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ヤエヤマヒルギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤエヤマヒルギ
ヤエヤマヒルギ(西表島)
幹の中段以下に支柱根が確認できる。
背後にはハマザクロの呼吸根がある
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: キントラノオ目 Malpighiales
: ヒルギ科 Rhizophoraceae
: ヤエヤマヒルギ属 Rhizophora
: ヤエヤマヒルギ R. mucronata
学名
Rhizophora mucronata
Lam.
シノニム

R. macrorrhiza Griffith、R. longissima Blanco

和名
ヤエヤマヒルギ、オオバヒルギ、シロバナヒルギ

ヤエヤマヒルギ(八重山蛭木、八重山漂木、学名Rhizophora stylosa Griff.)は、ヒルギ科ヤエヤマヒルギ属の常緑高木。別名オオバヒルギ(大葉蛭木、大葉漂木)、シロバナヒルギ(白花蛭木、白花漂木)。日本ではヤエヤマヒルギの学名にRhizophora mucronata Lam. を用いる文献もあるが、R. stylosaR. mucronataは別種であり、R. mucronataは日本には自生しない。

特徴

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形態

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樹高は8-10m程度となる常緑高木。幹の根本近くから周囲に向かって、多数の弓なりの形状の呼吸根を伸ばす。この呼吸根は、幹の下部から斜め下に向かって出て、枝分かれしながら泥に入り込むので、見かけはタコノキ類のものに似ている。むしろ幹を支えているようにも見えるので、支柱根と言うこともある。

は厚い革質で滑らか、全体は楕円形で、先端にとがった突起があるのが特徴。葉の裏側には無数の小さい黒点がある。

花期は5-7月。腋生の集散花序で、花弁は4枚で白く、この花の色から、別名シロバナヒルギと呼ばれることもある。萼片は4枚で、萼片の先は裂けており、形状は三角形である。果実は卵形で、樹上にあるうちに先端から長さ30cm以上にも及ぶ細長い緑色の幼根が伸びることから、胎生種子と呼ばれる。成熟した胎生種子は、他のマングローブ植物と同様に母樹から落ちて海流に乗って移動する海流散布によって分布を広げる。

生態及び生育環境

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熱帯・亜熱帯の河口域や干潟などの汽水域に生育するマングローブの構成種の一つ。他のヒルギ科植物と比較して塩分に対する耐性が強く、マングローブの帯状分布では、より海側に生育する[1]

分布

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インド洋東部から東南アジア、オセアニア、南太平洋の熱帯および一部の亜熱帯に広く分布する。日本では南西諸島沖縄諸島宮古島八重山諸島)に分布する。分布の北限は沖縄本島である。

日本における生育地

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沖縄本島を北限とし、沖縄諸島以南でマングローブを構成する。特に八重山諸島に多く、優占種となっている。沖縄本島では、元々島北部の東村慶佐次などでしか見られなかったが、1970年代に漫湖に植栽され、繁殖している[2]石垣島および西表島干潟には大群落を形成する。

日本国外における生育地

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分類

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本種の和名と学名の対応についてはいくつかの混乱が指摘されているが[3][4]、日本に分布するのはR. stylosaであり、R. mucronataとは別種である。両種は外部形態で区別されているだけでなく[5]、遺伝的な違いも知られており、両者が混生する場所では雑種も報告されている[6][7]。また、日本の植物の和名-学名のリストを提供する「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)では、オオバヒルギ(ヤエヤマヒルギ・シロバナヒルギ)の学名にR. stylosa を、ネッタイヒルギ(temp.)の学名にR. mucronata 対応させている[8]

日本における和名-学名の対応の混乱は、和名であるヤエヤマヒルギ・オオバヒルギの学名としてR. mucuronataを用いた文献が複数あることによる。この混乱がいつから生じたか定かではないが、1932年に工藤祐舜が台湾のマングローブについて報告した論文の中ではすでに、オオバヒルギ・ヤエヤマヒルギ・シロバナヒルギの学名としてR. mucronataが用いられていた[9]。その後、初島住彦は、当初オオバヒルギ - R. stylosaを用いたが[10]、後にオオバヒルギ - R. mucronataとし[11]、最終的にはヤエヤマヒルギ - R. mucronataとして、R. stylosaについては琉球諸島に産するものは栽培種とした[12]。一方、島袋敬一はヤエヤマヒルギ - R. stylosaを用い、R. mucronataをシノニムとした[13]瀬戸口浩彰は、1997年の著書[4]で、ヤエヤマヒルギ- R. stylosaを用いてR. mucronataを別種として紹介したものの、分類に混乱があることを指摘し、1999年のFlora of Japan[14]では、ヤエヤマヒルギ - R. mucronataに変更した。日本におけるこのような学名の混乱は、日本の研究者がヤエヤマヒルギについて執筆する論文を介して他国にも広がっている。2021年12月の時点では、アメリカ合衆国農務省の作成したGermplasm Resources Information Network(GRIN)でも、R. mucronataは日本に分布するとされ、R. stylosaの分布域には台湾・中国が含まれているものの、日本は含まれていない[15][16]

ヤエヤマヒルギの和名と学名の対応に関する混乱の状況は、国際マングローブ生態系協会馬場繁幸らによって整理され、第27回日本マングローブ学会において報告された[17]。報告の中では、日本のヤエヤマヒルギはR. stylosaであること、R. stylosaR. mucronataは外部形態で区別される別種であること、R. stylosaの和名にはヤエヤマヒルギを用いることがふさわしく、R. mucronataにはオオバヒルギの和名をあてると良いだろうという考えが示された。

利用

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樹皮を染料とする。また、材、木炭の原料となる。

脚注

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  1. ^ 川満芳信, 川元知行, 吉原徹「植物体中の各種イオン動態からみたマングローブ3種の耐塩性の比較」『琉球大学農学部学術報告』第44号、琉球大学農学部、1997年、91-105頁、hdl:20.500.12000/3697ISSN 0370-4246NAID 110000219900 
  2. ^ マングローブの分布と植生に関する研究 亜熱帯総合研究所報告・漫湖マングローブ林の林分構造
  3. ^ 皆川礼子『マングローブの古い標本が語るもの』 日本熱帯生態学会ニュースレター No.66. 2007.[リンク切れ]
  4. ^ a b 瀬戸口浩彰 「ヒルギ科」『朝日百科 植物の世界4 種子植物 双子葉類4』岩槻邦男ら監修、朝日新聞社、1997年、152-153頁。
  5. ^ Duke NC (2006) Indo-West Pacific stilt mangroves: Rhizophora apiculata, R. mucronata, R. stylosa, R. X annamalai, R. X lamarckii. In: Elevitch CR (ed) Traditional trees of Pacific islands: their culture, environment, and use. Permanent Agriculture Resources (PAR), Holualoa, pp 641-660.
  6. ^ Wee, Alison KS and Takayama, Koji and Chua, Jasher L and Asakawa, Takeshi and Meenakshisundaram, Sankararamasubramanian H and Adjie, Bayu and Ardli, Erwin Riyanto and Sungkaew, Sarawood and Malekal, Norhaslinda Binti and Tung, Nguyen Xuan and others (2015). “Genetic differentiation and phylogeography of partially sympatric species complex Rhizophora mucronata Lam. and R. stylosa Griff. using SSR markers”. BMC Evolutionary Biology (Springer) 15 (1): 1-13. doi:10.1186/s12862-015-0331-3. https://doi.org/10.1186/s12862-015-0331-3. 
  7. ^ Yan, Y. B., Duke, N. C., & Sun, M. (2016). Comparative analysis of the pattern of population genetic diversity in three Indo-West Pacific Rhizophora mangrove species. Frontiers in plant science, 7, 1434. doi:10.3389/fpls.2016.01434.
  8. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2007-) 「植物和名ー学名インデックスYList」(YList),http://ylist.info
  9. ^ 工藤祐舜「臺灣ノ紅樹林」『植物学雑誌』第46巻第544号、1932年、147-156,358、doi:10.15281/jplantres1887.46.147 
  10. ^ 初島住彦 『琉球植物誌』 沖縄生物教育研究会、1971年。
  11. ^ 初島住彦 「ヒルギ科」『日本の野生植物 木本 II』 佐竹義輔ら編集、平凡社、1989、105頁、ISBN 4-582-53505-4
  12. ^ 初島住彦・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会、1994年、149頁、ISBN 4-900804-02-9
  13. ^ 島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧【改訂版】』 九州大学出版会、1997年、367-368頁、ISBN 4-87378-522-7
  14. ^ Setoguchi, Hiroaki. (1999) "Rhizophoraceae", Flora of Japan Volume IIC, K. Iwatsuki et.al. (ed.), KODANSHA, 1999, pp.220.
  15. ^ GRINでのRhizophora mucronataの情報
  16. ^ GRINでのRhizophora stylosaの情報
  17. ^ 馬場繁幸・毛塚みお・大城のぞみ・馬場花梨・貝沼真美. (2021). 「沖縄のヤエヤマヒルギの学名は?―Rhizophora stylosaそれともRhizophora mucronataでしょうか?―」. 2021年12月4日. 2021(令和3)年度 第27回日本マングローブ学会大会(オンライン)

参考文献

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  • Setoguchi, Hiroaki. (1999) "Rhizophoraceae", Flora of Japan Volume IIC, K. Iwatsuki et.al. (ed.), KODANSHA, 1999, pp.220-221.
  • 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第4巻 海辺の植物とシダ植物』 新星図書出版、1979年。
  • 土屋誠・宮城康一編 『南の島の自然観察』、東海大学出版会、1991年。

外部リンク

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