ホロロン

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ホロロンとは、毎年1月15日小正月の夜に岩手県久慈市で行われる年中行事

子供たちが「ホロロン」と掛け声をかけながら家々を訪れ菓子や小遣いをもらう様子がハロウィンに似ている。

概要[編集]

少なくとも1950年代までは、久慈地方一帯で小正月に子供たちが「祝ってくさえ」と言いながら家々を訪れ正月の餅などをもらう行事が存在した。しかし現在では湊地区の「ホロロン」が現存するのみとなっている[1]。地域団体久慈湊十日会(松前利幸会長・当時)によると、1940年頃より前に掛け声が「祝ってくさえ」から「ホロロン」に変化したという[2]

由来[編集]

岩手県教育会九戸郡部会発行の『九戸郡誌』(1936年)に

夜、女の年取[3]がすむと、子供等はナガミ(又はナマミ)と云ふて、仮面を被り「ホロロホロロ」とか、「祝つてくさえ」とか云ひ乍ら、家々を次々と歩いて祝い物(餅、銭、菓子等)を貰ふ。然しこれは近時廃れかゝつて来た。 — 岩手県教育会九戸郡部会『九戸郡誌』p.404~407「四、民俗定期行事 一月の行事」

との記述があるほか、柳田國男の『妖怪談義』(1957年)にも

九戸郡久慈町でも小正月の天ナガミという者がやって来るが、これは子供の行事であってホロロ・ホロロと唱えつつ家々を訪れて餅を乞うばかりで、そのナガミ[注釈 1]を剝ぎまたはタクル[注釈 2]ということは言わない。この地方的の変化も私たちには意外ではない。成人の忘れた多くの儀式を、引き継いで保管する者はいつも児童であったからである。
同じ岩手県でも上閉伊の釜石付近では、右の小正月の訪問をナナミタクリといい、これが大ナナミと小ナナミとの二種に分かれていた。小ナナミは前の久慈地方のナガミのごとく、少年たちの餅をもらいあるく行事であり、大ナナミは男鹿のナマハギと似ていた。神楽面の中のなるべく怖ろしいものをかぶり、腰には注連縄を箕に巻いて、家々にあばれ込むのは若者団の役目であった。このナナミタクリと秋田のナモミ剝ぎと同じ語であることは、比較によってまったく疑いがないのである。 — 柳田國男『妖怪談義』「妖怪古意――言語と民俗の関係 三」

とあり、元来は「ナモミ」[注釈 3]と同様の仮面の来訪神の行事だったものが子供が菓子や銭をもらう行事に変容したものではないかと推測される。

掛け声の意味[編集]

かつて日本全国に正月14日の夜、青少年たちが「ホトホト」などと唱えながら家々を訪れなどをもらう風習があった。唱え言葉は「ホトホト」の他に「コトコト」「パタパタ」など地域によってバリエーションが見られるが、いずれも戸を叩く音を口で模した擬音語

伯耆出雲辺ではホトホトとよんでいました。正月十四日の夜、村内の若者が藁で作った馬・牛の綱、あるいは銭緡[注釈 4]の類を持って人家の戸口に立ち、小さな作り声をしてホトホト、ホトホトというのです。そうすると家では盆に餅や銭を載せて、出て来てこれをくれるのです
 [中略]
備中上房郡などへまいりますと、この同じ小正月の夜の行事をコトコトというそうです。
 [中略]
このコトコトは戸をたたく音ですが、めいめいも口でそう唱えたようです。ホトホトというのも、もとは戸を叩く音から来たものに相違ありません。村によってはトロヘントロヘンといって戸を叩くところもありますが、それをもまたホトホトと名づけております。
トロヘンの意味ははっきりとはわかりませんが、広島県北部の山村では、またトロベイトロベイといってきました。人によってはトノベイとも申しますから、あるいは他の地方でトヘというものと同じかもしれませぬ。
 [中略]
この風習は山口県全部にわたっておりまして、古くからこれをトヘといったことは、長門大津郡日置村の八幡社の、享祿四年の社役注文にも、「一、二斗、正月十四日とへい、社家ことごとく参籠仕候」などあるを見てもわかります。 — 柳田國男『小さき者の声』「神に代わりて来たる 一」

前項引用の参考文献曰く「ホロロン」はかつては「ホロロホロロ」と唱えられており、「ホトホト」との音の近さから戸を叩く音を口で模した擬音語のバリエーションではないかと推測できる。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 囲炉裏や炬燵の赤外線によって生ずる一過性の斑紋(火班)、火だこのこと
  2. ^ 剥ぐこと
  3. ^ 岩手県沿岸北部で小正月に行われているなまはげに類似した行事。同県沿岸南部の大船渡市では「スネカ」の名称で知られる。
  4. ^ 穴あき銭をまとめておくための藁や麻の紐のこと。

出典[編集]

  1. ^ パナソニック(株)がLEDブレスレット寄贈 地域の伝統行事を安全に|広報くじ 2017年2月1日号 No.262”. www.city.kuji.iwate.jp. 久慈市. 2021年10月29日閲覧。
  2. ^ 地域結ぶ小正月イベント ~家々を回り“ホロロン”~ 久慈・湊地区|岩手日報 (2010年1月17日付)
  3. ^ 小正月のこと

関連項目[編集]

外部リンク[編集]