publicae 公共体(独:Gemeinwesen)
series, seriei 繋がり、系列
species, speciei 顔付き
spes, spei 希望
  • このパターンの各変化をする中性名詞

不規則な格変化

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domus, domus(長音)
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長音は、O型とU型の入り混じった不規則な格変化をする。

格\数 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) domus domus
属格 (genitivus) domus domorum (domuum)
与格 (dativus) domui domibus
対格 (accusativus) domum domos (domus) (res)
奪格 (ablativus) domo (domu) domibus

呼格は、主格と同形である。地格(家で)は、domiである。「家に」は対格を、「家から」は奪格 (domo) を用いる。

形容詞(adiectum)の格変化(declinatio)

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代名詞の格変化(declinatio)

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人称代名詞の格変化

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下記に人称代名詞の格変化を示しておく。「is, ea, id」については、指示代名詞に含めることもあるが、現代語の「er, sie, es」や「he, she, it」に相当する働きをすることから、ここでは人称代名詞の一つとして扱っておこう。

数・格\人称 一人称 (prima) 通性 二人称 (secunda) 通性 三人称 (tertia) 男性 三人称 (tertia) 女性 三人称 (tertia) 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) ego tu is ea id
属格 (genitivus) mei tui eius eius eius
与格 (dativus) mihi tibi ei ei ei
対格 (accusativus) me te eum eam id
奪格 (ablativus) me te eo ea eo
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) nos vos ii (ei) eae ea
属格 (genitivus) nostrum, nostri vestrum, vestri eorum earum eorum
与格 (dativus) nobis vobis iis (eis) iis (eis) iis (eis)
対格 (accusativus) nos vos eos eas ea
奪格 (ablativus) nobis vobis iis (eis) iis (eis) iis (eis)

再帰代名詞の格変化

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再帰代名詞は、主語を受ける代名詞である(このため主格はない)。ドイツ語の再帰代名詞に属格はないし、奪格に至っては格自体がそもそも存在しないが、ラテン語の再帰代名詞には属格も奪格も備わっている。ドイツ語と同じく、性の区別はない。

数・格\人称 一人称 (prima) 通性 二人称 (secunda) 通性 三人称 (tertia) 通性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) - - -
属格 (genitivus) mei tui sui
与格 (dativus) mihi tibi sibi
対格 (accusativus) me te se (sese)
奪格 (ablativus) me te se (sese)
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) - - -
属格 (genitivus) nostri vostri sui
与格 (dativus) nobis vobis sibi
対格 (accusativus) nos vos se (sese)
奪格 (ablativus) nobis vobis se (sese)

seseは、主として雅文に用いられる。

指示代名詞の格変化

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指示代名詞というと「近称 (questo/questa, dieser/diese/dieses, this)/ 遠称 (quel/quella, jener/jene/jenes, that)」と思いがちであるが、ラテン語ではやや異なる。律儀なことに、ラテン語には、指示代名詞にも一人称、二人称、三人称がある。そもそも人称とは何かを考えてみると、一人称とは話し手がテーマであるということであり、二人称とは話の相手がテーマであるということであり、三人称とは、話し手でも話し相手でもない何者かがテーマであるということである。そう考えると、指示代名詞に一人称、二人称、三人称があってもおかしくない。つまり、一人称の指示代名詞は話し手の身近にあるものを指し、二人称の指示代名詞は話し相手の身近にあるものを指し、三人称の指示代名詞は、話し手にとっても話し相手にとっても身近でないものを指す(直接にその人を指すわけではないので、一人称「的」などという)。このような指示代名詞のあり方は、現代ではスペイン語に残っている(一人称:este/esta、二人称:ese/esa、三人称:aquel/aquella)。

人称 (persona) 一人称 (prima) 二人称 (secunda) 三人称 (tertia)
性 (genus) 男性 女性 中性 男性 女性 中性 男性 女性 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) hic haec hoc iste ista istud ille illa illud
属格 (genitivus) huius huius huius istius istius istius illius illius illius
与格 (dativus) huic huic huic isti isti isti illi illi illi
対格 (accusativus) hunc hanc hoc istum istam istud illum illam illud
奪格 (ablativus) hoc hac hoc isto ista isto illo illa illo
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) hi hae haec isti istae ista illi illae illa
属格 (genitivus) horum harum horum istorum istarum istorum illorum illarum illorum
与格 (dativus) his his his istis istis istis illis illis illis
対格 (accusativus) hos has haec istos istas ista illos illas illa
奪格 (ablativus) his his his istis istis istis illis illis illis

その他、同一性を示す指示代名詞と指示形容詞がある。これは、「idem」(同じ)と「ipse」(自身)である。ドイツ語に訳せば、それぞれ「derselbe」と「selbst」になり、要するに同一性を表すのだと分かる。idemについては、三人称の人称代名詞にdemをつけたような格変化をする。ipseについては、二人称・三人称の指示代名詞の格変化の型と同じである。

人称 (persona) 指示代名詞 指示形容詞
性 (genus) 男性 女性 中性 男性 女性 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) idem eadem idem ipse ipsa ipsum
属格 (genitivus) eiusdem eiusdem eiusdem ipsius ipsius ipsius
与格 (dativus) eidem eidem eidem ipsi ipsi ipsi
対格 (accusativus) eundem eandem idem ipsum ipsam ipsum
奪格 (ablativus) eodem eadem eodem ipso ipsa ipso
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) iidem (eidem) eaedem eadem ipsi ipsae ipsa
属格 (genitivus) eorundem earundem eorundem ipsorum ipsarum ipsorum
与格 (dativus) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) ipsis ipsis ipsis
対格 (accusativus) eosdem easdem eadem ipsos ipsas ipsa
奪格 (ablativus) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) ipsis ipsis ipsis

関係代名詞・疑問形容詞・疑問代名詞の格変化

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関係代名詞・疑問形容詞・疑問代名詞は、互いに格変化が似ている。まず、関係代名詞と疑問形容詞の格変化は全く一緒である。次に、この二つと疑問代名詞であるが、男性については単数主格が、女性については単数主格・単数対格・単数奪格が異なるが、その他は一緒である。

数・格\性 男性 女性 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) qui / quis quae / quis quod / quid
属格 (genitivus) cuius cuius cuius
与格 (dativus) cui cui cui
対格 (accusativus) quem quam / quem quod / quid
奪格 (ablativus) quo qua / quo quo
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) qui quae quae
属格 (genitivus) quorum quarum quorum
与格 (dativus) quibus quibus quibus
対格 (accusativus) quos quas quae
奪格 (ablativus) quibus quibus quibus
男性
単数主格は、関係代名詞と疑問形容詞でqui、疑問代名詞でquisとなる。
女性
単数主格は、関係代名詞と疑問形容詞でquae、疑問代名詞でquisとなる。単数対格は、関係代名詞と疑問形容詞でquam、疑問代名詞でquemとなる。単数奪格は、関係代名詞と疑問形容詞でqua、疑問代名詞でquoとなる。
中性
単数主格・単数対格は、関係代名詞と疑問形容詞でquod、疑問代名詞でquidとなる。

不定代名詞の格変化

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脚注

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  1. ^ 信徒の友2024年3月号54-55ページで引用された聖書の語句。該当文章ではこの語句について、現在主流の高等批評の観点から、誤解を招きかねない不適切な言及や解釈がなされているものの、語句そのものの文法的価値が高いため、訳語を一部修正の上掲載する。
  2. ^ 信徒の友2024年3月号54-55ページで引用された聖書の語句の続き。該当文章ではこの語句についておそらく意図的に言及がなかったが、上記の語句の続きであり、かつ語句そのものの文法的価値が高いため、訳語を一部修正の上掲載する。
  3. ^ 逸身喜一郎『ラテン語のはなし―通読できるラテン語文法』(初版)大修館書店、2000年12月、49頁。ISBN 978-4469212624 
  4. ^ 例: Online Etymology Dictionary
  5. ^ スペイン語: amar は文語的表現で、日常的には querer などを用いる。