ラテン語の文法

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ラテン語文法 (grammatica)

ラテン語は、他のすべての古インド・ヨーロッパ語族と同様に、強い屈折を持ち、それゆえに語順が柔軟である。従って、ラテン語はインド・ヨーロッパ祖語の形態を保存した古風な言語と言える。名詞には5種類の格変化が、動詞には4種類の活用がある。ラテン語は冠詞、類別詞を持たない。例えば、英語における "a girl" と "the girl" の区別はなく、同じ意味の語 "puella" が両方の意味で使われる。 構文は一般的にSOV型であるが、詩歌においてはこれ以外の語順も普通に見られる。ラテン語は前置詞を使用し、通常は修飾する名詞の後に形容詞を置くライト・ブランチング言語 (Right-branchingである。ラテン語はまた、pro脱落言語及び動詞枠付け言語でもある。

語順[編集]

ラテン語は強い屈折を持つ言語であるため、語順を柔軟に変えることができる。通常の散文においては主語、間接目的語、直接目的語、修飾語・句、動詞という語順になる傾向があった。従属動詞を含む他の成分、例えば不定詞などは、動詞の前に置かれた。

形容詞および分詞は通常名詞の直後であるが、美しさや大きさ、量、質、真理を表す修飾語は修飾する名詞に先行した。関係節は関係代名詞が示す先行詞の後が普通であった。こういった語順が古典ラテン語の文章語にありふれていた時代でも、しばしば異なった語順が見られた。また、口語での語順がどうであったかを示す決定的な証拠はない。(俗ラテン語も参照)

一方で、詩歌では韻律を守るために語順が変わることがあった。ラテン語では、強勢ではなく、母音の長短(長母音・二重母音と、短母音とでの対立)や子音の結合が韻律を支配した。ローマ世界の詩人が目で読むためでなく、耳で聞くために詩を創作したことを念頭に置く必要がある。なぜなら創作物の多くは聴衆の娯楽のために供されたためである。それ故に語順の変化は韻律のためならず、修辞的な意味もあり、聴衆の理解を妨げないように工夫された。ウェルギリウスの『選集』では次のような例がある。"Omnia vincit amor, et nos cedamus amori!": "Omnia", "amor", "amori"は個々の句の中であまりこない位置に置かれているため、印象が鮮明になっている。なお、この文の韻律はヘクサメトロスと呼ばれるものであり、同じくウェルギリウスが編纂した古代ローマ帝国の国民的叙事詩『アエネイス』でも用いられている。

以下に文例を示す。なお、この例ではローマ人に一般的な名前である"Marcus"が、文中での文法的な役割に応じて末尾が変化している。英語などの場合には語順の変化は文法違反になったり意味が曖昧になったりするが、ラテン語の場合これらの例文の語順は、文法的に完全に正しく、意味も明確である。

  • Marcus ferit Corneliam. (主・動・対) 訳:「マルクスがぶった、コルネリアを」
  • Marcus Corneliam ferit. (主・対・動) 訳:「マルクスがコルネリアをぶった」
  • Cornelia dedit Marco donum. (主・動・与・対) 訳:「コルネリアが贈った、マルクスにプレゼントを」
  • Cornelia Marco donum dedit. (主・与・対・動) 訳:「コルネリアがマルクスにプレゼントを贈った」

動詞[編集]

活用の詳細は、活用の節を参照。

ラテン語の動詞は三つの(直説法、接続法、命令法)と六つの時制(現在、未完了過去、未来、完了、過去完了、未来完了)、二つの(能動態、受動態)、二つの数(単数、複数)、三つの人称(一人称、二人称、三人称)に応じて活用する。他に、準動詞として不定詞分詞動名詞動形容詞がある。これらはすべて、動詞の4基本形に基いて作られる。

活用形は大きく分けて4種類の型があり、不定詞形の語尾、-āre, -ēre, -ere, -īreで識別される。

時制(ラテン語:tempus)[編集]

  • 現在(ラテン語:praesens)
発話の時点で起きている事象を表す。
Servus vīnum ad villam portat.
奴隷はワインを館へ運ぶ。
  • 未完了過去(ラテン語:imperfectum)
過去に継続して起きていた事象を表す。
Servus vīnum ad villam portābat.
奴隷はワインを館へ運んでいた。
  • 未来(ラテン語:futurum simplex)
未来に起きる事象を表す。
Servus vīnum ad villam portābit.
奴隷はワインを館へ運ぶつもりだ。
  • 完了(ラテン語:perfectum)
過去に起きた事象、あるいは現時点で完了した事象を表す。
Servus vīnum ad villam portāvit.
奴隷はワインを館へ運んだ。
  • 過去完了(ラテン語:plusquamperfectum)
過ぎ去った過去の時点で完了した事象を表す。
Servus vīnum ad villam portāverat.
奴隷はワインを館へ運び終えていた。
  • 未来完了(ラテン語:futurum exactum)
未来のある時点で完了した事象を表す。
Servus vīnum ad villam portāverit.
奴隷はワインを館へ運び終えているだろう。

法(ラテン語:modus)[編集]

事実について述べる場合に用いられる。
Servus vīnum ad villam portat.
奴隷はワインを館へ運ぶ。
可能性や意思、事実に反する仮定などの表現に用いられる。
Servus vīnum ad villam portet.
奴隷はワインを館へ運ぶかもしれない。
従属節における動詞に用いられることがある。
Sperābāmus ut servus vinum ad villam portāret.
奴隷がワインを館へ運ぶことを、我々は望んだ。
命令文で用いられる。
"Portā vīnum ad villam!"
「ワインを館へ運べ!」

態(ラテン語:genus)[編集]

動詞が主語に示されるものの動作を表す。
Servus vīnum ad villam portat.
奴隷はワインを館へ運ぶ。
動詞が主語に示されるものに対する動作を表す。
Vīnum ad villam ā servō portātur.
ワインは館へ奴隷によって運ばれる。

動詞の4基本形[編集]

ラテン語の動詞の活用は、次の4つの基本形から形成される。

  1. 現在・直説法・能動態・単数・一人称
  2. 現在・不定法・能動態
  3. 完了・直説法・能動態・単数・一人称
  4. スピーヌム(目的分詞)あるいは完了受動分詞

たとえば「amō(愛する)」を例にとると、この4つはそれぞれ、

  1. amō (私は愛する)
  2. amāre (愛すること)
  3. amāvī (私は愛した)
  4. amātum (愛するために)あるいはamātus (愛された(こと))

となる。

辞書ではこの最初の形を見出し語とし、他の3つを併記するのが慣例となっている。2番目の形は不定詞として用いられる形であるが、現代の欧州諸語と異なり見出し語とはしない[1]。 上記「愛する」を例にとると、辞書の見出し語は amo であって、その後に省略した形を添え、amo, -are, -avi, -atum のように記載するのが通例である。

一方、現代語の語源辞典や、各種読み物の中で軽く語源にふれるような場合には、ラテン語の動詞をひくときに上記2番目(amare)の形を用いることも多い[2]。 とりわけイタリア語フランス語スペイン語などラテン語の血を引く現代語(ロマンス諸語)においては、辞書の見出しなどにももっぱら不定法の形(「愛する」の同系語を例にとれば、イタリア語: amareフランス語: aimerスペイン語: amar[3])を用いるようになっているので、ラテン語を含めた各言語の不定形どうしを対照することは一般的である。

限定詞と人称代名詞[編集]

格変化の詳細は、人称代名詞の格変化の節を参照。

ラテン語には不定冠詞や定冠詞が存在しないが、hic, haec, hoc(それぞれ、男性、女性、中性に対応する、近称、英語のthis)、ille, illa, illud(同じく、遠称、英語のthat)などの指示語は存在する。英語における、this,thatのように代名詞としても機能する。

所有形容詞や所有代名詞基数詞や序数詞数量詞疑問詞なども在る。

人称代名詞も三つの人称のそれぞれに対応して存在し、単数、複数が同形で用いられる。多くのロマンス諸語や英語と同様に、三人称に対応する代名詞のみが性の変化を伴う。三人称の語はis, ea, idであり、それぞれ英語のhe, she, itに相当する。

格変化 (declinatio)[編集]

名詞の格変化 (declinatio)[編集]

ラテン語の名詞は、 (numerus) ・ (casus) によって語の形を変える。これをdeclinatioという。日本語では、格変化と呼ばれる。数には、単数 (singularis) と複数 (pluralis) がある。古典ギリシア語のような双数はない。格には、主格 (nominativus) 、呼格(vocativus) 、属格 (genitivus) 、与格 (dativus) 、対格(accusativus) 、奪格 (ablativus) 、地格 (locativus) の七つがあるが、呼格は大体において主格と同形であり、また、地格についてはこの格を持っている語自体が稀である。従って、通常の名詞については、五つの格を覚えればよいということになる。つまり、通常一つの名詞につき、2*5=10の形を覚える必要がある。

しかし、ラテン語では、格変化はおおよそ規則的であり、パターン化されている。大概、典型的なものについて十個の形を覚えておけば、他の名詞については、単数主格と単数属格の形が分かれば、他の形は類推できる。このため、辞書には単数主格と単数属格の形しか出ていない。単語を書く際には、この二つの形を並べて書く(こうすることで、名詞であることも明らかになる)。

なお、名詞には必ずがあり、これを覚えておかないと、形容詞を正しく変化させることができないから(数・格のみならず、性をも一致させる必要があるため。これを性数格の一致という)、これも覚える必要がある。性には、男性(masculinum)・女性(femininum)・中性(neutrum)がある。中性は、イタリア語フランス語などでは消失してしまったが、ドイツ語には現在でもある。

A型格変化[編集]

一つ目の型は、A型の格変化である。これは、属格単数形が-aeとなるものである。属格複数形が-arumという形をとることに着目して、A型の格変化(独:a-Deklination)と呼ばれる。第一格変化・第一種転尾とも呼ばれる。これには、幾つかのパターンがある。ラテン語式に関していえば、A型の格変化には、一つのパターンしかない。このパターンでは、単数主格と単数属格が、「-a, -ae」となる。その例外のパターンは、ギリシア語式のもので、ギリシア語から来た名詞については、これに従うものがある。いずれにせよ、複数の格変化は同じである。

-a, -ae[編集]

第一のパターンは、単数主格で-a、単数属格で-aeとなるものである。ここでは、「女性」を意味する「femina, feminae」を例にとって、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -a (femina) -ae (feminae)
属格 (genitivus) -ae (feminae) -ārum (feminarum)
与格 (dativus) -ae (feminae) -īs (feminis)
対格 (accusativus) -am (feminam) -ās (feminas)
奪格 (ablativus) (femina) -īs (feminis)

呼格は、主格と同形である。地格は、与格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
agricola, agricolae 農夫
athleta, athletae 競技者
auriga, aurigae 馭者
Belgae, Belgarum (pl.) ベルガエ人
conviva, convivae
incola, incolae 住人
nauta, nautae 水夫
Persae, Persarum (pl.) ペルシア人
poeta, poetae 詩人
このパターンの格変化をする女性名詞
Aeolia, Aeoliae アエオリア島(シチリア島付近にあったといわれる島)
Aetna, Aetnae エトナ火山(シチリア島の火山)
ala, alae 翼、脇の下、腕
amentia, amentiae 狂気
amica, amicae 女友達、恋人(女)
amicitia, amicitiae 友情、修好同盟
ancora, ancorae
anima, animae 空気(元素として考えられていた)、息、呼吸、魂、生命
aqua, aquae
aquila, aquilae
arrogantia, arrogantiae 高慢
Athenae, Athenarum (pl.) アテーナイ(アッティカの中心都市)
Attica, Atticae アッティカ
audacia, audaciae 大胆
aura, aurae 空気、大気
avaritia, avaritiae 貪欲、けち
bacca, baccae
Britannia, Britanniae ブリタニア
casa, casae 小屋
capra, caprae 牝山羊
caterva, catervae 群、団
causa, causae 原因、理由
cena, cenae 食事(inter cenam(食事中に)、ad cenam invitare(食事に招く))
clementia, clementiae 穏やかなこと、慈悲深いこと
columba, columbae
columna, columnae
concordia, concordiae 共感、一致
conscientia, conscientiae 共に与り知ること、自覚、良心
copia, copiae 沢山、量、軍勢
copiae, copiarum (pl.) 財産、兵力
cratera, craterae 混酒器、水槽、(crater, crateris (m.)と同じ)
cura, curae 注意、心配、手入れ
dea, deae 女神
dextera (dextra), dexterae (dextrae) 右手
diligentia, diligentiae 細心、勤勉
discordia, discordiae 不和
domina, dominae 女主人
fabula, fabulae 物語、寓話
fama, famae 噂、評判、名声
femina, feminae 女性
fera, ferae 野獣
figura, figurae 形成、形、姿、形造物、美しい形、状態(fingo, finxi, fictum, fingere(造り上げる)から)
forma, formae 形・形相、理想・典型、美
formica, formicae
fortuna, fortunae 幸運
fossa, fossae 堀、穴
fuga, fugae 逃亡
Gallia, Galliae ガリア、(現代ラテン語)フランス
gallina, gallinae 雌鶏
gena, genae
Germania, Germaniae ゲルマーニア、(現代ラテン語)ドイツ
gloria, gloriae 名声、栄光
Graecia, Graeciae ギリシア
gratia, gratiae 好意、感謝(gratias ago:有難う)
hasta, hastae 投槍
Henna, Hennae ヘンナ(シチリア島の町)
herba, herbae 草木、草
historia, historiae 研究、認識、記述、物語、歴史
hora, horae 時間、季節
iniuria, iniuriae 不正、侮辱、害
insania, insaniae 狂気
insidiae, insidiarum (pl.) 待ち伏せ、奸計
insula, insulae 島、道路に囲まれた借家
invidia, invidiae 嫉妬、憎悪
ira, irae 怒り
iracundia, iracundiae 短気
Italia, Italiae イタリア
Ithaca, Ithacae イタカ島(イオニア海の小島)
iustitia, iustitiae 正義
lacrima, lacrimae
laetitia, laetitiae 喜び
Latona, Latonae ラートーナ(アポローとディアナの母)
laurea, laureae
lingua, linguae 舌、弁舌、言語
luxuria, luxuriae 増殖、豊かな成長、豊かさ、放蕩
magistra, magistrae 女教師
mania, maniae 躁病
matrona, matronae 既婚婦人(mater, matris(母)から)
mensa, mensae
memoria, memoriae 記憶、記録、(omnis rerum memoria:世界史)
miseria, miseriae 惨めさ、悲惨、窮乏
misericordia, misericordiae 同情
modestia, modestiae 節制、控え目
pagina, paginae ページ
patientia, patientiae 忍耐
patria, patriae 祖国
pecunia, pecuniae お金
philosophia, philosophiae 哲学(愛智:φιλοσοφια)
poena, poenae 刑罰
porta, portae
prudentia, prudentiae 予見、洞察、精通
puella, puellae 少女
querela (querella), querelae (querellae) 嘆き、苦情、異議申立、起訴(querela nullitatis:無効確認の訴訟、querela damni:損害賠償の訴訟)、気分がすぐれないこと
regina, reginae 女王
Roma, Romae ローマ
rosa, rosae 薔薇
sapientia, sapientiae 分別、賢明、叡智
scientia, scientiae 知識、科学
sententia, sententiae 見解、決意、元老院の投票決議、判決
spina, spinae
stella, stellae
stultitia, stultitiae 馬鹿であること
superbia, superbiae プライド、傲慢
Thebae, Thebarum (pl.) テーベ(古代エジプトの首都)
tristitia, tristitiae 悲しみ
turba, turbae 不安、騒動
verecundia, verecundiae 羞恥、内気
via, viae
vita, vitae 生命・人生・生活
  • このパターンの格変化をする中性名詞
-ās, -ae[編集]

ギリシア語式のパターンの一つ目は、主格単数が-ās、属格単数が-aeとなるものである。男性名詞となる。ここでは、「Aeneas, Aeneas」(アエネーアース、希:Αινειας(アイネイアス)、人名)を例にとって、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -as (Aeneas) -ae (Aeneae)
属格 (genitivus) -ae (Aeneae) -arum (Aenearum)
与格 (dativus) -ae (Aeneae) -is (Aeneis)
対格 (accusativus) -am, -an (Aeneam, Aenean) -as (Aeneas)

呼格は、-ā、つまり奪格と同形となる。この場合はAenea。

このパターンの格変化をする男性名詞
Aeneas, Aeneae アエネーアース(人名)
Leonidas, Leonidae レオーニダース(スパルタの有名な王)
-ēs, -ae[編集]

ギリシア語式のパターンの二つ目は、主格単数が-ēs、属格単数が-aeとなるものである。男性名詞となる。ここでは、「pyrites, pyritae」(火打石、希:πυριτης)を例にとって、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -es (pyrites) -ae (pyritae)
属格 (genitivus) -ae (pyritae) -arum (pyritarum)
与格 (dativus) -ae (pyritae) -is (pyritis)
対格 (accusativus) -en (pyriten) -as (pyritas)
奪格 (ablativus) -e, -a (pyrite, pyrita) -is (pyritis)

呼格は、-ē (pyrite)または-a (pyrita)(短音)となる。つまり、奪格と同じ形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
pyrites, pyritae 火打石(希:πυριτης)
-e(長音), -ēs(長音)[編集]

ギリシア語式のパターンの三つ目は、主格単数が-e(長音)、属格単数が-es(長音)となるものである。前二者が男性名詞だったのに対して、女性名詞となる。もはや単数属格は-aeの形をしていないが、複数属格はなお-arumという形をとるので、A型の格変化に含める。ここでは、「epitome, epitomes」(要旨、希:επιτομη)を例にとって、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -e (epitome) -ae (epitomae)
属格 (genitivus) -es (epitomes) -arum (epitomarum)
与格 (dativus) -ae (epitomae) -is (epitomis)
対格 (accusativus) -en (epitomen) -as (epitomas)
奪格 (ablativus) -e (epitome) -is (epitomis)

呼格は、-e (epitome)(長音)となる。つまり、奪格と同形である(この場合、主格とも同形となる)。

このパターンの格変化をする女性名詞
epitome, epitomes 要旨(希:επιτομη)

O型格変化[編集]

二つ目の型は、O型の格変化である。これは、属格単数形が-iとなるものである。属格複数形が-orumという形をとることに着目して、O型の格変化と呼ばれる。第二格変化とも呼ばれる。O型の格変化には、幾つかのパターンがある。

-us, -i[編集]

一つ目のパターンは、単数主格で-usとなるものである。「馬」を意味する「equus, equi」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -us (equus) (equi)
属格 (genitivus) (equi) -ōrum (equorum)
与格 (dativus) (equo) -īs (equis)
対格 (accusativus) -um (equum) -ōs (equos)

呼格は、複数においては、主格と同形である。単数においては、-e (eque)という、主格と異なる形をとる。

このパターンの格変化をする男性名詞
amicus, amici 友(男性)
campus, campi 野原
cervus, cervi 牡鹿
cibus, cibi 食べ物
dominus, domini 主人
equus, equi
filius, filii 息子
Gallus, Galli ガリア人
numerus, numeri
nuntius, nuntii 使者
populus, populi 人民
Romanus, Romani ローマ人
servus, servi 奴隷
tribunus, tribuni 護民官
ventus, venti
このパターンの格変化をする女性名詞
Aegyptus, Aegypti エジプト
alvus, alvi
atomus, atomi 原子
Corinthus, Corinthi コリント
diphithongus, diphitongi 二重母音
ficus, fici 無花果
humus, humi 地面
laurus, lauri 月桂樹
methodus, methodi 方法
pinus, pini
このパターンの格変化をする中性名詞
pelagus, pelagi
virus, viri 毒、ウイルス
vulgus, vulgi 民衆
-um, -i[編集]

二つ目のパターンは、単数主格で-umとなるものである。「プレゼント」を意味する「donum, doni」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -um (donum) -a (dona)
属格 (genitivus) (doni) -ōrum (donorum)
与格 (dativus) (dono) -īs (donis)
対格 (accusativus) -um (donum) -a (dona)
奪格 (ablativus) (dono) -īs (donis)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
argentum, argenti
arma, armorum (pl.) 武具
aurum, auri
basium, basii 接吻
bellum, belli 戦争
castra, castrorum (pl.) 陣営
consilium, consilii 計画、目的、相談、忠告
donum, doni プレゼント
exemplum, exempli 手本
exitium, exitii 破壊
gaudium, gaudii 喜び
officium, officii 義務、公務
oppidum, oppidi 城市
otium, otii 暇、安閑
periculum, periculii 危険
pilum, pili 重い投槍
praemium, praemii 褒美
remedium, remedii 薬、治療法
scutum, scuti 長楯
templum, templi 神殿
verbum, verbi 言葉
-, -i(語幹変化なし)[編集]

単数主格で語幹のみとなるパターンには、二通りある。このうち、語幹の変化のないものの格変化を、ここで示しておく。「少年」を意味する「puer, pueri」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (puer) -i (pueri)
属格 (genitivus) -i (pueri) -orum (puerorum)
与格 (dativus) -o (puero) -is (pueris)
対格 (accusativus) -um (puerum) -os (pueros)
奪格 (ablativus) -o (puero) -is (pueris)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
gener, generi 婿
liberi, liberorum (pl.) 子供達
signifer, signiferi 旗手
socer, soceri
vesper, vesperi 夕方
puer, pueri 少年
vir, viri 男、夫、立派な人物
triumvir, triumviri 三頭政治家
  • このパターンの格変化をする女性名詞
  • このパターンの格変化をする中性名詞
-, -i(語幹変化あり)[編集]

単数主格で語幹のみとなるパターンの2つ目は、語幹の変化を伴うものである。これは、単数主格以外では、語幹のeが約まって脱落する。「本」を意味する「liber, libri」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (liber) -i (libri)
属格 (genitivus) -i (libri) -orum (librorum)
与格 (dativus) -o (libro) -is (libris)
対格 (accusativus) -um (librum) -os (libros)
奪格 (ablativus) -o (libro) -is (libris)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
ager, agri
aper, apri
culter, cultri ナイフ
faber, fabri 職人
liber, libri
magister, magistri 教師
minister, ministri 召使い
  • このパターンの格変化をする女性名詞
  • このパターンの各変化をする中性名詞

I型格変化[編集]

三つ目の型は、I型の格変化である。属格複数形が-iumとなることに着目して、こう呼ばれる。属格単数形では、-isという形になるが、これは、I型のみならず、子音型でもそうである。次の節で述べる子音型格変化と共通の語尾を持つことから、あわせて第三格変化と呼ばれることもある。I型の格変化にも、幾つかのパターンがある。

-is, -is[編集]

一つ目のパターンは、単数主格で-isとなるものである。このパターンには、単数対格が-im、単数奪格が-īとなるものと、単数対格が-em、単数奪格が-eとなるものの二種類がある。前者のみを真正のI型格変化とし、後者については混合型という全く別の格変化(独:gemischte Deklination)として扱うものもある。しかし、これらは、辞書の形を見ただけでは区別することはできない。しかも、混合型の名詞でも、I型の単数奪格形を許容するものもある。したがって、ここでは区別しないことにする。その代り、I型か混合型かなどの註記を単語に附しておく。それでは、「塔」を意味する「turris, turris」(I型)、「敵」を意味する「hostis, hostis」(混合型)を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -is (turris, hostis) -es (turres, hostes)
属格 (genitivus) -is (turris, hostis) -ium (turrium, hostium)
与格 (dativus) -i (turri, hosti) -ibus (turribus, hostibus)
対格 (accusativus) -im / -em (turrim, hostem) -is (-es) (turris (turres), hostis (hostes))
奪格 (ablativus) -i / -e (turri, hoste) -ibus (turribus, hostibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
Albis, Albis(I型) エルベ川
civis, civis (m./f.) 市民
finis, finis 終り
hostis, hostis (m./f.)
ignis, ignis(混合型、但し単数奪格igniも可)
mensis, mensis 月(暦の)
Tiberis, Tiberis(I型) ティベリス川
testis, testis (m./f.) 証人
このパターンの格変化をする女性名詞
auris, auris
avis, avis
;civis, civis (m./f.) 市民
classis, classis(混合型) 艦隊、組、階級
febris, febris(I型)
hostis, hostis (m./f.)
navis, navis(混合型、但し単数奪格naviも可)
Neapolis, Neapolis(I型) ネアポリス(現在のナポリ)
puppis, puppis(I型) 船尾
securis, securis(I型)
sitis, sitis(I型) 喉の渇き
testis, testis (m./f.) 証人
turris, turris(I型)
tussis, tussis
vallis, vallis
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-es, -is[編集]

二つ目のパターンは、単数主格で-esとなるものである。「狐」を意味する「vulpes, vulpis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -es (vulpes) -es (vulpes)
属格 (genitivus) -is (vulpis) -ium (vulpium)
与格 (dativus) -i (vulpi) -ibus (vulpibus)
対格 (accusativus) -em (vulpem) -is (-es) (vulpis (vulpes))
奪格 (ablativus) -e (vulpe) -ibus (vulpibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
このパターンの格変化をする女性名詞
aedes, aedis
caedes, caedis 殺害、虐殺
clades, cladis 損害
fames, famis 空腹、飢餓
nubes, nubis
vulpes, vulpis
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-s, -is[編集]

三つ目のパターンは、単数主格でsがつくものである。このパターンには、語幹は変化しないが、語幹の末尾の子音とsが融合するため、語幹が変化しているように見えるものが多い。具体的には、

  • c+s=x
  • g+s=x
  • t+s=s
  • d+s=s

となる。それでは、「木の葉」を意味する「frons, frondis」と「額」を意味する「frons, frontis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -s (frons, frons) -es (frondes, frontes)
属格 (genitivus) -is (frondis, frontis) -ium (frondium, frontium)
与格 (dativus) -i (frondi, fronti) -ibus (frondibus, frontibus)
対格 (accusativus) -em (frondem, frontem) -is (-es) (frondis (frondes), frontis (frontes))
奪格 (ablativus) -e (fronde, fronte) -ibus (frondibus, frontibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
adulescens, adulescentis (m./f.) 青年
dens, dentis
fons, fontis 泉、源
infans, infantis (m./f.) 幼児
このパターンの格変化をする女性名詞
adulescens, adulescentis (m./f.) 青年
ars, artis 術、技、業
frons, frondis 木の葉
frons, frontis
gens, gentis 種族、人種
infans, infantis (m./f.) 幼児
mors, mortis
nox, noctis
pars, partis 部分
serpens, serpentis
urbs, urbis
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-, -is(語幹変化あり)[編集]

四つ目のパターンは、単数主格で語幹のみとなり、語幹が変化するものである。そもそも、単数主格で語幹のみとなるパターンには二種類あり、上記の三つの格変化のパターンと大体似ているものと、そうでないものがある。前者は、主格単数で-erという語幹をもつものであり、ここで取上げるものである。後者は、主格単数で-al, -arという流音幹をもつものであり、次に取上げるものである。それでは、前者のパターンの格変化を見てみよう。「大雨」を意味する「imber, imbris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (imber) -es (imbres)
属格 (genitivus) -is (imbris) -ium (imbrium)
与格 (dativus) -i (imbri) -ibus (imbribus)
対格 (accusativus) -em (imbrem) -is (-es) (imbris (imbres))
奪格 (ablativus) -e (-i) (imbre (imbri)) -ibus (imbribus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
imber, imbris 大雨
venter, ventris
このパターンの格変化をする女性名詞
linter, lintris
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-, -is(語幹変化なし)[編集]

五つ目のパターンは、単数主格で語幹のみとなり、語幹が変化しないものである。「動物」を意味する「animal, animalis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (animal) -ia (animalia)
属格 (genitivus) -is (animalis) -ium (animalium)
与格 (dativus) -i (animali) -ibus (animalibus)
対格 (accusativus) - (animal) -ia (animalia)
奪格 (ablativus) -i (animali) -ibus (animalibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
animal, animalis 動物
calcar, calcaris 拍車
exemplar, exemplaris 写し、模範
tribunal, tribunalis 古代ローマ大官の座席のあった高段、法廷
vectigal, vectigalis
-e, -is[編集]

六つ目のパターンは、単数主格で-e、単数属格で-isとなるものである。これは、五つ目のパターンの亜種である。「」を意味する「mare, maris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -e (mare) -ia (maria)
属格 (genitivus) -is (maris) -ium (marium)
与格 (dativus) -i (mari) -ibus (maribus)
対格 (accusativus) -e (mare) -ia (maria)
奪格 (ablativus) -i (mari) -ibus (maribus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
cubile, cubilis 寝台
conclave, conclavis 部屋
mare, maris

子音型格変化[編集]

四つ目の型は、子音型の格変化である。先程、属格複数形が-iumとなるものをI型の格変化と呼ぶことを見た。これに似た格変化のパターンが幾つかあり、それらは属格複数形が-子音+umとなるので、子音型の格変化と呼ばれる。属格単数形では、-isという形になるが、これはI型と同じである。中性の語は独特のパターンを取り、その他の語は、語幹によって、流音幹(独:Liquidastämme)・鼻音幹(独:Nasalstämme)・黙音幹(独:Mutastämme)に区別する。

中性:-, -is(語幹変化あり)[編集]

一つ目のパターンは、中性名詞の格変化である。単数主格及び単数対格と、それ以外では、語幹の形が変化する。「体」を意味する「corpus, corporis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (corpus) -a (corpora)
属格 (genitivus) -is (corporis) -um (corporum)
与格 (dativus) -i (corpori) -ibus (corporibus)
対格 (accusativus) - (corpus) -a (corpora)
奪格 (ablativus) -e (corpore) -ibus (corporibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
agmen, agminis 動き、行軍縦隊
caput, capitis
carmen, carminis
corpus, corporis
frigus, frigoris 寒さ
genus, generis 出自、家門、種属
iter, itineris
ius, iuris
litus, litoris
lumen, luminis
nomen, nominis
opus, operis 仕事、努力、事業、著作物
rus, ruris 田野、田舎
sidus, sideris 星座
tempus, temporis 時間、時代、時勢、時機
vulnus, vulneris
流音幹:-, -is(語幹変化なし)[編集]

二つ目のパターンは、流音幹である。これには、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わるものと、変らないものがある。まずは、語幹変化のないものを見よう。この場合、全く語幹が変化しないものもあるが、語幹の末尾のsが母音に挟まれてrとなるため、語幹が変化しているように見えるものもある。「愛」を意味する「amor, amoris」と「花」を意味する「flos, floris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (amor, flos) -es (amores, flores)
属格 (genitivus) -is (amoris, floris) -um (amorum, florum)
与格 (dativus) -i (amori, flori) -ibus (amoribus, floribus)
対格 (accusativus) -em (amorem, florem) -es (amores, flores)
奪格 (ablativus) -e (amore, flore) -ibus (amoribus, floribus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
amor, amoris
augur, auguris (m./f.) 鳥占官
Caesar, Caesaris カエサル
clamor, clamoris 叫び、歓声
color, coloris
consul, consulis 執政官
dolor, doloris 痛み、苦しみ
exsul, exsulis (m./f.) 追放された人
flos, floris
fur, furis 泥棒
honos (honor), honoris 名誉
imperator, imperatoris 命令者、大元帥(最高指揮官)
labor, laboris 労働
mercator, mercatoris 商人
mos, moris 習慣
odor, odoris 匂い
senator, senatoris 元老院議員
sol, solis 太陽
orator, oratoris 雄弁家
victor, victoris 勝利者
このパターンの格変化をする女性名詞
arbor, arboris
augur, augiris (m./f.) 鳥占官
exsul, exsulis (m./f.) 追放された人
mulier, mulieris 夫人
soror, sororis 姉妹
uxor, uxoris
  • このパターンの各変化をする中性名詞
流音幹:-, -is(語幹変化あり)[編集]

三つ目のパターンは、流音幹のうち、語幹変化のあるものである。「父」を意味する「pater, patris」「母」を意味する「mater, matris」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (pater, mater) -es (patres, matres)
属格 (genitivus) -is (patris, matris) -um (patrum, matrum)
与格 (dativus) -i (patri, matri) -ibus (patribus, matribus)
対格 (accusativus) -em (patrem, matrem) -es (patres, matres)
奪格 (ablativus) -e (patre, matre) -ibus (patribus, matribus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
pater, patris
frater, fratris 兄弟
このパターンの格変化をする女性名詞
mater, matris
  • このパターンの格変化をする中性名詞
鼻音幹:-, -is(語幹変化あり、n語幹)[編集]

四つ目のパターンは、鼻音幹のうち、主格単数で語幹のみ、属格単数で-isとなるものである。これは、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わる。そもそも、鼻音幹には、m語幹とn語幹があるが、ここで扱うのはn語幹である(m語幹については、次で扱う)。「ヒト」を意味する「homō, hominis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) - (homo) -es (hominēs)
属格 (genitivus) -is (hominis) -um (hominum)
与格 (dativus) -i (homini) -ibus (hominibus)
対格 (accusativus) -em (hominem) -es (hominēs)
奪格 (ablativus) -e (homine) -ibus (hominibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
Apollō, Apollinis アポロー
Cicerō, Ciceronis キケロー
homo, hominis (m./f.)
latro, latronis 強盗
leo, leonis ライオン
sermo, sermonis 言葉、説法、会話
このパターンの格変化をする女性名詞
formido, formidinis 恐怖
grando, grandinis
homo, hominis (m./f.)
imago, imaginis 像、映像、似姿、肖像、幻影、表象
legio, legionis 軍団
libido, libidinis 欲望、情欲、気まぐれ(参照:フロイトのリビドー)
multitudo, multitudinis 多数
natio, nationis 出生、種属、人種、部族、国民
opinio, opinionis 意見(opinor, opinari, opinatus sumから)
oratio, orationis 演説
ordo, ordinis 順序、列、秩序
pulchritudo, pulchritudinis
regio, regionis 地方
virgo, virginis 処女
  • このパターンの各変化をする中性名詞
鼻音幹:-s, -is(語幹変化なし、m語幹)[編集]

五つ目のパターンは、鼻音幹のうち、主格単数で-s、属格単数で-isとなるものである。これは、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わらず、m語幹である。このような語は、「冬」を意味する「hiems, hiemis」しかない。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -s (hiems) -es (hiemes)
属格 (genitivus) -is (hiemis) -um (hiemum)
与格 (dativus) -i (hiemi) -ibus (hiemibus)
対格 (accusativus) -em (hiemem) -es (hiemes)
奪格 (ablativus) -e (hieme) -ibus (hiemibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
このパターンの格変化をする女性名詞
hiems, hiemis 冬、嵐(動詞形はhiemo, hiemare, hiemavi, hiematum)
  • このパターンの各変化をする中性名詞
黙音幹:-s, -is(語幹変化なし)[編集]

六つ目のパターンは、黙音幹(破裂音の語幹)である。単数主格で-s、単数属格で-isの語尾がつく。語幹変化はないのであるが、語幹の末尾の子音と、単数主格の語尾であるが、口調の関係で表記が変わることがある。このため、語幹変化があるように見える。具体的には、

  • c+s=x
  • g+s=x
  • t+s=s
  • d+s=s

となる。これに対して、pとbについては、そのままとなる。それでは、実定法としての「法」を意味する「lēx, lēgis」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -s (lex) -es (leges)
属格 (genitivus) -is (legis) -um (legum)
与格 (dativus) -i (legi) -ibus (legibus)
対格 (accusativus) -em (legem) -es (leges)
奪格 (ablativus) -e (lege) -ibus (legibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
custos, custodis (m./f.) 番人
dux, ducis (m./f.) リーダー、ガイド(duco, ducere, duxi, ductum(導く)から)
eques, equitis 騎兵、騎士
hospes, hospitis (m./f.) お客
iudex, iudicis (m./f.) 裁判官(iudico, iudicare, iudicavi, iudicatum = ius, iuris (法)+ dico, dicere, dixi, dictum(語る)から)
lapis, lapidis
miles, militis 兵士
obses, obsidis 人質
pedes, peditis 歩行者、歩兵
pes, pedis
prīnceps, principis 発起人、首謀者、長、君主(プリーンケプス)(primus, prima, primum + capio, capere, cepi, captumから)
rex, regis 王(rego, regere, rexi, rectum(統治する・規定する)から)
sacerdos, sacerdotis (m./f.) 神官
このパターンの格変化をする女性名詞
aetas, aetatis 年齢
civitas, civitatis 市民 (civis, civis) の共同体、国家
custos, custodis (m./f.) 番人
dux, ducis (m./f.) ガイド、リーダー
facultas, facultatis 可能性、許可、能力、才能、特に弁舌の才能(facilis, facile(容易な・実行可能な)と同根)
hospes, hospitis (m./f.) お客
iudex, iudicis (m./f.) 裁判官
laus, laudis 賞賛
lex, legis 法律
lux, lucis 光、輝き
obses, obsidis (m./f.) 人質
pax, pacis 平和
plebs, plebis 平民
quies, quietis 休息
radix, radicis
sacerdos, sacerdotis (m./f.) 神官
salus, salutis 安全
virtus, virtutis
vox, vocis
  • このパターンの各変化をする中性名詞

U型格変化[編集]

五つ目の型は、U型の格変化である。属格複数形が-uumとなることに着目して、こう呼ばれる。第四格変化と呼ばれることもある。属格単数形では、-uūsという形になる。単数主格が-usとなるパターンと、単数主格が-ūとなるパターンがある。

-us, -ūs[編集]

一つ目のパターンは、単数主格で-usとなるものである。「贅沢」を意味する「luxus, luxus」を例に挙げて、格変化を示そう。

格\数 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -us (luxus) -us (luxus)
属格 (genitivus) -us (luxus) -uum (luxuum)
与格 (dativus) -ui (luxui) -ibus (luxibus)
対格 (accusativus) -um (luxum) -us (luxus)
奪格 (ablativus) -u (luxu) -ibus (luxibus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
adventus, adventus 到着
arcus, arcus 弓、アーチ
casus, casus 落ちること、事件、不幸(cado, cecidi, casum, cadere(落ちる)から; casu:偶然に; casus belli:戦争の場合; casus major:不可抗力; casum senit dominus:所有者が危険を負担する(危険負担); casus a nemine praestatur:災害は何人も責任なし)
cultus, cultus 耕作、世話、養育、生活法、教養、尊敬、祭祀(colo, colui, cultum, colere(耕す、世話をする、保護する)から)
currus, currus
cursus, cursus コース
equitatus, equitatus 騎兵隊
exercitus, exercitus 軍隊
fluctus, fluctus
fructus, fructus 果実(fructus civilis:法定果実、fructus naturalis:天然果実、fructus exstantes:現存果実)
impetus, impetus 攻撃
luxus, luxus 贅沢
metus, metus 恐れ
peditatus, peditatus 歩兵隊
pulsus, pulsus 打つこと
sexus, sexus 性(seco, secui, sectum, secare(区分する)から)
tonitrus, tonitrus
tumultus, tumultus 騒ぎ
usus, usus 使用
vultus, vultus 顔つき
このパターンの格変化をする女性名詞
acus, acus
ficus, ficus 無花果(ficus, ficiとも)
laurus, laurus 月桂樹(laurus, lauriとも)
myrtus, myrtus ミルト(myrtus, myrtiとも)
porticus, porticus 柱廊
quercus, quercus オーク
tribus, tribus 種族
  • このパターンの各変化をする中性名詞
-u(長音), -us(長音)[編集]

二つ目のパターンは、単数主格で-u(長音)となるものである。「角」を意味する「cornu, cornus」を例に挙げて、格変化を示そう。

数 (numerus) 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -u (cornu) -ua (cornua)
属格 (genitivus) -us (cornus) -uum (cornuum)
与格 (dativus) -ui (-u) (cornui (cornu)) -ibus (cornibus)
対格 (accusativus) -u (cornu) -ua (cornua)
奪格 (ablativus) -u (cornu) -ibus (cornibus)

呼格は、主格と同形である。

  • このパターンの格変化をする男性名詞
  • このパターンの格変化をする女性名詞
このパターンの格変化をする中性名詞
cornu, cornus
genu, genus
veru, verus 焼き串

E型格変化:-es, -ei[編集]

六つ目の型は、E型の格変化である。属格複数形が-erumとなることに着目して、こう呼ばれる。第五格変化と呼ばれることもある。主格単数形・属格単数形では、「-es, -ei」という形になる。この一パターンしかない。「こと」を意味する「res, rei」を例に挙げて、格変化を示そう。

格\数 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) -es (res) -es (res)
属格 (genitivus) -ei (rei) -erum (rerum)
与格 (dativus) -ei (rei) -ebus (rebus)
対格 (accusativus) -em (rem) -es (res)
奪格 (ablativus) -e (re) -ebus (rebus)

呼格は、主格と同形である。

このパターンの格変化をする男性名詞
dies, diei 日(暦の / 単数では女性のこともある)
このパターンの格変化をする女性名詞
acies, aciei 戦線、刃
bona fides, bonae fidei 善意
effigies, effigiei 姿
fides, fidei 信義
materies, materiei 物質
res publica, rei publicae 公共体(独:Gemeinwesen)
series, seriei 繋がり、系列
species, speciei 顔付き
spes, spei 希望
  • このパターンの各変化をする中性名詞

不規則な格変化[編集]

domus, domus(長音)[編集]

長音は、O型とU型の入り混じった不規則な格変化をする。

格\数 単数 (singularis) 複数 (pluralis)
主格 (nominativus) domus domus
属格 (genitivus) domus domorum (domuum)
与格 (dativus) domui domibus
対格 (accusativus) domum domos (domus) (res)
奪格 (ablativus) domo (domu) domibus

呼格は、主格と同形である。地格(家で)は、domiである。「家に」は対格を、「家から」は奪格 (domo) を用いる。

形容詞(adiectum)の格変化(declinatio)[編集]

代名詞の格変化(declinatio)[編集]

人称代名詞の格変化[編集]

下記に人称代名詞の格変化を示しておく。「is, ea, id」については、指示代名詞に含めることもあるが、現代語の「er, sie, es」や「he, she, it」に相当する働きをすることから、ここでは人称代名詞の一つとして扱っておこう。

数・格\人称 一人称 (prima) 通性 二人称 (secunda) 通性 三人称 (tertia) 男性 三人称 (tertia) 女性 三人称 (tertia) 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) ego tu is ea id
属格 (genitivus) mei tui eius eius eius
与格 (dativus) mihi tibi ei ei ei
対格 (accusativus) me te eum eam id
奪格 (ablativus) me te eo ea eo
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) nos vos ii (ei) eae ea
属格 (genitivus) nostrum, nostri vestrum, vestri eorum earum eorum
与格 (dativus) nobis vobis iis (eis) iis (eis) iis (eis)
対格 (accusativus) nos vos eos eas ea
奪格 (ablativus) nobis vobis iis (eis) iis (eis) iis (eis)

再帰代名詞の格変化[編集]

再帰代名詞は、主語を受ける代名詞である(このため主格はない)。ドイツ語の再帰代名詞に属格はないし、奪格に至っては格自体がそもそも存在しないが、ラテン語の再帰代名詞には属格も奪格も備わっている。ドイツ語と同じく、性の区別はない。

数・格\人称 一人称 (prima) 通性 二人称 (secunda) 通性 三人称 (tertia) 通性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) - - -
属格 (genitivus) mei tui sui
与格 (dativus) mihi tibi sibi
対格 (accusativus) me te se (sese)
奪格 (ablativus) me te se (sese)
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) - - -
属格 (genitivus) nostri vostri sui
与格 (dativus) nobis vobis sibi
対格 (accusativus) nos vos se (sese)
奪格 (ablativus) nobis vobis se (sese)

seseは、主として雅文に用いられる。

指示代名詞の格変化[編集]

指示代名詞というと「近称 (questo/questa, dieser/diese/dieses, this)/ 遠称 (quel/quella, jener/jene/jenes, that)」と思いがちであるが、ラテン語ではやや異なる。律儀なことに、ラテン語には、指示代名詞にも一人称、二人称、三人称がある。そもそも人称とは何かを考えてみると、一人称とは話し手がテーマであるということであり、二人称とは話の相手がテーマであるということであり、三人称とは、話し手でも話し相手でもない何者かがテーマであるということである。そう考えると、指示代名詞に一人称、二人称、三人称があってもおかしくない。つまり、一人称の指示代名詞は話し手の身近にあるものを指し、二人称の指示代名詞は話し相手の身近にあるものを指し、三人称の指示代名詞は、話し手にとっても話し相手にとっても身近でないものを指す(直接にその人を指すわけではないので、一人称「的」などという)。このような指示代名詞のあり方は、現代ではスペイン語に残っている(一人称:este/esta、二人称:ese/esa、三人称:aquel/aquella)。

人称 (persona) 一人称 (prima) 二人称 (secunda) 三人称 (tertia)
性 (genus) 男性 女性 中性 男性 女性 中性 男性 女性 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) hic haec hoc iste ista istud ille illa illud
属格 (genitivus) huius huius huius istius istius istius illius illius illius
与格 (dativus) huic huic huic isti isti isti illi illi illi
対格 (accusativus) hunc hanc hoc istum istam istud illum illam illud
奪格 (ablativus) hoc hac hoc isto ista isto illo illa illo
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) hi hae haec isti istae ista illi illae illa
属格 (genitivus) horum harum horum istorum istarum istorum illorum illarum illorum
与格 (dativus) his his his istis istis istis illis illis illis
対格 (accusativus) hos has haec istos istas ista illos illas illa
奪格 (ablativus) his his his istis istis istis illis illis illis

その他、同一性を示す指示代名詞と指示形容詞がある。これは、「idem」(同じ)と「ipse」(自身)である。ドイツ語に訳せば、それぞれ「derselbe」と「selbst」になり、要するに同一性を表すのだと分かる。idemについては、三人称の人称代名詞にdemをつけたような格変化をする。ipseについては、二人称・三人称の指示代名詞の格変化の型と同じである。

人称 (persona) 指示代名詞 指示形容詞
性 (genus) 男性 女性 中性 男性 女性 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) idem eadem idem ipse ipsa ipsum
属格 (genitivus) eiusdem eiusdem eiusdem ipsius ipsius ipsius
与格 (dativus) eidem eidem eidem ipsi ipsi ipsi
対格 (accusativus) eundem eandem idem ipsum ipsam ipsum
奪格 (ablativus) eodem eadem eodem ipso ipsa ipso
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) iidem (eidem) eaedem eadem ipsi ipsae ipsa
属格 (genitivus) eorundem earundem eorundem ipsorum ipsarum ipsorum
与格 (dativus) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) ipsis ipsis ipsis
対格 (accusativus) eosdem easdem eadem ipsos ipsas ipsa
奪格 (ablativus) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) iisdem (eisdem) ipsis ipsis ipsis

関係代名詞・疑問形容詞・疑問代名詞の格変化[編集]

関係代名詞・疑問形容詞・疑問代名詞は、互いに格変化が似ている。まず、関係代名詞と疑問形容詞の格変化は全く一緒である。次に、この二つと疑問代名詞であるが、男性については単数主格が、女性については単数主格・単数対格・単数奪格が異なるが、その他は一緒である。

数・格\性 男性 女性 中性
単数 (singularis) 主格 (nominativus) qui / quis quae / quis quod / quid
属格 (genitivus) cuius cuius cuius
与格 (dativus) cui cui cui
対格 (accusativus) quem quam / quem quod / quid
奪格 (ablativus) quo qua / quo quo
複数 (pluralis) 主格 (nominativus) qui quae quae
属格 (genitivus) quorum quarum quorum
与格 (dativus) quibus quibus quibus
対格 (accusativus) quos quas quae
奪格 (ablativus) quibus quibus quibus
男性
単数主格は、関係代名詞と疑問形容詞でqui、疑問代名詞でquisとなる。
女性
単数主格は、関係代名詞と疑問形容詞でquae、疑問代名詞でquisとなる。単数対格は、関係代名詞と疑問形容詞でquam、疑問代名詞でquemとなる。単数奪格は、関係代名詞と疑問形容詞でqua、疑問代名詞でquoとなる。
中性
単数主格・単数対格は、関係代名詞と疑問形容詞でquod、疑問代名詞でquidとなる。

不定代名詞の格変化[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 逸身喜一郎 『ラテン語のはなし―通読できるラテン語文法』 大修館書店、2000年12月、初版、49頁。ISBN 978-4469212624
  2. ^ 例: Online Etymology Dictionary
  3. ^ スペイン語: amar は文語的表現で、日常的には querer などを用いる。

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